Y |
「ほんで、修験道はどうなったの。」 |
父 |
「うんうん、今度は信仰の中味を考えなくっちゃいけない。」 |
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修験道というのも、日本史の教科書にほんの少し登場する。
縄文時代以来、人間は、超自然的な力をあちこちに感じていた。
大きな木にも、岩にも、岩穴にも、ちょっとした特異な地形などは、みんないわゆる「神」が宿るところだったわけだ。
そう言う神は、英語では、アニマanimaといい、そう言う神を信じる原始的な信仰は、アニミズムと呼ばれる。このanimaは、アニメーションの語源でもある。アニメは、絵が神が宿るが如く動くものなのだ。
日本の神道の根元は、このアニミズムにある。」 |
K |
「そう言う意味では、荘厳な山などは、それ自体、信仰の対象だったということかな。」 |
父 |
「そうだ。
日本人は、山やそれを覆う森は、聖なる場所であり、神や祖先の霊(祖霊)が住んでいるとても素晴らしい場所だと考えてきた。」 |
D |
「 それは当たり前に分かる気がする。」 |
父 |
「 そう言う感覚を持っていてくれることは嬉しいが、この感覚は、必ずしも世界共通ではない。イスラム教やキリスト教などの一神教では、こんな所に神はいない。
この二つの宗教はもともと乾燥地帯で誕生したから、そもそも森という発想がない。キリスト教がヨーロッパに伝わって、そこには森があったのだけど、キリスト教的には、森は悪魔や魔女が住むおぞましい所という位置づけしかされていない。
ハリー・ポッターでもそういう風に描かれていたと思う。
反対に、日本では、現代でも「もののけ姫」に代表されるように、森は、学ぶべき、大事にすべき対象だ。
話がそれてしまったが、山岳信仰や修験道の定義をしよう。
「山岳信仰」とは、山を崇拝し山に代表される自然をあがめ、そこからいろいろなことを謙虚に学ぼうという宗教だ。
また、修験道は、「日本古来の山岳信仰に、神道や外来の仏教、道教、陰陽道が混淆して成立した日本固有の民族宗教」ということになる。」 |
K |
「分かりやすく言えば、険しい山中で人間離れした修行を積めば、普通の人間にはない魔法の力を得られるってわけでしょ。」 |
父 |
「そうだ。それを、呪力という言い方もするし、修験道用語で法力とか験力とか呼んだ。魔法といってしまえばそれまでだが、自然の中に入って自然の摂理を学べば、いわゆる、理科の学問内容、物理学・生物学・地学・化学は、本を読むのとは別の方法で学ぶことができるわけで、合理的に言えば、そう言うのが、呪力だったと思う。
たとえば、薬草に詳しければ、誰よりも病気を治すことができただろうし、気象などを予知して、預言めいたことも言えただろう。
ところで、あなた達の知っていることと修験道を結びつけるのを忘れていた。
修験道の修行者が、あの山伏なのだ。」 |
Y |
「山伏って、TVの時代劇に出てくる悪役のこと。」 |
父 |
「いや、別に山伏は悪い人ではない。現代の時代劇が、たまたま、そう言う役割にしているだけだ。他には、虚無僧って、かぶり物をして尺八吹いている僧も、いつも悪役だ。」 |
Y |
「この前、俳優の高橋英樹が、TV「桃太郎侍」とか遠山の金さんとかやって、劇中で、7万人程も人を斬ったと言っていた。そのうち、600人ぐらいが勘定奉行と越後屋だって。(笑い)山伏や虚無僧もたくさん斬ったんじゃないかな。」 |
K |
「いや、すばしっこいから、あまり斬れないんじゃない。」 |
父 |
「話を元に戻そう。
山伏、修験道の創始者といわれているのが、役小角(えんのおづの、えんのおづぬ)という変わった名前の人だ。ただし、記録にはあるが、実態はよくわからない。伝説上の人物といってよい。8世紀の人だ。
この人はすごい人で、『日本霊異記』という本には、その呪力を恐れた朝廷が捕まえようとしたがなかなか捕まらず、ついには母を人質にしてとらえたとある。その後で伊豆の島に流した。」 |
D |
「捕まっちゃ面白くない。」 |
父 |
「いや、捕まってからが面白い。
役小角は、海上を走り、空を自在に飛び、昼は伊豆の島にいて、夜は空を飛んで富士山で修行していたというとんでもない男だった。」 |
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※修験道については、その道の専門、京都聖護院のHPへどうぞ。
こちらです。http://www.shogoin.or.jp/ |
D |
「スーパーマンはいつの時代にもいるもんだ。
ところで、じゃ、なんで、紀伊山地が上皇や貴族の対象となるの。わが岐阜県の飛騨山地や、長野県ではあかんの?」 |
父 |
「そうなのだ。
それこそ、これから旅に行って、現地を見て考えるべきテーマなのだ。この旅行の意義は大きいのだ。
みんな分かったか。」 |
息 |
「了解。」 |
父 |
「ところで、一人会話に参加していない母さんは後ろで何してる。」 |
D |
「寝とる。」 |