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紀伊半島、山の魅力
熊野は山の国、木の国

 旅行第2日目は、紀伊半島の海岸をめぐりました。そのレポートは、すでに、探検記3「海の魅力 太地のクジラ」で報告しました。
 このページでは、紀伊半島の海と山、とりわけ、山について、考えたことをお話ます。

「紀伊半島の海岸の特色は何たと思うか?」

「リアス式海岸。」

「海岸線に平野が少ないね。海岸からいきなり山になる。」

 紀伊半島の魅力は、海岸においては入り組んだ海岸線、そして、なんと言っても、半島の大部分占める、山々と木々です。
 紀伊半島には、2000m以上の標高の山はありません。
 しかし、下の紀伊半島の衛星写真をご覧ください。
 幾重にも連なる山々は
「熊野三千六百峰」と呼ばれ、それを覆う深い森は、神秘的世界を作っています。

 また、紀伊半島の特色として、森は、海辺からすぐはじまっています。紀伊半島の緑が広がる状況を、東の濃尾平野(名古屋・岐阜)、北の琵琶湖周辺の湖南平野、京都・奈良の盆地、大阪の平野と比べてください。圧倒的な密度です。

 かの司馬遼太郎氏も次のように表現しています。

「熊野では、浜からわずかに山に入っただけで、海の匂いが絶えてしまう。
 古座街道の場合も、そうである。周参見の浜から周参見川の
渓流沿いに2,3キロも入れば鬱然とした樹叢で、梢にも根方にも太古の気が潜んでいる。杉の木が多いが、若い杉にまでなんだか霊気がわいているようで、中世の熊野信仰のおこりは、存外こういうことが要素のひとつになっているのかと思われる。 

司馬遼太郎著『ワイド版 街道を行く8 熊野・古座街道、種子島みち』(朝日新聞社 2005年)P36

この地図は、グーグル・アースよりGoogle Earth home http://earth.google.com/)の写真から作製しました。古道、都市・山の位置ともフリーハンドで書いていますので、正確さは今ひとつです。あくまでイメージ図です。

熊野古道全体の地図はこちらです。

01-02map_Kii_peninsula_middle_old_road.jpg',627,530,627,530


熊野川河口

「昨日、新宮に着く前に、熊野川を渡ったのを覚えているか?」

「ずいぶん古い鉄橋だった。」

「あそこが、河口からおよそ、2.5kmの地点なのだが、もう、すぐそこに山が迫っていた。」

「そこまでは見なかった。」

「そうだろうと思って、ちゃんと写真を撮ってきた。(デジカメの)この写真(次の写真)を見てくれ。」



「まず、これが何か分かるかな?」

「熊野川の写真って言ったけど、全然それらしく見えない。」

「真ん中の後方に見える白いのは、波かな。だとするち、きっと向こうは海で、こちらが川?」

それにしては、真ん中の堤防みたいなのは何?こちらは、湖?」

「これは、ちょっと地図を見ないと分からない。」


この写真も、グーグル・アースよりGoogle Earth home http://earth.google.com/)の写真から作製しました。


「写真は、地図のここの部分(赤いの地点)から海を見て撮影した。」

「なるほど、河口部分は、砂が堆積して、通常の水の流れの時は、海への出口は、ほんの少ししかないんだ。」

「川も流れていないから、湖のように見える。」

「父ーちゃん、ところで、この写真はいつ撮影したの。昨日は、こんな所へ入っていない。」

「へへへ、これはな、父ちゃんが今日朝4時半に起きて、旅館(那智勝浦温泉)から新宮市の熊野川河口まで行って、撮影してきた貴重な写真だ。出かけるときは、みんなまだ寝ていた。」

「うー、ほとんど病気。」

「うるさい、真理の探究心が強いんじゃ。」

「・・・・・(懐疑的)」

  実際、朝ほどいい写真撮影機会はありません。誰もいないし、光の具合が最高です。
 もっとも、この2006年3月12日の朝は、熊野地方は曇天で、朝焼けはありませんでした。残念。

「そんなことより、この撮影場所が河口だと言うことは、分かってくれたから、次に行こう。
 では、この位置から、熊野川の上流のみて撮影するとどうなるか?想像してみる。」

「川が流れている。」

「あたりまえじゃん。実に、貧困なイメージ。
 最初に父ーさんが言ったように、普通は、濃尾平野の木曽川のように、大きな川は、それ自身が作った沖積平野の中を流れて、海に注いでいる。だから、河口から上流を見れば、平野の中をずっと幅の広い川が流れていて、天気がよければ、はるか遠くに山が見える。といった、風景の写真が撮影できる。」

「ところが、熊野は違うってか。」

「よろしい。
 そのとおりなのだ。」


 これが、同じ地点から、上流部を見た写真です。
 中央にわずかに見える橋は、手前の
紀勢本線熊野川橋梁と奥の国道42号線の鉄橋が重なっている部分です。

 国道の鉄橋までが、河口からおよそ2.5km。
 そのあと、すぐに両側から山が迫ってきます。
 写真中央の手前の山は、標高が300mほど、背景の高い山は、800〜900mほどの山地です。
 熊野川は、これらの山々の間を縫って流れ、山から抜け出たとたん、すぐに海に注ぐという川なのです。


 3月12日06:22、新宮駅を出て、熊野川鉄橋を渡るJR紀勢線のワイドビュー南紀2号。名古屋到着は、09:34。特急でも3時間12分もかかります。


「でも、僕たちの、濃尾平野の木曽川、長良川、揖斐川は、確かに平野の真ん中を流れて海に注ぐけれど、この熊野川のような川は他にはないのかな。」

「なるほど。そりゃ確かに。
 よし、家に帰ったら、調べることにしよう。宿題だ。」

「・・・・・・・・・(--;)」

 家に帰っても誰も宿題はしやぁしませんから、私が自分で調査です。
 
 まず、熊野川はどれぐらいの規模の川かというと、長さで言うと、日本で、14番目の大河です。長さはわが岐阜市を流れる長良川よりも長い川です。 


熊野川より長さで上位の川の河口部の状況

 熊野川は、長さが183kmです。
 これより長い川は、各地域に合計13河川あります。
 そのうち、10河川には、そもそも下流部に、○○平野という名前の地形が存在していますから、河口部は平野です。
 そうでないのは3河川、阿武隈川・天竜川・江の川です。

地域・河川名

長さ

河口のある都道府県

注ぐ海

河口部の状況

【北海道】
石狩川 268 北海道 日本海

石狩平野

手塩川 256 北海道 日本海

天塩平野

【東北】
北上川 249 宮城 太平洋

仙台平野

最上川 229 秋田 日本海

庄内平野

阿武隈川 239 宮城 太平洋
【関東】
利根川 322 千葉・茨城 太平洋

関東平野

【中部】
信濃川 367 新潟 日本海

越後平野

天竜川 213 静岡 太平洋
阿賀野川 210 新潟 日本海

越後平野

木曽川 227 三重 伊勢湾

濃尾平野

【近畿】
熊野川 183 和歌山・三重 太平洋
【中国・四国】
江の川 194 島根 日本海
吉野川 194 徳島 太平洋

徳島平野

四万十川 196 高地 太平洋

中村平野


熊野川 阿武隈川 天竜川 江の川

この写真は、いつも使っている「NASAのWorld Wind」からの借用写真をもとに作成しました。
NASAのWorld Wind」の説明はこちらです。を使って、同じ高さから写した衛星写真により森の様子を比較しています。
 川はフリーハンドで書いていますので、正確さは今ひとつです。
 


 下流に沖積平野名を持たない川は、熊野川以外に3川のうち、阿武隈川と天竜川は、河口部に結構広い兵站地があります。
 江の川は、河口の江津市から10kmもさかのぼらないうちに山地に入ります。その点では、熊野川に近いと言えます。
 ただし、この川の水源は、広島県の阿佐山(1218m)であり、流域の山々も、中国山地の標高300m〜800mの山です。
 熊野のような険しい谷の連続はありません。

 そして、山が「霊気」を放つかどうかの決定的違いとして、もうひとつ別の要素が、熊野は日本最高です。 


山の霊気

「別に家で調べなくても、紀伊半島といえば、TVの天気予報を見ていれば、気づくことがある。」

「これは、簡単。とにかく、雨が降る。」

 この質問は簡単でした。
 全国的にも有名だと思いますが、台風や梅雨末期の豪雨というと、必ず、三重県の尾鷲における降水量が、全国TVで話題となります。
 さらにその北にある大台ヶ原は、鹿児島県の屋久島と並んで、日本で最も雨の降るところです。
 1年で5000mmだそうです。
 つまり、太平洋からの湿った空気が連なる山脈にあったって雨を降らす紀伊半島南部は、日本有数の多雨地帯です。
 比較的温暖な気候と、多雨。これが、紀伊半島の山々に深い森を育み、霊気を生み出しました。


 年間降水量3000mm以上の地域は左のとおりです。
 日本全体はヨーロッパなどに比べれば、桁違いの多雨地域です。
 その日本の中で、紀伊半島南部は、エリア的には最も広い面積で、年間3000mm以上の雨が降る地域です。この雨が、多くの植物を育てました。
 
 この写真は、上と同じ「NASAのWorld Wind」からの借用写真をもとに作成しました。
 雨量のデータは、気象庁の「 気象観測(電子閲覧室)」から入手して、フリーハンドでトレースしました。(ちょっと不正確です。まあ、イメージ図としてご覧ください。)


 熊野川の河口から直線で約30km。和歌山、奈良県境にそびえる、果無山脈。標高800m〜1200m前後の山々が連なる。霊気に満ちた熊野の山林で修行に励むことが、修験道の基本となりました。
 
 2006年の2回の熊野行は、2回とも天候に恵まれませんでした。 しかし、かんかん照りよりも、雨の方が、熊野には似合う気がします。
(撮影日 06/04/29 熊野古道
大峯奥駈道、玉置神社駐車場から南西を臨む。これは一人で行った時に撮影しました。) 


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