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昭和時代前半の日本は何だったのか
   
 □問題提起 01/07/01作成 13/03/11修正 13/03/22再修正
「その時のくだらなさを今は克服しているのだろうか?」

 この項は、他の「目から鱗」に比べると重い事柄を扱います。目から鱗ぽろぽろ、というわけには行かないかもしれません。 
 
 2001年前半は、2002年度から採択する教科書をめぐっていろいろな問題・論争が発生しました。中学校の歴史や公民の教科書をめぐって、
扶桑社から提案された「新しい歴史教科書」・「新しい公民教科書」が、大きな波紋を投げかけました。
 私は一応、歴史を専門としていますので、ここでは、歴史に限って話を進めます。但し、この項目では、どの教科書が良いかを論じるわけではありません。
 
 これまでの歴史の教科書が、自虐史観にのっとったものであったかどうか、反対に、扶桑社の「新しい・・」が、指導要領に忠実で、「日本国民に日本の歴史対する誇り」を植え付けるものであるかどうか、判断は微妙です。
 
 これまで私は、普通の教科書にはない、
「神話」に関する部分を、自家製のプリント等を使って、日本の「文化」として、教えてきました。もちろん、「古事記」・「日本書紀」の描く古い部分は、事実ではないと強調した上です。
 それらを含めて教えないと、たとえば、「建国記念の日」は、どういういわれのある日で、せっかくの祝日なのに、何故反対意見があるのかは、生徒たちに理解させることはできません。

 また、神話を持つということ自体、国の長い伝統と歴史・精神文化の豊かさを示しているとも思っています。
 授業中にしゃべって生徒から素朴な賛同をえました、「日米経済交渉でアメリカに何か言われたら、首相は言い返せばいいんだ、『大統領、君の国には神話はあるか、ワシントンが桜の枝を折ったぐらいしかないだろう』と。」
 神話を国の豊かな文化としてとらえることは、大いに賛成です。

 しかし、明治以降の近代に於いて日本が進んだ道については、とりわけ20世紀の日本国の軌跡については、より現代に近い部分であるだけに、教科書の記述や授業の視点は、慎重でよりバランスのあるものでなければなりません。
 そもそも、歴史の勉強は、先人の軌跡の栄光を楽しむことばかりが目的ではなく、
これからの日本をどうしていくのかこそが主たるねらいであるべきなのです。したがって、日本の将来を担う若者は、この国に自信を持たなければなりませんが、同時に真実を学べるようにしなければ成りません。

 最初に断ったように、教科書問題に結論を断じることは私の能力を超えます。
 ただ、これに関連して、ひとつだけ、私が、教師をしている間中、ずっと考え続けていることがあります。それは、
「太平洋戦争は果たして戦うべき戦争だったのか」ということ、換言すれば、「誰があのような狂気の戦争を進めてしまったのか」ということです。

 これについて、私の歴史観に大きな影響を与えているのは、故
司馬遼太郎氏です。少し長いですが、氏の書物から引用します。
  ※司馬遼太郎著
『「昭和」という国家』(1998年NHK出版)P3〜5

「(注 司馬氏が将校として)いわゆる満州(原注 現・中国東北部)というところにいまて、そして敗戦の年の半年ほど前、連隊ごと関東地方に帰りました。
 そこで敗戦を迎えました。なんといいますか、何をしている国かという感じです。何をしている国かと。
 いったい日本とは何だろうかということを、最初に考えさせられたのは、ノモンハン事件でした。昭和14年(1939)、私が中学の時のことでした。こんなばかな戦争をする国は、世界中にもないと思うのです。(中略)
 いったい、こういうばかなことをやる国は何なのだろうということが、日本とは何か、日本人とは何か、ということが最初の疑問となりました。(中略)
 
 人々はたくさん死にました。
 いくら考えても、つまり、町内の饅頭屋のおじさんとか、ラジオ屋のおじさんなら決してやらないことですね。ちゃんとした感覚があれば、お店の規模を考えるものです。
 ところが、こんなばかなことを国家の規模でやった。軍人を含めた官僚が戦争をしたのですが、いったい大正から昭和までの間に、愛国心のあった人間は、官僚や軍人の中にどれだけいたのでしょうか。
 むろん戦場で死ぬことは「愛国的」であります。しかし、戦場で潔く死ぬことだけが、愛国心を発揮することではないのです。四捨五入して言っておりまして、あるいは誤差をおそれずに言っています。
 私自身の経験を言いますと、私は戦闘に参加したことはありませんが、どういう状況になっても恥ずかしいことはしなかっただろうと思います。周辺の人間数人、あるいは十数人の人間を前にして、みっともないことはしたくないと言う気持ちですね。それがあれば、人間は毅然とすることができると思います。それは愛国の情とは違う問題になります。
 むろん、愛国心はナショナリズムとも違います。ナショナリズムはお国自慢であり、村自慢であり、家自慢であり、親戚自慢であり、自分自慢です。
 これは、人間の感情としてはあまり上等な感情ではありません。
 愛国心、あるいは愛国者(パトリオット)とは、もっと高い次元のものだと思うのです。そういう人が、はたして(注 昭和前半の時代の)官僚たちの中にいたのか、非常に疑問であります。(中略)

 日本という国の森に、大正末年、昭和元年ぐらいから敗戦まで、魔法使いが杖をぽんとたたいたのではないでしょうか。その森全体を魔法の森にしてしまった。発想された政策、戦略、あるいは国内の締めつけ、これらは全部変な、いびつなものでした
 この魔法はどこから来たのでしょうか。魔法の森からノモンハンが現れ、中国侵略も現れ、太平洋戦争も現れた。世界中の国々を相手に戦争をすることになりました。(中略)
 私は長年、この魔法の森の謎を解く鍵をつくりたいと考えてきました。」


 この本は、司馬遼太郎氏の急逝のあと、残された講演録をまとめたものです。
 司馬氏については、その死後特に国民的なブームが起こり、一部には、氏の意志ではない「解釈」も行われたようなので、前掲書の最後部にある日本近代史の田中彰教授の「感想」を引用して、その真意を明らかにします。(前掲書P216)  


  敗戦の日から数日後の感想を氏はこうつぶやく。「なんとくだらない戦争をしてきたのかと、まず思いました。そして、なんとくだらないことをいろいろしてきた国に生まれたのだろう」(第1章)と。
 これが司馬さんの歴史への原点である。
 ということは、「くだらない戦争」をした、「くだらないことをいろいろしてきた国」への批判が根底にあり、そこから出発していることを示している。これは司馬さんの歴史観をみるうえで忘れてはならないもっとも重大なことである。あとでみる氏の明治国家観も、日本近現代史観もこの批判の視座ーー戦争体験ーーが起点であることを無視し、司馬さんの作品を一方的にナショナルなものとして、太平洋戦争を肯定し、日本の近代化を美化しようとする人々が、自らの文章を権威づけるために司馬さんを引き合いに出しているのは、むしろ滑稽ですらある。それは司馬さんの歴史への視座をみないか、もしくは意識的にそれを無視したものにほかならない。
 


 長い引用になってしまいました。話を進めます。
 現代の教科書論争は、日本史の全ての時代について激しく争われているわけではありません。その焦点は、明治・大正・敗戦以前の昭和の国家と、その国家が自らを確立するために定義した古代等のそれ以前の部分にあります。
 
 敗戦の時点での、「なんとくだらないことをいろいろしてきた国」という司馬さんの思いを心から支持します。
 その視座に立って、自分なりに
いくつかの事実を集めてストーリーをつくってみたいと思います。
 自分なりのテーマは、
「昭和時代前半の日本は何だったのか・・・・その時のくだらなさを、今は完全に克服しているのだろうか」です。

 これは、自分史の中においては、敗戦時に関東軍の一兵士であり4年間のシベリア抑留を経験した我が父に、歴史の教師となった自分が、この30年間以上にわたって繰り返してきた、「親父が参加した戦争はねー」という対話にほかなりません。


  上記を研修する個別のネタは、以下に掲載されています。(タイトルをクリックしてください)


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