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各地の鉄道あれこれ16
 全国各地の鉄道の話題あれこれについて紹介します。

 各地の路面電車 その6富山地方鉄道軌道線(市内線)

 2010(平成22)年5月のゴールデンウィークの旅行、高岡・富山・宇奈月旅行は、それぞれの町の歴史や黒部峡谷の電源開発が勉強できたとてもいい旅行になりました。
 ※旅行記はこちらです。→「高岡・富山・宇奈月旅行」
 
 と同時に、トロッコ列車と路面電車、合計4路線に乗車するという、電車三昧の旅ともなりました。
 ここまで、次の順に紹介してきました。

  1 黒部峡谷鉄道トロッコ列車    2 高岡万葉線    3 富山ライトレール

 そしてその最後、このページで紹介するのが、4番目の、富山市内の
富山地方鉄道富山軌道線(市内線)です。

このページの記述には、次の文献を参考にしました。
服部重教著『路面電車新時代 LRTへの軌跡』(山海堂 2006年)


 富山地方鉄道

  富山地方鉄道そのものは、太平洋戦争中の1943年に国策によって富山県内の公営鉄道・民営鉄道が大合併してできた鉄道会社です。実はその前から、富山市内には、すでに、1913(大正2)年に富山電気軌道によって、市内路面電車が営業されていました。この路線は、大合併以前に富山市営に移管され、そのあと、富山地方鉄道に受け継がれたのです。

 しかし、どこの路面鉄道にも同じことが言えますが、戦後の高度経済成長時代やそれ以降のモータリゼーションの発達によって、乗客減に見舞われ、最盛期には6系統総延長およそ11kmあった路線は、いくつかの路線が廃止に追い込まれ、1984年には、6.4kmとなってしまいました。
 2005年3月段階での一日の乗降客数は、10,100人/日となっており、これは、最盛期の1965年度の約5分の1という有様です。最近5年間の数値も、毎年数%ずつ減少しています。
  ※服部重教前掲書P142

 他の都市にならうと、このまま何もしなければ「全線廃線」という危険性もありました。



 しかし、富山市の場合は違っていました。
 すでに、前ページP15の
富山ライトレールのところでもお話ししたように、富山市では、2014(平成26)年度に開業が予定される北陸新幹線と、それにともなう富山駅連続立体化にあわせて交通体系の根本的な検討を進めることになったのです。
 その結果、2005(平成17)年度には今後の総合交通政策の骨格となる
総合的都市交通体系マスタープランがまとめられました。これは目標年度を2019(平成31)年度とするもので、北陸陸新幹線が開業する2014年度に第1段階の整備実現となっています。
 この中で、路面電車の有効活用が打ち出されており、その一つは、前ページで紹介した、
富山ライトレール(上記地図中の)と富山地方鉄道の市内線を富山駅下を通る立体交差道路を通る接続線によって相互乗り入れできるようにするというものです。
 そして、2009年には、全国の路面電車としては、画期的な施策が実行されました。  


 画期的な施策です 市内線環状化

 それが、市内線の環状化です。
 市内線は、1984年以降は、上の地図03のの路線の6.4kmとなりました。南からたどると、南富山−西町−富山駅前−丸の内−新富山−大学前です。
 この路線には2系統の電車が運行され、従来でも南富山駅前−富山駅前間は5分間隔で運転されていました。しかし、中心市街地活性化のためには、さらに市電の利便性を図る必要があることから、駅・市役所・県庁・繁華街(総曲輪・西町)がある市の中心部を、ぐるっと回る
環状運行が決定されたのです。

 環状運行のためには、
丸の内方面と、西町方面をつなぎ、路線を環状線とする必要があります。
 実は、1973年までは、
丸の内−西町間を、旅篭町を経由して結ぶ路線がありましたが、すでに廃線となって30年以上が経過していました。
 新環状線として、同じ路線を復活するか、丸の内で東に曲がって、国際会議場前(大手町)から南進し、越前町でさらに東進して西町へ向かう路線の新路線とするか、二つの案が検討され、最終的に、後者の路線を敷設することが決定されました。
 2007年11月、富山市は、同年11月に施行されていた地域公共交通活性化法に基づき、国土交通省に新線建設の申請を行いました。この方法は、LRTなどの運行で上下分離方式を認めたものです。
 2009年には工事が完成し、12月23日に開業しました。単線の940mの新路線です。路線名は、正式には
富山都心線と命名されました。運行系統上名前は「環状線」です。
 新線区間では、
市が軌道と電停の建設および環状線用車両を購入して保有し、運行は富山地鉄が行う「上下分離・官設民営方式」が採用されています。市の事業費は約26億円となっており、開業後の補修費も市が負担することになっています。

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 写真16−01 新環状線のグランドプラザ前停留所           (撮影日 10/05/01)

 富山市の中心部の繁華街、総曲輪(そうがわ)の南に、富山の老舗百貨店を中心とする再開発ビル、総曲輪フェリオが2007年に完成し、中心部への集客が期待されます。
 環状線は、時計と逆回り、富山駅→丸の内→グランドプラザ→荒町→地鉄富山→富山駅 の
一方通行運転です。


 写真16−02 グランドプラザ前停留所の環状線の新電車セントラム9001      (撮影日 10/05/01)

 うしろは、総曲輪フェリオです。連休のこの日は、人で一杯でした。中にあるお寿司屋さんで、おいしいランチを食べました。富山と言えばやはり新鮮なお魚です。総曲輪の繁華街一帯には、お寿司屋さんがたくさんあります。 


 写真16−03         (撮影日 10/05/01)

 写真16−04         (撮影日 10/05/01)

 新都心線の環状運行に導入されたのが、9000形電車、愛称セントラムです。新潟トランシス社製の、2車体連接低床式路面電車です。
 電車の形状・性能としては、この路面電車シリーズで登場している、熊本市交通局9700形(1997年導入、こちらです→)万葉線MLRV1000形(アイトラム)富山ライトレールTLR0600形(ポートラム)と同じです。  

 3編成が導入され、9001a・b、9002a・b、9003a・bと型式番号が振られました。
 セントラムの色彩は、9001=白、9002=銀、9003=黒という、モノトーンを基調としたデザインとなりました。
 これは、富山ライトレールの
ポートラムが、虹の七色を採用したことから、検討委員会によってそれと対照的な色彩が選ばれたのでした。
 黒については、「夜は危ないのではないか」という意見も出ましたが、開業以来、特に「事故」は起こっていません。

 富山駅連続立体効果事業が完成後は、地図03の接続線を使って、富山ライトレールとの乗り入れが実現します。

 写真16−05 セントラム内部(撮影日 10/05/01)

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 ここでクイズです。


 ※例によって、黒板をクリックしてください。答が現れます。


 環状運転ですから、都営地下鉄大江戸線のような「の」字運転は該当しません。
 
環状運転は、全国で立った5カ所だけです。すごいもんです。


 写真16−06 富山駅前を左折する9003          (撮影日 10/05/01)

 富山駅前電停(道路後方の7000形が停車しているところ)を発車し、左折して、県庁前・丸の内方面へ向かうセントラム9003。 


 写真16−07 丸の内電停のセントラム9003           (撮影日 10/05/01)

 丸の内電停を出て富山都心線に向かうセントラム9003。電車から見て右に回る複線は、大学前行きの路線です。電車から見て左へ曲がって、総曲輪に向かいます。

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 写真16−08 西町を左折する9001           (撮影日 10/05/01)

 西町交差点を左折して、従来線へ合流するセントラム9001。背景は北アルプス。
 もっと天気がよければ、見事な撮影場所です。


 富山市内の路面電車のいろいろ

 富山地方鉄道の軌道線のいろいろな車両と停留所を紹介します。

| 地図03 富山地方鉄道富山軌道線(市内線)地図へ | 

 写真16−09  新富山(撮影日 10/05/28)

 写真16−10  鵯島信号所(撮影日 10/05/28)

 現在の路線の西端は大学前です。富山大学の前です。そこに至には神通川にかかる富山大橋を渡ります。富山大橋は現在掛け替え工事中ですが、道幅が狭いため、その東側から路線は単線となっています。
 写真左は、新富山停留所に近づく7000形です。
新富山については、上の地図03の下部で説明しています。
 下に、補足の地図04を付け加えました。
 写真右は、新富山停留所のすぐ西側にある、鵯島信号所(ひよどりじま)です。単線の路線にあるすれ違い場所です。
 (この写真は、2010年5月28日に、富山県総合教育センターに出張した際に路面電車を利用し,撮影しました。)

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 上の地図は、国土交通省「国土情報ウェブマッピングシステム・カラー空中写真閲覧」の写真を利用して作製しました。同サイトはこちらです。→http://w3land.mlit.go.jp/WebGIS/


 写真16−11 駅前 (撮影日 10/05/01)

 写真16−12 新富町(撮影日 10/05/01)

 左:富山駅前電停で乗客を乗せる大学前行き電車7019号。
 右:全面広告の7000形。番号が分かりません。(-_-;)


 写真16−13 南富山駅(撮影日 10/05/01)

 写真16−14南富山駅車両基地(撮影日 10/05/01)

 南富山駅は、富山地方鉄道の鉄道線と軌道線の接続駅です。車両基地工場があります。
 左のビルには、富山地方鉄道研修センターと看板が出ています。屋上に、信号機が見えます。
 右は、車両基地に停留する7000形と8000形です。

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 写真16−15 上滝線電車(撮影日 10/05/01)

 写真16−16 市内線電車(撮影日 10/05/01)

 左:富山駅方面からやってきた鉄道線の上滝線電車です。
 右:交差する市内線7000形。大学前行きと南富山行き。 


 写真16−17 南富山駅構内           (撮影日 10/05/01)

 奥は、鉄道線上滝線の電車が止まっています。
 手前が市内軌道線の停留所です。入ってくるのは、
8000形電車です。
 8000形電車は、古くなった7000形の代替電車として、1993年から導入された新型車です。5両配置されています。


 新型車両導入

 富山地方鉄道は、新環状線とセントラムの導入に続いて、在来線用に、新型LRTを投入しました。国・県・富山市の補助を得て導入されたもので、名前は、サントラム。2010年4月28日から運転が開始されました。
 セントラムとはちょっと趣が異なるスタイルと塗装です。

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 写真16−18 こちらはサントラム           (撮影日 10/05/01)

 こちらは、セントラムとは別に、従来線ように投入された、新型LRT、サントラム(型式番号はT100形)です。
 3つの車体を2つの車台で結ぶ連接です。
SANTRAMSANは、3つの車体、太陽の燦々たる輝き、そして、富山ライトレールのポートラムセントラムに続く、3番目のTramという意味が込められています。
 ちなみに、走り始めて4日目の撮影です。グランドプラザ前停留所から西町交差点を通過するサントラムをとらえました。


 忘れていました お城と路面電車です

 そうそう、大事なことを忘れていました。
 この「各地の路面電車シリーズ」の隠れたテーマは、
路面電車とお城です。
 すでに、熊本(P11)、高知(P12)、松山(P13)で撮影しています。高岡は城跡はあっても建物としての城はなく、できませんでした。
 この富山では、できるでしょうか?
 地図03を見れば、答えは一目瞭然です。新環状線は、富山城をめぐるように敷設されたのですから・・。

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 写真16−19 富山城天守閣                    (撮影日 10/05/01)

 富山は、江戸時代には、隣の加賀前田家の分家が代々領地とし、明治維新まで続きました。
 明治時代に入って廃藩置県後、城郭は県庁舎などに払い下げられ、その後一部を除いて順次解体されていきました。
 写真の天守閣は、
1954年に富山城址一帯で開催された産業博覧会にあわせて建造された模擬天守閣です。その年11月から富山郷土資料館となっています。そういう意味では、高知城・松山城・熊本城とは格が違いますが、まあ、天守閣は天守閣です。

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 写真16−20 7013と富山城           (撮影日 10/05/01)

 富山城模擬天守閣を左手に見て、右カーブして大学前方面へ向かう7013号。7000形は東京都電の8000形をモデルにして、1957年から1965年までに22両作られました。現在は12両しかありませんが、数の上では、富山地鉄の軌道線の主役車両です。しかし、やがては、上の写真のサントラムに代えられていく計画です。 


 写真16−21 セントラムと富山城           (撮影日 10/05/01)

 丸の内交差点を左折して富山都心線へ入る9003号。富山城天守、国際会議場方面へ向かいます。

| 地図03 富山地方鉄道富山軌道線(市内線)地図へ | 

 お城、県庁、市役所、繁華街・・・、富山市の中心部を懐にして、富山地方鉄道軌道線の環状線は、今日も軽快に走っていることでしょう。


 むすび

 富山市は、富山ライトレールと富山地方鉄道軌道線の両方に、多額の財政支出を行いました。大英断です。
 軌道線の環状運転にしても、
上述の設備投資に関する26億円の事業費以外に、今後は、毎年の経費として、運賃収入等は差し引いても、2500万円の経費がかかる予定です。
  ※『北日本新聞』2009年12月10日の記事より
 自治体の決断を、市民や地域の人々がみんなで守っていく。ぜひ、そうあってほしいと思います。

 これで、富山県の路面電車シリーズを終わります。 

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