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各地の鉄道あれこれ17
 全国各地の鉄道の話題あれこれについて紹介します。

 デハニ53運転体験−出雲一畑電車−

 2010年12月11日(土)に、島根県の一畑電車のイベント、「デハニ53運転体験」に参加し、ほんの僅かですが、電車の運転をしてきました。
 このページはその体験記です。


 一畑電車とは

 一畑電車は、私が住んでいる岐阜市からは、道路距離にしておよそ450km離れた、島根県の東部を走る、ローカル私鉄です。県都松江市と出雲市や出雲大社を宍道湖の北部を回って結んでいる鉄道です。(会社名は「一畑電」ではなく、「一畑電」です。
 2010年6月に、中井貴一主演の映画『
RAILWAYS』が封切られましたが、その映画の舞台となったのが、この一畑電車です。私と妻は、その映画も鑑賞し(→映画については、日記6月20日参照)、ついで7月末には、一畑電車が企画した「ロケ地見学」のイベントに参加し、実際に一畑電車に乗っています。(→ロケ地訪問については、旅行記参照

 映画で人気が出た一畑電車は、7月に
雲州平田駅で「ロケ地見学」を行い、さらに8月から12月にかけては、「デハニ53運転体験」を実施したわけです。



 素人に電車の運転ができるのか

 「デハニ53運転体験」の「デハニ53」というのは、電車の番号です。昭和初期に製造され、2009年で現役を引退しましたが、れっきとした本物の電車で、人を乗せて動きます。
 それを、素人が体験運転しようというのです。法律的にルール的に、そんなことできるでしょうか?鉄道マニアの方は、いわずもがなですが、私の妻のようにそういうことに詳しくない方もおられますから、あえて説明します。

 もちろん、できるから開催されるわけですが、そこには秘密があります。
 普通の営業運転の電車なんかを素人が運転することを許されるはずはありません。そうするには、ちゃんと、
国土交通省が認めた運転免許が必要です。そういう免許を正式に受けるには、事実上JR・地下鉄・電鉄会社などの社員しか不可能です。映画『RAILWAYS』の中では、主演の中井貴一はいかにも電車を運転しているように見えますが、巧みに撮影したからそう見えるわけで現実にはそうではありません。

 では、免許を持たない私たち素人は、どういう場合に運転を許されるのでしょうか?
 それは、
営業線の本線ではない線路で、本線の運航等の通常の業務に支障がない線路(たとえば車庫の引き込み線)の上でなら、運転が可能なのです。
 というわけで、一畑電車は、同社の唯一の検査場である雲州平田駅の引き込み線を使って、体験運転を実施したのです。

 下の図をご覧ください。
雲州平田駅構内のイメージ図です。図の「Dデハニ体験運転ゾーン」(地図中のの部分)というのが、私たち参加者がデハニ53を運転した場所です。本線の運行には全く支障を来さない、検査場内の引き込み線です。



 写真17−01 雲州平田駅構内           (撮影日 10/12/11)

 朝9時半過ぎ雲州平田駅構内を西側の寺町県道踏切から撮影しました。本線上には、1番線に松江しんじ湖温泉駅行き普通電車が停車しています。検査場の待避線には、3000系・2010系など複数の電車が停留しています。 


 写真17−02 デハニ53斜め前方(撮影日 10/07/31)

 写真17−03 デハニ53正面 (撮影日 10/07/31)

 これが体験運転に使われたデハニ53です。
 「
デハニ」とは、デは電車のデ。ハはイロハのハ、つまり一等車、二等車の次の三等車、すなわち普通車。そして、ニは荷物も積める車両です。つまり、「荷物積載可普通電車車両」という意味です。
 デハニ50形は、51・52・53・54と4両あったのですが、今では、この53ともうひとつ、52が出雲大社前駅に展示してあるだけとなりました。この4両は、1928(昭和3)年・29年に、一畑電車のオリジナル車両として、製造されました。80年以上活躍しましたが、老朽化によって、2009(平成21)年3月で営業運転から引退しました。
 その後、2009年の8月に、映画
『RAILWAYS』の撮影に使われました。現在は、電車としての車籍は残っていますが、車検は切れているとのことです。したがって本線へは出かけられません。引退前は畳を敷いてお座敷列車になっていましたので、『RAILWAYS』撮影の際に、急場しのぎで、床・つり革・座席をしつらえました。特に、映画の車内撮影は、デハニ52が使用されましたので、このデハニ53は、いかにも造作が急場しのぎです。 


 誰が申し込んだのか

 今回の体験運転は、一畑電車のHPで広く宣伝されたものです。
 事前にHPを通して申し込み、希望者が多数の場合は抽選で参加者が決まるというものです。私は8月に早々に申し込み、11月の下旬に、「当選」の通知をもらいました。すぐに、3,000円を前金で振り込み、当日10,000円支払いました。合計、
13,000円が体験運転参加費用です。
 もちろん、私の場合は、岐阜からの参加ですから、往復のガソリン代・高速道路料金・宿泊代・自家用車運転の労力をかけての参加です。そう安いものではありません。気軽に参加できるものではありません。
 正直私は、「こんな地方の小さな鉄道会社の運転体験にそんなにたくさんの方が参加するものだろうか」と思っていました。
 
 ところが、現地で話を聞いてみると、この日の参加者/申込者の倍率は、20/60、つまり3倍だったそうです。すごいもんです。よくあたりました。8月から12月まで、全10回の開催でしたから、参加者は合計200人、きっとその数倍ものファンが応募したのでしょう。
 そして、さらに驚いたのは、その参加者の居住地です。
 てっきり、島根県や近隣の中国地方が多いと思っていたら、全く違っていました。最も遠くから来たの方は千葉県、それも含めた関東地方の方が8人、私も含めた近畿・中部が8人、地元島根県の1人を含めて中国・四国地方が4人という内訳でした。
 体験運転希望者の熱意がうかがえます。


 写真17−04 記念品(撮影日 10/12/11)

 写真17−05 記念撮影(撮影日 10/12/11)

 左:祈念にもらったデハニ形52号車の模型。
 右:遠くからやってきた物好きな集団の記念撮影


 写真17−06 受付(撮影日 10/12/11)

 写真17−07 研修ハウス(撮影日 10/12/11)

 左:雲州平田駅待合室、ここで受け付け。担当は、夏にもお世話になったアテンダントのTさん。(写真中央奥)
 右:この建物の2階で事前研修がありました。左端に電車と検査場が見えます。


 事前研修

 参加者に当選した段階で、一畑電車からは、左下の分厚い書類が送られてきました。
 参加前に読んでおきなさいという、予習用のプリントです。
 そして当日は、いきなり運転体験ではなく、ちゃんと事前の講習を1時間受けました。 


 写真17−08 テキストブック(撮影日 10/12/11)

 写真17−09 講義(撮影日 10/12/11)

 左:事前配布のテキストブックです。
 右:1時間に及ぶ講義がありました。参加者以外に同伴者もこの講義から参加しました。私の妻は運転体験はしない同伴者で、電車には全く興味がありませんが、そこそこ面白い話だったので、ずっとつきあって聞いていました。 


 一畑電車社内において、この体験運転全体の担当は営業課長のIさんでしたが、事前研修にはそのIさんの他、課長補佐のSさんからも説明を受けました。I営業課長は、タレントにしてもいいくらいお話しのうまい方で、一同、大変楽しく説明を聞きました。あとで、「課長さんはどうしてそんなに面白い話ができるのですか?」という質問が出ましたが、本人曰く、「映画『RAILWAYS』のおかげで、テレビに出演したり、インタビューを受けたりしたので、こうなりました。」といっておられましたが、なになに、天賦の才能がおありです。

 講義は、甲種電気車運転免許の話から始まって、免許の種類、免許の取り方と進みました。

I課長

「みなさん、電車などの免許は、まとめて『動力車操縦運転免許』といい、なんと12種類もあります。大きく甲と乙の2種類があってさらに細かく分類されています。甲種は通常の鉄道、乙種は軌道です。軌道というのは、路面電車の様な鉄道です。
 一畑電車を動かすには、甲種電気運転免許が必要です。また、新幹線を動かすには、新幹線電気車運転免許が必要です。蒸気機関車、内燃車、つまりディーゼル車もそれぞれ別になっています。また、無軌条電車といって、俗に言うトロリーバスの運転免許も含まれます。トロリーバスは、30年・40年前は、大都市で走っていましたが、今では立山・黒部アルペンルートの大町トンネルの中を走っているだけです。
 それから、自動車の違う点は、普通の電車の運転ができる甲種電気車の免許を持っているからと行って、乙種電気車、つまり路面電車が運転できるかと言えば、そうではありません。動力車操縦運転免許の種類には、自動車の上位下位の概念はりません。つまり、自動車なら大型特殊免許を持っていれば、普通自動車も原付自転車も運転できるわけです。動力車操縦運転免許はそうではなく、それぞれが必要です。
 たとえば、広島市にある広島電鉄は、軌道である市内の路面電車と、宮島へ向かう鉄道路線の二つを持っています。市内から宮島へ向かう直通路線がありますが、この電車を運転するには両方の免許を持っていないとできないわけです。
 また、自動車はもちろんですが、飛行機や船の操縦運転も、個人で取得することができます。しかし、鉄道は鉄道会社に入社しないと取得できません。具体的には、一畑電車の場合ですと、運転手になるには、8ヶ月の教習を経て、試験を受けて合格しなければなりません。大手私鉄は自前で教習を実施し国土交通省の検査官を招いて試験を実施しますが、私たちのような中小私鉄は研修を行う部門がありませんから、大手私鉄へ社員を派遣して、研修をしてもらうのです。これは映画と全く同じで、現在では東京の京王電鉄にお願いしています。
 次のお話ししますが、電車の運転と停止そのものは、それほど難しいことではありません。教習では、俗に言う『鉄道六法』という法律の本を勉強しますが、電車の仕組み、点検の方法、トラブルが起こった時の対処の仕方、事故等の危機管理など、それ以外のことが山ほどあります。」 

 なかなか大変な試験、免許取得です。 


 写真17−10 フルカワ製パン(撮影日 10/12/11)

 写真17−11 メロンパン(撮影日 10/12/11)

 雲州平田駅の前の道を西の方へ200m程行くと、フルカワ製パン店があります。映画『RAILWAYS』の中で、中井貴一がうまそうにメロンパンを食べ、また別の番組でも揚げパンの話をしたため人気がでました。あまりに忙しくなったため、働き過ぎでご主人は夏に病気になられ、しばらく休業するはめになってしまいました。
 10月から回復され、12月現在では、12:00から18:30までの限定営業となっています。とてもおいしいパンです。


 運転実技の話

 講義は進み、いよいよ運転実技の話になりました。

I課長

「さて、本日の運転体験では、みなさん20人を二つのグループに分けて、午前中はAグループ、午後はBグループの方が体験をしていただき、そうでないグループは、雲州平田駅構内のロケ地めぐりをしていただきます。
 運転体験は、検査場内の線路を2回実施していいただきます。往復するのではなく、出発地点から停止地点まで同じ部分を2回運転をしていただきます。運転距離は70m程になります。
 それぞれ停止位置から出発位置までは、当社のプロの運転手が電車を「回送」します。みなさんに元の場所まで戻していただいてもいいんですけど、出発位置のすぐ後が民家のため、万一を考えて、そうはしません。一畑電車が民家の台所へお邪魔すると大変なことになるものですから。」 


 写真17−12 体験運転のコース                   (撮影日 10/12/11)
 写真中央の検査場の奥にデハニ53が停車しています。そこから手前の方に向かって、70mを体験運転します。

 写真17−13  運転コースのアップ          (撮影日 10/12/11)
 停車している場所からデハニ53を写真手前の白い停止表示までの間、約70mを運転します。

 具体的な運転の方法は、S課長補佐が説明しました。

S補佐

「まず基本原理です。
 電車も自動車と同じで、加速する装置とブレーキをかける装置の二つを操作して動かします。自動車と違う点は、ハンドルを回す必要がありませんから、足は使わずに右手と左手でレバーを動かして操作します。
 まず、動かす方、加速する方です。
 電車は電気で動きます。当たり前ですね。発電車から送られてきた交流33,000Vの電気を布崎変電所で直流1,500Vに変電して、架線へ流しています。その電圧を電車に積んだ20個の抵抗器で調節してモーターの回転数を調節します。この装置が、ノッチです。左手で操作します。このノッチは、どんどん回していくと、どんどん電気抵抗が減少してスピードが出るわけです。今日は、安全性を考えて、1目盛り、時速にして15km/h程でとまるよう、ストッパーがつくってあります。みんさんは、出発の時に、このノッチを、カチと1目盛り回していただけば、電車は動きます。
 これに対して、右手でブレーキをかける装置、ブレーキ弁ハンドルを操作します。
 はっきりいって、電車は出発させるのは簡単ですが、止めるのは難しいです。
 自家用車だと、ブレーキは踏むか緩めるかですが、ブレーキ弁ハンドルの場合はそれと少し異なります。ブレーキは、圧縮空気を使って鉄の車輪にブレーキ・シューと呼ばれる鉄のブレーキを押しつけて車輪を回転を止めます。その際の、圧縮空気を送る弁の操作をするのが、ブレーキ弁ハンドルです。ハンドルを右に回すと圧縮空気が流れます。ある程度送ると圧力が高まって、ブレーキがきき始めます。そのままにすると、どんどんブレーキがきいて、急停車になってしまいます。そこで、ハンドルを中央に戻し、さらに、穏やかに静かに止まるためには、ハンドルを反対方向の左に回して、圧縮空気の圧力を下げる必要があります。この右左の弁の操作加減が、自動車に比して、大変難しいものとなります。このハンドルの操作そのものや、また、電車の重量が自動車と比較してとんでもなく重いこと(デハニ53は長さ16mあまり重量33.6トン)が、電車の運転、特に停車を難しくさせています。」 



 写真17−14 ブレーキシュー(撮影日 10/12/11)

 写真17−15 速度計・圧力計(撮影日 10/12/11)

 運転台には、速度計と圧力計が付いています。


 とっておきの装置

 説明会場に二つの模型が登場しました。一つは、運転台そのものの模型、もう一つは、ブレーキとブレーキ弁ハンドルの関係を示したシミュレーターです。

S補佐

「これは、体験運転3回目に参加した地元のお医者さんが、説明を聞いてもわかりにくかったということから、自分で製作して送っていただいた運転代の模型です。(写真、左下A)
 また、こちらのブレーキ理論の説明装置’同右下B)は、その方がさらに精魂込めてつくっていただいたもので、今日が説明会初登場です。」 

 実際に、そこにいたものにしかわからなかったかもしれませんが、この二つの装置は、本当にうまく作ってあって、自分たちの行う操作の手順や理屈が、非常によくわかりました。同好の士に感謝でです。


 写真17−16・17 運転台の模型・原理模型(撮影日 10/12/11)

 左上:運転台も模型。左のノッチ(加速器)には三菱の菱のマークまで付いています。
 右上:下のレバーがブレーキ弁ハンドルです。


 いよいよ運転体験

 私は、Bグループでしたので、午前中に駅構内を見学し、3番線に昼食会場として停車した3000系の電車の中で一畑電車特製弁当「バタ弁」を食べ、体験に臨みました。
 最初にM主任運転士の説明を受け、順番に運転台に座り、次の順番の方が横で見ているというやり方です。

I課長

「みなさん、電車がうまくスムースに止まったら、拍手をお願いします。しかし、時々急ブレーキもかかりますから、そういう時は思いっきり笑ってください。盛り上げてください。
 ただし、よろけたりもしますから気をつけてください。8月の1番最初の運転体験の時なんか、あまりの急ブレーキに、取材に来ていたTV局のカメラクルーがカメラ持ったまま倒れてしまうということもありました。そういうことが起これば、ご愛敬です。」



 上の説明図02をご覧ください。
 右上の@からFが、出発時の手順です。
 このうち、Cの「レバーススィッチ」というのは、前進・後進を選択するスィッチです。
 また、Dの「ブレーキ緩め」は、停車時に少しだけ圧縮空気をかけたままにしてブレーキがかかっている状態になっているものを、ブレーキ弁ハンドルを左に回して、完全に空気圧をゼロにし、ブレーキがかかっていない状態にすることです。

 出発すると、
点まではノッチを入れて、加速します。電車は次第にスピードを上げ、およそ時速15km程度となります。そこで、点で、ノッチを切ります。すると、電車はそのまま慣性(惰性)でその速度をほぼ維持したまま走ります。これは自動車と異なる点です。鉄のレールの上を鉄の車輪で走りますから、道路とゴムタイヤと違って摩擦力が極めて小さく、加速度なしでもあまり減速しません。これが電車の魅力です。
 そして、
点で停止するために、おおむね、点で、ブレーキ弁ハンドルを右に操作して、圧縮空気の圧力を上げます。そして、ハンドル操作で圧力を上げたり下げたり微妙に調節して、点で完全になめらかに停車するということになります。


 写真17−18 デハニ53車内(撮影日 10/12/11)

 写真17−19 運転台外側(撮影日 10/12/11)

 左上:デハニ53の車内では、体験をすました人やこれから体験する人が、いろいろお話しをします。そして、体験運転者の運転具合に応じて、時に歓声、拍手、大爆笑が起きます。
 右上:出発位置のデハニ53の窓の外に、なにやら紙切れが・・・。


 写真17−20 マニュアル (撮影日 10/12/11)

 写真17−21 同運転席から(撮影日 10/12/11)

 実は、運転席から出発手順を確認するた、マニュアルのコピーがよくわかる位置に貼り付けてあります。


 写真17−22 コース全体 (撮影日 10/12/11)

 写真17−23 ポイントのアップ(撮影日 10/12/11)

 左上:出発位置の運転席から見た運転コース全体です。
 右上:左の写真のアップです。写真左上の「OFF」の地点が、説明図02の
地点です。また、右奥の脚立に取り付けられているのが、の「ブレーキ操作開始点」です。そして、線路奥の白く見える物体が、の停止線です。


  私はBグループの6番目でした。
 これまでも2人がスムース停車で拍手を受け、2人は急停車の大受けでした。そのうちの一人はある地下鉄の社員の方で、まだ運転手にはなっていない若い方でしたが、自分でもおおいに悔しがるほど、「大失敗」でした。「来年もやるぞ−。」といっておられました。

I課長

「さきほどの地下鉄の方やM(私のこと)さんも含めて、いろいろと電車のことを知っている方は意外と失敗します。それより、何も知らない女性とか中学生の方が、なめらかに停車します。今日もほとんどそうです。かっこよくやろうとかいう欲がなく、また知識や雑念がなく無心のためだと思います。」

 面白い分析ですが、少なくとも今日に関してはあたっていました。先に済ませた女性は、別に鉄道マニアというわけではないのですが、うまく止めました。また、私の前に体験した中学生もうまく止めました。
 これでは、私にプレッシャーがかかるばかりです。
 さて、運転はどうだったかというと・・・・。


 写真17−24 これはプロ(撮影日 10/12/11)

 写真17−25 1回目(撮影日 10/12/11)

 左上:最初に説明したように、停止位置から出発地点までの逆戻りは、プロの運転士が電車を運転します。これは運転主任のM運転士です。当たり前ですが、出発も停止もなめらかです。
 右上:1回目の挑戦です。ノッチを動かす直前の状況です。撮影者は妻です。


 結論から言えば、2度とも失敗に終わりました。営業課長の「予言」があたりました。
 1回目は急ブレーキとなった上に、停止線の3m近く前で止まりました。一度ブレーキ弁ハンドルを右に回したあと、追加の操作の際、ハンドルを回しすぎ、急ブレーキになってしまいました。大笑い一歩手前でした。
 2回目は、微妙に調節はしましたが、今度は慎重すぎて、1m手前になってしまいました。技術的に言えば、ほんの数秒の間にいろいろと操作しなければならないことに、体がついていっていないことが失敗の原因です。特にブレーキ弁ハンドルは、圧力上昇時は右へ、減圧時には左へと言う操作をすることになりますが、これがなめらかに操作できませんでした。脳からの命令が混乱して、腕が固まってしまう状態になってしまいます。

 難しいものです。 


 写真17−26 (撮影日 10/12/11)

 写真17−27 (撮影日 10/12/11)

 左上:1回目の挑戦、急ブレーキ、おまけに停止線の遙か手前。
 右上:2回目の挑戦、停止線の1m以上手前。


 一つだけ、I営業課長の発言の謎が自分なりに解明できたことは収穫でした。
 彼は、「いろいろと電車のことを知っている方は意外と失敗します。それより、何も知らない女性とか中学生の方が、なめらかに停車します。」と事実を指摘し、その原因として、「かっこよくやろうとかいう欲がなく、また知識や雑念がなく無心のためだと思います。」と分析していました。
 私の「失敗」のあと、また女性が挑戦したのですが、この方もうまく停車しました。しかし、その時よく観察していて、今度はその理由が概ねわかりました。
 
 それは、「女性や子どもが無欲」とか言う情緒的な理由ではなく、明快に物理的な理由からでした。

 こういうわけです。
 出発地点からノッチを入れると、電車は加速をはじめます。そして、「OFF」地点でノッチを切るわけですが、そこで、欲のない女性や子どもと物知りのマニア(私たち)とには違いが生じます。
 ノッチを切るのは本人の自由意志です。
 そこで、欲のない方々は、「OFF」の表示が見えた段階で、早めにノッチを切ります。私たちは、「できるだけ高速にして、かっこよく停車させる」という欲があるため、「OFF」ポイントぎりぎりか、もしくはそれを超えてノッチを切ります。つまり、長く加速した分、スピードが出ます。もちろん、目標時速15kmをほんの少し上回るだけかもしれませんが、速いことは速いのです。
 自転車で言えば、楽ちん走行の時速13kmと高校生の「遅刻回避走行」の時速18kmとでは、やはりスピードはずいぶん違います。それが、停止に影響するというわけです。
 あくまで仮説ですが、たぶん、「
マニアの欲=高めのスピード、女性や子どもの無欲=低めのスピードが前者のブレーキ弁ハンドル操作を難しくし、後者のそれを簡単にする」ということだと思います。
 I営業課長さん、いかがでしょうか? 


 おわりに

 終了式は、午後3時半から行われました。
 1日の奮闘の結果として、次の
運転修了証をもらいました。

I課長

「この修了証を記念にお渡しします。ただし、これはあくまで記念のもので、これをもっているからといって、電車が運転できるわけではありません。もしまた来年、一畑電車が運転体験を実施し、またお越しいただいた時には、事前講習は免除してもいいかと思っています。」(参加者の笑い)


 写真17−28 体験運転参加証と修了証(撮影日 10/12/11)

I課長

「毎回この運転体験を実施するたびに思います。
 この修了時点での、みなさんの笑顔や満足感の大きなこと。本当にありがとうございました。
 体験運転についてはいろいろな意見もあります。子どもさんならともかく、いい大人が電車の運転に興じて、何やってんだと。
 でも、いい大人だからこそ、自分の夢を叶えたり、自分に挑戦したり、それぞれの理由で思いを抱いて挑戦することに意義あると思います。
 お世話させていただいた私たちも、みなさんのこの晴れ晴れとした笑顔を拝見すると、このイベントをやらさせていただいてよかったと思っています。明日への活力をいただいたと感じています。」

 最後は、心に残る名言で締めくくった営業課長さんでした。
 一畑電車にとってこのイベントの収入は、参加費1人13,000円×20人=260,000円です。これに対して、営業課長・課長補佐・運転主任・アテンダント、さらに、体験運転ゾーンの監視員4名と、合計8名の人員(丸1日勤務)を費やしています。決して濡れ手に粟のイベントではないはずです。本当にご苦労様です。
 いろいろな思いがつながって、それぞれの「A RAILWAY」を紡いでいきます。

 来年もこのイベントを実施するかは、現時点では未定だそうです。
 もし実施されれば、また行ってみたいと思います。修了証を大事にもって。


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