1 最大の評価点は特別攻撃隊と太平洋戦争を見事に描いた点です |
この小説の最大の評価点は、特別攻撃隊と太平洋戦争を見事に映画いた点です。
私は、太平洋戦争中の特別攻撃隊について、このHPで、いろいろ考えてきました。
自分で言うのはなんですが、特別攻撃隊のことを普通の人より理解し、問題意識を持っている私から見て、この小説は、珠玉の作品となっています。
その理由の一つは、ずばり「特攻隊で散華した若者は、どういう思いだったか?結果的にどういう存在だったか?」という、逃げも隠れもしない、正真正銘のテーマへの挑戦です。
作品中では、主人公の姉の恋人(大手新聞の記者)が、「私は、特攻はテロだと思っています。あえていうなら、特攻隊員は一種のテロリストだったのです。それは彼らの残した遺書を読めばわかります。彼らは国のために命を捨てることを嘆くよりも、むしろ誇りに思っていたのです。国のために尽くし、国のために散ることを。そこには、一種のヒロイズムさえ読み取れました。」(P420)と言い放ちます。
冗談でしょう。そんなはずはありません。
2001年9月11日のWTC事件の歳に、アメリカのメディアは、その体当たり攻撃を「カミカゼ」ということばを使って表現しました。特攻に準じた若者も「天皇への殉教者」ですか?
そんなはずはありません。これは、この小説が解き明かしたい真実とは、究極の反対像です。
主人公が祖父の戦友を尋ねて話を聞く旅は、このイメージと、もう一つ、最初に会った戦友から言われたことば、「君の祖父は、『臆病者』だった」との間で、心揺れ動く謎解きの旅ともなります。
「祖父はテロリストなのか、臆病者なのか」
そして、その旅はまた、太平洋戦争とは何だったのかという、戦争そのものの歴史の本質を描く旅にもなっています。
真珠湾攻撃から敗戦まで、太平洋の小島で、東南アジアのジャングルで、日本の将兵がいかに戦ったかをたくみに描く作品となっています。その丁寧さ、わかりやすさ。589ページの量は、半端ではありません。充実した内容です。 |