2010-05
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119 2010年07月24日(土) 映画「踊る大捜査線3 and 「必死剣鳥刺し」    

 7月に入って、映画を2本見ました。ひとつは、7月3日公開の本広克之監督『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』(主演 織田裕二)です。
 もう一つは、1週間遅れて7月10日から公開された、平山秀幸監督の『
必死剣鳥刺し』(主演 豊川悦司)です。
 
 いずれも楽しみにしていた作品です。2週続けて見に行ったくらいですから・・・・。
 端的に評価をすると、下の表のようになりました。


「踊る大捜査線3 奴らを解放せよ」
お薦め人 お薦め度
(3点満点)
コ  メ  ン  ト

★★★  大おまけで3点満点。期待が大きいとそれを上回るのは容易ではない。

妻(54歳)

★★  テンポが今ひとつでした。
  ※「踊る大捜査線」の公式サイトはこちらです。→http://www.odoru.com/ 

「必死剣 鳥刺し」
お薦め人 お薦め度
(3点満点)
コ  メ  ン  ト

★★  耐えに耐えてハッピーエンドという作品を期待してしまったのが間違いの元でした。

妻(54歳)

 最後の15分間はひたすら怖かった。血がすごかった。楽しくない。
  ※「必死剣 鳥刺し」の公式サイトはこちらです。→http://www.torisashi.com/ 

1 まずは『必死剣鳥刺し』

 先にさんざんの評価となった、『必死剣鳥刺し』の話をします。
 これまで、藤沢周平の小説の中で映画化されたもの、『たそがれ清兵衛』『隠し剣鬼の爪』『武士の一分』には最大限の賛辞を送ってきました。(→日記・雑感『武士の一分』旅行記『宮城・山形・福島旅行2 鶴岡』
 私たちにだけではなく、世間的にも好評だったのは、原作の藤沢周囲の作品が持っている、次の点をたくみに表現したところにあると思います。
1「剣の勝負」という殺伐な主題と、2親子・夫婦・恋人の情愛をたくみに混ぜ合わせ、しかも、3藩権力の持つ理不尽さへの抑えがたい怒りをも絡めて、そして、4最後は、ハッピーエンドに終わる。
 私は、『武士の一分』も含めて、これらの作品は、『
恋愛物語』と評してきました。本当に本当に泣かせる名作品でした。
 
 今回の『鳥刺し』の上演前の前評判、言い換えれば、監督平山秀幸氏が狙った斬新さは、「これまでと違ったラスト、ハードボイルドな作品」でした。
 これはねらい通りでした。
 しかし、そのねらいは、上記1・2・3・4のこれまでのバランスを、狂わせました。
1と3を重視し、2を軽くし、さらに、4を消滅させました。
 そして、ハードボイルド・ストーリーの、いわば、根幹をなすといえる、「
必死剣鳥刺し」ですが、「必死」「鳥刺し」と聞けば、どういうシーンが最終場面に訪れるか、想像つきません?「必殺」ではなく、「必死」ですから。
 「隠し剣鬼の爪」とは、違って、ネーミングに実態が現れてしまっているところが残念です。

 この
ほんのちょっとのバランスの変化が、この作品を「あまり感動しない映画」にさせてしまいました。ハードボイルドの分、涙は出ませんでした。

 これは私たちだけでなく、世の中全体のこの映画への反応だったようです。
 映画館の反応も見事でした。いつも通っている本巣市のモレラの東宝シネマズでは、7月10日の上演開始時には複数のスクリーンでのたくさんの上演でした。ところが、私たちが見たのは、上演開始から僅か1週間後の7月17日だというのに、その時には、もう、1日2回になってしまっていました。なんといういさぎよい見切りの付け方でしょう。
 まあ、そういつもいつもうまくはいきません。次作に期待しましょう。 


2 お待たせしました 『踊る大捜査線』です

 「Mさん、『踊る大捜査線』の鑑賞?日記はまだですか?」
 この2週間、何人かの方から、このお尋ねを受けました。
 「事件は現場で起きている」をネタにあちこちでお話しをしたものですから、そういう期待をされてしまいました。(その話はこちら→、教育:「
高等学校初任者のみなさんへ3 事件は現場で起きている」)
 
 さて、この映画の封切りは、7月3日でした。1週間遅れて、7月10日に見に行きました。妻と二人です。
 妻は★★、 私は★★★ですが、私の分は、かなり、情に駆られてのおまけの★★★です。
 基本的にはメッセージ性の強い、いい映画です。それは間違いありません。
 ただ期待が大きかっただけに、逆に今ひとつに思えてしまったというところでしょうか。何しろ前作は、日本の実写映画の興行収入記録をずっと保持している歴史的な名作です。それを超すことは容易ではありません。
 今ひとつだった点を意識しながら、今作品の名シーン、名台詞を復習します。

 いなくなったいかりや長介さんの穴をどうするのか

 亡くなってしまった和久平八郎(いかりや長介)さんの代わりに、甥っ子の和久刑事と、和久さんが残した手帳が登場します。その手帳には、和久さんの「名言」が書き連ねてあります。その名言がたびたび出てきます。中には、「事件に大きいも小さいもない」など、これまでの作品の根幹をなす大事なことばも、和久手帳に書かれていることばとして、復習されます。
 それ以外にも、「
被疑者を逮捕するのが俺たちの仕事だ」などの、かつての名言がいろいろなところに登場します。
 これは、7年ぶりの作品ながら、「昔の精神」を継承しているというアピールには十分なりました。しかし、逆に新鮮みという点では、今ひとつになりました。 


 今回の名言1 「俺に部下はいない。 いるのは、仲間だけだっ!」

 係長の青島刑事(織田裕二)が、上司から「部下を使って仕事をさせろ」と言われて、言い返すことばです。
 課長や係長クラスになって、平社員時代とは手のひらを返すように、「部下をあごで使う」ような「上司」になる人がいますが、このことばの大切さを忘れないようにしたいものです。


 今回の名言2 「この会議室には正義はない。それぞれのご都合があるだけだ。

 会議室と言えば、この映画のメインテーマの一つです。今回も名言が登場しました。しかし、逆説的な名言です。
 警視庁の室井慎次(柳葉敏郎)は、今回は単なる管理官からさらに出世して、長官官房審議官(警視監)として登場です。刑務所に収監中の囚人を解放しろと言う、犯人の前代未聞の要求に、警察庁長官以下の幹部の会議は紛糾します。
 室井は、今回も一貫して所轄の捜査を信じます。しかし、会議室自体は、理想や正義に向かってリーダーシップを発揮するのではなく、それぞれの担当のご都合主義が戦わされ、力の強いものの意見が通っていくという状況となります。
 どこにでもある
組織中枢メンバーの「会議室」が、本来はどうあるべきなのか。無視できない名言です。


 今回の名言3 「そんな仕事していて面白くないでしょ」「へっちゃまげな

 事件が解決して、大団円を迎えたあとの、青島係長と室井審議官のやりとりです。青島は、「自分たちは現場で生き生きと仕事をしている。あなたは、管理の仕事や、会議室での勢力争いのような仕事をしていて、面白くないだろう」という意味のセリフを言います。
 それに対して、室井は、秋田弁で「
へっちゃまげな」と答えます。「生意気言うな、ほっといてくれ」という意味合いの秋田弁だそうです。これは映画の中では解説はありませんから、見終わって調べないと分からないセリフです。
 しかし、映画の流れで何となく意味は理解できます。
 「
どこにいたって、現場を大切にして俺は仕事している。俺も苦労しているんだぞ、おまえたちが頑張ってくれないと、俺に立つ瀬がない」と、室井は言いたいのでしょう。現場との近い距離と信頼こそが室井の財産です。
 
ご都合ではなく、正義であるためには、理想と信じるものとそれを支える部下、いや仲間が必要です。


 今回の名言4 「あなたには誇りがない。私は、被疑者を逮捕するという仕事に誇りを持っている。

 小泉今日子演じる今回の「事件」の黒幕とも言うべき人物、日向真奈美に対して、青島の言うセリフ。私は、この第3作中の最高の名台詞だと思います。
 どんなに繕っても、権謀術数をめぐらして「勝利」をおさめようとも、自分の仕事に「誇り」がなければ、意味はありません。結局は、
誇りが正義の源になり、勇気の源にもなります。これがこの映画の究極のメッセージです。

 いや、文句を言うつもりは毛頭ありません。
 十分いい作品です。今からでも是非、映画館へ。


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