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地図01全行程図||地図02黒部峡谷と周辺図||地図03立山黒部アルペンルート説明図
説明図01黒部水系ダム発電所等模式図||地図04宇奈月温泉地図||地図05黒部峡谷詳細図
地図06欅平駅周辺地図||地図07欅平駅イメージ図


 黒部峡谷鉄道 欅平(けやきだいら)駅 | 全行程目次・地図へ || 先頭へ |

 さていよいよ欅平駅到着です。
 欅平駅は、黒部川本流が東から流れ込む支流の祖母谷川(ばばだにがわ)との合流点の西側断崖の中腹にあります。駅の手前はずっと長いトンネルで、本当に崖にへばりついているという感じの駅です。駅の標高は約600m。宇奈月温泉駅が約220mですから、380m程登ったことになります。

 駅の上流には、
高熱隧道(こうねつずいどう)で有名な黒部川第3発電所があります。1940年の完成です。また、そのさらに上流には、1963年完成の新黒部第3発電所があります。


 
 上の地図は、いつも利用させていただいている
、国土交通省の国土情報ウェブマッピングシステムのカラー空中写真閲覧の写真から作成しました。
 国土情報ウェブマッピングシステム・カラー空中写真閲覧のページはこちらです。→   http://w3land.mlit.go.jp/WebGIS/index.html
 


 写真05−01  黒部峡谷欅平駅の下流部分                        (撮影日 10/05/02)

 黒部峡谷の欅平駅です。
 V字谷が続く黒部渓谷では、上流に行けば行くほど平坦地はありません。駅は峡谷の中腹にへばりつくように作られています。右端が改札口などがある駅舎です。ホームは1本しかなく写真左手の方にこの倍以上の長さで続いています。
 長いホームの下流側(この写真の部分)が乗車ホーム、上流側が降車ホームです。一つのホームをうまく利用して乗降客をさばいています。
 山の上から降りてきているのは
黒部川第3発電所(この写真の左下にあります)への送水管です。


 写真05−02   欅平駅上流部分              (撮影日 10/05/02)

 上の写真より上流部分です。停車している電車は、上流の谷側待避線にいる次の宇奈月温泉行き電車です。下の07欅平駅イメージ図Aの位置の電車です。
 写真下の建物は黒部川第3発電所です。駅の上には大きな雪渓が残っています。




 写真05−03    欅平駅に到着したトロッコ電車              (撮影日 10/05/02)

 トロッコ電車が上の07欅平駅イメージ図@の位置(乗車ホーム部分)を通過中の撮影です。乗車ホームには、次の列車に乗ろうとする乗客がたくさん並んでいます。乗る列車はこの列車ではなく、上流側で待機している列車です。


 写真05−04    新着列車が到着し乗客が降りたところです          (撮影日 10/05/02)

 新着列車が降車ホーム部分に到着し、乗客が降りてきたところです。
 谷側の待避線には、次の宇奈月駅行き列車が待機しています。入れ替わって乗車ホームへ向かうためにまさに動こうとする所です。


 写真05−05    機関車入れ替え              (撮影日 10/05/02)

 私たちが乗ってきた列車の機関車が、前後付け替えられる作業が行われています。


 写真05−06  乗車ホーム(撮影日 10/05/02)

 写真05−07  乗車ホーム (撮影日 10/05/02)

 乗車ホームに停車する宇奈月駅行き列車です。


 写真05−08   空席状況表              (撮影日 10/05/02)

 5月2日の欅平駅の車両空席状況一覧です。午後はほとんど満席です。


 欅平(けやきだいら)駅周辺 | 全行程目次・地図へ || 先頭へ |

 本来は、欅平駅で降りて、駅から少し離れたところまでハイキングをする予定でした。
 ところが、今年は雪が多かったため、駅周辺の遊歩道等の除雪がはかどっていませんでした。
 その結果が、下のガイドマップです。


 写真05−09    欅平駅周辺ガイドマップ             (撮影日 10/05/02)

 本来なら散策できるところが、ほとんど×印です。
 この結果、歩けたのは、奥鐘橋(おくかねばし)・人喰岩(ひとくいいわ)・河原展望台・欅平温泉猿飛山荘のたった4カ所のみでした。
 簡単に言えば、駅の周囲、ほんの300m程度のエリアです。 


 写真05−10  奥鐘橋 (撮影日 10/05/02)

 写真05−11  人喰岩  (撮影日 10/05/02)

 駅のすぐ下にある奥鐘橋(黒部川本流にかかります)と人喰岩(祖母谷川の谷)です。左の写真の橋の向こう側に人喰岩があります。


 写真05−12   河原展望台から仰ぐ奥鐘橋              (撮影日 10/05/02)

 背景の奥鐘山は、標高1543mです。黒部川の河原から一気に600m程も立ち上がる大岸壁が見物です。


 仙人平ダムと高熱隧道 | 全行程目次・地図へ || 先頭へ |

 黒部川の谷底にある河原展望台で時間を過ごしました。
 話は、川の上流のダムや高熱隧道の方へ自然と向かいます。


 写真05−13  黒部峡谷欅平駅                          (撮影日 10/05/02)

 長いホームの全景です。上流部分の待避線に次の宇奈月温泉行き電車が待っています。 


 写真05−14   黒部峡谷              (撮影日 10/05/02)

 奥鐘橋の上から、黒部峡谷の上流を撮影しています。
 建造物は、
黒部川第3発電所(手前・下流)と新黒部川第3発電所(奥・上流)です。第3発電所の右上の崖にへばりつくように、黒部峡谷鉄道欅平駅があります。
 5月というのに、峡谷のあちこちには、雪渓が残っています。 


「あの電車は、この駅より上流へは行かないの?」

「電車そのものは行かない。でも荷物は運ばれていく。
 今日の朝に説明したように、この谷の電源開発は、大正時代から構想され、昭和前半期には、第2・第3発電所が作られた。
 電源開発以前においては谷を上流に上る道と言えば、ないも同然だった。その後、電源開発を実施した日本電源開発株式会社が作った
日電歩道と呼ばれる細い道が唯一の道だった。そんな道ではダム建設の資材なんか運べやしない。
 そこで、この第3発電所とそこへ水を供給するための仙人谷ダムを建設する際に、軌道が作られた。それが現在の関西電力軌道なのだ。」(位置は、「地図05黒部峡谷詳細」↑参照)


 写真05−15   日電歩道ジオロマ              (撮影日 10/05/02)

 黒部峡谷鉄道宇奈月駅の駐車場横に黒部電気記念館があります。その展示の一つとして、日電歩道のジオラマがあります。黒部峡谷のV字谷の中腹を、岩をうがち、木の橋を掛けて作った桟道です。

 

「さらに樺平から上流の渓谷にもダム建設の計画がきざして、その調査のために遠く大正七年夏にはすでに、電力関係の調査班が地元の猟師の覚束ない案内で初めて渓谷の上流に足をふみ入れた。
 かれらは、岩の割れ目や草木の根を唯一の足がかりとして黒部川左岸沿いに潮行し、400メ−トルにおよぶ岩壁をものり越えて立山方面へぬけることに成功した。その折たどつたルートを基礎に、大正十三年夏には測量用足がかり通路としてそのルートの改修をおこない、徐々に通路を補修して測量班もしばしば谷に分け入ることが可能にかった。しかし、その日本電力歩道−略称日電歩道は、やはり道という一般的な概念からははるかに程遠いものがあった。
 道といっても、その半ばは切り立った崖の岩肌をコの字型に刻みこんだもので、その幅員もわずかに60センチほどしかない。その上到る所に桟道と称するものがあって、ボルトを崖の中腹に打ちこみその上に丸太をのせ、人間ひとりを辛うじて渡すことができるような個所もある。また桟道も渡すことのできない場所には、丸太を60センチ間隔で横たえただけの細々とした吊橋や、鎖で連結された梯子もかけられている。しかも、通路の下は100メートルにもおよぶ切り立った崖が、深い渓谷に落ちこんでいるのである。」

吉村昭著「高熱隧道」『吉村昭自薦作品集 第五巻』(新潮社 1991年)P16


「いつできたの?このまま欅平駅から続いているの?」

「黒部川第3発電所の建設開始は、1936(昭和11)年。実はまだこの時点では、欅平までの軌道は完成しておらず、それ以前に工事が始まった。
 そして難工事だった。
 ひとつは、勾配が急すぎたこと。
 欅平の標高は約600m、ダムのできる仙人谷は860m。その差は260m。そしてその間の距離は、6.2km。つまり、260/6200=42‰パーミルほどの勾配がある。これは普通の鉄道では上りきれない。」

「パーミルというのは、いつもの鉄道の勾配の話ね。で、どうしたの?」
 ※鉄道の勾配は、→旅行記「長野・群馬・新潟・富山旅行01」参照

「欅平の現在の駅のすぐ東に、高さ195mの立て坑を掘り、資材をエレベーターで運搬車ごと上げ、上がったところからは、また横穴を掘って電池式で車両を動かすという方式をとったのだ。」 

 
 ノン・フィクション『黒部の太陽』には次のように書かれています。

 

「「だから…・、そんな難所で、樺平で山のどまん中にエレベーターを通して、一気に200メートルも上がることによって、比高差の問題を解決した斎藤孝二郎という人は、私は偉い人だと思うんですよ」
 林庄二が、感にたえた調子でいった。
「そうだ、その通りだよ。24メートルに1メートル登るといった急傾斜をまかなえる軌道は、ケーブルカーくらいしかないからねえ。しかもむき出しのケーブルカーやロープウェーでは、黒部の雪崩や豪雪にかかっては、一冬でもぎ取られ、寸断されることは請け合いだ。エレベーターしか方法はなかったわけだよ」
 林が感心している斎藤孝二郎というのは、日本電力の土木部長や専務を歴任して、黒三を建設した人である。
 樺平は標高約600メートル、仙人谷は860で、わずか6.2キロに260メートルを登る険峻だから、斎藤はその間の輸送路として、樺平で直径5.5メートル、高さ195メートルのタテ坑を山中にうがってエレベーターを取り付け、一気に比高差を解消したのだ。そしてエレベーター上部からは仙人谷まで6キロ余りの、いわゆる上部軌道というトンネル軌道を掘削して、バッテリー・カーを通したのだ。
「エレベーターは現在もそのまま使っているわけですが、故障もありませんしねえ。5.5メートルの穴を大小二つに区切って、一方は7人乗りの人用、大きい方は3.5トン積みの貨物用とうまく利用していますよねえ。短い貨車を作って、貨物を積み換えずにスパッと貨車ごとエレベーターで上げるんですからねえ」
 林は、よほど地下エレベーターに感心しているらしい。」

木元正次著『黒部の太陽 新装版』(新潮社 2009年)P101


「難工事のもう一つって、何?」

「それがあの吉村昭の小説で有名な『高熱隧道』だ。」

「温泉でも出たの。」

「温泉なんてもんじゃない。
 欅平−仙人谷間のトンネル掘削の一番上流部にあたる阿曾原谷−仙人谷の工区で、トンネルを掘っているうちに高熱の岩盤にぶち当たり、一時は工事全体をあきらめかけた。なにしろ、掘削する岩盤の温度が最高で、160度を超えてしまった。」

「そうするとどうなるの。」

「当時のトンネル掘りは、掘削の一番先頭で、掘削員がダイナマイトを入れる穴を岩盤に何本もドリルでうがち、その穴へダイナマイトを入れて点火して岩盤を崩すという方法だった。トンネル内の温度上昇、吹き出す熱湯で、まず作業員が耐えられなくなる。さらに致命的なのは、ダイナマイトが点火前に爆発してしまう。」 

 それでも、様々な工夫がなされてトンネル掘りは進められ、ついに貫通にこぎ着けました。僅か704.96mのトンネルを掘るのに1年3か月の月日が費やされました。
 1940年11月には、全体の工事が終わり、黒部川第3発電所は完成しました。しかし、雪崩による死亡者も含めて工事従業者から300名以上の犠牲者を出てしまいました。これは黒4ダム建設の犠牲者171名の倍近くになります。
 吉村昭氏は、のち訪問したかつての高熱隧道について、小説の後書きに次のように書いています。

 

「 十年ほど前、黒部第四発電所建設工事のおこなわれていた黒部渓谷を訪れたことがある。宇奈月から樺平まで黒部鉄道の軌道単に乗り、樺平からさらに隊道内に設けられた大きなエレベーターに乗り込んだ。今思い返してみると、そのエレベーターでのぼった200メートルほどの竪坑は、黒部第三発電所建設工事第三工区の掘整した竪坑であった。
 エレベーターの終点の隊道内には、密閉できるようになっている木製の箱車が待っていた。やがて軌道車が動きだしたが、しばらく進むと妙な熟さが私の体を包みこみ、かたく閉ざされた扉のすき開からも湯気が入りはじめてきた。箱にとりつけられた小さなガラス窓から外をみると、軌道内には濃い湯気が充満している。急速にたかまってくる熱気とそして湯気の密度に、私は、なにかこの随道内に異常事態が起っているのではないかと思った。が、同乗している労務者たちは、顔を伏せてじっと堪えているような姿勢をとりつづけている。私は、ようやく熱気と湯気が、その隊道にとっては日常のものであるらしいことに気がついた。しかし、その異常な熟さは私の落着きを失わせた。そして、息苦しさの限界がきたと思った頃、坑道内に明るみがさして、熱気も湯気もうすらいだ。軌道の終点、仙人谷に軌道車がすべり出たのだ。
 私は、その時初めて高熱隊道の存在と、その工事が隊道工事史上きわめて稀な難工事であることを知った。」

吉村昭 前掲書 P192


「黒部の歴史はすごいね。」

「本当にすごいもんだ。」


 2時間の滞在で宇奈月へ  | 全行程目次・地図へ || 先頭へ |

 欅平駅に8時47分に着いて、帰りは、10時43分発でしたから、正味の滞在時間は2時間弱です。
 欅平から遠出して、充実したハイキングを送る計画なら、半日コースというのもあります。
 しかし、2010年の5月は、上にも書いたように行ける場所はほんの僅かでしたから、2時間でももてあましました。
 次にくる時は、ぜひ歩き回って自然を満喫したいものです。


 写真05−16   出発              (撮影日 10/05/02)

 駅舎下の地下道部分を通って、宇奈月へ向かう欅平駅10時01分発の電車。小さな機関車なので運転席も狭く、反対に運転手さんの体がとても大きく見えます。


 写真05−17  宇奈月へ向かうトロッコ列車      (撮影日 10/05/02)

 猫又駅の少し上流の工事用の引き込み線部分を通過する下り宇奈月駅行きのトロッコ列車。
 自分の乗車している普通車から、窓越しに、前方の機関車・リラックス客車を撮影しました。


 黒部峡谷鉄道の素敵な旅の紹介をこれで終わります。
 また、これで、2010年5月のゴールデンウィークに出かけた、富山県の高岡市・富山市・黒部峡谷の旅行記を終わります。最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

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