クイズ世界史その１２−３　現代の世界３

1203　誕生日が祝日となっている大統領とは？　　　　　　　　　　　　　　　　　　　｜　問題編へ　｜　　　　

　話が長くなりますから、次のパーツに分けて説明します。

※	このページの記載は、２０１３年１０月２５日に大幅に修正しています。州の祝日を再調査して訂正などを行い、アラバマ州の説明を大幅に補足しました。

　まずは、アメリカの祝祭日についての説明です。
　日本だと、「国民の祝日」という形で、国立の機関や学校だけではなく、公的な機関や公立の学校も民間の会社も、全国一斉にみんな休みになります。
　しかし、アメリカでは、二つの点で違いがあります。このことが、このクイズの説明では重要なポイントとなります。　

1. 連邦法定祝日というのがありますが、これは、日本の「国民の休日」というほど強制力があるものではなく、連邦政府機関が仕事を休む日（連邦公務員の休日）という位置づけになっています。

2. 一方で、各州は州の法律によって独自の州法定祝日（ｓｔａｔｅ　ｌｅｇａｌ　ｈｏｌｉｄａｙ）を定めており、中には、その解釈が連邦法定祝日と異なるものがあります。

　連邦法定祝日は１０日あり、２００３年は次の月日となっています。１０日のうち、６日は曜日が指定されている休日で、年によって日付が移動します。
　　※在福岡アメリカ領事館のサイトを参考にしました。「米国のプロファイル　米国に特有の祝祭日」
　　　→http://aboutusa.japan.usembassy.gov/j/jusaj-profile-symbols.html　 　

　連邦法では、２月の第３月曜日は、「大統領の日」となっています。
　これは、１９７１年ニクソン大統領の時に制定された休日で、歴代の大統領の功績を讃える日となっています。
　しかし、それ以前は、２月には尊敬すべき二人の大統領の誕生日が別々にあって、それぞれ祝日となっていました。
　一人は、言うまでもなく、初代大統領ジョージ・ワシントンで、２月２２日です。そしてもう一人、

　クイズの正解は、第１６代大統領アブラハム・リンカンで、その誕生日は２月１２日です。
　リンカン大統領は、日本では、奴隷解放宣言を発令した大統領として有名ですが、アメリカ合衆国ではそれよりも、南北戦争を戦い抜き、アメリカの統一を維持した大統領として政治史上重要な大統領と位置づけられており、絶大な人気です。

　アイオワ州の我が友人スティーブの勤務校もそうですが、全米各地に彼の名を付けたリンカン高校やリンカン大学などが存在します。
　リンカン高校が全米でいくつぐらいあるのか友人に聞いてみましたが、そんな統計はないとのことでした。興味はありますが、これを調べるようなヒマはありません。

　余談ですが、１９９２年に教員の研修でワシントンを訪問したとき、何日目かの公式行事に、「ワシントンのフォード劇場でミュージカルを見る」というのが組まれていました。
　我々日本から行った教師は、ミュージカルの方に注意が向き、「どんな内容なんだろう」とか「通訳が付くのか」などが話題となっていました。
　ところが、研修に参加していたアメリカ側の教師は、何かとても興奮している様子でした。
　参考までに付け加えておくと、アメリカ側参加教師も、全米各州から集まってきており、友人スティーブをはじめとして、ワシントン訪問は初めてという教師が多数派でした。（ちなみに、ワシントンの地下鉄に乗ったときは、アメリカ人の方が私たちに地下鉄の乗り方を聞いてきました。日本人の我々の方が、経験的に地下鉄の乗り方をよく知っていて、彼らに教えたのです。）
　※アメリカ研修の時の話はこちらです。→「アメリカとの草の根交流記」　

　最初、無知にも、彼らが何に興奮しているかわかりませんでした。皆さんはおわかりですか。　

　フォード劇場というのは、リンカン大統領が暗殺された場所だったのです。
　南北戦争が終了した後の１８６５年４月１４日、リンカン大統領は、夫妻で観劇中、彼の政治に反対するジョン・ブースによって拳銃で撃たれ、翌朝死亡しました。
　そこに行って説明を受けるまで気がつかなかった私は、なんとカメラも持っておらず、フォード劇場の写真は一枚もありません。残念至極です。

※	フォード劇場のホームページはこちらです。　→http://www.fordstheatre.org/。
※	フォード劇場を説明する Virtual tour のページです。舞台に向かって右手の大統領席で観劇中に、リンカンは撃たれました。 　→http://www.fordstheatre.org/sites/default/files/virtualTour/index.html

　フォード劇場は、リンカン大統領暗殺のあとまもなくして閉鎖され、長く事務所として使われていました。しかし、１９５４年アイゼンハワー大統領が再建して再び劇場として使用することを決め、１９６８年から劇場として再開されました。
　内部は当時の様子が再現されていて、「ここがリンカン夫妻が座っていて凶弾に倒れた場所」となっています。
　
　本題へ帰ります。
　先の説明のように、１９７１年以降は、連邦法定祝日では２月の二人の大統領の誕生日を、他の大統領への尊敬の意味も含めて統合し、２月第３月曜日を、「大統領の日」にしたのです

　ところが、最初に説明したように、アメリカでは、この連邦法定祝日は、連邦政府の機関の休日という意味でしかありません。
　各州では、それぞれ独自に州法定祝日を設定しています。

　たとえば、ニューヨーク州では、２０１３年の祝日は次のようになっています。
　　・２月１２日リンカン大統領の誕生日（休日）
　　・２月１８日ワシントンの誕生日（休日）＝連邦法でいう「大統領の日」

　つまり、本来の「大統領の日」をワシントンの誕生日として休日にし、さらにもう一日、リンカン大統領の誕生日を休日にしています。
　このように、州法定祝日によって、独自にリンカン大統領の誕生日を祝日にしている州は、確認できただけでも次の５州があります。

※	アリゾナ州とモンタナ州は、２月１８日をワシントンとリンカンの日としています。

　リンカン大統領の誕生日を休日としている州のうち、アリゾナとモンタナを除いた５州（ニューヨーク、コネチカット、インディアナ、イリノイ、ミズーリ）は、みな南北戦争の北軍側に所属していた州です。（モンタナとアリゾナは南北戦争時にはまだ州ではありませんでした。）
　南北戦争の政治的影響やリンカンの功績に対する評価は、普通の「世界史」を学習した日本人にはなかなか知られていない、奥の深いものがあることを、理解していただけるでしょうか？

　さらにもう一つ、発展学習をします。
　上の説明図には、「�A日本ではあまり知られていない休日を設定している州」として、ミシシッピ、アラバマ、ジョージア、フロリダの４州が示してあります。この休日とは何でしょうか？　

　アラバマ州を中心に、この発展問題に挑戦します。落語で言うならこのページの真打ち、アラバマ州の登場です。地図の■ＡＬです。
　まずは、基本的な知識です。
　アラバマ州は「深南部　ｄｅｅｐ　ｓｏｕｔｈ」と呼ばれる、「アメリカ南部地方中の南部地方」の代表州です。もちろん南北戦争では南軍の中心の州の一つであり、手痛い敗北を喫しました。
　話はちょっとそれますが、アラバマ州というと２００２年につくられたハリウッド作品のコメディ映画、『メラニーは行く』（リース・ウィーザスプーン主演　原題Ｓｗｅｅｔ　Ｈｏｍｅ　Ａｌａｂａｍａ、アンディ・テナント監督　ＴｏｕｃｈＳｔｏｎｅ　Ｐｃｉｔｕｒｅ）を思い出します。
　この映画は、アラバマ州出身の若い女性が登場する映画ですが、アラバマの伝統行事として、映画には現代もアラバマの人々が南北戦争にちなんだ模擬戦を展開し、南軍が勝つというストーリーになっていることをおもしろおかしく描いています。コメディ映画といってしまえばそれまでですが、アラバマの空気を十分理解できる映画です。
　
　そういうアラバマですから、州法定祝日も北部の州とは違います。次の「Ａ　連邦法による祝日」と「Ｂ　アラバマ州の法定祝日」を比較してみてください。

　まず、リンカン大統領誕生日などというおぞましい休日は、ぜ、ぜ、ぜ、絶対にありません。
　さらに、　「Ｐｒｅｓｉｄｅｎｔｓ’　Ｄａｙ」の部分をよくご覧ください。ジョージ・ワシントンとトーマス・ジェファーソン（第３代大統領）を祝う日となっています。
　また、連邦法定祝日に比べ、３日多い１３日の設定になっています。３日の一つは、３の「Ｍａｒｄｉｓ　Ｇｒａｓ」です。カトリック系の宗教行事の日です。
　あと２日、どれが多いかわかりますか。おわかりなら、次に、それが何の日かお考えください。いずれも南北戦争関係の休日です。

　 連邦の休日と異なるのは、次の二つです。

　５のＣｏｎｆｅｄｅｒａｔｅとは、南北戦争の直前、共和党のリンカン大統領の出現に脅威を感じた南部諸州、サウス・カロライナ、ジョージア、フロリダ、アラバマ、ミシシッピ、ルイジアナの６州が、１８６１年２月にアラバマ州モントゴメリーに集まって、結成した政治連合、アメリカ連合（盟邦ともいう）のことです。この結成がアメリカ本体からの分離を促し、対立を決定的として、南北戦争の開戦となりました。つまり、４月２２日は、その記念日です。

　そして、なんとそのアメリカ連合の初代大統領がジェファーソン・デービスです。その誕生日が、７の６月４日なのです。
　アメリカ連合及び大統領ジェファーソン・デービスは、高校の世界史の教科書に登場する項目です。

　この二つの記念日の設定を日本にアナロジーしてみましょう。日本にたとえるのなら、１５０年前の時代と事象の内容から次の二つが最適でしょうか。黒板クイズで考えてください。

　※例によって、黒板をクリックしてください。答が現れます。

　※例によって、黒板をクリックしてください。答が現れます。

　日本では、いくら恨みがあっても、そんなふうにはなりません。
　このことは、アメリカ史上における南北戦争の重さと、もうひとつ、アメリカ合衆国の「州」というものがどういうものかというかと言うことを、考え理解するいいネタにもなります。ｓｔａｔｅ　は、やっぱり国ですね。

　何にしても、すごいですね、アラバマ。見上げたもんです、アラバマ。
　おっと、４月２２日のアメリカ連合の日は、フロリダもジョージアも休日に設定しています。ミシシッピは、日にちが違って４月２９日です。独自の歴史と伝統を重んじる深南部諸州です。

　以下、関連する項目があります。ご覧ください。
　　※→現物教材「南部連合旗」（南北戦争の諸州の詳しい説明が付いています）
　　※→世界史クイズ「民主党が南部諸州の支持を失った理由は？」　　
　　※→現代社会クイズ「２００４年選挙へ向けて民主党大統領候補が南部の支持を得るためにしたことは？」
　　※→現物教材「ケネディ暗殺時の大統領専用オープンカー・リンカーンの模型　輸入版」