現物教材 世界史8

 近代006  南北戦争 南部軍旗                            | 目次へ

 この現物教材をご覧になる前に、「世界史クイズ なぜ民主党は南部の支持を失ったか」をご覧ください。
 
 1861年、アメリカでは南北戦争が起きます。

 1860年の大統領選挙で、奴隷制の拡大に反対し東部産業資本の利益を中心に国政を進めようとするアブラハム・リンカン大統領が当選すると、あくまで奴隷制を維持しようとする南部諸州は、アメリカ合衆国から分離し、Confederate states of America (アメリカ連合国、または南部連合とも呼ばれる)を結成しました。
 翌年、両者による戦争が始まったのです。
 その時に南部連合が使用した旗がアメリカ連合旗、そして、南軍が使用した旗が、南軍旗です。

 授業では必ずしも連合旗や南軍旗を登場させる必要はありませんが、二つの旗、とりわけ南軍旗を知っていると、現代アメリカの世相にもつながる、アメリカの南部事情をより深く理解することができる優れものです。
 まずは旗の説明です。

 南部連合旗は、英語でthe Stars and Bars と言います。
 Bar というのは、チョコバーのバーです。bar は少し太い横棒という意味です。
 アメリカ合衆国国旗 
the Stars and Stripes のstripeは、細い筋という意味です。


南部連合旗、7星 

南部連合旗、13星
 
南部軍旗、普通は13星

東急ハンズで購入した¥380の小さな南軍旗

 南軍旗は、日本でも結構売られています。但し、教材ではなくアクセサリーとしてです。右上は、東急ハンズで購入した、15p×20pほどの小物です。
 中には、150p×90pの大物も売られています。但し、価格2500円+送料とちょっと高価格です。
  ※徳島市の雑貨店ビリーザキッドのホームページから購入できます。 


○星の数 
 まず、星の数が、7から13まであることについて説明します。

赤い線は、これ以上北には奴隷州(奴隷制を認める州)を作らないという、1820年に結ばれたミズーリ協定のライン。

以下は南部諸州の略号です。 

VA

ヴァージニア

AL アラバマ

NC

ノース・カロライナ

MS

ミシシッピ

SC

サウス・カロライナ

AR

アーカンソー

GA

ジョージア

LA

ルイジアナ

FL フロリダ TX テキサス

TN

テネシー

MO

ミズーリ

KY

ケンタッキー

DE

デラウェア

WV ウェスト・ヴァージニア

1820年のミズーリ協定の時は、いわゆる奴隷州は、地図の赤い線より南の州でした。

 共和党のリンカン大統領の出現に脅威を感じた、サウス・カロライナ、ジョージア、フロリダ、アラバマ、ミシシッピ、ルイジアナの6州が、1861年2月にアラバマ州モントゴメリーに集まって、アメリカ連合を作成しました。
 初代大統領にジェファーソン・デービスが選任されます。

 翌3月、テキサス州がこの連合に参加し、4月には、北軍との戦争が始まります。
 したがって、南北戦争開始当時は、連合は7州からスタートしました。これが
7つ星の連合旗がある理由です。

 戦争が始まると、バージニア、ノース・カロライナ、テネシー、アーカンソーの4州も連合に加入し、これで、合計11州となりました。
 ここには掲載されませんでしたが、現在も博物館などに残っている当時の南部連合旗およそ300のうち、
40%ほどは、星が11の旗です。

 尚この時、同じバージニア州でも、西部は、奴隷制に反対し、分離してウエスト・バージニア州を結成しました。右の地図で、赤い線の南側にある青い部分です。
 
  上の右の
南部連合旗は、左に比べて星の配置と星の数が違っています。星の数は、13です。11州+2という計算です。 あと2州は、どうなっているのでしょうか。

 実は、正式に南部連合に加入した州は、上記の11州だったのですが、他に2つを加えて、13個の星としているのです。
 
 その州は、ケンタッキー州とミズーリ州です。
 この2州では、合衆国に残るか南部連合に加わるかで州内で対立があり、結局合衆国に残りました。しかし、州議会の奴隷制支持派は、南部連合に代表を送り、また州民の中には、南軍に加わったものも多くいたため、奴隷制支持州として数に加えられています。

 さらに、州知事が逮捕されるまで南部連合を支持したメリーランド州、地図の赤い線(ミズーリ協定)の南側の州で本来奴隷制の州であるデラウエア州(連合には未加入)を加えて、星が15の旗も5%ほど存在しています。
 ※この星の数については、アメリカの国旗等の解説をしたサイトを参考にしました。
  「FLAGS BY SWI」


 下段の星がクロスして配置されているのは、南部軍旗です。星の配置から、サザンクロスと呼ばれます。
  今日、南部社会で普通に見られ、私たちもメディアを通して目にするのは、
南部連合旗ではなく、むしろこちらの南部軍旗です。
 
 南部連合旗が南部連合政府の旗であるのに対して、南部軍旗は、軍隊の旗です。
 つまり、南北戦争の最中に南部連合軍が州旗とともに戦場に掲げた「戦旗」(バトルフラッグ)のひとつです。但し、はじめから南軍の統一した戦旗であったのではなく、開戦のとしに北ヴァージニアの部隊が掲げた旗のデザインがもとになっていると言われています。
 ※明石紀雄監修『21世紀のアメリカ社会を知るための67章』(明石書店 2002年)P129
 
 星をクロスさせた配置がよかったため、南北戦争後もこの旗が、南部を象徴する旗として支持されていきました。
 


○旗の意味 
 この旗を授業で使うのは、もちろん、南部連合の州の数を教えるのが主たるねらいというわけではありません。
 この旗は、今でもアメリカでは、現在も、特別なものとして扱われています。たとえば、南部諸州の中では、今でも、この旗を州の旗のデザインに使っている州があります。また、南部の市民の生活の中には、今もこの旗が息づいています。
 その意味は、以下のように集約されます。

  1. 南軍旗は、南北戦争を戦った南部の誇りある歴史を象徴するものとなっている。それはまた、白人の保守的な伝統ある生活意識を象徴するものでもある。礼儀正しさ、父権の強さ、強い名誉心、親切さ、厚い信仰心などがその特色である。

  2. さらには、南軍旗は、白人優越主義・人種差別主義のシンボルとなっている。今のその残党が活動するKKK(クー・クラックス・クラン)や、ユダヤ人差別主義者のネオナチグループなどが南軍旗をその人種差別主義の象徴としている。

  3. 旗には、「物わかりがいい北東部的インテリのリベラル」像に反逆する意味が込められており、「過激」で「反社会的な」ロックバンドなども、好んでこの旗をシンボルとする。

 これらは、井出義光著『南部 もう一つのアメリカ』(東京大学出版会 UP選書1978年)P12などや、また、映画『メラニーは行く』(リース・ウィーザスプーン主演 原題Sweet Home Alabama、2002、アンディ・テナント監督 TouchStone Picture)などからまとめました。

 映画は、ラブ・コメディーですが、アメリカ南部社会をステレオタイプに描いています。ギャグと言えばギャグですが、そのコメディータッチの描写が、かえって、心象的には、南部人の原点に迫っていると思われます。
 
 これらの旗が、アメリカの現在の政治や社会の中で、どのような意味をもち、どういう「事件」になっているのでしょうか。

 詳しくは、現代社会クイズ「2004年大統領選挙に向けて民主党候補が支持を広げるためにしたことは?」をご覧ください。
 また、現物教材ケネディ暗殺時のリンカン・コンチネンタルもご覧ください。

 
 ※現代社会クイズ「2004年選挙へ向けて民主党大統領候補が南部の支持を得るためにしたことは?」
  ※現物教材「ケネディ暗殺時の大統領専用オープンカー・リンカーンの模型 輸入版」


以下、関連する項目があります。ご覧ください。
  ※世界史クイズ「アメリカでその誕生日が国の祝日となっている大統領は?」