ところで、韓国映画「ブラザーフッド」では、画面にいろいろな戦闘場面が登場し、その中に、飛行機に詳しい人なら「おっと、なるほど」というシーンが登場します。
ここは余談ですが、朝鮮戦争中の戦闘機について、付録説明します。
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ミグ15ジェット戦闘機
かかみがはら航空宇宙博物館の展示模型です。 |
第二次世界大戦末期に、ドイツは、他国に先駆けてジェット戦闘機メッサーシュミットMe262を実戦に投入します。
これによって、戦闘機の歴史は、ガソリンエンジンのプロペラ機(レシプロ機)からより高速な、ジェット戦闘機の時代へと移り変わったわけです。
朝鮮戦争では、第二次世界大戦後アメリカが開発した、海軍のF2Hバンシー、F9Fパンサー、空軍のF−80シューティングスターなどが投入されます。
ところが、北朝鮮軍が、ソ連製のミグ15を登場させ(北朝鮮軍とはいうもののパイロットは実はソ連人が多かった)ると、アメリカ戦闘機は、その高性能に一気に不利な状況に置かれます。
アメリカ軍機は、大戦末期からアメリカが開発していた直線翼(レシプロ機と同様、翼が胴体から直線に伸びている)戦闘機で、後退翼戦闘機(翼が後方へ伸びている)のミグ15の方が、より高性能だったのです。
第二次世界大戦中日本軍戦闘機が手こずったB29爆撃機も、ミグ15は簡単に撃墜してしまいました。
そこで、アメリカがあわてて開発したのが、日本でもかの有名な、ノースアメリカンF86セイバー戦闘機です。
のちに航空自衛隊でも使われ、映画『ゴジラ』の初期のシリーズでは、あえなく「撃墜」されたり、活躍したりといろいろ登場する名機です。
同じ後退翼のF86セイバーの登場によって、アメリカ軍(国連軍)は、優位に立つことができました。
さて、映画「ブラザーフッド」では、もう一つ別の戦闘機がCGで登場します。
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チャンス・ボートF4Uコルセア戦闘機
かかみがはら航空宇宙博物館の展示模型です。識別マークはアメリカのそれではなくイギリスのものを付けています。 |
右の戦闘機、チャンス・ボートF4Uコルセアです。
映画の後半場面の迫力の戦闘シーンの時に、上空から北朝鮮軍陣地を攻撃するのが、このF4Uコルセアです。
見た通り、ジェット戦闘機ではなくプロペラ機です。
このアメリカ海軍の飛行機は、1940年に初飛行した、アメリカ軍初の2000馬力エンジン搭載機でした。
初飛行で、時速650kmを越えるスピードを出し、これまたアメリカ初の時速400マイル突破軍用機の栄誉を勝ち得ました。
1939年初飛行の日本海軍のゼロ戦が、エンジン940馬力、最高時速533kmだったのと比べると、アメリカの技術と工業力の差は歴然です。
海軍はこのコルセアを制式機として採用し、航空母艦搭載の艦上戦闘機として、すぐさま大量生産を命じました。
ところが、翼の形状が逆ガル型(ガル、つまりカモメのの羽と逆の形状)であったため、前下方向の視界が悪く、実際に飛んでみると、航空母艦の離艦・発艦には問題があることが分かり、そのため当初は陸上の海軍基地での利用となってしまいました。
これによってアメリカ海軍は、同時期に開発されていたかの有名なグラマンF6Fヘルキャットを艦上戦闘機として大量生産します。こちらは、同じ2000馬力エンジン搭載機でも最高速度は600km/hほどでしたが、無難な形でうまくまとまっていて大量生産しやすく、しかも使いやすかったことが取り柄となりました。
この結果、太平洋戦争後半期のアメリカの海軍戦闘機といえば、グラマンF6Fヘルキャットと言われるくらい、この飛行機が主役となりました。
しかし、第二次世界大戦後、再び、チャンス・ボートF4Uコルセアに活躍の舞台が回ってきます。
高速生かした対地攻撃用艦上戦闘機として現役の座を守り続け、朝鮮戦争では、ロケット弾発射装置を付けて、対地攻撃の主役となりました。
結果的に、第2次世界大戦後はジェット戦闘機の出現で引退することになったグラマンF6Fヘルキャットは、合計生産機数12,275機でしたが、しぶとく現役を続けたチャンス・ボートF4Uコルセアの合計生産機数12,571機となり、こちらの方が上回りました。
※野原茂著『図解 世界のレシプロ軍用機集 1909〜1945』(グリーンアロー出版社 2002年)P186、P190
かくて、史実のとおり、チャンス・ボートF4Uコルセアが映画「ブラザーフッド」の中でも活躍します。
※韓国映画「ブラザーフッド」(2004年6月公開)の紹介は、日記・雑感にあります。こちらです。
※現物教材日本史「太平洋戦争中の日米軍用機」に戦闘機の解説があります。こちらです。 |