名鉄揖斐線・廃線物語03
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 □廃線決定
 04/11/21記述  10/07/04追加記述(万葉線・富山ライトレールとのリンク)    
 廃線決定の報道                                   

 2004年11月9日の『岐阜新聞』は、「県内名鉄3線廃止確定 岐阜市内線・美濃町線 国交省が許可」という記事を掲載しました。
 これは、名鉄がすでに撤退を表明していた3線(田神線を含む。別に数えると4線。以下同じ。)のうち、名鉄が2004年3月1日に国土交通省に対して申請していた市内線と美濃町線(田神線を含む)の廃止を同省が許可し、これによって、名鉄の計画通り、2005年4月1日での3線廃線が決まったという記事です。
 
 これには、ちょっと注釈が必要です。
 廃線物語1の「3(4)路線の説明」でちょっと触れたように、まとめて3線といっても、揖斐線と他の路線は、規制する法律が異なります。
 揖斐線は鉄道事業法、市内線・美濃町線は軌道法です。
 名鉄は、揖斐線に関しては、上記の2004年3月1日に鉄道事業法に基づいて、同線の廃止届けを提出し、受理されました。
 鉄道事業法に基づく廃線の手続きは、事業者がただ届けを出すだけですから、それが受理された段階で、廃止が決まるのです。 

実は、鉄道事業法においても、以前は鉄道の廃止については地元の同意が必要な許可制でした。しかし、規制緩和の流れの中で、2000年3月1日改正鉄道事業法が施行され、地元の同意がなくても原則1年前に国土交通省(当時は運輸省)に届さえ提出すれば廃止できる、「届出制」となりました。

 ところが、軌道法に基づく他の2線は、廃止するには法に従って同省へ廃線申請けを提出し、それが許可されなければなりません。許可の審査基準は、「廃止によって公衆の利便性が著しく阻害される恐れがあると認められないこと」となっています。
 これは、利用者の権利を守る措置です。
 しかし、逆に言えば、鉄道が廃線になれば、多少は不便になることは当然ですが、代替交通手段などによって、「著しく」不便にならなければ、認められるということです。

 国土交通省の審査の結果が、11月8日発表され、「廃止許可」となったため、揖斐線と合わせて、美濃町線・市内線も含めた3線(4線)の廃止が決定したというわけです。
 
 名鉄は、「今後は岐阜バスと緊密な打ち合わせをし、代替交通について協議したい」とコメントしました。
  ※前掲『岐阜新聞』(2004年11月9日朝刊1面)


 国土交通省の許可を受けて、名鉄の各駅には、先週、左の「お知らせ」が、張り出されました。
(北方千歳駅で撮影 04/11/14)

 文面は、あらためて、2005(平成17)年3月31日(木)の最終営業列車をもって、営業終了となる旨を伝えています。
 これは、市内線・揖斐線に関していえば、新岐阜駅前停留所22時41分発の黒野行き電車が、黒野駅に23時23分に到着した時点で、この路線の長い歴史に幕を閉じることになります。

 右は、黒野駅に着き乗客を降ろしたある日の最終電車。
 この日この電車の到着を見ていたのは、運転手と当直の駅員と、降り立った乗客2人と、私のわずか5人でした。(撮影日 04/11/20)
 2005年3月31日、その夜の電車は、きっとたくさんの人に見守られるに違いありません。


 廃線発表から廃線決定まで                              | このページの先頭へ |

 3(4)路線合わせて総延長36.6kmの路線の廃止です。そう簡単なことではありません。

 2002年11月の廃線発表以後、岐阜市をはじめ沿線の自治体や住民は、どのような反応をしてきたのでしょうか。
 時間を追って再現してみます。

以下の表は、『岐阜新聞』、『朝日新聞』、「揖斐線・美濃町線・岐阜市内線等沿線市町対策協議会のホームページ」(こちらです。)等から作成しました。

 

事件


2003
(H15)

1

・名鉄が、揖斐線沿線の市町、岐阜市・北方町・真正町・大野町の各役所を訪問し、撤退の可能性を示唆した。3路線の中で揖斐線の輸送人員の減少率(対10年前比)は56%と最も大きく、年間6億9000万円の赤字が出ていると説明。(3路線全体では年間赤字総額約17億円)

2

・3路線の沿線市町、関市・岐阜市・大野町・北方町・真正町・糸貫町(現在、真正町・糸貫町は、他町村と合併して、本巣市となっている。)の2市4町による「揖斐線・美濃町線・岐阜市内線等沿線市町対策協議会」が設立される。会長は、小野崎弘樹岐阜市助役。以下、対策協議会と表記。)
・名鉄の木村社長は、3路線の存続の可能性について、「地元自治体が赤字を補填するという話が出てくれば、検討に値する」と言及した。

4

対策協議会、3路線の存続を求める66,772人の署名を名鉄へ提出。

5

・名鉄、関係市町に対して、3路線からの撤退について、協議を進めたい旨、申し出る。

10

・岐阜市、総合型交通社会実験を実施。市内線新岐阜駅前・西野町停留所に仮説電停(「安全島」と表現)を設置。また、市内3カ所で、軌道敷内自動車通行禁止区域を設置。

2004
(H16)

3

・名鉄、市内線・美濃町線の廃止許可申請書、揖斐線の廃止届出書を国土交通省に提出。(いわゆる、「廃線手続き」に入る。)
対策協議会、「公設民営方式」(基礎部分の投資を公共が行い、運行は民間会社)と「第3セクター方式」の2方式について、収支の試算を行って近く関係市町議会に提示すると発表。
・名鉄、沿線市町村による「継続」は、国の手続きの期限等から逆算して、6月までに決定される必要があると表明。

対策協議会、試算を発表。

公設民営方式(上下分離)

第3セクター方式

自治体が基盤維持など3億1000万円設備投資費1億円を毎年負担。運行会社は当初の1億4000万円の赤字、毎年2000万円。

05年には5億2000万円、14年には7億3000万円

・名鉄は、土地(41億円)や車輌(41億円)の資産売却価格を合計82億円と公表。

5

・揖斐線沿線4市町、廃線は受諾できないと表明。
・19日、岐阜市の細江市長は、両備グループ代表で、
岡山電気軌道の小嶋光信社長訪ね、地域交通の確保を打診。
(両備グループは、岡山県内に鉄道、バス会社など47社を経営。
岡山電気軌道は、岡山市内に路面電車2系統を運行し、2002年には超低床式車輌を導入。)

6

名鉄、資産売却価格を、19億7800万円に譲歩(土地代など13億500万円、車輌など6億7300万円)。「車輌など市場価値のある資産もあり、無償譲渡はありえない。」
対策協議会資産譲渡価格を8億円前後を上限としたいと希望。名鉄、19億7800万円が最終回答と言明し、値下げを拒否
・3路線の存続を求める市民団体、「
未来をつくる路面電車を訴える緊急ネットワーク」は、公設民営方式で存続する場合の経営収支の試算を発表。利用者増により、2008年には営業収入が10億4000万円となり、営業費用10億円を上回って黒字となると主張。
・揖斐線沿線の高校4校(
国立岐阜高専、県立本巣松陽高校、県立岐阜農林高校、私立岐阜第一高校)の校長ら、細江岐阜市長に「存続」の要望書提出。
・市民団体「
名鉄揖斐線・市内線を存続させる会」(安藤浩代表)、北方町体育館で、「存続と利用を目指す」緊急総決起集会を開催。沿線住民900人が参加。
・岐阜市、3路線の沿線3市2町が線路や車両などの施設を保有する主体となり、岡山電気軌道が運行を担当する枠組み案を明らかにする。この方法の場合、3市2町の財政負担は2005年度に13億円、2010年度以降は5〜6億円が必要とすると試算を発表。

7

・対策協議会、電車の廃止を選択した場合のバス代替交通の検討を開始。
・国土交通省、自治体が進める高齢化社会に対応した街づくりで、低床で乗りやすいバリアフリー化された次世代型路面電車(LRT)の新線建設を支援していくことを決定。

・22日、細江岐阜市長、市議会各派と沿線自治体に3路線存続断念の意向を伝える。
<主な理由>

  1. 初期投資ランニングコストなど自治体の経費負担が大きい。10年間で負担は、84億円と推定される。

  2. 利用者増は見込めない。

・これに対し、経営継承を打診されていた岡山電気軌道は、「廃止は残念。将来LRT(超低床路面電車)を導入する機運があれば協力したい」とコメント。

・名鉄木村社長、「代替交通は岐阜バス(岐阜乗合自動車)で考えていきたい。また、市ノ坪の車庫などの跡地については地元自治体への有効活用を望んでいる」とコメント。


 かくて、岐阜市を中心とする自治体は、「存続」断念を決定し、冒頭で述べたように、11月9日には、国土交通省の手続き上も、廃線が決まったということになったのです。  


 自治体の廃線断念の要因                                 | このページの先頭へ |

 岐阜市をはじめとする沿線自治体のこのような決定は、どう評価されたでしょうか。また、そうせざるを得なかった要因は何でしょうか。

 岐阜市の決定について、翌日2004年7月23日の『岐阜新聞』は次のように報じています。
「名鉄3路線の存廃問題について、岐阜市の「存続断念」で廃止が決まった。名鉄の撤退表明から約1年半、もつれにもつれた結果は後味が悪く、存続を願う15万人の署名者や引き受けに名乗りを上げた岡山電気軌道の関係者に、「これまでの動きは一体何だったのか」と思わせるほど、経緯に疑問と遺恨を残した。」
 
 確かに、一市民の私の目から見ても、名鉄が譲渡価格を当初の82億円から19億7800億円に譲歩したニュースを見た時点では、「これは何とかなるな」と思いました。
 しかし、結局は、自治体の望む譲渡価格8億円との溝は埋めることができず、また、毎年負担しなければならない赤字補填へのリスクをクリアーできないなど、
財政的な問題はことのほか大きかったということです。
 「県都の40万都市が、年間数億円の赤字補填ぐらい・・。」という発想は、現在の自治体の厳しい財政状況では、とても許されないということでした。(実は、これは、同じ時期に「存続」の決断をした富山県の高岡市・富山市などの状況と比較すると、「う〜ん、無理と言うことはなかっただろう」ということになります。)
  ※
→高岡市万葉線→富山市富山ライトレールについては、別ページで説明しています。

 加えて、利用者の問題もありました。
 沿線住民の多くは、存続か廃止かということを単純に問われれば、心情的には、「
廃止反対」でしょう。
 また、岐阜市が10月から11月にかけて市内各地で開催した「
岐阜市1日市民交通会議」のひとつ、木田、黒野、方県、西郷、七郷、合渡、網代地区の会議(10月29日(金)19:00〜21:00 岐阜市西部コミュニティーセンターで開催)では、名鉄揖斐線の沿線にあたる七郷地区(尻毛駅・又丸駅がある)の住民から、強力な廃止反対意見が出されました。

 もし、代替バスを走らせるとすると、揖斐線と平行して同地区を通る国道303号線(157号線と併用)を利用することになり、今でも朝の出勤時には長い渋滞が生じる同国道がいっそう混雑し、代替バスが交通機関としての定時性を保障できないという具体的なものでした。
 しかし、これらの、意見は、結果的にはあくまで、市民の一部の声でしかありませんでした。そのことは次の数字が、雄弁に物語っています。
 2002年に揖斐線廃止が表明され、
2003年には「乗って残そう」と存続運動が展開されても、結果的には、揖斐線の利用者は減少したのです。
  

2002年

2003年

名鉄揖斐線利用者数

161万7000人

157万8000人

 

名鉄揖斐線黒野駅の時刻表。きっちり15分ごと。メモする必要もない。
沿線で写真を撮影する際にも、これは便利。(^_^) 

 これでは、自治体が財政的な負担をあえてして存続に踏み切るには、説得力がありませんでした。
 こういうと、揖斐線を詳しく知らない方は、「どうせ地方のローカル線だから、1時間の運行本数も少なくて、利用者が減っているのだろう」と思われるかもしれません。
 しかし、揖斐線の場合は、それはあてはまりません。

 右の表をご覧ください。
 これは、揖斐線の終点黒野駅(大野町)の時刻表です。
 朝5時45分の始発から、19時30分までは、きっちり15分間隔です。
 もちろん、すべてが新岐阜駅前行きですから、沿線の各駅は、それぞれ時間のずれはあっても、やはり同じくきっちり15分おきなのです。
(朝夕の混雑時には所要時間が多少異なりますから、若干のずれはあります。)メモも暗記の必要もありません。
 普通は、地方のローカル線はこれだけの定時性はもっていません。
 もちろん、この運行を維持することは、費用的にはかなりのものがありますから、別の問題点はあります。

 しかし、利用者を増やすという点からは、最大限の努力がなされていると言えましょう。
 それでも、利用者は減少してしまったのです。

 今後もし利用者の増加を見込むとすれば、電車自体のスピードアップ、自動車のパークアンドライド施設の積極的な増加など、設備投資が必要となります。
  存続を要望する市民団体が存在する一方で、「
岐阜改革オンブズマン」(代表小山興治)のように、税金を投入することに反対する市民グループも存在していました。

 自治体としては、
利用者減に歯止めがかからない中での大きな財政負担による存続はあまりにも危険すぎる、という判断をしたわけです。
 ※こちらは存続の決断をした→高岡市万葉線→富山市富山ライトレールです。 


 フランス・コネックス社                                  | このページの先頭へ |

 「ひょっとしたら、フランスの電車が走る?」
 今、名鉄3路線の存続を望む岐阜市民の間には、そんな期待がもたれています。

 2004年10月5日、『岐阜新聞』は次のように報じました。
「名鉄が来年3月末で廃止する岐阜市内外の路面電車の継承をフランスの大手交通会社、コネックス社が検討していることが明らかになった。実現までに課題が多いが、外国企業の意外な動きは関係者に大きな反響を呼び起こしている。」
 コネックス社(以下コ社)は、本社がパリにあり、東ヨーロッパを中心に世界23カ国で鉄道・地下鉄・LRT・バスなどを運営し、売上高は約5000億円、輸送乗客数年間15億人という企業です。
 そんな会社が岐阜に進出するというのです。

 11月1日には、コネックス社は、高速の新型車両(LRT)を導入し、早ければ
2006年4月から運行を計画していることが判明しました。
 しかし、11月8日に国土交通省の廃止許可(
2005年3月末まで)によって、名鉄からコ社への継承は不可能となり、コ社が進出するには新規特許の手続きが必要になりました。
 さらに、11月15日、コ社は岐阜市などに事業提案を行いました。それによると、コ社の希望は、「バスを含めた独占営業に関して岐阜市など自治体との10年の長期契約」というものです。
 現実には岐阜市には民間会社岐阜バスも走っています。岐阜市など自治体と一企業との独占的契約には、乗り越えなければならない問題が多すぎます。
 また、
2005年4月から営業開始予定の2006年4月までの1年のブランクはどうなるのでしょうか。
 
 新たな展開が生じたら、また報告します。


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