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 <訪問地と時間> 

28日

20:00

岐阜発

29日

00:30

東京通過

05:30

松島着

 

10:15

松島発

13:30

鶴岡着

 

15:00

鶴岡発

15:30

酒田着

16:45

湯野浜着

30日

08:30

湯野浜発

13:30

喜多方着

14:30

会津若松着

 

16:40

会津若松発

20:45

東京着

 

21:30

東京発

31日

02:00

岐阜着

 全走行距離は2068kmとなりました。 実質運転時間は27時間30分でした。

<鶴岡> 全ルート説明図へ 「東北地方南部」図へ

 松島から鶴岡までは、三陸道路→仙台東部自動車道路→仙台南部自動車道路を経て、東北自動車道路へ戻り、少し南下して村田ジャンクションから、山形自動車道路へ入って、西へ向かいます。
 10時15分に松島を出発してしばらくは、快調な行程が続きました。宮城県の平野部の天気は朝から快晴続きです。

 道々の風景、宮城県南部の山野の様子は、わが濃尾平野の風景とは一見して違っています。

 
濃尾平野では、冬でも緑が濃い常緑広葉樹林(照葉樹林)と葉を落とした落葉広葉樹林が混在し、さらに所々に針葉樹が混じると言った光景です。平野屋丘陵・小山に結構たくさんの緑が見られます。
 しかし、
仙台では、野山には、常緑広葉樹林は見られず、ほとんどが葉を落とした落葉広葉樹・針葉樹林ばかりです。 

常緑広葉樹林・落葉広葉樹林の植生については、クイズ日本史「東西文化の相違」で説明しています。こちらです。


 山形自動車道路を県境方面へ向かいます。前方には脊梁山脈たる奥羽山脈が立ちはだかります。この時点で空はまだ晴れています。


 しかし、蔵王山系を左手に見て奥羽山脈の中に入ると、天候は一変しました。前方の山々に雪雲がかかり、雪が舞い始めます。
 そして、山形県境が近づくと、あっという間に吹雪となりました。


 陸奥と出羽の国境の山々が迫ります。まだ雪は降ってきていませんが、山々には前方には雪雲が待っています。

 すぐに吹雪となりました。文字が見えませんが、左手の緑色の道路標識は、「山形県」です。

 山県市を過ぎて鵜殿山の手前では、山形自動車道路には未完成部分があります。月山インターチェンジで降りた後、20kmほど一般道路(国道112号線)を走ります。
 運転者はのんびり風景を楽しめないような、深い雪です。(これは、翌日、06/12/30、鶴岡から戻る時の写真)


 湯殿山インターチェンジで再び山形自動車道路に入ってしばらく走ると、目的地の庄内平野です。雪は、山間地ほどにはひどくなく、平野に降りていくにつれて急速になくなっていき、市内では積雪はありませんでした。
 この日の雪は、山形県・宮城県に関しては両県の境をなす脊梁山地に降ったものでした。

 写真上の川は、山形県西南部の新潟県との国境(くにざかい)にある以東岳の北嶺に源を発して、庄内平野南部を流れて日本海へ注ぐ赤川です。
山形県第2の河川です。
  
第1の河川はと言うと、もちろん、最上川です。最上川は山形県東南部の福島県境に源を発して米沢盆地・山形盆地を北流し、西へ向きを変えて、庄内平野をつくり、酒田の南で日本海に注ぎます。
   ※参考「東北地方南部」図へ 

 庄内平野は、最上川と赤川によって形成されました。
 以前の赤川は、酒田の南東で最上川と合流していました。しかし、洪水の防止のため昭和初期の分流工事で切り離され、今のように独自の河口を持つようになりました。

 右図の白地の地名をクリックすると、説明部分へジャンプします。

上記はの地図は、グーグル・アースGoogle Earth home http://earth.google.com/)の写真から作製しました。フリーハンドで書いていますので、都市・ルートの位置の正確さは今ひとつです。あくまでイメージ図です。


 鶴岡市の西部にある山形自動車道路鶴岡ICで降りて、市内に入りました。
 

「とうとうあの鶴岡に来ましたね。」

「そうです。藤沢周平の小説、山田洋次監督の映画3部作の舞台、鶴岡だ。」

「その辺にたそがれ清兵衛が歩いていそうだね。」

「そんなわけはない。」

染川町はどこかな。」

「何それ?」

「映画『武士の一分』でも出てきた、海坂藩の城下町にある町の名前で、待合い茶屋なんかがある繁華街。木村拓哉の妻役の檀レイが上役と密会したところ。」


 家族の中で私の次にこの小説や映画に興味を持っているのは3男Dです。彼は、小さい頃から無類の「剣好き」でしたから、なんの抵抗もなく「剣豪」が活躍するこの映画・小説のファンとなりました。

「小説や映画では、「海坂藩」(うなさかはん)となっているけど、ここ鶴岡はそういう名前の藩だったの?」

「違うねとーちゃん。もともとは庄内藩だよね。」

映画「たそがれ清兵衛」「隠し剣鬼の爪」「武士の一分」の解説は、日記・雑感「藤沢周平3部作」にあります。


 藤沢周平の小説に出てくる、東北の譜代の小藩「海坂藩」7万石は、この地鶴岡にあった、庄内藩(正式には鶴岡藩)14万石をモデルにしたものです。
 庄内の地を統治していた大名は徳川家の譜代の家臣から大名となった
酒井家です。庄内・鶴岡の地へは、酒井忠勝が、1622(元和8)年に入封しました。信濃松代10万石からの転封です。
 家康の家来には、「酒井」と言う血筋が二つありますが、忠勝の父は家次、その父は、家康の家来の4天王の筆頭といわれた酒井忠次です。(ほかの3人は、本田忠勝・榊原康政・井伊直政)
 この酒井忠勝は、将軍家光・家綱時代に大老として権力を振るった酒井忠勝とは、同姓同名の別人です。

 以後、戊辰戦争の際に政府軍と戦った第11代藩主酒井忠篤(ただずみ)に至るまで、ずっと、この家が庄内を治めました。
 江戸時代の大名というと、薩摩の島津氏・長州の毛利氏ように、外様大名は、江戸幕府の最初からずっと同じ場所を支配して幕末に至るという例が多いですが、これは、必ずしも多数派ではありません。
 もともとから徳川氏の家来で、石高数万石程度のの譜代大名となった家は、その時の都合によって結構転封をくり返しています。かの有名な姫路城を持っていた姫路藩は、最初の外様大名池田氏が転封されてからは、10数万石の石高で譜代大名が延べ9家も入れ替わり藩主となっています。

 そういった中で、この酒井家は、譜代大名としては例外的に元和の転封以来240年以上の間、鶴岡の町を中心に庄内平野を支配しました。(同じ領地を長く支配した譜代大名の筆頭は、彦根の井伊家ですね。これは特別の例外です。)

 わが故郷岐阜は、信長・秀吉時代には、金華山頂に城がありましたが、江戸時代になってからは単なる商業都市・岐阜町となりました。したがって、江戸時代の歴史としての「城下町」の経験はありません。
 県都が「お城下」でない都道府県はそう多くないと思います。
 個人的な思いですが、
城跡、堀、藩校等と言ったものに、あこがれを感じます。 

 庄内藩の藩校致道館。
 第9代藩主酒井忠徳が1805(文化2)年に設置した藩校です。
 当時の学問と言えば通常は朱子学(儒学の一派)です。この学校でも孔子を祀った聖廟がありました。

 廃藩置県後は、鶴岡県庁としても使われました。
 そのあと、女子教育を行う明倫学校、鶴岡高等女学校、鶴岡市立の小学校としても利用されました。現在は国の史跡となっています。(撮影日06/09/12) 


 本当は、あちらこちら写真を撮りたかったのですが、天候は、雪こそ積もってはいないものの、風に向かって歩くのも難渋なくらいの強風に、雨、みぞれ、時々雪と言った大荒れの状況で、残念ながらよい写真は撮れませんでした。

「藤沢作品の魅力はなんだろうか?
 といっても、とうさんも含めて、膨大な藤沢作品のうちの読んで知っているのは、「隠し剣」シリーズとか、「たそがれ清兵衛」の載っている短編集とか、『蝉しぐれ』とか、『秘太刀馬の骨』とか、おもに剣豪が活躍するシリーズばかりだから、それに限定と言うことになるけど・・。」

「いろいろあるね。

  • 主人公は、武士階級なのだけど、身分が低くて貧乏で、そのままでは陽が当たらない人たち。

  • しかも、「たそがれ」とか、「日和見」とか問題の多い個性的な性格を持っている。

  • さらに、家庭内不和とか、女問題とか、生活にも問題がある。

  • それで、その主役が思いがけず頑張る。

  • そして、剣による勝負がクライマックスの場合が多いけど、それによって、かならずしも、ハッピーエンドとはならない。

などなど。」

「さすが詳しい。」

「つまり、武士社会の非主流派が、懸命に自分の存在感を探りながら頑張るといったところが、面白い、泣かせるところだと思う。
 女性も控え目ながらしっかり自己主張している。」

「『女人剣さざ波』では、夫に代わって妻が決闘した。実際にはあり得ないよね。」

「多分。
 しかし、そういうところが、反権力的、反身分社会的で、実にいい。」

「といっても、主人公の活躍が「痛快」、とか、水戸黄門的な「勧善懲悪」とかでもない。」

「うん、もう少し本音を言うと、どの物語にも、男女の絡みがいろいろあって、なかなかのもんだ。いや、からみといっても、直接に描写されているんではない。どの場合も「道ならぬ恋」、男の側から見た場でいうと、家格の違う上司の娘、妻方の従姉妹、使用人の娘、自分の嫁、兄嫁、他家の寡婦、町方の後家などなど。
 男女が通りで会話をすることすら許されなかった時代の物語としては、実に、人間味があっていい。
 もっというと、あなた達の若い世代が読むよりも、お父さんの様な、熟年世代が読む方が、やはりもっと面白い。魅力的な娘、30前後の若妻、40過ぎた爛熟の後家、こんな女性の魅力のバリエーションは、若者には実感がない。

「なんか、あぶない小説に聞こえるけど。」

「いや、決してあぶなくはない。それだけ人情味にあふれた小説と言うことだ。」


 あまり主観的に話をすると、誤解を与えそうなのでこの辺でやめます。とにかく、面白い時代小説です。


 帰り道、鶴岡から、山形自動車道路を鵜殿山インターチェンジ方面へ向かう車中から撮影。行く手を、月山・鵜殿山山系がさえぎっています。映画にも出てきました。(と思います。よその地域の山はどれもよく似ているとしか思えません。(^.^))


 鶴岡の東を城下の東を北流する赤川。
 
 この場所では、映画「たそがれ清兵衛」で、清兵衛と友人飯沼倫之丞が釣りをするシーンが撮影されました。
 飯沼が妹朋江と清兵衛の結婚を勧め、清兵衛が断るシーンです。

 この撮影地点は、鶴岡の東南、赤川市民ゴルフ場付近だそうです。バックは、月山山系です。

 この写真は、私たちが、2006年12月29日宿泊した、湯野浜温泉のホテル游水亭 いさごや」のブログからお借りしました。
  ブログはこちらです。http://isagoya.air-nifty.com/
  ホテルの公式HPはこちらです。http://www.isagoya.com/
 お世話になったこのホテルについては、次ページで詳しく説明します。ありがとうございました。


 ところで、山田洋次監督の映画「たそがれ清兵衛」は、藤沢周平の「たそがれ清兵衛」だけを原作としているのではありません。
 藤沢「たそがれ清兵衛」には、下城時刻になると同僚からの誘いを断って家に帰る「たそがれ清兵衛」とあだ名される下級武士を登場します。しかし、この清兵衛は、自宅に早く帰る目的が、「病気の妻の看病」のためです。
 映画「たそがれ清兵衛」には、主君が清兵衛の勤務するお蔵を視察した際に、清兵衛が長い期間風呂に入っていなかったためその匂いに気づいた主君が眉をひそめるというシーンが出てきます。この設定は、藤沢「祝い人助八」に登場します。
 
 また、
映画「たそがれ清兵衛」の太刀を質に入れ、竹光をもって上意討ちにおもむくという設定は、藤沢「竹光始末」に描かれています。また、この作品には、映画「たそがれ清兵衛」に登場する子ども、萱野・以登の姉妹のモデルとなった、6歳と3歳の姉妹がほんの少し出てきます。ただし、浪々の身の父親と旅する妻と幼い姉妹というだけで、具体的な描写はほとんどありません。貧しいけれどそういう自分たちを卑下する様子はないという意味の記述があるだけです。

 つまり、映画「たそがれ清兵衛」は、山田監督によってこれらの藤沢3作品をうまく総合して設定されたものです。とりわけ、映画「たそがれ清兵衛」に味を出した、清兵衛の母や清兵衛の子ども(萱野・以登の姉妹)は、山田監督の創作といえます。
 
 私は、あの映画に深みを与えた最大の要素は、この2人の姉妹(個人的には、撮影時6歳だった以登役の橋口恵莉奈ちゃんがすごかった)の存在であったと思っています。この2人の日常の生活の描写が、この作品を単なる剣豪映画・恋愛映画とは違ったものへと昇華させたと思っています。

 このあたりの脚本の妙は、また、脚本を朝間義隆とともに書いた山田洋次監督のすごさでしょう。


 岐阜県人が山形県鶴岡の解説をするのもまったく僭越ですが、説明上、地図は不可欠なので付け加えます。

 市街地は、赤川の支流の内川と青龍寺川の間に形成されています。

 この内川が、藤沢作品には、五間川として登場するのは周知の話です。
(鶴岡の方が見られたら怒られるかもしれません。この航空写真は、今から30年前の1976年のものです。但し、城、堀、川の位置は、今も昔も変わっていませんので、あえて利用しました。) 

「 丘というには幅が膨大な台地が、町の西方に広がっていて、その緩慢な傾斜の途中が足軽屋敷が密集している町に入り、そこから七万石海坂藩の城下町が広がっている。城は、町の真ん中を貫いて流れる五間川の西岸にあって、美しい五層の天守閣が町の四方から眺められる。」
(「暗殺の年輪」(『海坂藩大全 上』所収 文藝春秋 2007年 P12)

この『海坂藩大全』上・下は、藤沢作品のうち、海坂藩を舞台にした短編を集め、2007年1月に新たに刊行された単行本です。


 上の写真は、いつも利用させていただいている、国土交通省の国土情報ウェブマッピングシステムの国土画像情報の写真を6枚合成してつくりました。国土情報ウェブマッピングシステムのページはこちらです。


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