ナターシャたちロシア人日本語研修は、今日でちょうど一カ月となり、来週にはもう終了です。彼女のメールは、ほとんどが英文ですが、ところどころ、日本語のローマ字で書いてある部分があります。そのローマ字もだんだんうまくなってきて、単なる挨拶だけではなく、「Bikkurishimashita 」とかいう、細やかな表現も登場し始めました。
北方圏センターのA氏の証言。
「1カ月の研修で、できる方は、かなりの上達を見せます。助詞とかの使い方もうまくできるようになります。」
色丹島へ行った時にプレゼントをもらった私は、そのお返しにと、先週、本を送りました。彼女が電話でこう話していたのがきっかけです。
「ナターシャ、日本語の辞書とかは持ってるの?」
「普通に勉強するテキストと、簡単な単語集はあるけど、正式な辞書は持っていないの。私は、漢字を勉強したいのだけれど、ひらがなとローマ字とロシア語で漢字を解説した辞書のようなものは、どこにもないから。」
「そうだね。普通の本屋では、日本人がロシア語を勉強する本もあまりない。それにとても値段が高い。」
でも、ふと思いました。彼女は幸い英語ができます。英語とローマ字とで解説した漢和辞典のようなものぐらいならあるかもしれません。
早速、紀伊國屋WEBショップで検索すると、やはりありました。
日本語と英語とローマ字で、当用漢字を説明した「日本語 漢字入門 英語版 」(国際交流基金日本語国際センター発行)です。
これと、英語と日本語の対訳が記載してある「日本の文化」・「日本の歴史」の3冊を、ナターシャに宅急便で送りました。ささやかなプレゼントです。
以前にもらったメールに彼女が書いたことで私が疑問に思ったことがあり、それを敢えて聞いてみました。次の二つのことです。
- コーカサスに住んでいたあなたが、「夢」と表現するほど日本語を勉強したいと思った理由は何だったのでしょうか?
- 1983年当時、色丹島へ行って日本語を勉強するという発想は、ちょっと無理があったと思いますが、情報不足の中で、そうなってしまったのでしょうか?
ナターシャはメールでこう書いてきました。
「日本語を勉強したいという夢を私が持った理由は、まずは、私が外国語を学ぶことがすごく好きだったことがベースにあります。
そして、日本語が、ロシア人が勉強する外国語として最も難しいもののひとつであることを知っていました。その難しい言語に挑戦したかったというのが、二つ目です。いつかあなたに話した、私がスポーツウーマンだったことを覚えていますか。スポーツと同じで、何か難しいことに挑戦しそれに勝利することこそ、とてもやり甲斐があるというのが、私の考えです。
そして、三つ目には、これも若い頃には、日本人だろうとロシア人だろうとありがちなことかなと思いますが、私は、とても独立心が旺盛で、早く故郷チェチェンから出ていきたいと思っていました。私は、チェチェンの町が好きではありませんでした。
北方領土の色丹島については、やはり情報を自分たちの都合のいいように解釈していました。1983年の段階では、実際は、日本との交流も経済的な関係も、ほとんどない状態でしたが、私と夫は、何とかなると思っていました。
実際に島にやってくると、日本語関係の通訳の仕事とか日本語を勉強する機会とかは、全くなかったのです。」
彼女たちが渡航してきた1983年は、日本人の墓参も中断していた時で、日ソ関係は最悪の時でした。かのブレジネフ書記長は1982年に死亡していましたが、その後継者のアンドロポフ政権による、以前と全く変わらない外交が続いていました。
もし、その体制が長く続けば、彼女の日本語の勉強という夢は、ただの夢に終わっていたかもしれません。
ところが、幸いにもソ連はゴルバチョフ体制となり、1986年から北方4島関係者のビザなし墓参が再開され、1992年からはそれ以外の日本人のビザなし交流が新たに始まり、北方領土のロシア人にとって、日本と交流する機会が現実のものとなっていったのです。
彼女に、メールしました。
「Dear Natasha
I will send you my lettter to Kate and pictures of my city. Two books and a dictionary
are written in both English and Japanese. So I think you will
be able to undestand them without difficulty. These are
my present to you.
I cannot wirte following sentences about my thinking in English exactly.
If a traslator is beside you, please ask to translate them into Russian.
あなたが しこたんとうへ もどるまで もうあと 1しゅうかんとすこしになりました。かぞくにあえるまでもうしこしですから、がんばってください。
ただし、わたしは、ふくざつなきぶんです。あなたがしこたんとうへもどってしまえば、また、おうふく2かげつのじかんがかかるてがみでしか、はなしができません。あなたが、ずっとさっぽろにいたらと、むりなねがいをもっているわたしです。」
できたら、あなたの日本に対する思いを聞くだけではなく、私のロシアに対する過去の複雑な思いと今の思いも語ってみたいと思います。そして、色丹島の将来のことも・・・。
しかし、時間は少なく、しかも、ことばの壁を考えると、それはそれほど容易なことではありません。
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