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 エコ・スクール活動と外部award:KTD 11/01/10修正 11/02/06再修正

 最初にイギリスにおけるエコ・スクールの活動を紹介します。
 マンチェスターに
KEEP BRITAIN TIDY(KBT)というNGOがあり、1980年代からエコ・スクール環境プログラムの活動を進めています。
 同プログラムでは、登録した各学校がプログラムに基づきエコ活動の実践を行った場合に、評価基準にもとづいて、低い段階から銅賞、銀賞、
グリーン・フラッグの順にその成果を認定しています。銅賞・銀賞は各学校の自己評価に基づいて認定され、グリーン・フラッグはKBTの職員そのものが学校を訪問して審査した結果、認定される仕組みとなっています。

 次の表6は、エコ・スクールの取り組み状況です。


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   エコ・スクールの活動に登録している学校は、2010-11年度においては約14,900校を超え、この数はイングランドとウェールズの初等学校・中等学校全体の約60%弱にあたります。この2年間、各年度の登録校増加数は600校以上となっており、その活動は次第に活発となっていると言えます。本年度のグリーン・フラッグ獲得校数は、1,224校となっています。
 それでは、このエコ・スクール活動では、学校・児童生徒は、具体的にどのような活動をしているのでしょうか。
 
 次の表7は、エコ・スクールの活動の7段階の骨組みであり、また、表8は
グリーン・フラッグの評価基準です。銅賞から銀賞やグリン・フラッグへステップアップするには、児童生徒の主体的な小グループの活動から地域を巻き込んだ学校全体の活動へと拡大していかなければなりません。




 グリーンフラッグの評価基準では、最初は生徒の小さな自主的な運動として始まったエコ活動が、学校の方針として活動されていることが求められています。

 KBTはこのほかにも、Green Flag for ParkQuality Coast Award(Blue Flag)River care などの award 審査を行っており、イギリスの学校はこのような外部 award を利用して、環境教育を初め学校教育活動の目標を設定しているところがほとんどです。賞をもらうことは、OFSTEDの査察や、学校理事会における評価を高めることになります。


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 それでは、各教育現場では具体的にどんな取り組みがなされているのでしょうか。5つの学校・一つの博物館の活動を紹介します。


【訪問学校・博物館一覧】 クリックするとその部分へジャンプします。
 ※以下のうち、@からCはマンチェスター周辺の学校です。その場所は、→ページ05地図02にあります。
 

@ St. Edwards School in Rochdale(カトリック教教会立初等学校) 

A Todomorden High school(中等学校+シックスフォーム併設) 

B St. Bede's Catholic High school(中等学校)

C Canon Burrows school(英国国教会立の小学校)

D New City Primary school(公立小学校)

E 自然史博物館(ロンドン市内の国立博物館) 


@ St. Edwards School in Rochdale(カトリック教教会立初等学校) |訪問学校・博物館一覧| 

 マンチェスター市の北東約20kmにある衛星都市ロッチデールの住宅地にある学校です。主な特色は次のとおりです。

1 児童の委員会によるエコ活動

 waste watcher(浪費の監視)、litter police(ゴミ捨て監視警察)、energy inspector(エネルギー利用査察) の3委員会があり、生徒が中心となって、 エコ生活を具体的に実施しています。

2 農園、動物、学校里山における自然体験

 市街地の学校ですが、学校農園、動物の飼育、学校里山における鳥などの自然観察を実施し、体験的に学習を進めています。

3 Fair trade (公平な貿易)委員会

 1の委員会以外に、Fair trade委員会があります。これは公平な貿易を求め、たとえば、コーヒー豆のように、低価格で輸出元の国の住民を収奪するような貿易を排除しようという活動です。







先に指摘したように、日本の環境教育の場合は、環境保全的な性格が強く、国際問題の理解へとは結びついていかない場合が多いのが普通です。しかし、欧米では、すでにエコ・スクール活動の段階でその環境プログラムの中に、
Hグローバルな視点(Global Perspective)」(以下の表9を参照してください。)
があり、その具体的な活動としてフェアー・トレードがあります。

フェアー・トレードの定義は次のようになります。
「「フェアトレード」、直訳すれば「公平な貿易」。現在のグローバルな国際貿易の仕組みは、経済的にも社会的にも弱い立場の開発途上国の人々にとって、時に「アンフェア」で貧困を拡大させるものだという問題意識から、南北の経済格差を解消する「オルタナティブトレード:もう一つの貿易の形」として始まった運動がフェアトレードです。」
特定非営利活動法人フェアートレード・ラベル・ジャパンHPから http://www.fairtrade-jp.org/


 写真04−01 グリーンフラッグ(撮影日 10/11/11)

 写真04−02 山羊です  (撮影日 10/11/11)

 左:校門近くには、グリーンフラッグがへんぽんと翻っています。それだけ価値のある旗なのです。
 右:動物は、豚・ウサギなど日本の学校にもいるものが多かったですが、山羊には驚きました。
 



 写真04−03 waste watcher(撮影日 10/11/11)

 写真04−04 Litter police(撮影日 10/11/11)

 児童が活動する委員会です。3つの委員会のシンボル・カラーが、それぞれの帽子の色、黄色・青色・緑色です。 



 写真04−05  学校農園 (撮影日 10/11/11)

 写真04−06 里山    (撮影日 10/11/11)

 学校の敷地は比較的広く、運動場とは別の一画には、学校農園と里山があります。右の写真奥が「林」です。手前の道路様のものは、自転車の交通学習用の道路です。 

A Todomorden High school(中等学校+シックスフォーム併設) |訪問学校・博物館一覧| 

 マンチェスター市の北北東約50kmにある山間の過疎地の学校です。その特色は次のとおりです。

1 地元食材を使った給食の提供
 この学校は、以前から給食を実施している学校でしたが、数年前、給食担当の事務職員が学校農園による食材の「半自給自足」と、さらには地元の村の食材の使用も含めた地域での「自給自足」を提案しました。この背景には、この地域が過疎地域で人口の流出によって活気がなくなり、生徒の学習意欲も今ひとつ低調だったことがあります。
 この提案には生徒も参加して、校内での体験学習と、村の人々との共同作業による食材の供給がはじまりました。後者は、環境学習と言うよりも、キャリア教育の要素も含んでいます。
 これが着々と進んで、「
Incredible edible Todomorden 」(信じられないほど食に適したトッドモルデデン)の標語もうまれ、地域住民と一緒に地域の在り方を考える機会となっています。また、食材を通して、リサイクル(コンポスト)やフェアー・トレイドの学習も進んでいます。
 また、住民の意識も変わり、村の道路近くの畑は誰が持っていってもよい無料の野菜を栽培するほどにもなりました。大量の持ち去りや畑荒らしが心配されましたが、地域の共有財産として地域住民に守られています。

 学校では、食材をただ給食に使うだけではなく、食材を使った教材を開発するなどして、多面的なつながりも工夫しています。たとえば、音楽の教員は、ジャガイモを使って、笛をつくり演奏をしました。
 これから5年後の目標は、学校農場による完全「自給自足」であり、それに向けて温室等の増設も進んでいます。

2 エコ活動と学力向上
 このような活動は、直接的な影響以外に、生徒の意欲の向上につながるかどうかが注目されます。
 校長の説明によれば、「学校経営への参画や体験活動により生徒の意欲が高まり、大学進学率も向上しました。
 校長「11年生のGCSEの成績も向上し、今年度の大学入学では、GCE・Aレベルを獲得した生徒が全国で2万人が進学できなかっにもかかわらず、本校の35人は全員が進学できました。」(イギリスの学校制度・試験についてはこちら→

 学校がなにかに取り組むと、それが直接的に学力向上につながることではないとしても、全体に児童生徒の意欲向上をもたらし、結果的に学力が上がり、入試結果等も向上するという現象は、そこそこ見られるものですが、ここでも同じことが起こっていました。
 ※これについては、岡本弥彦他の論文があります。(参考文献2参照)

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 写真04−07委員会のリーダー(撮影日 10/11/10)

 写真04−08    食堂  (撮影日 10/11/10)

 各学校での説明は、すべて、児童・生徒が参加して行われました。みなさん堂々として上手な説明でした。


 写真04−09  増設中の温室(撮影日 10/11/10)

 写真04−10 学校農園(撮影日 10/11/10)

 農園の土は、もちろん、食材の残渣等をコンポストしてつくった肥料が含まれています。 

B St. Bede's Catholic High school(中等学校)  |訪問学校・博物館一覧| 

 マンチェスター市の北西約60kmにあるブレストン市郊外の住宅地の学校です。

1 外部資金を導入しサスティナブル・スクールを目指す
 いくつかの視点からサスティナブル・スクールを目指し、2つの賞(Times Educational Schools Award2010、Big Green Challenge)を獲得しています。
 そのひとつが、屋根に設置した99の太陽光発電パネルです。夏の晴天時には学校消費エネルギーの30%をまかなうことができます。建設資金は外部資金(約半分が英国政府の「低炭素建築物プログラム」から、約30%が企業(電力会社)から、残りは地方教育庁から)が導入されており、現在も太陽パネル付き温室の建設が進められています。

2 学校菜園や生徒による二酸化炭素排出削減
 学校内の地図を作成し、点灯などによる節約などの活動が何%の二酸化炭素排出削減になるかをポスターやグラフで示して可視化して、生徒全体のモチベーションを高めています。また、部分的にはクラスごとのコンテストも行っています。
 生徒の提案で、校内の木の一部を伐採し、学校菜園整備しました。そこで収穫される野菜は、一部は自家消費し残りは販売して、一部はホームレスの支援にもあてられています。
 生徒は、主に放課後の課外活動で参加しています。


 写真04−11 CO排出抑制 (撮影日 10/11/10)

 写真04−12 ソーラーパネル (撮影日 10/11/10)

 99個のソーラーパネルで発電された電力量は、校舎のパネルに表示されます。 


 写真04−13 温室建設用地(撮影日 10/11/10)

 写真04−14  学校農園  (撮影日 10/11/10)

 イギリスの学校では、学校理事会に予算の権限もありますから、外部資金の導入もできます。 


 写真04−15   ゴミ箱  (撮影日 10/11/10)

 写真04−16  水タンク   (撮影日 10/11/10)

 左:左側はこの学校のゴミ箱。「紙・プラスティック・その他」の3分別のゴミ箱を導入しました。イギリスでは一般にゴミの分別収集は進んでいません。右側はマンチェスターにあったごく普通のみんな一緒に入れるゴミ箱です。
 右は、雨水をためるタンクです。

C Canon Burrows school(英国国教会立の小学校) |訪問学校・博物館一覧| 

 マンチェスター市の東部(中心か約10km)の衛星都市オールドハム(Oldham)の住宅地の学校です。

1 エコ・スクールの伝統校
 1998年以来エコ・スクール活動を続けグリーン・フラッグを連続して獲得している学校ですが、その活動を継承する形で、現在では、政府の方針に従ってサスティナブル・スクールのフレームワークで活動しています。エコ・スクールからサスティナブル・スクールへ転換した、いわば、イギリス政府推奨の模範的学校です。
 awardとしては、Healthy school award や Wipe out Wasteaward など複数を受賞しています。

2 合唱を通した児童の心への働きかけ
 サスティナブルな社会を実現するために必要な考え方(意義・価値観)を合唱を通して児童が理解できるように工夫しています。私たちが訪問した時のオープニングセレモニーでは、上級生がその歌を合唱してくれました。
I am a small part of the world. Care for oneself, Care for each other, care for the environment. both far nad near.

3 具体的で思考力・行動力を高める教材
 すべての教科の中でサスティナブル・スクールの概念を取り入れた授業をしています。その形態は、知識・技能の修得を中心としたものではなく、自分で考え、判断し、行動するということに力点が置かれています。

4 小川が学習場所
 学校の南に隣接して流れる小川(トントン川)は、以前はゴミが捨てられ放題の汚染された川でした。児童の発案で整備を始めた結果、現在では、地域の住民にも愛される憩いの場となっています。この川の清掃活動が、この学校が環境教育を進めるきっかけとなりました。


 写真04−17 合唱 (撮影日 10/11/11)

 写真04−18 鉛筆補助具 (撮影日 10/11/11)

 左:小学校では、合唱による意欲向上は大変効果があります。これは、日本でもイギリスでも同じです。
 右:生徒が工夫した、鉛筆を短くなるまで使用できる器具です。
 


 写真04−19 果物と外国  (撮影日 10/11/11)

 写真04−20  酸性雨 (撮影日 10/11/11)

 低学年の授業では、具体的なものが授業には効果的です。
 左:バナナやオレンジを使って、生産国である発展途上国への理解を図ります。
 右:酸性雨の影響を自分で説明するポスターを、切り絵を使ってつくります。
 


 写真04−21  分別収集  (撮影日 10/11/11)

 写真04−22 石油リサイクル(撮影日 10/11/11)

 左:実物を使ってどんな分別になるか学習します。
 右:石油製品の流通において、リサイクルの持つ意味を理解。「もし、リサイクルしなかったらどうなる?」この疑問への解答を自分で見つけます。
 


 写真04−23 具体的な目標(撮影日 10/11/11)

 写真04−24  自分の目標 (撮影日 10/11/11)

 左:「学校の目標 蛇口を閉める・電気を消す・紙の再利用・ゴミを捨てない・木を植える・生ゴミをコンポストする・学校へ歩いてくる・ビン、プラスティック、その他を分別する。」 
 「学校へ歩いてくる」というのは、イギリスの小学校では、登下校はほとんど保護者が付き添い、自家用車で送る迎えする場合も多いため、自動車を使用せず歩いてくるという意味です。
 右:個人の決意・目標を書き出したもの。
 


 写真04−25・26  トントン川  (撮影日 10/11/11)

 学校のすぐ南を流れるトントン川。ゴミは一つもなく、遊歩道が整備されて、憩いの空間となっています。この日は、気温も低く(8度ぐらい)雨も降り、散策という気分ではありませんでした。残念。 

D New City Primary school(公立小学校)  |訪問学校・博物館一覧| 

 ロンドン東部のニューハム区にある小学校です。全体に所得階層では下層に属する家庭が多く、また移民の子どもなど家庭が英語を母国語としていない児童も多いのとことです。これまで報告したマンチェスター周辺の4校とは、少し事情が違います。600人の児童が話す言語は50か国語以上とのことです。教職員70人が話せる言語は15か国語とのことです。
 都会型のサスティナブル・スクールに取り組んでいます。

1 自転車のリサイクル
 市内に廃棄されている古い自転車を改修し、修繕整備してリサイクル中古車として売却しています。1台10ポンド(現在の為替レートで1400円弱)程度の安価で、きれいに整備された自転車をリサイクルしています。

2 給食実施
 この学校の所在地であるNewham区の教育庁は、政府のESD推進を受けて積極的に各学校を支援しています。その施策の一つとして、70数校の小中学校の建物を改善し、省エネルギータイプとしています。また、New City小学校他数校を実験校として、全児童に給食を行っています。これは栄養の面から生徒の健康を維持するためのものです。財政的に許されれば、今後区全体へ拡大する計画でです。

3 二酸化炭素の削減を劇に
 同じくのカーペンター小学校の児童の取り組みも紹介されました。劇を演じて二酸化炭素排出削減をアピールするという活動です。「The Carbon Footprint detective Agency」という名前の劇です。


 写真04−27     学校のリサイクル活動のまとめ             (撮影日 10/11/15)

 学校の活動の全体像がこの表にまとめられています。主な内容は次のとおりです。
○ゴミ箱にラベルを貼って分別収集します。
○町の中の学校でもいろいろな生物が住むことができます。生物が住める環境をつくって生物多様性を実現します。
○地域の商店街にポスターをおいてゴミをしないことを呼びかけます。
○水道の蛇口に器具を付けて水量を制限し水の無駄遣いをやめます。
○学校へは徒歩か自転車で登校するようにします。
○農園とできるだけ多く給食に使います。
○地域の人々と会議を開き環境問題を訴えます。


 写真04−28 委員会の発表(撮影日 10/11/15)

 写真04−29  校庭の隅  (撮影日 10/11/15)

 左:発表をする6人のうち、5人はアジア・アフリカ系民族の児童です。
 右:校庭の隅に木や枯れ葉を配置したミニ庭園がありました。「小さな生物のすみか」です。
 


 写真04−30・31   自転車修理 (撮影日 10/11/15)

 この二つの写真は、自転車修理用のコンテナです。かなり専門的な道具もそろえてあります。 


 写真04−32  ランチタイム(撮影日 10/11/15)

 写真04−33 おいしいメニュー(撮影日 10/11/15)

 給食の時間はどこの国でも変わりません。とても楽しそうで賑やかです。
 配膳は自分たちでやるのではなく、給食職員にリクエストして、自分の好きなものを選択するという形でした。アラカルト方式です。
 


 写真04−34  別の小学校 (撮影日 10/11/15)

 写真04−35 劇  (撮影日 10/11/15)

 これは、近隣のカーペンター小学校の児童の発表です。「The Carbon Footprint Detective Agency」です。右端の黒い服の女性がこの学校の地域を管轄するニューハム区の教育庁の指導主事的な枠割りをしています。 

E 自然史博物館(ロンドン市内の国立博物館) |訪問学校・博物館一覧| 

 教育機関としての博物館がどのような貢献をしているかを確認するため、ロンドンにあるイギリス自然史博物館を訪問しまし。同館は、国のESDの一翼を担い、次のサービスを行っていました。
 ○各学校のニーズを調査して、春・夏・冬の3シーズンに館内での学習メニューを提示している。
 ○各地方の自然史博物館とネットワークを組み、教材提供の連携を行っている。
 ○遠隔地の学校のためにはTV会議システムを使った学習を提供している。
 ○新しい教員を対象に博物館の利用の仕方を研修するメニューを提供している。

 この結果、16歳までの児童・生徒(義務教育対象者)の入館者数は、毎月10,000人を超えています。ロンドンの中心部に立地し、しかも入館料が無料ということもありますが、日本では考えられない数字です。
 また、博物館自体のエネルギー管理も目標値を設定して積極的に行われ、自らサスティナブル社会の実現に積極的に取り組んでいます。博物館の展示や学習そのものにESDを格別に意識したものはないとのことですが、その存在と学習者の数が、ESDにおける貢献を示しています。


 写真04−36  博物館正面  (撮影日 10/11/16)

 写真04−37  朝から行列 (撮影日 10/11/16)

 左:「この建物は寺院か宮殿を転用したものですが?」「いえ、初めから博物館として建築されました。」
 右:この日は、火曜日の朝だというのに、開館前から子どもたちの行列です。何という人気でしょう。
 


 写真04−38  メインホール (撮影日 10/11/16)

 写真04−39       □  (撮影日 10/11/16)

 左:メインホールの主役は恐竜の化石です。これは日本と同じですね。
 右:博物館自身が二酸化炭素排出削減で努力しています。
 

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 ESDの今後の進め方   |先頭へ ||研修記目次へ|| 研修日程と訪問地へ |

  先に分析したような日本の現状を踏まえた上で、イギリスでの先進的な実践を参考に、今後日本のESDをどのように進めていくかについていくつかの提言を行うことにしましょう。


@ 「狭義の環境」から「持続可能」へ考え方の転換

  ページ2(→)で示したように、日本においては、概念上は狭義の環境教育が主流となっており、真の意味での将来の人類のための「持続可能な社会」をつくるという発想は、まだ一般的ではありません。政府関係者・教育行政に携わる者・教職員が、「持続可能性」について絶対的な価値観を持つように、その発想を転換することが必要です。

A 教育課程全体に「持続可能」の概念を貫徹(各学校ごとに教育の目標に持続可能を)

  来年度から施行されようとしている小学校学習指導要領をはじめ、新学習指導要領における「持続可能」に関する記述は、残念ながら部分的であり、かつ、「生きる力」との整合性についても、概念上若干の疑問もあります。
 だからといって、それが貫徹されるのを待っていては、あと何年かかるかわかりません。そこで必要なのは、各学校における揺るぎないESDの概念の確立です。これまで、たとえば人権が各学校の柱であったように、従来のいろいろな活動を包摂して、
「持続可能性」こそが中心的な柱となるような、学校目標の創造や教育課程の再編成が必要です。
 これはそう難しいことではありません。
 「生きる力」との関係で言うのなら、それを自動車にたとえたとすれば、「生きる力」はしっかりしたエンジンと車体と安全運転をする人間を育てようと言うことになり、
「持続可能性社会」はその自動車が向かう先を示す概念(目標)と考えれば、何ら矛盾は生じません。
 また、すでに各教科を始めこれまでの教育活動に内在され、実績が蓄積されてきているものが多数あり、ゼロからのスタートと言うよりは、これまでの骨組みを変更するだけのことになります。したがって、最初の発想さえ理解できれば、それ程難しい問題とはなりません。
 これについては、すでに日本におけるいくつかの先行事例があります。たとえば、
奈良教育大学附属中学校は、2006年から「ESDの理念に基づく学校づくり」を推進しており、学校全体での取り組み「ホールスクール・アプローチ」で実績を残してきていいます。(参考文献3参照)

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B 各教科における「持続可能」を扱う部分の教材の充実

 これまでの実績があるとはいいながら、各教科や特別活動・総合的な時間におけるESDについては、あらためて工夫されなければならないことは言うまでもありません。前述の奈良教育大学附属中学校では、「ESDカレンダー」によって、各教科の活動を「持続可能性」の各項目にリンクさせ、全体として充実した教育課程を実現しています。(参考文献4を参照)

 奈良教育大学附属中学校ESDカレンダーでは、A環境養育・B平和教育・C世界遺産教育・D多文化共生教育・E人権・福祉(健康)教育(ジェンダー)・F基礎(コミュニケーション・多面的総合的批判的な見方)と独自のESDカテゴリーを設定し、各教育活動を位置付けていいます。

例 【社会・総合的な学習の時間】BCD沖縄修学旅行事前学習
例 【保健体育】AE健康と福祉
例 【音楽】CDアジアの民族音楽 C日本の伝統音楽
例 【理科】A海の生物から学ぼう
例 【英語】A野生生物と破壊 BCカンボジア残留地雷
例 【数学】AF統計U発展学習
例 【国語】Fインタビュー F意見文を書く  C五重塔はなぜ倒れないか Aモアイは語る(環境の説明文)

C 考え方、判断力、行動力、規範意識を育む学習の充実

  各教科その他の教育活動の充実の際の最大のポイントは、生徒に育むべき力が、単なる知識・技能ではなく、「持続可能性社会」を実現するための価値観や行動力、そして規範意識にまで及ぶ点です。
 そのため、これまでの各教科の学習活動以上に、考え、判断し、行動し、規範意識を体得していく活動が重視されることになります。新学習指導要領では、現学習指導要領に対する「反省」から、基礎的な知識・技能の修得と思考力・判断力・表現力等の育成を、バランスよく行うことをうたっていますが、これについては、前者の方に傾き過ぎないように、くれぐれも注意しなければなりません。

D 各学校の施策を「持続性」のあるものに

  最後は、日本における学校経営の脆弱性に関することです。イギリスでは、学校理事会が学校経営の最終決定権を握っており、校長の人事も、日本のような教育委員会の人事異動による転勤というものではなく、理事会の意志で決定されます。これは、実績を上げない校長はすぐに更迭されることを意味しますが、逆に実績を上げている校長は、その学校に何年も勤務することを意味します。つまり、ESDで実績をあげていれば、かなりの長さにわたって、その方針が堅持されることになります。事実、私たちが訪問したある学校の校長は、10年以上その職にあるとのことでした。
 このことは、雇用の流動性を背景とした日本とは全く違うシステムがとられているわけであるから、すぐにまねをすると言っても無理な話です。しかし、日本のシステムが弊害とならないように、十分に注意しておくことは必要です。
 すなわち、日本では、実績が上がっていようがいまいが、校長は2・3年で交代します。これにより、新しい校長は、前の校長とは違った実績を残さなければならないため、往々にして、これまでの事業とは異なる新規事業を計画することになります。これは常に学校を活性化していくという点では意味があることでとと思いますが、場合によっては、前校長の経営方針が、人が代わったためにそれだけの理由で否定されてしまうことにもつながります。
 お金をかけて一生懸命つくった学校ビオトープが、いつの間にかあまり利用されなくなってしまっているという例を、少なからず見聞してしまうのは残念なことです。
 つまり、
学校経営の施策そのものが「持続可能性」がなければならないということです。

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 全く幸せなことに、今回の研修では、多くのことを学ぶことができました。このような機会をいただいたことにこころから感謝します。「持続可能性のある社会」の実現に向けて、自ら邁進することを決意しています。
 これで、研修報告の本編とも言うべき、日本とイギリスの環境教育、ESDに関する報告を終わります。
 
 これから以降の12ページ分では、研修の本題ではない、いろいろな話題を報告します。
 むしろこれからの方が長くなります。面白さはこのあとの方が断然自信があります。
 乞うご期待。


 【環境教育 参考文献一覧】
  このページ4の記述には、主に次の書物・論文を参考にしました。

KEEP BRITAIN TIDY の説明プレゼン「Echo−Schools」から引用(日本語訳は引用者)
 Elizabeth Houses −The Pier Wigan WN3 4EX  電話01942−612621

 

佐藤真久・岡本弥彦・五島政一「英国のサスティナブル・スクールの展開と日本における教育実践への示唆 サスティナブル・スクール実践校における学力追跡調査と政策研究に基づいて」日本環境教育学界2010編『環境教育 VOL20-1』 

奈良教育大学附属中学校「実践研究 「ホールスクールアプローチ」で取り組むESDの推進  文部科学省教育課程課編集『中等教育資料平成22年K No.895』

奈良教育大学附属中学校ESDカレンダー
http://www.unesco-school.jp/?action=common_download_main&upload_id=3896
 


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