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 なぜ英国の環境教育を調査するのか  10/12/19記述 11/01/10修正 11/02/06再修正

 われわれが、「環境教育のためにイギリスで研修」と初めて聞いた時は、「イギリス?イギリス国民って、そんなに環境意識が高かったのかな?」と素朴に疑問を感じました。
 現地に行ってみて、その直感のようなものは、ある面では当たっていることが確認できました。
 最初に宿泊したマンチェスターの中心市街地は、日本の都市の中心街に比べて、その街路は概してゴミで汚れていました。食べ物を包んだ袋や紙、食べ物そのもの、ビン・缶、また犬の糞など、いろいろなもので日本の都市の街路とは比べものにならないくらい、汚れていました。
 さらに、ゴミを捨てるという意識も、日本とはずいぶん違っていました。
 以下は、日本とイギリスのゴミ箱の比較です。


 左上 写真03−01 日本のゴミ箱 
       (JR関西国際空港駅 撮影日 10/11/19)
 右上 写真03−02 マンチェスター市内のゴミ箱 
       (研修団員のO氏提供)

 右  写真03−03 右上ゴミ箱の側面のアップ

 日本のJR駅のゴミ箱は、ご存じ、細かい分別の指定がなされ、一つがあふれてしまわない限り、おおむねその分別は守られます。これは何もJRの駅構内に限ったことではありません。市街地のゴミ箱もおおむねルールに従って分別がなされています。
 ところが、マンチェスターのゴミ箱はというと、紙・雑誌、ペットボトル、食品缶詰・飲料缶、ガラスビン等を入れるように指定されていますが、なんと、それは一つのゴミ箱に入れるのです。
 つまり、市街地レベルでは、細かい分別は行われていません。これがイギリス人の一般的なゴミに対する意識です。おおざっぱというか、大胆と言うべきか・・・・。
 日本では、ゴミ箱においても、日本的な細やかさが特色となっています。
 


 「ゴミをちゃんと捨てる」という意識においては、日本国民の方が、イギリス国民を上回っていることは確かでした。
 しかし、そのことと、環境施策や教育の進め方、進み具合については、また別の次元の話です。


 環境教育でイギリスを訪れる理由の根本は、イギリス政府が非常に強い意識と指導力を持って環境教育を進めていることにあります。
 そのさらに源は、ブレア首相の労働党政権から続く、
気候変動に対する強い危機意識とそれに対応した低炭素社会実現のための環境施策の積極的な実施です。
 そもそも、イギリスでは労働党政権の前の保守党政権の時代から、環境政策に強い関心を持つようになっていました。
サッチャー首相時代(1979-1990年)は、経済発展を重視する姿勢から環境政策にも、EUとの協調にも不熱心でしたが、後継のメージャー首相時代(1990-1997年)にはその姿勢が変化していきました。
 そして劇的に変化したのは、1997年に政権を握った
労働党のブレア政権になってからです。労働党は、この時の選挙のマニフェストの段階から、二酸化炭素排出量をの削減目標を20%と設定し、環境政策を重視することも公約していましたが、ブレア首相(1997-2007年)は厳しい環境政策をとるEU諸国の中でさらに厳しい基準や目標を設定し、世界の環境施策、とりわけ気候変動政策の牽引役となりました。
 イギリスにおいても現在は、他国と同様、非常に厳しい経済状況にありますが、気候変動に対しては今も積極的な姿勢をとり続けています。
 以下に、最近のイギリスの気候変動に対する施策を時系列で示します。




 このように積極的な施策が進められ、国を挙げて気候変動に取り組んでいる背景には、たまたま、2007年に発生した、イギリスの豪雨災害の影響があると言われています。
 2007年7月20日から24日にかけて、イギリスの中部・西部地域において、集中豪雨が発生し、1日で7月の平均総雨量の約1.55倍の雨が降り、過去60年間で最悪の洪水が発生しました。大学都市オックスフォードでは7月25日にテムズ川の土手が決壊し、14万世帯が被災しました。ブレア首相の後継内閣、労働党政権の
ブラウン首相(2007-2010年)は「すべての先進国と同様に、我々は気候変動の影響を受けている」と発言しました。
 ※参考文献2、岡久慶2009年、参考文献3、国土交通省河川局2008年

 なお、このようなイギリス政府の姿勢は、2010年5月に政権が労働党から保守党に代わっても変化していません。12月に開催された
第16回気候変動枠組条約締約国会議(COP16)は、先進国と途上国が自主目標で温室効果ガス排出削減に取り組み、先進国だけでなく途上国も国際検証を受けることを盛り込んだカンクン合意を採択しましたが、これに対してイギリス保守党のキャメロン首相(2010年〜)は、次のようにコメントしています。
「カンクン合意は、多国間の行動を通して、国際社会が気候変動に取り組むという決意を新たにする上で、極めて重要な一歩です。今、世界は、約束を果たす必要があります。 来年、南アフリカで開催される気候変動会議の前に、より多くの困難な仕事をしなければなりません。英国がその国際的な義務を果たすことは明らかです。英国の現政権は、これまでで最も環境に優しい政府となります。私は、これから先も、グローバルで包括的、且つ、法的拘束力のある気候合意を訴えていく所存です。」
 ※駐日英国大使館HP http://ukinjapan.fco.gov.uk/ja

 つまり、イギリスでは、
気候変動対策をはじめとして、持続可能な社会の構築への施策が積極的に進められており、その結果として、教育の現場では、これまでのエコス・クール活動を継承する形で、サスティナブル・スクールの取組が推進されています。
その先進的な状況を視察し、日本での実践につなげることこそが、私たちがイギリスへ研修に向かう理由でした。

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 イギリスの教育と学校制度  

 さて本題を進める前に、イギリスの教育制度と学校について簡単に触れます。その国の教育事情や学校のことがわかっていないと、環境教育の実態はわかりません。



 続いて、イギリスの教育制度のポイントについて、概略を説明します。



 これで、おおむねイギリスの教育の特色は説明できたと思います。
 以下の説明の中で、「図3」・「表4」を参照となった場合は、上の二つをご覧ください。

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 サスティナブル・スクールとエコ・スクール  

 気候変動対応の先進国イギリスが、環境教育の分野で進めているのが、サスティナブル・スクールの取組です。
  国連では、2002年に「
国連持続可能な開発のための教育の10年(DESD:Decade of Education for Sustainable Development、Decadeは「10年間」)」が決議され、主導機関であるUNESCOによってDESD国際実施計画が発表されました。これにおいては、次の4つの重点領域が提示されています。
     (1)質のよい基礎教育へのアクセスを向上させる。
     (2)既存の教育を持続可能性に向けて新たに方向づけをする。
     (3)市民の理解や意識を向上させる。
     (4)市民社会のすべてのセクターにプログラムを提供する。

 イギリス教育技能省(DfES)は2006年に、「持続可能な教育へ向けての国家的な枠組み」を発表し、2020年までの長期目標を8つのドアウェイ(Doorways、導入テーマ)別に示すとともに、推進機動力として3つの
CsCurriculuam Campus Community )を紹介しました。

 イギリスの取組の特色について、佐藤真久(東京都市大学環境情報学部准教授)は、次のように指摘しています。(赤太字は引用者が施しました)

 サステイナブル・スクールは、欧州や他の地域でNGOによって様々な国で任意に取組まれているエコ・スクールとは異なり、英国の教育政策の一つとして英国国内で取組まれている

 サステイナブル・スクールは、エコ・スクールとは異なり持続可能な開発の視点が強調され、国連の持続可能な開発のための教育の10年(DESD)の流れをうけ、英国国内のESD活動の一翼を担っている。、 

 英国の全ての学校が持続可能な開発に取組むことを目指している 

 サステイナブル・スクールは、国家的な取組みではあるものの、英国の教育自体が地方分権主義的な教育システムであるため、強制的、義務的な要素はなく、あくまでも各学校が、政府から提案されたサステイナブル・スクールの国家枠組みを参考にしながら発展させていくというものである。したがって、共通したカリキュラムや教授方法、教材などはなく、後に紹介するサステイナブル・スクールの国家枠組みが、緩やかな指針となっている。 

   

参考文献5所収、佐藤真久「可能性としてのサスティナブル・スクールー英国における学校教育と学校外教育の連携による持続可能性な社会づくりー」

 イギリス教育技能省が、サスティナブル・スクールの取組を効果的に展開するために示した、8つのドアウェイ(Doorways 導入テーマ)と、従来のエコ・スクールの環境教育プログラムは次のとおりです。




 上表から、2つの点で、イギリスの環境教育視察のポイントが指摘できます。
 まず、サスティナブル・スクールの取組は、全く新しいものを新たに創造するものではなく、既存の教育を「持続可能性」にむけて新たに方向付けするものです。そこがうまくなされているかどうかがポイントその1です。
 具体的には、ヨーロッパでは、国連の「
持続可能な開発」の動きとは別に、すでに1990年代から、各国でエコ・スクールの活動が取り組まれていました。
 イギリスでは、その本部は、マンチェスター郊外のウィガンにあり、私たちがイギリスのマンチェスターを訪問するのは、まさにそこに理由がありました。
 これまで続けられてきたエコ・スクールの活動がサスティナブル・スクールの取組にいかに継承されているのかを確認することが、視察ポイントとなります。


 また、サスティナブル・スクールの取組8つの導入テーマは上表のとおりであり、それを3つのCs(機動力)と組み合わせると、たとえば、@の食べ物と飲み物の場合は、上表のアイデア例のようになります。
 
 少し具体的になりましたが、これでも、確かに「緩やかな提案」過ぎる曖昧な内容です。
 学校では、一体どんな風に具体的に活動しているのでしょうか?そこが私たちの視察のポイントその2です。


 お待たせしてすみません。やっと次のページに、訪問したNGOや学校の様子を紹介します。


 【環境教育 参考文献一覧】
  このページ3の記述には、主に次の書物・論文を参考にしました。

浅野昌子「研究ノート イギリスに見る低炭素経済への歩み」『名古屋外国語大学外国語学部研究紀要第38号(2010年3月)』所収 http://library.nakanishi.ac.jp/kiyou/gaidai(38)/00_3_mokuji_contents.pdf

岡久慶「英国2008年気候変動法−低炭素経済を目指す土台」国立国会図書館調査及び立法考査局「外国の立法」(2009年6月) http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/240/024002.pdf

国土交通省河川局「近年の豪雨災害の発生状況について」(2008年2月19日)、国土交通省HP 河川/統計・調査結果/防災 災害の記録 http://www.mlit.go.jp/river/toukei_chousa/bousai/saigai/kiroku/h2002gouu/gouu.pdf

文部科学省生涯学習政策局調査企画課『諸外国の教育改革の動向−6か国における21世紀の新たな潮流を読む−』(ぎょうせい 2010年)

佐藤真久「可能性としてのサスティナブル・スクールー英国における学校教育と学校外教育の連携による持続可能性な社会づくりー」、小玉敏也・福井智紀編著 阿部治・朝岡幸彦監修『学校環境教育論』(筑波書房 2010年)所収


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