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<アメリカからの情報>

011 大統領選挙2004その3草の根民主主義2 2004年02月08日記述 |目次へ戻る


○ケリー候補の勢い
○党員集会の様子
○エドワーズ候補


○ケリー候補の勢い
 

 民主党の大統領候補指名争いですが、アイオワとニューハンプシャーで勝利を収めたジョン・ケリー上院議員の勢いが止まりません。
 2月3日に行われた、7州の予備選挙・党員集会では、ケリー候補が5州で勝利しました。
 結果の概略は次のとおりです。

 2月3日の民主党予備選挙、党員集会の結果。CNNの集計、『朝日新聞』2003年02月05日朝刊第6面より     

氏  名

年齢

SC DE MO OK AZ ND NM

ジョン・ケリー

59 30 50 51 27 43 50 42

ハワード・ディーン

54 5 10 9 4 14 12 16

ウェズレイ・クラーク

4 10 4 30 27 24 21

ジョン・エドワーズ

49 45 11 25 30 7 10 11

ジョゼフ・リーバーマン

61 2 11 4 6 7 1 3

デニス・クーセニッチ

56 2 1 1 1 2 3 5

アル・シャープトン

48 10 6 3 1 0 0 0

SC=サウスカロライナ
DE=デラウエア
MO=ミズーリ
OK=オクラホマ
AZ=アリゾナ
ND=ノースダコタ
NM=ニューメキシコ


 数字は、得票率。青色は1位の候補。


 
エドワーズ候補と、クラーク候補は、1勝ずつあげましたが、全体では、1月末のアイオワとニューハンプシャーでの勝利ではじまったケリー候補の勢いが加速した結果となりました。
 つい1か月前の1月はじめの世論調査まで1位を保っていたディーン候補は惨敗を喫しています。
 とはいっても、ここまでで、合計9州の結果が出ただけで、民主党党員大会に出席する代議員の割合からいうと、まだ、10%強の配分が決まっただけです。
 
 しかし、注目すべき結果もあります。
 実は、この7州のうち、ミズーリ州は「選挙の縮図」と呼ばれている、全米の選挙では指標となる重要な州なのです。つまり、この州は、人種構成・収入など多くの指標が全米平均に近く、伝統的に「選挙情勢の縮図」とされてきた州なのです。

 1900年以来26回の大統領本選挙では、ミズーリ州で敗れた候補が全体で勝利を収めた例は、1956年のアイゼンハワー氏ただひとりという、記録が残っています。つまり、確率的には、ミズーリで勝てば、他で勝てるということになるのです。を
 さらに、今回においては、この州は同じく大統領候補に名乗りあげていて、アイオワ党員集会で敗北して辞退を表明したゲッパート下院議員の地元でした。ゲッパート候補が消えた後、たった2週間で、ケリー候補がさっさと支持票を集めてしまったわけです。
 
 ケリー旋風は続きそうです。


○党員集会の様子                       この項目の先頭へ
 アイオワでの民主党党員集会が開かれたあとで、友人スティーブに、
「きみの支持候補や、アイオワでの党員集会の様子をもっと詳しく教えてほしい。」
と、メールを打っておきました。
 時期がちょっと遅れましたが、メールが届きましたので、党員集会の様子をお伝えします。
  ※「 」内はメールの文章。地の文章は私の解説です。

「党員集会は、アイオワ州全体では1993カ所で開催された。集会の規模は、その地区の人口によってまちまちで、参加者が何百とか1000を超えるところもあるが、我が地区では、75名が集会に集まった。

 この日は、朝から寒い日になることが予想され、開始時刻の夕方6時半は気温は−10度前後だったと思うが、家族そろって厚いダウンジャケットを着込んで、集会場所である近くのサウス・イースト・ポーク高校へ行った。
 妻のメアリーと次女のヒラリーも一緒だ。娘は、このために在学しているアイオワ州立大学から家に帰ってきた。」
 アイオワ州立大学は、州都デモインの北約100キロのエイムズという町にあり、ヒラリーは、そこの寄宿舎にいます。

「党員集会へは、登録をすませたものだけが参加できる。しかし、登録に関しては厳格な仕組みはない。党員集会へ出かけて初めて登録することもできるし、それまで、反対等の共和党に登録していて、今回の候補者選びで民主党に登録するという場合でも、その晩に登録すればいい。
 この点では、参加資格には、予備選挙よりもはるかに柔軟性がある。」
 
 もちろんインターネットでの登録もできます。登録費はいりません。
 党員集会の前日に、現地の新聞「Des Moines Register」のサイトを調べたら、どこにすんでいる人が、どこで開かれる集会に行くべきなのかを教えてくれるページもちゃんと準備されていました。

「会場に着いたら、登録の確認のサインをする。締め切り時間までに登録した人数が、私たちのところは75名だったというわけだ。

 部屋の各コーナーがそれぞれの候補者に割り当てられていて、我々は、エドワーズ候補のコーナーに行った。
 まだ誰に投票するか決めかねている人のエリアというのもあって、みんな説得してこの人達を自分のコーナーに参加させる時間がある。いわば説得の時間だ。

 30分の制限時間後、移動が締め切られ、それぞれの候補の支持者の数が確認される。数は電話ですぐデモインの本部へ連絡され、州全体の分が集計される。
 そして、形式的には、得票に応じたそれぞれの人数の代表が、3月の第3週に開催される州の民主党大会に集まり、州全体として8月の民主党全国大会に参加する代議員を選ぶことになる。」
 アイオワ州に割り当てられている党大会への代議員数は45人です。
 もちろん、全国大会ではアイオワの代議員は、得票率にしたがって、ケリー候補に20人、エドワード候補に18人、ディーン候補に7人という風に割り当てられ、それぞれの候補に投票することになります。

「これに対して、予備選挙は、通常の選挙のように、事前の登録にしたがって投票用紙が送付され、それを会場へ持っていって投票するという形式が多いようです。

「党員集会のやり方は、地元の有力者の声に左右され、みんなが同じ人を支持しがちだという批判もあるが、我々は、このシンプルで柔軟なやり方がベターだと信じている。
 他の人間に影響されずに、自分の意思を人前で表明するということは、民主主義の基本だと思っている。」


○エドワーズ候補                        この項目の先頭へ
「しかし、今度の党員集会は、我が家族にとっては残念な結果となった。
 我々は3人とも、エドワーズ候補を支持した。

 その理由は、彼は、年齢的に若く古いタイプの政治をする男ではないこと、我々の意見と一致するリベラル派の提案をしていること、その訴えが幅広い選挙民に指示されると予想されることだ。
 また、彼は話がうまく、富豪層の出身ではなく普通の人間として育ち、self−made−man(自分の腕一つで出世した男)であることも、私には魅力的だ。
 
 彼は、清廉潔白という点では申し分なく、これまで常に肯定的で積極的な運動をしてきた。決してネガティブキャンペーンでライバルを落とし込めようとはしていない。
 ブッシュも支持者が多いが、エドワーズ候補は、もっと魅力的で、民主党を勝たせることができると思ったからだ。」

「ディーン候補が、アイオワで敗れたとき、感情を露わにした奇声を発したことは、こちらのメディアではあれ以後何回も取り上げられ、TVで流れた。(この話の説明はこちら
 しかし、ディーン候補の本当の敗北は、そのことだけではないと思っている。
 彼は、「誰も口を閉ざしていたとき、イラク戦争に反対してブッシュに立ち向かったのは私だけだ」と最近いっているが、実は、「イラク戦争」反対を強調しすぎたために、退役軍人をなど保守的な人々の支持を失ったのだと思う。」

「娘のメアリーは、今回の党員集会が、初めての経験だった。彼女は、政治学科で政治学を学んでおり、今回の参加はとてもいい経験になったと言っている。」

「違う話題だが、Ken Watanabe が Oscar にノミネートされたことを聞いて、大変喜んでいる。」 
 ※スティーブの家族と「The Last Samurai」についてはこちら

 大統領の候補を選ぶというのは、国民としては、重要な政治的行為です。
 これが、党員集会という形で、行われていることは、日本人から見ると驚きです。

 この日、非常に寒かったにもかかわらず、アイオワ州の1993カ所の会場に、合計11万6428人が参加しました。人口240万ほどのアイオワ州ですが、もちろん、18歳以下には参加資格はありませんし、共和党の支持者は参加していませんから、参加数としてかなり多い数と言えるでしょう。

 スティーブには、すでに次の質問を送ってあります。
1各候補の考えは、どうやって知るのか。
2各候補はどの様に活動するのか。
3活動資金はどうなっているか。

 来週までには返事が来るはずです。
 しばらく、大統領選挙話が続きます。
 


012 大統領選挙2004その4 草の根民主主義3 2004年02月15日記述 |目次へ戻る|  


 民主党大統領候補の選定レースでは、ケリー候補の勢いが止まりません。
 結果は、刻一刻と動いていきますので、ここで図に示すより、現地のサイトのものを見てみましょう。
   ※いつもの「DesMoines Register」の結果早見ページへのリンクはこちらです。
    「Caucuses and Primaries by State」 (国全体の党員集会と予備選挙の結果)というページです。
     色の付いた州は、もうすんだ州です。州の形をクリックすると、結果が出てきます。    

 アイオワの友人スティーブに送っていた、次の質問の答えが返ってきました。

 ○各候補の考えを、どうやって知るのか。
 ○各候補はどの様に活動するのか。
 ○活動資金はどうなっているか。

今日はこの話題です。

○各候補の考えを、どうやって知るのか。
 「各候補の考えは、それぞれの争点別に明確に示されている。今回は、保険制度、減税、イラク問題、財政再建などだ。これらは、新聞やインターネットのサイトや、TVの討論会などで、明確に示される。
 時には、相手の実績を否定するネガティブなキャンペーンも行われる。
 政治にちゃんと関心があるものなら、各候補の意見やその違いは自ずと理解できる。もちろん、誰がやっても同じというわけではない。」
 
 これまた、「DesMoines Regisiter」のページに、各候補の主張がちゃんと整理して示されていました。

 そのうち、イラク派兵とイラク戦争復興への予算措置後の措置について、各候補についてまとめると、右の表のようになります。

 アイオワの党員集会直前まで、世論調査で優勢を伝えられていたディーン前バーモント州知事は、戦争への反対を鮮明にした結果、特に男性の中年保守層の支持を失ったと言われています。

 一方ケリー候補は、エール大学卒業後、その時代のインテリがたくさん兵役を拒否したのに対して、自ら志願してベトナムにおもむき、海軍で5年間にわたって従軍したことが、大きなアピールポイントになっています。
 戦争と言うことでは専門家なのがクラーク元司令官ですが、ケリー候補に対して、「彼はしょせん中尉。私は大将だった」と思わず本音を発言して、顰蹙をかってしまいました。
 候補の考えを見定める指標として、日本では考えられない、アメリカならではのものがあります。
 「
abortion」、つまり人工妊娠中絶です。
 
 これについては、民主党候補は、全員が人工妊娠中絶を法律で一律に禁止することに反対です。
 全員同じ意見ならなぜこの項目があるのかというと、これについては、ブッシュ大統領が反対の動きを見せているからです。
 
 アメリカでは、1972年に通称「ロー対ウエイド事件」連邦最高裁判所判決が出され、「妊婦の生命を救う場合以外の中絶を禁止したテキサス州法は、憲法修正第14条で保護される「プライバシーの権利」の侵害であり違憲である」との判断が下されました。

 しかし、レーガン大統領、父ブッシュ大統領は共和党の支持基盤であるキリスト教保守層の意見を受けて、妊娠中絶に反対です。
 この結果、最高裁判所に保守的な判事を次々に任命しました。
 クリントン大統領時代には、また中絶容認派の判事が増え、現在は、容認派判事6人、反対派判事3人です。
 ブッシュ大統領は、再選後の2004年以降、保守派判事を任命すると言っています。
 これが、争点となる理由です。

人工妊娠中絶については、神戸大学国際文化学部の安岡正治先生が神戸親和女子大学で行った講義『英米の政治経済A』(平成15年度前期)の第8回講義レジュメを参考にさせていただきました。

 
○各候補はどの様に活動するのか。

 スティーブのメールは続きます。
「最近はTVによる公開討論会という方法が大きな効果をもっている。それでも、全米で最初に党員集会があるアイオワには、候補がたくさんやってきて、各地で演説会や集会を開くという地道な活動をかなりの日数をかけてやっている。
 いつかきみ(筆者のこと)は、『日本では、選挙カーというものがあって、候補者の名前を叫び続けるという伝統的な選挙運動がある』と書いていたが、我が家の地区では、そんなものは絶対にあり得ない。わかるだろう。家の密度がまばらすぎる。」

 以下は、「DesMoines Register」に掲載されていた、「党員集会前に各候補がアイオワで過ごした日数」のリストです。

氏  名

年齢 略   歴 日数

ハワード・ディーン 54 元バーモント州知事(バーモント) 76

ジョン・ケリー 59 上院議員(マサチューセッツ) 73

リチャード・ゲッパート 62 下院議員(ミズーリ) 67

ジョン・エドワーズ 49 上院議員(ノース・カロライナ) 64

デニス・クーセニッチ 56 下院議員(オハイオ) 54

ジョゼフ・リーバーマン 61 上院議員(コネチカット) 16

キャロル・モーズリー・ブローン 55 元イリノイ州知事、元上院議員(イリノイ) 13

アル・シャープトン 48 地域活動家、元市民団体代表(ニューヨーク)

ウェズレイ・クラーク 元欧州連合軍最高司令官(アーカンソー)


 ここでも、ディーン候補が一番手間をかけていたのに、敗北を喫してしまったわけです。

○活動資金はどうなっているか。
「資金は、アメリカの選挙の場合皆同じで、私の教育委員の選挙の時に説明したように、寄付金で賄われている。
 ※スティーブの教育委員選挙の話をまだご覧でない方は、こちらです。
 大統領選挙だって同じだ。きみだって、1992年の選挙の時、ワシントンの民主党本部で、バッチかなんか購入して、幾分か寄付しただろう。
 そういうグッズと引き替えではなく、純粋に寄付するのが、主流だ。寄付金の額が多いのは、その候補が圧倒的な支持を受けている証拠にもなる。」

1992年、ワシントンの民主党本部で購入したグッズ

クリントン夫妻、上はゴア副大統領と。ヒラリー・クリントンさんは、次回2008年に登場するのではないでしょうか。アメリカ初の女性大統領かな?


 これまた「DesMoines Register」のページに、各候補が集めた選挙資金の額が示されていました。
 ちょっと古いデータですが。2003年の1月から9月まででは、次のようになっています。

氏  名

年齢 略   歴 金額 万ドル

ハワード・ディーン 54 元バーモント州知事(バーモント) 2530

ジョン・ケリー 59 上院議員(マサチューセッツ) 1990

ジョン・エドワーズ 49 上院議員(ノース・カロライナ) 1440

リチャード・ゲッパート 62 下院議員(ミズーリ) 1360

ジョゼフ・リーバーマン 61 上院議員(コネチカット) 1170

ウェズレイ・クラーク 元欧州連合軍最高司令官(アーカンソー) 350

デニス・クーセニッチ 56 下院議員(オハイオ) 337

キャロル・モーズリー・ブローン 55 元イリノイ州知事、元上院議員(イリノイ) 30

アル・シャープトン 48 地域活動家、元市民団体代表(ニューヨーク) 30

ジョージ・W・ブッシュ 共和党現大統領 8460


 ディーン候補は、資金面でも、最初は圧倒的でした。


 一つ面白いデータを発見しました。「DesMoines Register」の選挙資金のページの各候補の部分をクリックすると、寄付をした人の個人名が、すべて出てきます。
 これは、この新聞社が作っているのではなく、「Federal Election Commission」(連邦選挙委員会)のデータですが、これがなんと細かいのです。

 日本だと、選挙資金の寄付というと、企業の献金というイメージですが、これは、違います。
 企業からの寄付を受け入れる仕組みもありますが、あくまで、個人からの寄付というのが前提となっています。
 ※「DesMoines Register」の各候補の選挙資金のページ。名前クリックすると、寄付した個人のリストが登場します。

 試しに、ディーン候補への寄付者リストを見ると驚きます。金額は$100が普通で、少ない人は、$20というのもあります。それが実名で掲載されています。
 まさしく、市民の浄財と言った感じです。

 最後です。
「資金で見たら、ブッシュが一番だ。」

 よく見れば、ブッシュ現職大統領は、ディーン氏の3倍以上も集めています。
 う〜ん、現職は強い。


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