大変面倒な計算で申し訳ありません。
もう一度ややわかりやすく確認します。
右の札束群Qは、左上の帯封がしてある(帯封札束群A、紙幣100枚)ものを10個積んだ札束一山(左札束一山B)を、さらに100個並べたものです。
つまり、次のような関係になります。
札束群Q=帯封札束群A(100枚)×10(帯封10個分で札束一山B)×100個=紙幣10万枚分(100×10×100)
このクイズは、総額いくらかをあてるわけですから、あとは、1枚の紙幣の金額を予想して、もしそれが50マルクなら、
50×10万枚=500万マルク
と計算すればいいわけです。
しかし、この紙幣は1枚は、50マルク紙幣ではありません。
右下がその拡大図ですが、50の間に、millionen の文字が書かれています。
これはドイツ語ですが、ちょっとひらめく方なら、これが英語のmillion であることはすぐに気が付かれるでしょう。
そうです、この紙幣は、もともと「5000万マルク紙幣」という超高額紙幣なのです。
したがって、クイズの正解は、
5000万マルク×10万枚=5兆マルク
となります。
もっとも、本物は、右下の一枚分だけで、帯封札束群Aの一番上の紙幣10枚分は、本物をスキャンしてカラープリンターで印刷した模造品です。
さらに、札束群Qは札束一山Bを電子上コピーして作った幻のものです。
授業で実際これだけの札束を持っていくとすさまじい迫力ですが、まだやったことはありません。(まだ、ということはこれからやる機会があれば・・・、ということです。(^.^))
※本物の紙幣は差し上げることはできませんが、コピーを授業で利用したいとお考えの方は、どうぞこの写真をご利用下さい。
さて、どうしてこれほど高額な紙幣が登場したのか、また、授業で5兆マルクを見せる意味はどこにあるのか、この二つについて説明します。
世界史の教科書には、1920年代のドイツのインフレの説明があります。
「賠償支払い、帝政派や右翼による反共和国活動などによって、経済と政局は安定しなかった。とくに、1923年のフランスのルール占領には不服従運動で抵抗したため生産が低下し、激しいインフレが進んだ。同年夏、首相となったシュトレーゼマンは、レンテンマルクを発行してインフレーションを克服し、アメリカ合衆国の協力で賠償支払いの緩和と資本導入に成功して、経済を立て直し、国際協調外交を推進した。」
※佐藤次高他著『詳説世界史B』(山川出版2002年教科書センター用見本 P292
第一次世界大戦の敗戦国ドイツには、過酷な運命が待っていました。
戦後の講和条約であるヴェルサイユ条約によって、一切の海外領土を失い、また本土も縮小したばかりか、さらに巨額の賠償金の支払いを課せられました。賠償金額は最終的には、1320億金マルクとなります。
これにより、ドイツ経済は停滞します。
賠償規定により、船舶・鉄道車両・機械・石炭などの多くの実物賠償を余儀なくされたドイツは、極度の物資不足となり、インフレが進行しました。
敗戦国にインフレが起こるのは、どこでもいつの時代でも同じです。日本も、第二次世界大戦後にひどいインフレを経験しました。
※日本の戦後インフレについては、、日本史クイズ戦後編をどうぞ
しかし、ドイツのインフレは、他国に類をみないすさまじいものでした。
ここではインフレの状況、すなわちマルクの価値が下がっていく様子を、個々の物価の上昇とかとか物価指数の変動とかではなく、アメリカドルとの交換比率(マルク為替相場)の変動によって確かめていきます。
第一次世界大戦前は、マルクの対ドル相場は、4.2マルク=1ドルでした。
ところが、上述した戦後の経済の悪化により、1919年7月の14マルク=1ドル、21年7月の76.7マルク=1ドル、22年1月の191.8マルク=1ドルと、戦後の3年半の間に、マルクの価値は戦前の約50分の1に下落してしまいました。
しかし、このくらいは序の口でした。
ドイツが決められた賠償の支払いに行き詰まると、フランスは支払不履行を責めてドイツの工業地帯ルールの占領を企図、1923年1月、軍隊を派遣して占領しました。
教科書の説明にあるように、ドイツは不服従で抵抗し、ルール工業地帯の生産は極度に低下しました。
これにより、ドイツマルクは一挙に信頼を失い、この年1年間に、まさしく破局的なインフレが進みました。
表にすれば、右のようになります。
つまり、マルクの対ドル価値は、1914年の4.2から、1923年末の4,200,000,000,000(4兆2000億)へと、1兆分の1に下落してしまったのです。
これは、統計的には、国内物価そのものが1兆倍になったとは全く等しいわけではありません。
しかし、他に指標がありませんので、通常はこれをもって、「1兆倍」のインフレが進んだと表現しています。
※木村靖二・柴宜弘・長沼秀世著『世界の歴史26 世界大戦と現代文化の開幕』(中央公論社1997年P169)
この時のインフレを示す写真は教科書や資料集にはいくつか登場し、「古い紙幣の束は子どもの遊び道具」(子どもが札束を煉瓦代わりに積んで遊んでいる)、「給料として札束の山をもらった労働者」とかがあります。
また、紙幣に関しては、 高額紙幣の発行印刷が間に合わず、ゴム印で数字を訂正したものとか、裏が印刷なしの白いものとか、いろいろエピソードが残っています。
この5000万マルク紙幣が最も高額の紙幣かどうか確認が取れていませんが、当時を語る歴史的教材?であると思います。
授業では、右の1918年発行の普通の5マルク紙幣と両方登場させて、1914年に5マルクで購入できたものが、1923年11月には、5兆マルク必要になったという話が展開できます。
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