高等学校の世界史の教科書として採用数が多い「詳説世界史」(山川出版)の南北戦争後のくだりには、次のようにあります。「アメリカ合衆国の重工業化と大国化
南北戦争後、荒廃した南部の再建が共和党の主導のもとですすめられ、連邦憲法の修正により奴隷制は正式に廃止され、解放黒人に投票権が与えられた。しかし、南部諸州は連邦軍の撤退をうけて、、1890年頃から州法その他によって黒人の投票権を制限したり、公共施設を人種別にわけるなどの差別待遇をすすめたので、憲法の条項は骨抜きになった。また、解放された黒人には農場の分配がおこなわれなかったので、黒人の多くは、シェアクロッパーとして貧しい生活をおくった。」(p276)
※ |
木村靖二・佐藤次高・岸本美緒他著『詳説世界史』(山川出版 2013年)新学習指導要領対応の山川世界史
|
つまり、実質的には、南北戦争によって黒人は奴隷の地位からは解放されましたが、法的にも社会的にも差別は続いていました。
では、いつ差別が正式に撤廃されたのか。
答えは、1863年の奴隷解放宣言から101年後です。
1960年代のケネディ政権時代に全米で進められた公民権運動(civil right movement)の結果、1964年に公民権法が成立されます。ケネディ暗殺後のジョンソン大統領の時代です。
先述の山川出版の教科書はその説明を次のように表現しています。
「ケネディ大統領は、国内ではキング牧師に指導された公民権運動に理解を示したが、1963年11月に南部遊説中に暗殺された。後継には副大統領のジョンソンが就任し、64年に選挙権や公共施設での人種差別を禁止する公民権法を成立させ、「偉大な社会」計画を発表して、「貧困との戦い」を推進した。」
戦後史のくだりには、山川詳説世界史では、この版から、公民権運動の指導者キング牧師の名前が登場しました。
映画やドラマでわかるとおり、アメリカの黒人差別は、未だに現代的課題です。それを生徒にリアルに教えるには、前世紀のできごとをいかに現代と結びつけるかが問題です。残念ながら、上述の教科書通りに教えていたら、アメリカの公民権運動を生徒に理解させることは不可能だと思います。教科書に頼らないごく常識的な視点が必要です。
キング牧師は、1963年8月、25万人の人々と平等を求めてワシントンD..C..へ大行進(March to Washington)を行い、リンカーン記念塔の前で有名な「I have a dream」の演説を行いました。この行進の模様はアトランタのキング牧師博物館に等身大の人形を使って再現されています。
→「Martin Luthur King Jr National Historic Site」http://www.nps.gov/malu/index.htm
彼は1964年にノーベル平和賞を受賞し、1968年に暗殺され、39歳の短い生涯を終えました。
→「アメリカとの草の根交流 素晴らしきアメリカ(リンカン記念堂)」へ |