入院2日目の朝は、まだ痛みの中でした。
午前4時の激しい嘔吐によって、腸閉塞箇所上流の圧力が減じたため、真夜中ほどの痛みはありませんでしたが、それでも、普通なら耐えられない痛みでした。
04:00にソセゴンを注射してもらっていますから、次は、5時間後の09:00まで待たなければなりません。
効き目が切れる8時過ぎからは、やはり、痛みをこらえてうなっていました。
あとになってわかりましたが、その間の08:30は、看護師の勤務交代の時間です。夜中にお世話になった夜勤の看護師さんに代わって、日勤の看護師さんが登場しました。
O看護 |
「Mさん、Mさん。こんな時に何ですが、私があなたの担当のOです。よろしくお願いします。痛いですか。」 |
私 |
「痛いです。もうすぐ注射の時間です。お願いします。」 |
これが、以後退院まで16日間お世話になる、O看護師さんとの最初の会話でした。
私は、今回の分も含めて入院経験というのは、都合5回あります。しかし、これまでの病院では、担当の医師というのはもちろん存在しても、担当の看護婦・看護師というのは、ありませんでした。
この病院(山内ホスピタル)は、入院患者総数が60名で、2フロアーだけのこじんまりした病院で、いわゆる大病院ではありません。その割には、看護師は30名を数え、患者二人に看護師一人と高い割合との病院です。
患者数が多くないため、○○科病棟というものはなく、同じ4人部屋にいる患者でも、それぞれ外科の患者、内科の患者とバラバラです。
そして、患者一人一人には、担当医師と担当看護師が付くという仕組みでした。
もちろん、夜勤は、1フロアー3人のだけの勤務ですから、誰の担当と言う区別はなくなりますが、昼は、その担当看護師が勤務している限り、その人が決まった患者の面倒を見るというシステムです。まあ、学校の担任のようなものです。
Oさんは、26歳の明るい美人看護師で、もう結婚していて、1歳半の子どもさんがいるため、日勤ばかりの勤務に配慮してもらっているという人でした。
昼しか勤務しませんから、私にしてみれば、会話する相手は、昼はOさん、夜はその日の夜勤看護師というのが原則となりました。
(ここで本来ならOさんの写真が登場するところですが、奥ゆかしい彼女の返事は、「ダメ」でした。)
私は、最初の日の痛み止め注射の要求以外はあまりわがままを言う患者ではなかったと思います。(中には、やれ点滴の差し方が悪いだとか、血液検査の採血がいやだとか、自分は治療を受けている身であるということを理解していないと思われるような患者さんもいます。そういう人に限って医師には何も言わないくせに、看護師さんにはわがままです。看護師さんも大変です。)
しかし、逆に、好奇心花盛りのおじさんですから、わからないことは何でも質問するやっかいな患者でした。もちろん、その返答は、子供だまし・大人だましというわけには行きません。
O看護師さん、いろいろご面倒をおかけしました。
いちいち、「この注射は何だ」、「この点滴の目的は何だ」と尋ねる患者も、そうはいないでしょう。(その理由はもちろん、インフォームド・コンセントが重要と思っているからと、そして、この記録を書くためにですが・・・。)
2日目から3日目にかけては、腹部の痛みは次第に減少していきましたが、反対に炎症のせいか、熱が高くなり、吐き気と頭痛のために、またまたソセゴンを注射するはめになりました。
この鎮痛作用抜群の心地よい注射を、私は結局、3日間で7本打ってもらいました。
4日目以降、容態は、安定しました。腹部の痛みは治まり、熱も下がりました。
尿バルーンと導尿バッグ(トイレに行かなくていいように、チューブの先をペニスに入れて抜けないようバルーン(小さい風船)で止め、直接尿をためるバッグ。)も、とってもらいました。
手に点滴チューブが付いていることと、鼻からイレウス管が出ている以外は、普通の人になったのです。
但し、人から見るとこのイレウス管という代物は、何しろ鼻から小腸までチューブが入っているわけですから、違和感があるものと映ったと思います。
見舞いに来た方に説明していると、イレウス管を入れている本人よりも、聞いている人の顔が曇って、気持ち悪そうに、「えー大丈夫なんですか。」と聞かれたことも何度もありました。
本人は意外と苦になりませんでした。(写真はこちらです。)
最初は、朝、顔を洗うのに苦労しましたが、それもそのうちコツを覚えました。少々不自由でも、無駄なものを付けているわけではなく、あくまで、本人の治療のためのものです。そう思うと、それほどのストレスはなくなります。
もうひとつ。
お見舞いに来ていただいた方に、
「その日以来何も食べていません。」というと、これまた驚かれました。
実は、しばらくは食欲もなく、まったく空腹感も感じませんでした。
人間の体とは、よくできているものです。腸閉塞の危険状態からは回復しても、腸の調子が戻っていない状態の時は、食べたいとは思わないのです。
しかし、栄養は補給しなければなりません。何も食べなかった9日間、私の体への栄養補給は、点滴のみでした。 |