<経済>
下の図は、アメリカの穀物(小麦、大豆、とうもろこし)の地方別輸出量です。
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ブッシェルは容積の単位で、1ブッシェル=36.24リットルです。日本の単位で言うと、約2斗です。
ブッシェルを重さに換算すると、トウモロコシの場合、1ブッシェル=60ポンド=27.2155kg です。 |
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メキシコ湾岸からの輸出は、全輸出の65%を占めています。
この図の数値は、1985年と、ちょっと古いものですが、その後から現代に至るまで、穀物輸出の総量は変動しても、メキシコ湾岸からの輸出の割合は、65%から75%になっており、アメリカからの穀物輸出の中心であることには、変わりありません。
この穀物輸出の大動脈が、麻痺してしまったのですから、大きな影響が生じたことは簡単に想像できます。
では、実際にはどういう状況が起こったのでしょうか。その後何が起こりつつあるのでしょうか。
まず、湾岸地域の輸出です。
輸出量は、次のような劇的な変化となりました。
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グラフをのぞく以下の記述のうち、詳細な数値に関しては、「三井物産フューチャーズ ファンダメンタルズレポート」(こちらのサイトです。)、「アメリカ大豆協会 週報」(こちらのサイトです。)を参考にし、一部引用しました。 |
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<アメリカの全穀物輸出のうちメキシコ湾岸が占める割合の変化 2005年>
8月17日 |
8月25日 |
9月1日 |
72.5% |
65.0% |
3.6% ※ |
※このうち、ルイジアナからは0%
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ハリケーン・カトリーナ襲来直後から、穀物輸出の大半を占めていた湾岸地域からは、ほとんど輸出がされなくなってしまいました。
9月1日段階で、一部のメディアは次のように報じました。
「シカゴ穀物先物市場では、国内余剰懸念により先物価格が低落傾向にあり、日本に於いては将来の穀物不足から逆に先物価格が上昇している。」
また同時に、ミシシッピ川そのものの増水による航路の安全への不安(流木・沈底木の危険のためしばらくの間、夜間は航行を制限)や、バージそのものが被害を受けたことから、バージの運賃が上昇しました。
9月11日の「DesMoines Register」(アイオワ州の州都デモインの新聞)は、バージの運賃が、一部地域では、1ブッシェルあたり65セント、また一部では、同じく80セント上昇していると報じました。
穀物に関しては、ルイジアナ州やミシシッピ州では、ハリケーンにより大豆やトウモロコシやサトウキビに直接の被害がありました。これらは、いずれも、穀物供給への大きなマイナス要因です。
しかし、一方で9月12日、USDA(アメリカ農務省)は次に様に発表しました。
「2005年度は大豆もトウモロコシも、アメリカ全体では豊作が予想される。とうもろこしは史上第2位、大豆は史上第3位の収量が見込まれる。」
実際、「DesMoines Register」によると、アイオワでは、今年の夏は「これまでにない晴天」が続き、通年の3分の1しか降雨量がなく当初は不作が心配されましたが、8月には少量ながらタイミングよく雨が降ったおかげで、トウモロコシ・大豆の収穫予想が上方修正されました。トウモロコシは、9月の発表では、1エーカーあたりの収穫量が169ブッシェルと、8月の発表より5ブッシェル数値が上がりました。
このUSDAの発表のおかげで、シカゴの穀物取引場の価格は、下がりました。このあたりの価格の動きは、穀物価格が、単に台風の影響だけでなく、いろいろな要因によって変動していくことを示しています。
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アメリカの穀物市場の価格の具体的な動きです。
左のグラフは、シカゴのトウモロコシ先物相場の価格の推移です。2005年12月限の先物です。
これは価格の推移の全体を理解するには好都合な折れ線グラフです。
水不足が降雨量不足が心配され、収量が落ちるのではないかとていた今年上半期は、相場は比較的高い値段が維持されました。
8月中にはその心配が薄れ、価格が低下傾向となりました。
カトリーナの被害が明らかとなった9月1日以降、価格は少し上昇しましたが、すぐに被害以前に戻りました。
そして、USDAの豊作予想の発表があると、中旬以降、価格はぐっと下がっています。 |
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このグラフは、Chicago Board of Trade のチャートから作成しました。サイトはこちらです。 |
一方、日本に於いては、農林水産大臣の「日本にはトウモ ロコシ・大豆とも約3ヵ月分の在庫があり、当面の供給に問題は無い」との発言(9月6日)もあり、一時的に急騰した価格も、次第に下がってきています。
下のグラフをご覧ください。
これは、東京穀物商品取引所の先物取引のうち、2005年11月限のトウモロコシの取引価格の推移です。
カトリーナの被害が明らかとなった9月1日以後、価格は急騰しました。しかし、中旬にはいると、やや下げてきています。
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専門家の方に、「なんじゃこれは」といわれてしまいそうですから、ちょっと解説します。
通常、東京穀物商品取引所のトウモロコシ先物相場は、100,000kg=100トン単位で取引され、価格は、1000kg単位で表現されます。
たとえば、9月22日の終値(新聞等に記載されている価格)は、14960円です。つまり、1トン=14960円です。市場ではこの数値をつかいますが、このページでは、アメリカの取引にあわせて、1ブッシェルという単位を使ってきましたので、それにならって、1ブッシェル(=27.2155kg)あたりの価格に換算した数値を使ってグラフを作っています。
ただし、この価格は、円表示ですから、ドルにするには、115円=1ドルとして、割り算が必要です。
9月22日の1ブッシェル=325円は、ドルに換算すると、2.82ドルです。
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東京穀物商品取引所のサイトはこちらです。 |
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しかし、原油やガソリンの値上げによる運賃の上昇、肥料価格の上昇、世界の他国の穀物生産の作柄(ブラジルが減収との予想)、次のハリケーンの接近などなど、他にも世界の穀物流通に影響をあたえそうな変動要素がいくつかあり、この時点では、ハリケーン・カトリーナの影響がどうだという結論は、まだまだ下せない状態となっています。
最後に、スティーブの報告にあった、コーヒーに付いてのアメリカの現況です。
2005年7月時点では、ニューオリンズの港湾施設には、コーヒー豆の在庫が160万6536袋ありました。これは、ニューヨークの約240万袋についで第2位でした。ちなみに、2005年−06年のアメリカ全体のコーヒー消費予想は、1287万袋とされていますから、ルイジアナには、年間消費量の12.5%が貯蔵されていたことになります。
当初は、この在庫袋の大半が水につかったと考えられ、値上がりが心配されましたが、その後の報告では、被害は思ったほどひどくはなく、輸送も徐々に再開されてことから、アイオワ州での値上がりも微増にとどまっています。
といっているうちに、またもや巨大ハリケーン「Rita」が、ルイジアナ州の隣のテキサス州に迫っています。(2005年9月23日現在)湾岸住民には、最悪の夏とならないことを祈ります。
以上、一般の日本人にはなじみの薄い、「ミシシッピ水運の重要性」についてのレポートでした。
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