ソ連が北方4島の占領を行ったあとの4島島民に対する処遇は、まさしく戦勝国としてのそれであり、島民に多大な人的物的損害を与えるものでした。その経験は旧島民には決して忘れることができないものでしょう。
しかし、旧島民は話しています。
「自分たちと同じ思いを現在の北方4島ロシア住民にさせてはいけない。」
領土の変更というのは、これまでの世界の歴史でおそらくは数え切れない程行われてきたでしょう。私個人にとって、印象的な「物語」が一つあります。
それは、1870~71年にかけて行われた普仏戦争(プロシア・フランス戦争)の敗北によって、フランスの領土であったアルザスとロレーヌが、ドイツに渡されていく物語です。
これは、私たちの世代では多くの方が、フランス人作家ドーデーの『月曜物語』の第1編「最後の授業」でなじみの深いものです。小学校時代の国語の教科書に掲載されていたからです。
自分の住む町が、祖国の敗戦によって、ドイツに領土となっていく悲しみを、フランス語で行われる「最後の授業」という場と、子どもたちの目を通して訴えかけた名作品です。
国と国の外交や政治の狭間で、一般国民が悲劇的境遇を味わうというのは、できるだけ避けなければなりません。北方領土問題に関してあまり深い理解をしていない方は、ひょっとすると、現在4島居住のロシア住民を全員追い出してしますとかいう「前時代的な発想」をもっているかもしれません。 しかし、それでは、交渉はできません。
北方領土復帰問題研究会では、復帰にともなうロシア住民の処遇について、「日露平和条約の締結によって北方領土が日本に復帰したあかつき、現在これらの諸島に居住しているロシア国民の人権、利益及び希望が十分尊重され、且つ、実際上混住することになる日本国民と相携えてともに輝かしい21世紀への展望を開き得るか」という観点から、次の具体的な検討事項を明示しています。
<原則>
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それまで4島に定住していたロシア住民のうち、一定期間以上の定住者には、希望すれば原則として、ロシア国籍のまま家族ともども日本の永住権が認められるべきこと。
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帰国を希望するロシア国民には、そのための相応の支援が得られるべきこと。
<4島居住を希望するロシア国民への処遇>
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人権の尊重
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これまでの生活基盤の保全と各種の便宜の供与
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日本のいずれの地域に居住し就学しいずれも職業をも選択する自由が保障される
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日露両国民の混住に際し生じうる予想し得ないトラブルについてロシア住民の利益が不当に害されないための措置が講じられる。
<ロシア系住民に対する処遇の主な具体的内容>
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ロシア住民は希望すれば日本での永住権が付与され、復帰後5年以上日本に居住したロシア系住民には希望すれば日本国籍が付与される。
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ロシア系住民は日本のどこにでも居住し、就学し、自由に職業を選択することができる。
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復帰にともなう経済的変動から生じる急激な生活上の困難を緩和し、それまでの生活レベルを維持するため、必要により一時金を支給し、さらに無利子による特別の融資を行う。
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島内の治安維持・消防・郵便など公共サービスを円滑に行うため、一定数のロシア系住民が継続的に雇用される。ロシア語での行政相談やロシア語での書類提出等も10年程度の期限付きで認められる。
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ロシア系住民の学校は原則として存続され支援を受ける。
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ロシア系住民は希望により日本の学校へ入学できる。
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ロシア系住民のうち医師・看護婦等医療系の資格は、一定の講習後引き続きこれを有効と認める。
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教員・保母・理髪・調理などの資格を有する者は、ロシア語による講習などの一定の条件のもとで、新たに日本の資格を取得することができる。
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希望するロシア住民のため、一定期間、4島において無料の日本語教育を行う。
ロシア系住民への配慮をすることが、忘れてはいけない視点です。
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