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B 青木ヶ原樹海といえば、やはり自殺名所 | 目次へ戻る |13/01/14追加

 青木ヶ原樹海というと、「森林浴」というよりも、やはり「自殺の名所」です。

 なんでも、ここが自殺の名所になったのは、あの
松本清張の小説、『波の塔』が原因であるとされています。
 この小説は、1959年から1960(昭和35)年にかけて「週刊 女性自身」に掲載され、連載終了後カッパノベルスから出版され、現在でもなお入手することができます。

 ストーリーは、ある検事が人妻と不倫関係に陥り、しかも検事の担当事件に人妻の夫(政界を暗躍する情報ブローカー)が関係した結果二人の愛は破局を迎えるというものです。
 検事は職を追われ、そして人妻が自殺する場所が、青木ヶ原樹海なのです。今流にいうとラブサスペンスということになります。
 ※松本清張氏の年譜の中では、氏の初の「恋愛小説」となっています。

 この小説は、すぐに映画化されました。監督は中村登、日活映画でした。人妻役は有馬稲子、検事役は津川雅彦です。
 有馬さんは、1932年生まれですから、この時は、28歳。一方、津川さんは、1940年生まれですから、この時は20歳。16歳の時に『狂った果実』という映画でデビューしたばかりの若手俳優でした。
 この映画は、今もビデオで発売されています。それからTVドラマ化もされました。

ちなみに有馬さんのHPはこちらです。勝手にリンクしました。
若い頃と変わらず、いや若い頃以上にとてもお美しくいらっしゃいます。 

 この結果、青木ヶ原樹海というのは、自殺の名所となってしまいました。 


左は、青木ヶ原樹海の遊歩道のあちこちにある、自殺志願者への呼びかけ。富士吉田警察署の電話番号が書かれている。
右は、そのうちの一つに取り付けられていた、多分、民間団体か何かの自殺志願者への呼びかけビラを入れるケース。
3男D「地獄へ行くって、断定的なのが、何かすごいね。とーちゃん。」


 それでも、最初の頃は、遺体発見数はそう多くはありませんでした。
 
 右の表は、全国自殺者数と青木ヶ原樹海を管轄下に置く富士吉田署が発表した発見遺体数の年度別推移です。
 バブル前はまだまだそう多くはありません。

 ところが、バブル経済が終わり、しかも、橋本内閣以降の「大不況時代」(消費税が5%になったとき以降の大不況)になると事情が変わります。
 右の表は、全国の自殺者も一気に3万人を越え、青木ヶ原樹海遺体発見数も、50体を越えるのが普通となります。

 以前は、青木ヶ原樹海合同一斉大捜索というのがありました。
  
 合同一斉大捜索とは、毎年毎年、富士山麓に雪が降る前の10月20日前後、警察署員や消防団や防犯協会の方々が総勢300人から400人ほど出て、朝から、樹海で自殺した方の遺体の大捜索を行う行事です。

 小説が書かれてから11年目、青木ヶ原が自殺名所として「定着」?した1971年、山梨県富士吉田警察署と地元の消防団などが実施したのがその始まりです。
 これ以後これは恒例の行事となり、2000年まで続きました。この一斉大捜索で、毎年数体の遺体が発見されていました。最後となった2000年は、4遺体が発見されました。 

 私は、小説『波の塔』が書かれたときは、まだ10歳でしたから、それによって樹海が自殺の名所になったことは同時代的には知りません。

 しかし、毎年毎年行われるこの樹海大捜索をマスメディアが報道するのを聞いて、「そうか、富士山麓の樹海というのは自殺の名所なんだ」と知ったのでした。

右の表は、この旅行記を最初にアップロードした以降も、折に触れて時点修正しています。

年別全国の自殺者数 青木ヶ原樹海遺体発見数
@自殺者数は、警察庁生活安全局地域課のデータ
A樹海遺体発見数は、富士吉田署の発表を新聞、インターネットなどで収集。Aは不正確な数値も含む。
 

西暦年 自殺者数 樹海遺体
発見数
保護された人数 
1978(S53) 20,788 18  
1979(S54) 21,503 9  
1980(S55) 21,048 10  
1981(S56) 20,434 10  
1982(S57) 21,228 17  
1983(S58) 25,202 22  
1984(S59) 24,596 19  
1985(S60) 23,599 7  
1986(S61) 25,524    
1987(S62) 24,640    
1988(S63) 23,742    
1989(H01) 22,436    
1990(H02) 21,346 31  
1991(H03) 21,084 21  
1992(H04) 21,104 21  
1993(H05) 21,851 39  
1994(H06) 21,679 57  
1995(H07) 21,445 53  
1996(H08) 23,104 44  
1997(H09) 24,391 55  
1998(H10) 32,863 73  
1999(H11) 33,048 68  
2000(H12) 31,957 59  
2001(H13) 31,042 59 63
2002(H14) 32,143 78 83
2003(H15) 34,427 105  
2004(H16)

32,325

   
2005(H17) 

32,552

   
2006(H18)   32,155 77  115
2007(H19)  33,093 83  126
2008(H20)  32,249 70  161
2009(H21)  32,845 45  195
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 1995年10月24日の大捜索の様子を描いた元監察医、上野正彦氏のエッセイがあります。

 遊歩道を歩く本隊の声を目印に、捜索を行うものが両側の森の奥の方深くへと入っていくのである。6班に分かれての作業なので、1班につき数十名程度の大編成だった。
「声が聞こえないところまでは、絶対行かないように。無理せずに危ないと思ったらすぐに帰って来いよ!」

 という声が当たりに響くと、それまで漂っていたのんびりした空気もここに来て緊張を含んだものに変わった。遊歩道を歩く者たちの間でなされている大声の会話は、いわば捜索する者たちが道に迷わないようにという配慮である。捜索範囲にもかぎりがあって、真ん中の遊歩道から両側に五十メートル、無理してもせいぜいが百メートルぐらいが限界だった。 

(中略)

 実際、樹海の奥の方は、どこを見て同じような風景が広がり、平坦な場所になると完全に方向感覚を失ってしまう。空を見上げても、木々が密集する中で光を求めた枝は横に広がって視界をさえぎっているので、どちらの方向に富士山などの高い山があるのか、まったくわからない。
 決して太くはないその枝は、水平に伸びているので首吊り自殺にも適していた。それに気づいたとき、樹海が死に場所として利用されてきた理由の一つが、なんとなく理解できるようだった。
 そんな調子で悪戦苦闘していると、しばらくしてから、
「あったぞ〜」
という大声が森の奥深くから聞こえてきた。遺体を発見した時の恒例の合図のようなもので、それぞれ黙々と歩き回っていた捜索隊の面々もなんとなくざわついていた。

(中略)

 大捜索が始まってからわずか2時間あまり、年に一度の恒例行事は、すでに正午の時報を聞く前には終わっていた。約三百人の人間でにぎわっていた風穴の駐車場からは、潮が引くように人がいなくなっていった。
 以前は一日がかりの大仕事だったが、遺体捜索のコツのようなものが分かってきたせいか、最近では徐々に簡略化される傾向にあるようである。
 それでも二時間余りの捜索で発見された遺体は、腐乱したり、一部白骨化したものなど合わせて六体だった。
  ※上野正彦著『自殺死体の叫び』(ぶんか社 2000年)P20−22,34−35 


 2001年富士吉田警察署は、この一斉大捜索を、この年から中止する旨発表しました。この年以後、恒例だった秋の一斉大捜索は実施されていません。

 樹海に出かける前に、警察署に電話して予習しておかなければなりません。思い切って富士吉田警察署に電話しました。
 NTT電話番号案内に聞いたら、0555−22−0110、そうです、上の写真の立て札の電話番号です。 

係1

「富士吉田警察署です。」

「すみません。岐阜県の高校の教員なんですが、青木ヶ原の樹海と自殺のことについて、伺いたいのですが。」

係1

「何をお聞きになりたいのですか?」

 最初からちょっと、うさんくさそうな感じに受け取られています。そりゃそうでしょう。申し訳ありません。

「あの、わたくし社会科の教員なんですが、おりしも、警察庁から年間自殺者の数値が発表になって、昨年度は史上最高を記録したということが話題となっています。そこで、社会問題として自殺を取り上げ、社会科の授業の中で紹介できる素材にしたいと思っています。お手数ですが、樹海での自殺者について少し詳しく伺いたいのですが、担当の方お願いします。」

係1

「はい、わかりました。そういうことでしたら、生活安全担当と代わります。(ピンコポパンと、別の部署につながります。)」

「すみません。以前に樹海の一斉捜索は中止になったと聞いたのですが、それ以後は今でも行われていませんか?」

係2

「はい、そうです。今は一斉捜索はやっていません。」

「なぜ中止になったのですか?」

係2

「簡単に言えば、一斉捜索という、いわばイベントを実施すると、マスコミさんなどが大々的に報道されるため、それがまた自殺者を呼んでしまうという悪循環に陥っていることが分かったからです。」

「具体的にはどうなったのですか。」

係2

「10月に一斉大捜索を実施すると、その直後に自殺のために青木ヶ原にやってきて保護される人の数が増えるのです。そして、事情を聞くと、テレビとか新聞とかで青木ヶ原のことを知ったという答えが多く返ってきたのです。」

「なるほど。
 ところで、一昨年2002年は、発見遺体数は78体で過去最高だったという新聞記事を読んだのですが、昨年、2003年はどうだったのですか?」

係2

「去年の発見遺体数ですか、え〜と、それは鑑識に聞かないと分からないので・・・。ちょっと待ってください。
(ピンコポパン、と電話のお待たせ音約20秒。すみません面倒かけています。)
はい、わかりました。昨年は
100体です。」(後に調べた統計では、105体となっています。聞き取りミスかもしれません。)

「えっ、(思わず新記録と言いかけて、言葉を飲み込みました)そんなにもたくさん。全国の自殺者数の増加と比例してしまっていますね。」

係2

「残念ながらそういうことです。」

「さらに2つ質問があります。
一斉捜索をしていた時でも、その時に発見される遺体は数体ですよね。昨年の100体は、一斉捜索もされていないのですから、どうやって発見されたのですか?」

係2

「一斉捜索はしていませんが、通常のパトロールはやっています。その時に発見されます。他には、一般の方が遊歩道から少し離れて「探検」していて発見したり、あと、山菜採りに入って発見されるということもあります。」

「TVドラマのイメージでは、自殺される方は、森の奥深くへ入っていくと言う感じですが、実際は、それほど奥深くへ入って自殺されるわけではないのですね。」

係2

「人それぞれですから、よくわかりませんが、事実、遊歩道からあまり離れていないところで、たくさん見つかっています。」

「これって、人知れず死にたいという心理と、誰かに発見されたいという心理との葛藤なんでしょうかね。」

係2

「さあ、そういうことは、ちょっと分かりませんが。」

 失礼しました。
 そうですね。警察の担当の方に、「自殺者の心理学」を分析していただくのは、ちょっと専門外というものです。
 それにしても、
100体とは・・。1週間に平均2体近くになります。

「二つ目の質問です。
インターネットで見つけたニュースには、2002年には、「保護された方」が83人いたとなっていますが、この保護された方というのはどういう方ですか?」

係2

「自殺を思いとどまって、警察等に保護された人の数字です。」

「具体的にはどうやって保護されるのですか?」

係2

「まず多数派は自分で自殺を思いとどまって助けを求める方です。最近は携帯電話がありますから、中には樹海の中から、助けてくれって電話される場合もあります。樹海の中も通話可能なエリアに含まれているところも多いですから。」

「思いとどまったものの、樹海の中から帰れなくなっちゃうわけですね。」

係2

「そうです。それから、パトロール隊や風穴の売店の方に声をかけられて保護される人もいます。」

「売店の方がですか。」

係2

「ええ、もう、ずっと営業しておられるベテランですから、警察官よりも鋭い方もおられます。観光地にバスで降り立った、沈んだ顔で一人でやってきてる人、なんていかにも自殺しそうな人です。」

「いろいろ勉強になりました。ありがとうございました。」

実は電話は2度かけていますが、上記の文章は、2回の問答を合成して作りました。富士吉田警察署の担当の皆さんありがとうございました。

 ちょっと予習しすぎてしまいました。
 これでは、「心から楽しいピクニック」という気持ちにはなりきれない、複雑な思いです。

 でも、出発です。いざ、青木ヶ原樹海へ。    

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【2009年8月29日 追記】 ■クイズ現代社会「社会・哲学・心理」へ戻る→

 青木ヶ原樹海を持つ山梨県は、この自殺の名所によって、全国一という不名誉な記録を持っています。
 それは、「
人口10万人あたりの自殺者数」において、「山梨県が全国一」(2年連続)となっているのです。(2008(平成20)年度)
 ちなみにその数字は、
山梨県:10万にあたり39.0人全国平均:25.9人です。
 詳しく分析すると、平成20年殿度の山梨県内での自殺者数は、合計358人(前年比+16人)、男279人、女79人。身元が分かったうち県内居住者は225人、県外居住者85人、そして身元不明者48人。
 この県外居住者と身元不明者の多くが県外居住者であり、これらの方が山梨県へ来て自殺をしてしまっていることから、県内での自殺者(これは、その県内で自殺して発見された人という意味です)が多くなり、10万人あたりの人数が多くなってしまうというからくりです。
 このことは、山梨県公安委員会の会議でも問題になりました。

 

 

「委員から、「昨年、新聞でも報じられたが、人口10万人当たりの自殺者の数が山梨県が全国1位と聞いているが、その実態はどうなのか。」との意見があり、生活安全部長から、「警察庁の統計上、人口10万人当たり自殺者の数は、全国平均25.9人に対し39.0人と全国のトップとなっているが、厚生労働省から出ている人口動態統計から見ると、全国平均24.4人に対し、26.1人とワースト18位に位置している。これは、山梨県の場合、富士山の樹海において自殺をする、県外居住者が多いことから、自殺者数が全国平均より多い現象を生じている。この対策として、地元富士吉田警察署を中心に『いのちをつなぐ青木ヶ原ネットワーク会議』の開催や、自殺企画者の捜索・保護用資機材及び車両を整備して自殺防止の対策を講じている。」旨の説明があった。委員から、「山梨県が、自殺率全国1位と聞いた時は非常に驚いたが、県外居住者の自殺者が多いことから統計上1位であるということで理解はできた。自殺の名所と言われている青木ヶ原の樹海に、多くの自殺志願者が来るという現状を踏まえて、積極的な広報等による防止対策を推進していただきたい。」旨の意見があり、生活安全部長から、「今後も、行政機関や民間ボランティアと連携し、防止対策を推進していきたい。」旨の説明があった。」

  ※2009(平成21)年2月25日開催、山梨県定例公安委員会会議録より引用。
  →こちらです。http://www.pref.yamanashi.jp/police/kouaniinkai/H210225.htm 
 
 
 地元の方もなかなか大変です。
 昨年(2008年)、地元の河口湖町は、次の作戦を考えました。


 ※例によって、黒板をクリックしてください。答が現れます。

 ※「Msn産経ニュース 2008年6月28日」より。以下の引用も同じです。


 カメラは、風穴や蝙蝠穴の駐車場や公衆トイレの近く、売店の近く、遊歩道の入り口など6カ所に置かれました。録画もするが、近くの売店にモニター監視を依頼するとのことでした。もしカメラを見ていて自殺志願者と疑われる人に気づいたら、売店従業員が保護。捜索願が出ている場合は、警察への捜査協力としてビデオの映像を解析し、判明を行うという物でした。

 カメラを置く心理的効果は何か?ニュースは次のように伝えています。
 

「カメラがある」ことをあえて看板で知らせることを検討しており、“静かに死なせてほしい”自殺志願者の心理を監視によって揺さぶり、思いとどまる効果を狙う。


 また、それより前、別のニュースは、ある協会が、自殺者に自殺を思いとどまらせるため、2007年1月から看板を作っていることが報じられています。


 ※例によって、黒板をクリックしてください。答が現れます。

 ※「Jcast ニュース 2008年3月6日」より。以下の引用も同じです。


 看板は、次のように効果があったそうです。
 

「看板には、「借金の解決は、必ず出来ます!私も助かりました、まずは相談しましょう!(電話03−3255−2400)
と書かれており、同協議会によれば、実際に青木ケ原樹海でこの看板を見た29人の命が救われた。 ある東京都の女性は、青木ケ原樹海でこの看板を見て、07年3月に同協議会に「これから死のうと思う、紐を木にかけて首を吊ろうとしている」と電話。サラ金5社から約250万円を借り、10年以上返済に追われたことを苦にしているとのことだった。
 電話を受けた相談員は「完全に過払いになっている、払わなくてもよくなる、払いすぎたお金は取り戻すことが出来る、死んではいけない」と必死に呼びかけ、司法書士と相談して命が救われたという。」


 しかし、これらの作戦もはっきりとした効果にはつながらず、山梨県は10万人あたりの自殺者数、2年連続日本一になってしまいました。


【2013年1月14日 追記】 ■山梨県が自殺者減少のために新たに打ち出した手は?  

 上述の努力にもかかわらず、山梨県は、人口10万人あたりの自殺者数の全国トップを継続しています。2007年度から2011年度まで5年連続です。
 そこで、樹海で失われる命をなくしワースト返上を実現するために、次の方策を打ち出しました。 


 ※例によって、黒板をクリックしてください。答が現れます。

 ※『朝日新聞』2012年11月24朝刊より。


 山梨県内の2011年の自殺者は312人。樹海で自殺をする人100人前後となっていますが、そのうち約半数が県外在住者です。つまり、相変わらず、他県の方がわざわざ自殺の名所の樹海へやってきて自殺をするという現象が続いているというわけです。
 この背景には、映画やテレビで樹海が自殺の名所として知れ渡っていることがあります。
 そこで、そのやっかいなイメージを払拭するために、県の行動指針として、県有地が90%以上を占める青木ヶ原では、
樹海での自殺を助長する恐れのある映画やテレビ番組の撮影は認めないとしました。
 最近は、どの県でも、映画やテレビのロケを誘致するために努力しています。これはその動きに逆らうものですが、敢えてそうせざるを得ないところに山梨県の深刻な状況があります。


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