東アジア世界2
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<解説編>
 
401 中国の紙幣の5つの文字とは?                      | 東アジア世界の問題TOPへ |

 この問題は、上海に留学したYさん(2000年7月から2004年7月まで滞在、我が未来航路、上海特派員)の情報によるものです。(Yさんは、掲示板上の「ナデシコ」さんです。)
 
 以下次の項目で説明します。 

1 中国紙幣の基本
2 5つの民族(この部分の冒頭に正解があります)
3 中国の少数民族の学習

1 中国紙幣の基本     
 さて、問題の中華人民共和国人民銀行発行の紙幣の写真です。

 表は毛沢東の肖像、裏は、黄河、長江どっちかな、渓谷ですね。
 裏の右上の部分に、「中国人民銀行」を意味する、5つの表記があります。
 
 まずは中国紙幣の基本です。
 中国の通貨は、人民元です。単位は、元、角、分 です。
 ただし、写真の10元紙幣を見てもわかるように、紙幣には、「元」ではなく、元と同じ発音の、「圓」(日本語読みなら、えん、ですね)の文字が使われています。
 
 1元=10角=100分となります。
 現在は、100元、50元、20元、10元、5元、2元、1元、5角、2角、1角、5分、2分、1分の紙幣が発行されています。
 
 2004年5月現在、為替レートは、
1元=13.57円です。
  ※刻々とかわる為替レートは、こちらでご確認ください。asahi.comの為替レートのページです。


 中国の紙幣の価値は日本と比べてどうなのでしょう。収入や物価を比べてみましょうか。

 中国大使館のHPのデータによると、職員・労働者の平均給与というのは、2000年平均で年収9371元です。
 ※在東京中華人民共和国日本大使館のHPの「人口分布の基本状況より」。
   中国大使館のトップページはこちらです。上記のデータはこちらです。

また、中国に何度も出かけていて現在の中国に詳しい方々のHPをいくつか見ても、都市のホワイトカラー(サラリーマン、勤労者の中では上層です)の平均月収は、1000元から2000元ということです。日本円に換算すると、1万3千円から2万7千円と言うところですから、日本の10分の1以下です。

 しかし、当然物価も安く、肉・野菜等は、日本の10分の1以下ということです。

 次は、ハンバーガーとコーラの比較です。
中国価格 日本価格
マクドナルドのハンバーガー  ビッグマック 9.95元(約135円) 262円
コカコーラ 2リットル(日本は1.5リットル) 4元〜5元(約53円〜67円) 約170円

  ※中国と日本との物価の一般的比較は、たとえば「中国の何でも値段と物価」が参考に
  ※マクドナルドの国際価格比較は、「THE currency site」にもあります。

2 5つの民族                         | このページの先頭へ |
 さて、お待たせしました。

 正解です。5つの文字(言語)、つまり、漢民族(中国語)以外の4つの少数民族の文字(言語)とは、下表のとおりです。 
中国語の発音のアルファベット表記
内蒙古自治区を中心に住むモンゴル族のモンゴル文字
シンジャンウイグル自治区(新彊ウイグル自治区)を中心に居住するウイグル人のウイグル文字。といってもウイグル語は、アラビア文字を表音文として使っていますから、実質はアラビア文字です。
チベット自治区を中心に住むチベット人のチベット文字
グワンシー・チワン族(広西壮族)自治区を中心に住むチワン族の言葉チワン語をアルファベットで表記したもの。チワン族は「Zhuang」と表記され、チョワン族とも表現される。チワン語は、僮語とも表記される。

 
 さて、中国史に常識があり、中国を構成する民族名をご存じの方は、あ、い、う、え、までは、比較的簡単に思いつくことができたのではないでしょうか。

 ところが、5番目は難しかったと思います。
 チワン族というのは、私自身もこれまで聞いたことはありましたが、他の3民族と並んで、人民銀行紙幣に書かれているとは思いませんでした。

 チワン族がすぐに思い浮かんだ方は中国の達人です。(自分ができなかったから、べた褒めです。)

3 中国の少数民族の学習                   | このページの先頭へ |  
 各国紙幣というのは、うまく使うと世界史の学習の素材にできることが多いことはご承知のとおりです。
 教材として最も多く使われるのは、インドのルピー紙幣でしょう。10ルピー紙幣には、英語も含めて15の言語で表記されていて、インドが多民族国家であることが一目でわかるからです。

 しかし、ヒンディー語以下インドの言語は、生徒の常識からは全く出てこない難しい言語です。
  ※インドルピーについては、「現物教材世界史 インドルピー」で扱っています。

 それに比べると、この中国紙幣の場合は、中国史の導入にも使える良品です。

 中学校の知識だけしかない生徒に、4つの民族すべてを答えさせるのは無理ですが、日本史に関係する部分もありますし、またクラスにはいろいろ物知りがいます。
 きっと、このクイズと同じ質問をすれば、クラスの総力を挙げれば、2つまたは、3つの民族は正解がでるのではないでしょうか。

 それとこれには、もうひとつポイントがあります。

 漢民族以外の中国の4つの少数民族をあげよといわれたら、むしろ、常識のある普通の方は、チワン族ではなく、満州族を思い出すのではないでしょうか。あの、清朝をつくった、満州族です。

 世界の教科書には、次のように書かれています。

  • 中国の東北地方には、農牧・狩猟生活を営む女真(女直、のち満州と改称)が住み、明の支配をうけていたが、この地方でも薬用人参や毛皮の交易がさかんになり、その利益をめぐる女真諸部族相互の争いが激化した。そのなかで16世紀末、ヌルハチが自立して女真諸部族を従え、1616年に建国して国号をアイシン(満州語で金の意)と定めた。ヌルハチは、八旗の編制や満州文字の制作など、独自の国家建設をすすめ、明に対抗した。
     ※佐藤次高・木村靖二・岸本美緒著『詳説世界史』(山川出版2003年)P158

 こののち、金は清と改称し、明の滅亡に乗じて、全中国を支配します。モンゴル人に続く、少数民族の征服王朝の誕生です。そして、この清朝が、1911年の辛亥革命まで続きます。
 この女真人=満州族の満州語や満州文字はどうなってしまったのでしょう。

 当然、最も有力に思える少数民族ですから、紙幣に書かれてもいいのでしょうか。

 この答えは、文献で調べてもよかったのですが、生の声を聞きたくて、在大阪中華人民共和国総領事館(TEL 06-6445-9481)に電話で聞きました。

「結論を言いますと、満州族は、全国に900万人以上のいます。有力な少数民族です。しかし、そのほとんどは、普通に中国語を話し漢字を使っています。満州語を話す人は、東北地方の辺境にほんの一部しかいません。
 したがって、満州人は多くても満州語は有力な言語ではありません。だから、紙幣には書かれていないのです。」
「なぜ、250年以上も君臨した満州族が自分の言語を失ったのですか?」
「金から清となった最初は、当然満州語が使われていました。しかし、時代が進むと、中国統治のために言語文化は中国語化し、満州地方へも皇帝の命令や行政文書は中国語・漢字で発せられるようになります。
 その間に、彼らは、満州語を失っていったのです。」
「つまり、皮肉にも、北京で君臨したことが、彼らをして独自言語文化を失わせたのですね。」
「そういうことです。」


 3つの自治区と、満州を地図で示します。

 新彊ウイグル自治区は、中央部にタクラマカン砂漠があり、古来は東トルキスタンと呼ばれた。トルキスタンという地名は、現在のトルコ民族の現住地であったことから付いた名前である。
 内蒙古自治区のモンゴル人は、モンゴル人民共和国と同じ民族である。
 チベット自治区は、「統一国家」として長い歴史をもつ。ソンツェン=ガンポがチベットを統一し吐蕃(とばん)を建国したのは7世紀のこと。清には宗主権を握られたが、中華民国成立ともに自治国に。
 中華民国崩壊後、独立を企てたが、中華人民共和国軍に攻め込まれ、結果的に自治区となった。


 中国には、政府の認定する民族が56あります。
 そのうちの一つ漢民族が多数派ですから、残り、55の民族が少数民族と言うことになります。

 ところで、ここでまた、目から鱗の話をします。
 ウイグル、モンゴル、チベット、満州、チワンの各民族のうち、最も人口の多いのは、何族でしょうか?
 
 答えは以下の表のとおりです。
中国の少数民族人口ベストテン
民族名 人口(万人) 主な居住地に
チワン(壮)族 1560 広西
満州族 1000 東北3省を中心に広く居住
フイ(回)族 860 寧夏回族自治区
ミャオ(苗)族 740 貴州、雲南、四川
ウイグル族 720 新彊ウイグル
イ族 650 四川、雲南
トウチャ族 570 貴州、湖南
モンゴル族 480 内蒙古
チベット族 460 チベット、四川
10 プイ(布依拠) 255 貴州

 なんと、第一位は、紙幣4民族中では一番なじみのない、チワン族です。
 その人口数は、1560万人。13億以上いる中国の中だから少数民族ですが、ヨーロッパなら確実に独立国です。(ちなみに、オランダの全人口は、1550万人ほどです。1995年の統計。)

 ※少数民族の詳細の情報は、「中国インターネットインフォメーションセンター」
   の「中国の少数民族」が詳しいです。こちらです。
 ※少数民族の数値データは、こちらから入手しました。
   中国経済産業新聞の中国情報局DATA資料庫です。
    トップはこちら。 少数民族DATAはこちら。

 これは、上海特派員さんから送ってもらった、カレンダー『民族大団結』の1ページです。
 1週間毎のカレンダーで、中国の56の民族が紹介されています。

 このページは、チワン族です。若者男女が民族衣装を着ている写真が掲載されています。