古代地中海世界
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最終更新日 2001年09月30日 ※印はこの5週間に新規掲載 
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番号 掲載月日   問                     題
301 01/09/30

英語の月の名前、January から December までの中に、世界史で登場するローマ帝国の政治家・皇帝の名前にちなんだものが二つあります。何月と何月でしょう。


<解説編>

301 英語の月の名前でローマ帝国の政治家にちなむものは?         | 古代地中海世界の問題TOPへ |  

 英語では、12個の月の名前は、次の表の右端のようになっています。この中で、ローマの政治権力者の名前にちなむものは、7月Julyと8月のAugustです。

 
Julyは、かの有名なシーザー(カエサル)Julius Caesar の名前から取られています。彼の生まれた月が7月だったことにより、のちに改称されました。
 
Augustは、カエサルの死後権力を握り、ローマ帝国初代皇帝となったオクタビアヌス Gaius Octavianus にちなんでいます。最も、彼の名前から直接関係があるのではありません。彼は、初代皇帝になり、元老院(それまでローマ共和制の中心であった貴族による合議機関)からAugustus(アウグスツス、尊厳なるものという意味)という称号を送られますが、Augustはこのアウグスツスにちなんだものです。これも、オクタビアヌスの誕生月が8月であったことから、のちに改称されたものです。詳しい事情は、以下に説明します。

 このクイズは、生徒にローマ帝国の政治を一通り学習させ、「古代ローマの文化が現在の世界の文化に与えている影響」と言ったテーマで学習する際の、導入部分のものに最適です。 
 政治史の中で、ユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)の話やオクタビアヌスの話をちゃんとしておけば、クイズの正答率は高くなります。もっとも、
Julyは正答率が高いですが、Augustusはあまり高くありません。人物名ではなく称号が月の名前になっていることに生徒はなかなか気が付きません。しかも、オクタビアヌスですから、気が付いても、Octoberと言う答えが出てくる場合が多くなるからです。
 なかなかうまいクイズです。
 
 ではここで、暦の学習です。
 そもそも暦というのは、それぞれの地域でいろいろ工夫されてきたものです。エジプト・中国・メソポタミアなどそれぞれの地域には独自の暦がありました。日本も、1872年までは、中国から来た暦を改良したして使っていました。イスラム世界では、現在でも、太陰暦に基づく独特の暦を使用しています。

 古代世界の各地で考案された最初の暦の多くは、太陰暦でした。毎晩見える月の満ち欠けを基準に暦を作ることの方が、多くの人に理解されやすかったからです。
 ところが、エジプトだけは違っていました。ナイル川のナイル川の洪水の恵みによって文明を育んできたこの地域では、太陽の動きによって巡り来る一年の洪水の時期を予言することが第一に重要だったからです。
 やがては、この太陽暦が各地の暦に取り入れられていきます。

 それでは、現在ヨーロッパ諸国や日本が使用している、グレゴリオ暦のもととなったローマの暦について説明します。
 次の表は、古代ローマ時代からの暦の変遷です。
 
@ローマのロムルス王時代 Aローマのヌマ王時代 B制定当初のユリウス暦 Cアウグスツスの修正 D現在の英語の月名
1月 Martis 軍神マースの月 31 Martis 31 Janiarius 31 Janiarius 31 January 31
2月 Aprilis 花開く月 30 Aprilis 29 Februarius 29 Februarius 28 February 28
3月 Maius 生長の女神 31 Maius 31 Martis 31 Martis 31 March 31
4月 Junius 繁茂の女神 30 Junius 29 Aprilits 30 Aprilits 30 April 30
5月 Quintilis 第5の月 31 Quintilis 31 Maius 31 Maius 31 May 31
6月 Sextilis 第6の月 30 Sextilis 29 Junius 30 Junius 30 June 30
7月 September 第7の月 30 September 29 Julius 31 Julius 31 July 31
8月 October 第8の月 31 October 31 Sextilis 30 August 31 August 31
9月 November 第9の月 30 November 29 September 31 September 30 September 30
10月 December 第10の月 30 December 29 October 30 October 31 October 31
11月 Janiarius 29 November 31 November 30 November 30
12月 Februarius 28 December 30 December 31 December 31
1年304日 355日 365日 365日 365日
※ヌマ王時代の新しい月の意味 Janiarius 門戸の神  Februarius 斎戒の月
 

古代ローマでは、紀元前8世紀初頭ののロムルス王の時代に、1年10ヶ月(304日)の暦が作られました(上表の@)。これは、基本的には太陰暦によったものと思われますが、1年を304日としており、暦法上はあまり意味のないものでした。しかし、この時の月の名前は、その後もずっと受けつがれ、基本的に今の西洋諸国の月の名前につながっています。
 この暦では、1月は軍神Martisの月であり、これは、英語では現在の3月Marchの起源となっています。5月以降は数字で何番目を意味するネーミングですが、たとえば、この時のOctoberは、8を意味する単語から作られました。のちのラテン語の8を意味する言葉、octo に気が付いてもらえると思います。あの化学で覚えた、mono di tori tetra penta hexa hepta octa ・・・のocto(octa)です。あ、もちろん、蛸(たこ)のoctopus(オクトパス)も、足8本からきた単語です。

 
 しかし、この暦では、太陽の運行とはどんどんずれていってしまいます。そこで、紀元前8世紀の終わりのヌマ王の時代には、11番目と12番目の月を加えて、1年を355日としました。

 紀元前1世紀に権力を握ったカエサルは、すでに長い間に混乱が生じていた暦を調節すべく、アレキサンドリアの天文学者ソシゲネスを顧問として、暦法の改正に着手しました。この結果、紀元前45年、新しい暦が作られました。これが、ユリウス暦です。
 これまでの中途半端な太陰暦を捨てて、平年365日、4年の一度366日の閏年をおく、1年365.25とする太陽暦法を採用しました。
 
 但し、この時現在にまで影響を及ぼす二つの作為がなされました。
 ひとつは、これまで春分の日のある月を年始めの月としていたのを、冬至の次の月を年の初めとしましたことです。これにより、ロムルス王時代からの暦が2ヶ月ずれてしまい、Januaryが1年の先頭の月となりました。この結果、年の後半の月は、本来の何番目という意味から2ヶ月ずつずれてしまいました。8番目であったはずのoctoberが、10月になってしまったのです。

 二つ目は、カエサルの偉業を記念して、以前のQuintillisが、Juliusと改称されました。カエサルの誕生月がQuintillisであったためです。これが、英語のJulyの起源です。

  
 ところで、2月Februariusですが、この時の改暦で、他の月と違って、平年で29日とされました。Februariusはもともと、Aのヌマ王時代に一番最後に設けられた月ですが、この時に、調節の月という意味もあって、他の月より短い28日とされたため、今回も、他の月よりも1日少ない29日とされたのです。

 さて、ユリウス暦は、紀元前27年アウグスツスとなったオクタビアヌスによって、微修正を受けます。
 彼は、改暦を担当していた神官の誤りで3日間のずれが生じていたユリウス暦を、紀元前6年から紀元後4年にかけて一度も閏年を置かないと言う方法で訂正しました。
 ついでに、彼の誕生月である
第8の月Sextilisを自らの称号にちなんでアウグストAugustと改称させ、同時に、カエサルに負けないように、30日の小の月であったのを1日加えて、31日の大の月としました。まさしく、皇帝の威厳のためにといった感じです。
 このため、大の月と小の月との配分が悪くなり、9月から12月を、大の月・小の月を逆にして、バランスを保ちました。

 そうそう、この結果割りを食ったのが2月です。もともと調整月という「使命」を持たされていたFebruarius、またしても、オクタビアヌスのAugustに1日を献上させられてしまいました。この結果、今に至るまで、2月は平年で28日となったのです。

 ※渡邊敏夫著『暦入門(暦のすべて)』(雄山閣1994年)P53
 ※宮本正太郎著『新版初等天文学』(朝倉書店1973年)P56