江戸時代4
<解説編>

515 日本で最も金を産出した鉱山は何県の何鉱山?                     問題へ     

 江戸時代のクイズとして出題しましたが、これは、佐渡金山などを通して日本史で金山・金を学習する機会が、江戸時代に多いと予想されるためのもので、正解は佐渡金山ではありません。
 少し古いですが、2001年3月段階で日本の鉱山の金産出量ベスト12は、下表のとおりとなっています。

鉱山名

所在地

産金量(t)

現状

菱刈(ひしかり)

鹿児島

113

操業中

佐渡

新潟

83

閉山

鴻之舞

北海道

73

閉山

串木野

鹿児島

56

休止中

鯛生

大分

37

閉山

山ヶ野

鹿児島

28

閉山

高玉

福島

28

閉山

大口

鹿児島

23

閉山

持越

静岡

19

閉山

土肥

静岡

18

閉山

大谷

宮城

18

閉山

※井澤英二著『岩波科学ライブラリー5 よみがえる黄金のジパング』(岩波書店1993年)P19・64などより作成。
この書では佐渡金山の産出量は、少し多めの83トン説を取っています。

 正解は、鹿児島県の菱刈鉱山です。
 鹿児島県の北端菱刈町には、江戸時代中期から金鉱脈があることが知られ、採掘が行われていました。
 1981年に国の委託を受けた金属鉱業事業団が本格的に調査した結果、大変有望な金鉱脈があることが発見され、1985年に
住友金属鉱山菱刈鉱山として開山しました。
 
 菱刈鉱山の鉱床は日本の金山史上画期的なものでした。 理由は二つあります。
 
 第1は、埋蔵鉱量中に含まれる金量が大きいこと。
 当初の調査で、鉱量は150万トンと推定されました。
 第2は、金が含まれている割合、つまり、「品位」が高いこと。
 品位は80グラム/トン(1トンあたりの鉱石から80グラムの金がとれる)で、これは、世界一の品位と考えられました。20世紀後半の世界の金の産出高の1位は、ずっと南アフリカ共和国が占めていますが、南アフリカの平均的な鉱石の品位は、5.2グラム/トンです。菱刈の鉱床が断然優れています。

 この結果、当初の埋蔵金量は、120トンと推定されました。
 これらの数値はその後の調査によって修正され、現在では、
平均品位60グラム/トン、埋蔵金量260トンと推定されています。

 この鉱山の採掘によって、日本の金の採掘量は、1980年代前半の年数トンレベルから、一気に10トンを超えるレベルに跳ね上がりました。
 
そして、1997年5月31日、それまで日本で最も金を産出したとされていた佐渡金山を抜き、菱刈鉱山が日本一の金産出鉱山となりました
 ちなみに、佐渡金山は、1601年に開山し、江戸幕府によって採掘が進められ、17世紀前半には、大量の金を産出しました。17世紀後半以降は産出量は激減しましたが、それでも、明治以降も三菱に払い下げられて採掘が続けられました。
 クイズ「517」で学習したように、佐渡金山の閉山は、なんと1989(平成元)年です。つまり、1601年から1989年まで、388年間掘り続けられたのです。
  ※この詳しい説明は旅行記「産業遺跡訪問記 新潟佐渡・群馬富岡2」をご覧ください。こちらです。→
 佐渡金山の388年間の累計産出量については、76トンから83トンまで諸説があるため、菱刈鉱山では、一番多い説の83トンを抜いた時点で「日本一達成」と宣言しました。
 
佐渡金山が388年かけて産出したものを、菱刈鉱山は、僅か12年で追い抜いてしまったのです。
  ※『朝日新聞』1997(平成8)年6月1日

 現在、菱刈鉱山では、
年間7トンから8トンほどの産出を続けており、日本の鉱山の金産出量の大半を占めています。
 したがって、2004年1月の現時点では、累計産出量は120数トンとなっているはずです。(未確認)
  
 ところで、経済産業省の「資源統計年報」(2001年)を見ると、「我が国の金生産高」として、2001年は、155.8トンという数字が記載されています。
 これは、上述の菱刈鉱山の年間7〜8トンの産出量から考えると、桁が間違っているように思えてしまいますが、どういうからくりだと思われますか。?

 実は、この数字は、精錬所での生産高です。
 日本の精錬所で精錬する場合、その原料としては、日本の金鉱山で産出する金鉱石以外に、次のものが含まれています。

  1. 海外から輸入される金鉱石

  2. 銅鉱石の製錬の副産物として混じっている金鉱石

  3. IC基盤など利用されたあとでリサイクルによって再生産される分

 したがって、産出量の10倍以上の生産高となります。  
  ※『日本国勢図会2003/04』(矢野恒太記念会2003年) 

 
現代でもできる砂金取り体験については、現物教材編をどうぞ。  

<追記>2004年1月20日記述
 携帯電話は今普通、100グラム程度の重さです。この携帯電話1個平均に約0.2〜0.3グラムの金が含まれています。これが再利用されています。
 単位を大きくすれば、携帯電話1トン分で、200グラムから300グラムの金ということです。つまり、「品位」は、200〜300グラム/トンです。
 上述の菱刈鉱山の品位と比べてみてください。3倍から5倍もあります。超優良品位となります。これらの「原料」は別名、「都市鉱山」と呼ばれています。

 この結果、たとえば、秋田県の小坂精錬所では、扱う原料の2割が、廃棄された携帯やパソコンになっているとのことです。
 携帯電話1万個で、2キロから3キロの金がとれるのですから、廃棄携帯電話はとても魅力的な資源です。
 ※細かい数値は、『朝日新聞』(2004年1月20日朝刊20面)参照