江戸時代のクイズとして出題しましたが、これは、佐渡金山などを通して日本史で金山・金を学習する機会が、江戸時代に多いと予想されるためのもので、正解は佐渡金山ではありません。
少し古いですが、2001年3月段階で日本の鉱山の金産出量ベスト12は、下表のとおりとなっています。
鉱山名 |
所在地 |
産金量(t) |
現状 |
菱刈(ひしかり)
|
鹿児島 |
113 |
操業中 |
佐渡 |
新潟 |
83 |
閉山 |
鴻之舞 |
北海道 |
73 |
閉山 |
串木野 |
鹿児島 |
56 |
休止中 |
鯛生 |
大分 |
37 |
閉山 |
山ヶ野 |
鹿児島 |
28 |
閉山 |
高玉 |
福島 |
28 |
閉山 |
大口 |
鹿児島 |
23 |
閉山 |
持越 |
静岡 |
19 |
閉山 |
土肥 |
静岡 |
18 |
閉山 |
大谷 |
宮城 |
18 |
閉山 |
|
※井澤英二著『岩波科学ライブラリー5 よみがえる黄金のジパング』(岩波書店1993年)P19・64などより作成。
この書では佐渡金山の産出量は、少し多めの83トン説を取っています。 |
正解は、鹿児島県の菱刈鉱山です。
鹿児島県の北端菱刈町には、江戸時代中期から金鉱脈があることが知られ、採掘が行われていました。
1981年に国の委託を受けた金属鉱業事業団が本格的に調査した結果、大変有望な金鉱脈があることが発見され、1985年に住友金属鉱山菱刈鉱山として開山しました。
菱刈鉱山の鉱床は日本の金山史上画期的なものでした。 理由は二つあります。
第1は、埋蔵鉱量中に含まれる金量が大きいこと。
当初の調査で、鉱量は150万トンと推定されました。
第2は、金が含まれている割合、つまり、「品位」が高いこと。
品位は80グラム/トン(1トンあたりの鉱石から80グラムの金がとれる)で、これは、世界一の品位と考えられました。20世紀後半の世界の金の産出高の1位は、ずっと南アフリカ共和国が占めていますが、南アフリカの平均的な鉱石の品位は、5.2グラム/トンです。菱刈の鉱床が断然優れています。
この結果、当初の埋蔵金量は、120トンと推定されました。
これらの数値はその後の調査によって修正され、現在では、平均品位60グラム/トン、埋蔵金量260トンと推定されています。
この鉱山の採掘によって、日本の金の採掘量は、1980年代前半の年数トンレベルから、一気に10トンを超えるレベルに跳ね上がりました。
そして、1997年5月31日、それまで日本で最も金を産出したとされていた佐渡金山を抜き、菱刈鉱山が日本一の金産出鉱山となりました。
ちなみに、佐渡金山は、1601年に開山し、江戸幕府によって採掘が進められ、17世紀前半には、大量の金を産出しました。17世紀後半以降は産出量は激減しましたが、それでも、明治以降も三菱に払い下げられて採掘が続けられました。
クイズ「517」で学習したように、佐渡金山の閉山は、なんと1989(平成元)年です。つまり、1601年から1989年まで、388年間掘り続けられたのです。
※この詳しい説明は、旅行記「産業遺跡訪問記 新潟佐渡・群馬富岡2」をご覧ください。こちらです。→
佐渡金山の388年間の累計産出量については、76トンから83トンまで諸説があるため、菱刈鉱山では、一番多い説の83トンを抜いた時点で「日本一達成」と宣言しました。
佐渡金山が388年かけて産出したものを、菱刈鉱山は、僅か12年で追い抜いてしまったのです。
※『朝日新聞』1997(平成8)年6月1日
現在、菱刈鉱山では、年間7トンから8トンほどの産出を続けており、日本の鉱山の金産出量の大半を占めています。
したがって、2004年1月の現時点では、累計産出量は120数トンとなっているはずです。(未確認)
ところで、経済産業省の「資源統計年報」(2001年)を見ると、「我が国の金生産高」として、2001年は、155.8トンという数字が記載されています。
これは、上述の菱刈鉱山の年間7〜8トンの産出量から考えると、桁が間違っているように思えてしまいますが、どういうからくりだと思われますか。?
実は、この数字は、精錬所での生産高です。
日本の精錬所で精錬する場合、その原料としては、日本の金鉱山で産出する金鉱石以外に、次のものが含まれています。
海外から輸入される金鉱石
銅鉱石の製錬の副産物として混じっている金鉱石
IC基盤など利用されたあとでリサイクルによって再生産される分
したがって、産出量の10倍以上の生産高となります。
※『日本国勢図会2003/04』(矢野恒太記念会2003年)
現代でもできる砂金取り体験については、現物教材編をどうぞ。
<追記>2004年1月20日記述
携帯電話は今普通、100グラム程度の重さです。この携帯電話1個平均に約0.2〜0.3グラムの金が含まれています。これが再利用されています。
単位を大きくすれば、携帯電話1トン分で、200グラムから300グラムの金ということです。つまり、「品位」は、200〜300グラム/トンです。
上述の菱刈鉱山の品位と比べてみてください。3倍から5倍もあります。超優良品位となります。これらの「原料」は別名、「都市鉱山」と呼ばれています。
この結果、たとえば、秋田県の小坂精錬所では、扱う原料の2割が、廃棄された携帯やパソコンになっているとのことです。
携帯電話1万個で、2キロから3キロの金がとれるのですから、廃棄携帯電話はとても魅力的な資源です。
※細かい数値は、『朝日新聞』(2004年1月20日朝刊20面)参照
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