現代の諸課題 環境3
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1102 この魚のようなマークの意味は?                                   | 問題編 |

このクイズは、最近時々登場するデトロイト在住の友人、通称デトロイト特派員のBさんの、
「ねー、このマーク知っている」という情報を元に、作成しました。感謝。


 このマークが付けられている商品のラベル全体は、下のようになっています。


 

 これは、アメリカで販売されている、geisha ブランドのマグロの缶詰のラベルです。  
  ※Geishaブランドについてまだご存じない方は、
    現物教材Geishaブランドをご覧ください。

 右のマークのアップをご覧ください。
 
とりあえずの正解、マークの生物は、魚ではなく、「Dolphin safe」、すなわち、イルカです。
 とはいっても、可愛いイルカをキャラクターにしているというわけではなく、「safe」という以上、イルカの保護に関するマークです。


 この缶詰の発売元は、日本の川鉄商事です。
 同社のGeishaブランドは、主にアメリカアジアなどの海外向けです。

 下の写真をご覧ください。
 これは、同社が日本向けにごく少数販売しているマグロ缶のラベルですが、同じマグロ缶でも、アメリカ向け商品のラベルには、「Dolphin safe」マークがありますが、日本向けにはありません。


 さてさて、ここまでで、「Dolphin Safe」が、何かアメリカにおいて特別な意味があるものだと言うことは推察できます。

 しかし、Geishaブランドは、アメリカのツナ缶詰のシェアーにおいては、マイナーな存在です。この会社だけで、アメリカ全体を論じるわけにはいきません。
 アメリカの他の企業の製品のラベルはどうなのでしょうか。
 
 さすが、我がデトロイト特派員Bさんは、その辺もぬかりありません。
 下は、彼女が送ってくれた、BUMBBLE BEE ブランドのツナ缶です。

 バンブルビー・ホールディング社というのは、アメリカの最大手の水産缶詰会社です。

 このブランドにも、「Dolphin safe」マークがあります。
 一番右端の小さなマークです。それを拡大したものが、右の写真です。
 ただし、このマークは、統一されておらず、こちらのマークには、イルカが2頭います。
 
  

 
 さて、このマークが持つ意味は何でしょう。これが、このクイズの正解の核心部分です。

 アメリカ、イルカ、保護といえば、

  1. イルカを含め、海洋性哺乳動物は減少傾向にある。

  2. 海洋性哺乳動物の保護に熱心なアメリカの市民団体が、イルカの保護を要求している。

 と言うことぐらいは想像が付きます。

 
それでも、なぜ、マグロの缶詰にイルカの保護マークなのでしょうか。

 国際捕鯨取締条約が締結されて、捕鯨が制限され始めるのが、1946年のことです。(1976年には南氷洋や北極海の商業捕鯨が禁止となります。)
 これをきっかけに海洋性哺乳動物全般に対する保護活動が活発になり、アメリカではイルカやアザラシへの保護が強まっていきました。
 1972年には、アメリカで、海洋性動物保護法が制定されました。

 そこでマグロ漁が問題となります。なぜか?

 マグロの群れとイルカはなぜか一緒にいることが多く、経験的にそれを知っていた漁師は、水面に顔を出すイルカを目印にマグロの群れの存在を見つけると言うことをしていました。

 半世紀前は、マグロ漁も、1本釣り漁とかはえ縄漁でしたから、イルカには大きな影響を及ぼしませんでした。しかし、1970年頃から大型のナイロン製の網を使った漁法がはじまり、イルカが網の中に巻き添えになって大量に窒息死してしまうということが発生しました。
 この結果、この漁法は、
イルカ混獲巻き網漁法と呼ばれるようになりました。

 その後、漁業業界の努力によって、混獲によるイルカの犠牲は少なくなっていきましたが、それとは反対に、環境保護団体・海洋生物保護団体の動きは活発化していきました。

 1990年4月、世界的に高まる圧力に耐えられなくなったアメリカの大手缶詰会社のバンブルビー、スターキスト、チキン・オブ・ザ・シーは、いわゆる「Dolphin safe tuna」、つまり、イルカを殺さずに捕獲したマグロのみを取り扱うという合意を余儀なくされました。
 
 このあと、1991年には、イルカ保護消費者情報法が制定され、イルカの混獲が一定基準以下のマグロを原料とする加工品には、Dolphin safe マークを添付することができる制度が導入されました。
 この結果、事実上、
イルカ混獲巻き網漁法によって捕獲されたマグロは、アメリカ市場で売れなくなってしまいました。
 
 つまり、このマークを付けていない、
イルカ混獲巻き網漁法でとったマグロを使う会社は、賢い消費者から商品を買ってもらえないというわけです。
 さすがに、動物保護、消費者運動の先進国、アメリカです。
 
 そのマークこそが、ここで問題にしているものです。
 
 この動きの中で、確実言えることがあります。
 
イルカ混獲巻き網漁法以外のコストが高くかかる漁法では、そもそも人件費が高いアメリカの漁業業者は、まったく太刀打ちできなくなりました。
 たとえば、西海岸の軍港で有名なカリフォルニア州サンディエゴは、1990年までは、東部太平洋に出漁するアメリカのマグロ漁船の基地でしたが、今では、1隻もいなくなってしまいました。
 ※サンジェゴのマグロについては、「Good Ole Boy」さんのHPに詳しいです。こちらです。

 このようなイルカ保護政策によって、1986年には、13万3000頭であったイルカの死亡数が、1998年には、2000頭にまで減少したと報告されています。 

 ただし、アメリカ人は、決してtunaを食べなくなったわけではありません。

 そこで、輸入先を確保する意味もあるのでしょうか、アメリカ商務省は1999年に、Dolphin safe マークの表示の基準を緩和しました。
 現在では、
イルカ混獲巻き網漁法で捕獲しても、イルカを殺していないか、あるいは、過度に傷つけていない場合は、表示は許可されるとしました。
 今は、アメリカ人の食卓へ届くマグロは、メキシコ・エクアドル・ニカラグア・パナマ・ベネズエラから供給されています。
 ※詳しくは、農林水産省のサイトの、海外農業情報1999年6月10日のニュース記事へ こちらです。

これは私が苦労して撮影したオホーツク海のイルカです。北方領土旅行記をまだご覧でない方はこちらです。

 また、Dolphin safe は、ここ数年の間に、デジタル英語辞典等には、新語として新しく加えられています。

【日本について】 
 日本のグロ漁船は、はえ縄漁によって、マグロを捕獲していますので、マグロ漁船によるイルカの捕獲は問題ありません。

 ただ、別の問題があります。
 日本では、イルカ漁そのものが行われています。

 その捕獲量は年間約20,000頭で、多くは食用、一部は水族館向けに売り渡されています。漁が行われている場所は、東北・北海道、静岡県伊豆半島の富戸(ふと)、和歌山県太地、沖縄です。

 これに対し、イルカ保護、捕獲反対運動が展開されています。
  ※詳しくは、たとえば「イルカ&クジラ・アクションネットワーク」のサイトをご覧ください。こちらです。


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