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日本人のアイデンティティを考える4
   
 □正月の意味 01/12/23作成 
「生徒は正月の意味を知っているか」?

 平成9年度に開校した岐阜総合学園高校では、3年次生向けの科目として、「日本の文化」というのを開講しています。この科目を開いたねらいは、形式的には三つあります。(学校開校時には私もこの学校に在籍しており、地歴公民科の教員団の一人としてこの科目の開講を推進しました。)

  1. 日本人および日本の文化に対する理解を深め、日本人としてアイデンティティの形成に寄与せしめる。

  2. 日本の文化と他の地域の文化との比較等により異文化理解を進める。

  3. 真の国際人として1および2の両方を兼ね備え持つ人物を育てる。

 もっと本音を言えば、普通の国際交流を担当するのは高校のレベルでは英語科の教員が主役ですが、英語科教員主導の国際理解教育へ一石を投じるためのねらいもありました。
 
 いつも御世話になっている英語の先生方を悪く言うつもりはありません。しかし、高校レベルの国際交流では、英語を話すことと、表面的な日本の文化(書道とか踊りとか茶道・華道とか、形のあるものが多い)を紹介するに留まっており、
もう少し骨太の部分での交流はできていないのが実情です。
 理由は簡単です。

 英語の先生方の中には、英文学や米文学に詳しい方は多くても、日本の文化に詳しい方はあまり多くはなく、生徒も、日本の文化のとくに精神的な部分については、ほとんど知識を持っていないからです。

 「あなたの宗教は何ですか」と聞かれて、ごく平気に、そう答えることの意味もあまり考えずに、「無宗教です」といってしまうところに、日本人高校生が日本の文化を語れない現実が端的に現れています。

 2000(平成11)年、私は、岐阜総合学園高校で初めて日本の文化の授業を実施しました。
 その冒頭で、今時の普通の高校生の日本の文化に対する理解度を確認しようと、プリントに次の質問を書いて、記述方式で答えさせました。
「正月という行事は本来何のために行うものと考えるか。(正月の意味は何か)?」
  
 この時の生徒諸君の答えを分類すると次のようになりました。 (
解答した生徒は35名)

解答の分類 回答数
新年を始めるための儀式 10 28.6
人が集まってくる重要な行事 14.3
その他 11 31.4
わからない 25.7

 つまり、全体の3分の2以上の生徒は、正月の意味を聞かれてもほとんど答えることができず、正月が新年を始めるための儀式という認識でいる生徒は、全体の僅か28.6%しかいません。しかも、生徒にとって身近な、お年玉・門松・鏡餅などの意味を正確に答えることができた生徒は、皆無でした。

 繰り返しますが、結論です。日本の現代の高校生は、正月の意味すら知りません。
  


 正月の意味

 しかし、それはたぶん高校生の罪ではないと思います。なぜなら、正月の意味を学校の先生がしっかりと教えてこなかったことが原因だろうと考えられるからです。いや、先生どころか、家庭でも、ほとんどの親が、正月の意味・お年玉の意味などを教えてこなかったのが現実でしょう

 遠慮なく言えば、大人でもちゃんと説明できる方は少ないかもしれませんから、生徒諸君には、「今日はいいことを教えてあげるから、家に帰ったらお父さんやお母さんに話してごらん。きっと褒めてもらえるから。」といって持ちかけます。   
 宗教家ではありませんから、難しい言い方はしません。難しいと生徒も聞いてくれません、覚えてもくれません。

 では、「未来航路」版、正月です。
Q1

 おめでとうは誰に言う

 今では、おめでとうは家族や知人に対する挨拶です。しかし、本来はそうではありません。正月は、「年神」(としがみ)という神様を家に迎えて、新しい1年を生きるエネルギーをもらう儀式です。おいでになった「年神」を讃える言葉です。
 ここで言う年神さまとは、人々の心にあった二つの神様の合体版と考えられます。ひとつは、穀霊、稲の神様です。もうひとつは、祖霊、家族を温かく見守ってくれる祖先の神様です。
 この二つ合体して「年神」となり、この神様は、これからの1年を過ごすエネルギーを与えるために、元旦にそれぞれの家にやってくるのです。

Q2

 お節料理とは誰のための料理

 Q1が理解できればこれは簡単です。
 もちろん、お節料理は、「年神」さまへ供える料理です。もう少し詳しく言うと、年越しのハレの食膳を、おせち料理といいます。「おせち」とは節供の料理(重要な節目の日に神をまつってそなえる料理)の略で、黒豆・数の子といった材料には、健康・豊作・子孫繁栄などの縁起物が多いのは周知の所です。食膳の年取り魚は、長野県辺りを境に東はサケ、西はブリが一般的です。

Q3

 鏡餅はどんな餅

 「年神」様は、信心厚い人々へ、1年を無病息災で過ごし、五穀豊穣となるためのエネルギーを授けます。、これは「魂」と表現してもいいですし、「玉」と表現してもいいでしょう。このエネルギーの象徴が、床の間に鎮座した鏡餅です。別の見方をすれば、正月中その家にいる「年神」そのもの、つまり、御神体です。

Q4

 お年玉とは何

 お年玉は本来、「年神」がその家族の全員に与えるエネルギーです。しかし、形式的に、家族を代表してエネルギーをもらった一家の長、その家の主人が、「年神」からいただいたエネルギー(玉)を、家族に配って、家族全員にそのエネルギーが行き渡るという形になりました。昔は、おもちそのものがお年玉でした。

Q5

 雑煮は何故食べる

 雑煮は、「年神」に供えた品物を、神の加護を喜びながら神と友に食べる食事です。
 東西日本では大きな違いがあり、関東は清汁(すまし)仕立て、関西は味噌仕立て、また関東・中部地方は四角い切り餅、京阪から西は丸餅が圧倒的です。この境目のひとつは、東の岐阜県と西の滋賀県です。皇室では菱花弁(ひしはなびら:菱餅)が供されるそうです。しかし餅よりサトイモ中心の雑煮にしたり、三ガ日は餅を禁じる一族や地域もあり、それらは稲作以前にイモを中心とする食文化のあったことの名残だともいわれています。(餅なし正月)

 門松は、本来は「年神」がその家に訪れ際の依り代(よりしろ)。糊代(のりしろ)ではありません。しかし、発想は当たらずといえども遠からずです。メカ風に言えば、神様が着陸するヘリポートというところでしょうか。松は「神待つ木」、竹はしなやかな成長のシンボル。最近のミニ門松はおしゃれで、私の購入したこいつには、何故かネコがいる??

 注連縄と飾りは、神が鎮座する聖域を
示す象徴

 最近の鏡餅は、真空パック。見栄えは
変わっても、これこそ年神とエネルギー
の象徴、言い換えれば、御神体そのもの。


 これだけわかっていれば、十分蘊蓄を傾けられると思います。
 外国に行ったら、正月を語ることが日本を語る重要な部分になると思っています。
  ※永田久著『年中行事を科学する』(1989年日本経済新聞社)
  ※坪井洋文著『イモと日本人』(1979年未来社) 
 


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