そもそもの始まりは、なぜ男と女が存在するのか、もっとさかのぼるのなら、なぜ雄と雌という二つの性が存在したのか、なぜ三つではなかったの、という恐ろしい素朴な疑問から始まります。
雄雌がいて当たり前と思っていましたが、よく考えてみれば、不都合なこともいっぱいあります。
ただ単に複製を作るという点からは、クローンのように、自分と同じものを、無性生殖でどんどんつくっていく方が簡単です。
-
生殖活動というのは、とても手間がかかり、 また交尾(射精)の間は、その雌雄はとても無防備な状態になります。自然界の動物にとって、セックスが無防備状態で、危険であることの証拠は、次のことを挙げれば十分でしょう。
行動生物学者の観察によれば、類人猿の平均交尾時間は、チンパンジー平均7秒、ボノボ(ピグミーチンパンジー)15秒、ゴリラ60秒だそうです。自然界では歓喜にひたり陶酔しているようなヒマはありません。捕食者の襲撃に備えるためには、すぐに警戒モードに入らなければなりません。
この点、今の人類は、例外的です。
※ジャレド・ダイアモンド著長谷川真理子・長谷川寿一訳『人間はどこまでチンパンジーか』(新曜社1993年)
雄と雌ができて、両方の遺伝子の減数分裂と組み替えによって子孫を作っていくという手の込んだ方法が生まれたねらいは、主に次のように考えられます。自分とは異なる遺伝子を持つ相方と交配することにより、できるだけ、違ったタイプの子孫を残す可能性を高める。
クローンの様に自分と全く同じものを永遠に作り続けていけば、何か悪い現象が生じた場合、その種は一瞬にして全滅してしまいます。
したがって、生物が種としてできる限り繁栄していくには、同じ種の中に異なるタイプが存在することが重要です。それを作るための複雑な手続きが、両性の交配による減数分裂と組み替えだったのです。
ではなぜ三つの性がないのか。
三つ存在していれば、さらに組み替えは複雑になり、たくさんのバリエーションが生じます。しかし、そのために個体が保有しなければならない装置や、三つの個体がうまく「交尾」(どうやってやるんだろう)する方法や、三つがうまく巡り会う可能性など、複雑すぎて、とてもうまくいきません。
人間の場合、二人ですら、うまく結ばれないという場合が、多いのですから・・・。
すでに、3性を持つ生物が、これまで突然変異で生じていたかもしれません。しかし、上記の理由から、絶滅の道を歩んだしまっているのではないでしょうか。
というふうに、門外漢の私が簡単に書いてしまいましたが、実はもっとことは複雑なようです。専門家の話を引用します。
※長谷川真理子著『NHK人間大学4月〜6月期 オスとメス 性はなぜあるの』(1997年日本放送出版協会) |
|
「実のところ、性がなぜ存在するのか、なぜオスとメスがあらねばならないのかという疑問は、現代生物学の最大の謎の一つである。答えは、まだ完全には見つかっていない。遺伝学、生態学、分子生物学、行動学など、進化の研究に関わりのある現代生物学のすべての分野の学者たちが、謎を解こうと一生懸命になっている課題である。」 |
|
■長谷川さんの書かれた入門書としては、『オスとメス=性の不思議』(講談社現代新書1993年)があります。 |
謎は深いのです。
|