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男と女を考える
   
 □愛情とにおい 02/08/25作成 
 はじめに

 遺伝学・生物学・文化人類学、その他いろいろな先達の教えをいくつか取り混ぜながら、男と女について、考えていこうと思います。
 男と女がそれぞれ別の性に対して抱く疑問や、男と女が存在するからこそ生じる面白い現象については、それこそ、挙げたらキリがないくらいあるでしょう。一昨年も、ピーズ夫妻著藤井留美訳『話を聞かない男、地図が読めない女』(主婦の友社2000年)が話題となり、今も売れ続けています。
 
 公民科の教科書には、「人」にかかわることとして、少子高齢化を初めとして、いろいろなことが盛り込まれています。しかし、男と女の性差を考えるという領域は項目名としてはありません。
 でも、これこそが、青年が大人になっていく過程で、根本的に考えていかなければならない重要なことだと思います。
幸い、「倫理」には、「青年期の課題と自己形成」という項目があり、ここでは「自らの体験や悩みを振り返ることを通して、青年期の意義と課題を理解させ、豊かな自己形成に向けて、他者と共に生きる自己の生き方について考えさせる」という領域があります。ここで話をすれば、十分授業になります。

 いいですね、地歴公民科の教員は、何を話しても、ちゃんと授業になります。 


 なぜ、性があるのか

 そもそもの始まりは、なぜ男と女が存在するのか、もっとさかのぼるのなら、なぜ雄と雌という二つの性が存在したのか、なぜ三つではなかったの、という恐ろしい素朴な疑問から始まります。
 雄雌がいて当たり前と思っていましたが、よく考えてみれば、不都合なこともいっぱいあります。

  • ただ単に複製を作るという点からは、クローンのように、自分と同じものを、無性生殖でどんどんつくっていく方が簡単です。

  • 生殖活動というのは、とても手間がかかり、 また交尾(射精)の間は、その雌雄はとても無防備な状態になります。自然界の動物にとって、セックスが無防備状態で、危険であることの証拠は、次のことを挙げれば十分でしょう。
     行動生物学者の観察によれば、類人猿の平均交尾時間は、チンパンジー平均7秒、ボノボ(ピグミーチンパンジー)15秒、ゴリラ60秒だそうです。自然界では歓喜にひたり陶酔しているようなヒマはありません。捕食者の襲撃に備えるためには、すぐに警戒モードに入らなければなりません。
    この点、今の人類は、例外的です。

     ※ジャレド・ダイアモンド著長谷川真理子・長谷川寿一訳『人間はどこまでチンパンジーか』(新曜社1993年)

 雄と雌ができて、両方の遺伝子の減数分裂と組み替えによって子孫を作っていくという手の込んだ方法が生まれたねらいは、主に次のように考えられます。自分とは異なる遺伝子を持つ相方と交配することにより、できるだけ、違ったタイプの子孫を残す可能性を高める。
 クローンの様に自分と全く同じものを永遠に作り続けていけば、何か悪い現象が生じた場合、その種は一瞬にして全滅してしまいます。

  • たとえば、最近とくに話題になっている太陽光の中の紫外線によって、病的な変異が生じた場合、無性生殖ならその異変は次々に複製されていきます。

  • 新たな病原菌が襲いかかってきた場合、同じ遺伝子の個体なら、同じようにすべて病気にかかってしまいます。

 したがって、生物が種としてできる限り繁栄していくには、同じ種の中に異なるタイプが存在することが重要です。それを作るための複雑な手続きが、両性の交配による減数分裂と組み替えだったのです。
 
 ではなぜ三つの性がないのか。
 三つ存在していれば、さらに組み替えは複雑になり、たくさんのバリエーションが生じます。しかし、そのために個体が保有しなければならない装置や、三つの個体がうまく「交尾」(どうやってやるんだろう)する方法や、三つがうまく巡り会う可能性など、複雑すぎて、とてもうまくいきません。
 人間の場合、二人ですら、うまく結ばれないという場合が、多いのですから・・・。

 すでに、3性を持つ生物が、これまで突然変異で生じていたかもしれません。しかし、上記の理由から、絶滅の道を歩んだしまっているのではないでしょうか。
 
 というふうに、門外漢の私が簡単に書いてしまいましたが、実はもっとことは複雑なようです。専門家の話を引用します。

 ※長谷川真理子著『NHK人間大学4月〜6月期 オスとメス 性はなぜあるの』(1997年日本放送出版協会)

「実のところ、性がなぜ存在するのか、なぜオスとメスがあらねばならないのかという疑問は、現代生物学の最大の謎の一つである。答えは、まだ完全には見つかっていない。遺伝学、生態学、分子生物学、行動学など、進化の研究に関わりのある現代生物学のすべての分野の学者たちが、謎を解こうと一生懸命になっている課題である。」

 ■長谷川さんの書かれた入門書としては、『オスとメス=性の不思議』(講談社現代新書1993年)があります。

 謎は深いのです。


 選り好み

 チャールズ・ダーウィンは、1871年に著した『人間の由来』という書物の中で、性淘汰という理論を示しましたが、その中で、「オス間の競争とメスによる配偶者の選り好み」という二つのプロセスを考えました。
 そのうち、配偶者の獲得をめぐるオスの間の競争という考えは、当時の男中心の社会ですぐに認められました。しかし、もう一方の、配偶者の選り好みという説は、全く受け入れられませんでした。
 生物学者も、その他の知識人も、メスが積極的にオスを選ぶなどと言うことは、考えられなかったからです。

 人間界においては、女性の地位の向上によって、「メスによる選り好み」は当たり前になってきましたが、自然界でこの説が立証されたのは、まだ今から20年ほど前の、1982年のことです。
 東アフリカのコクホウジャクという鳥のメスが、オスの尾の長さに注目し、尾の長いオスを配偶者としていることが分かりました。スウェーデンの行動生態学者マルテ・アンデルソンの研究です。

 最近では、いろいろな生物でメスによる選り好みが確認され、それと遺伝子との関係も次第に明らかになってきました。つまり、尾が長いとか、羽が豪華絢爛とか言うメスを引きつける外見的要素は、実は、ウイルスや寄生虫に感染していないということと因果関係があり、メスは、尾や羽の形態で、自分と交配すべき強い遺伝子を持つオスを選んでいると言うことが分かってきたのです。


 愛情と臭い

 人間の場合、選り好みは、鳥ほど簡単ではなく、もっと文化的・社会的要素がからんでいることは周知の通りです。
 ところが、意外と素朴なことが、相手を見つける方法の基礎となっていることが分かってきました。
 それは、臭いです。
 
 もう一度、上に書いた原則を思い出してください。
 有性生殖の意義は、できるだけ自分と異なる優れた遺伝子を持つ相手と交配し、優れた遺伝要素をいろいろ取り混ぜた子どもを残すことにあります。
 優れた遺伝子の違いを人間は、どのようにして認識しているのでしょうか。

 ベルン大学の動物学者クラウス・ウィトキンス博士は、ウイルスを異物として認識し排除機能を制御する遺伝子である主要素式適合性複合体遺伝子(MHC)に注目しました。配偶者が自分と似たMHC遺伝子を持っていると、減数分裂組み替えをしても、排除できるウイルスはあまりおおくはならず、異なった遺伝子を持っている場合は、子どものウイルス排除機能は強化されます。
 
 マウスでは、このMHC遺伝子セットが、尿中に特有なタンパク質を放出するため、その尿をかぎ分けて配偶者をどのように選択するかという実験が行われました。
 
 その結果、メスのマウスに二匹のオスを選ばせると、メスはその臭いをかぎ分け、結果的に、必ず自分と異なる要素が強いMHC遺伝子を持つオスを配偶者として選択することが分かりました。
 では、人間はどうでしょうか。

 ウィトキンス博士は、44人の男子大学生と49人の女子大学生に協力を求めて実験しました。
 それぞれの男性は新しい木綿のTシャツを渡され、週末の間それを着て過ごしました。スパイスのきいた食事や香水の類など、他の要素が入り込まないようにして注意して、翌週そのシャツは実験室に届けられました。
 女性49人は、実は、排卵期にある人たちでした。この時期の女性は嗅覚が一番優れていることが分かっているからです。
 女性は、Tシャツの臭いを嗅ぎ、好感度(反対に言えば嫌悪度ですかね)の順に点数をつけていきました。するとどうでしょう、その点数と、別に調べた各女性と各男性のMHC遺伝子の異なる比率とは、見事に比例したのです。

 つまり、女性は、臭いをかぎつけて、自分と異なるMHC遺伝子を持つ男性に好感を持ったのです。
 
 もしあなたが、配偶者の汗くさい臭いをそれほど嫌と思わず好感を持ったのなら、お二人のMHCは相違点が多いのかもしれません。
 いや、むしろ、「くさい」と感じない配偶者と自然に結婚したのでしょう。
  ※デボラ・ブラム著越智典子訳『脳に組み込まれたセックス なぜ男と女なのか』(白揚社2000年)

 上記の話を「面白い」と思っていたら、同じような、別の話が先週出てきました。

 イギリスの科学誌「ニューサイエンティスト」の最新号には、アメリカデトロイトのウェイン州立大学の研究班野間と目が掲載されました。
 ※『岐阜新聞』2002年8月22日

 研究班は、6歳から25歳の子どもがいる5家族を対象に実験を行いました。
 3日間同じTシャツを着てもらった後、見知らぬ人が同じように着たTシャツと混ぜて、臭いの識別をさせたのです。次の結果が出たそうです。

  1. 父母は子どものシャツをほぼ識別でき特に母は鋭敏だったが、兄弟の違いまでは識別できなかった。

  2. すべての子どもは父のシャツを識別できた。

  3. 母のシャツは、9歳〜15歳の子どもだけが識別できた。

  4. 家族と他人のシャツとどちらのシャツの臭いを好むかを聞いたところ、他人を選ぶ人が親子とも圧倒的に多く、特に母が子どもの臭いを、子どもが父の臭いを嫌った。

  5. 異性の兄弟姉妹が互いの臭いを嫌ったのに対し、同性間の嫌悪は見られなかった。

 研究班は、この反応こそが、「近親相姦防ぐメカニズム」といっています。

 日本の日常と結びつけます。
 娘から見て、おやじの臭いは、嫌悪すべきものなのですねやっぱり。遺伝子が近いですから。

 違う情報源から、同じ内容の情報がくると、信じたくなりません?  


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