最初に、そもそも「かかし」って何だ、というところから確認しましょう。
早速、『日本国語大辞典』〔第2版第3巻〕(小学館 2001年 P346)を調べてみました。
すると、最初の説明には次のようにありました。
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「かかし【案山子・鹿驚】〔名〕(「かがし」とも)@(においをかがせるものの意の「嗅(かが)し」から)田畑が鳥獣に荒らされるのを防ぐため、それらを嫌うにおいを出して近づけないようにしたもの。獣の肉を焼いて串に刺したり、毛髪、ぼろ布などを焼いたもの竹に下げたりして田畑に置く。おどし。」 |
これは意外でした。
田畑にある人形の説明が最初にあると思ったら、なんと、広義には、「かかし」は「いやなにおいを嗅がす」からきた、田畑の鳥害防止装置全体を示すことばでした。この「かがす」語源説は、かの民俗学の大家柳田国男大先生もおっしゃったもので、定説となっているそうです。
その後に次の説明が続きます。
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「A(@から転じて)竹やわらで作った等身大、または、それより少し小さい人形。弓矢をもたせたり、蓑(みの)や笠をかぶせたりして田畑などに立てて人がいるように見せかけて作物を荒らす鳥や獣を防ぐもの。かがせ。そおず。かかし法師。」 |
このAが一般人が普通にイメージするかかしです。この辞典によれば、これは、第二義的な意味と言うことになります。
いつ頃からこのことばが使われたのかについては、次の説明がありました。
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「@からAの意に転じて用いられるようになるのは比較的新しく、中世頃からと考えられる。近世には「かがせ」という変化も生じた。古くは、「古事記−上」に「山田の曾富騰(そほど)」とあるように、「そほど」あるいは「そほづ」と呼ばれた。」 |
曾富騰については、他の文献でも確かめました。
すでに、古事記(8世紀初頭に成立)には、害鳥獣駆除の目的で田畑に置かれているものについての記述があったのです。それが、曾富騰(そほど)です。
また古事記には、大国主命の国造りをくだりに、「久延毘古(くえびこ)」という神が記述されています。この神は、「足はあっても片足しかなく歩けない存在であるが、天下のことはことごとく知っている神」と表現されており、このことから、本来は鳥追いの道具であった「かかし」が、同時に、神が依り立って田畑を守るものという位置づけとなっているとも考えられます。
この久延毘古をご神体とする神社が全国に3つあるそうです。
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山形県上山市中山 |
白鬚神社 |
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石川県鹿島郡鹿島町 |
久氏比古神社 |
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奈良県磯城郡三輪町 |
久延毘古神社 |
※佐藤信二(日本案山子研究会会長)著『案山子百科全集 呵呵誌』(2003年)P46
近世には、関東地方では主に「かかし」、関西地方では主に「かがし」と発音されていたようですが、次第に、関東発音が有力となって現代に至っているそうです。
「安山子」という漢字が当てられたこいとについては、諸説がありますが、これといった決めてのあるものはないそうです。 |