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現代「かかし」考2
現代のかかしについて考えます。本当に効果があるものでしょうか?
 
 鳥害防止策 05/10/09

 「かかし」って何だ                                  | 目次へ |

 最初に、そもそも「かかし」って何だ、というところから確認しましょう。

 早速、『日本国語大辞典』〔第2版第3巻〕(小学館 2001年 P346)を調べてみました。
 すると、最初の説明には次のようにありました。

かかし案山子鹿驚】〔名〕(「かがし」とも)@(においをかがせるものの意の「嗅(かが)し」から)田畑が鳥獣に荒らされるのを防ぐため、それらを嫌うにおいを出して近づけないようにしたもの。獣の肉を焼いて串に刺したり、毛髪、ぼろ布などを焼いたもの竹に下げたりして田畑に置く。おどし。」

 これは意外でした。

 田畑にある人形の説明が最初にあると思ったら、なんと、広義には、「かかし」は「いやなにおいを嗅がす」からきた、田畑の鳥害防止装置全体を示すことばでした。この「かがす」語源説は、かの民俗学の大家柳田国男大先生もおっしゃったもので、定説となっているそうです。
 その後に次の説明が続きます。

「A(@から転じて)竹やわらで作った等身大、または、それより少し小さい人形。弓矢をもたせたり、蓑(みの)や笠をかぶせたりして田畑などに立てて人がいるように見せかけて作物を荒らす鳥や獣を防ぐもの。かがせ。そおず。かかし法師。」

 このAが一般人が普通にイメージするかかしです。この辞典によれば、これは、第二義的な意味と言うことになります。
 いつ頃からこのことばが使われたのかについては、次の説明がありました。

「@からAの意に転じて用いられるようになるのは比較的新しく、中世頃からと考えられる。近世には「かがせ」という変化も生じた。古くは、「古事記−上」に「山田の曾富騰(そほど)」とあるように、「そほど」あるいは「そほづ」と呼ばれた。」

 曾富騰については、他の文献でも確かめました。
 すでに、古事記(8世紀初頭に成立)には、害鳥獣駆除の目的で田畑に置かれているものについての記述があったのです。それが、曾富騰(そほど)です。
 また古事記には、大国主命の国造りをくだりに、「
久延毘古(くえびこ)」という神が記述されています。この神は、「足はあっても片足しかなく歩けない存在であるが、天下のことはことごとく知っている神」と表現されており、このことから、本来は鳥追いの道具であった「かかし」が、同時に、神が依り立って田畑を守るものという位置づけとなっているとも考えられます。

 この
久延毘古をご神体とする神社が全国に3つあるそうです。 

山形県上山市中山

白鬚神社

石川県鹿島郡鹿島町

久氏比古神社

奈良県磯城郡三輪町

久延毘古神社

 ※佐藤信二(日本案山子研究会会長)著『案山子百科全集 呵呵誌』(2003年)P46

 近世には、関東地方では主に「かかし」、関西地方では主に「かがし」と発音されていたようですが、次第に、関東発音が有力となって現代に至っているそうです。
 「安山子」という漢字が当てられたこいとについては、諸説がありますが、これといった決めてのあるものはないそうです。
 


 鳥害はどのくらいなのか                                          | 目次へ |

 古事記に書かれるような昔からかかしがあるのなら、それぐらい昔から、農民は鳥によって収穫を妨げられ、田畑から鳥を追う必要が感じられていたと言うことになります。

 田畑の穀物は、鳥によってどのくらい被害を受けているのでしょうか。


 左のグラフ1は、鳥の種類ごとの作物の被害量(トン数)です。
 多い順に、A・B・Cの鳥の種類は何でしょうか?

 
グラフをクリックしてください。正解を記入したグラフに代わります。

 右のグラフ2は、作物ごとに収穫量のどのくらいが被害にあっているかを%で示すグラフです。
 豆類は、1.5%を越える被害となっています。
 では、稲はどのくらいなのでしょうか?
 
グラフをクリックしてください。正解を記入したグラフに代わります。

 農作物を食い荒らす量からいうと、やはり、カラスナンバー1で、第2位スズメ、そして意外なことに第3位ハトと続きます。市街地にすんでいるとカラスもハトも市街地の鳥というイメージがあります。ゴミ回収のゴミ袋を食い荒らすカラスは、農業にとっても大敵でした。
 
 一方、被害量の割合では、、豆類が圧倒的に多く、1.5%を越えています。
 この「現代『かかし』考」では、「秋の田んぼにあるかかし」を考える対象としていますから、稲についての被害を確認します。
 
稲は0.2%となっています。
 しかし、米の生産量は非常に大きなものですから、割合は小さくても被害量は大きくなります。

 1990年代後半以降の米の生産量が毎年900万トンぐらいですから、その0.2%として、
1万8千トンが鳥に食われていることになります。
 単位あたりの収穫量は、10アール(約1反)あたり、およそ500kgです。この1万8千トンは、360000アール=
3600ヘクタール分の水田を食べ尽くしていることになります。
 ちなみに、日本人一人あたりの1年間の米消費量は、約60kgですから、1万8千トン÷60kg=
30万人×1年分の米が鳥に食われていることになります。

 では、稲は、主にどの鳥によって被害にあっているのでしょうか?
 グラフ1のとおりカラス、ハト、スズメの順でしょうか?
 
 実はイネにたくさんの被害を与える鳥は、右のグラフ3のとおり
カルガモ・スズメ・カラスです。
 ただし、カルガモは、おもに湛水直播(たんすいちょくはん、水をためた水田に田植えではなく、直にモミを播く栽培方法。乾田直播というのもあります。)の田んぼの出芽後の苗をねらいますから、収穫期には、「活躍」しません。

 実際には、秋の収穫期には、
イネを食べる主役は、スズメです。

藤岡正博・中村和雄著『鳥害の防ぎ方』(社団法人家の光協会 2000年)P60


 イネに対する鳥害の防ぎ方                                       | 目次へ |

 さて、では現代の田んぼには、どんな「かかし」(もちろん広義の意味、鳥害防止装置)があるのでしょうか?
 まず、農業で言う、「防鳥手段」というのは、次のように大別できます。

防鳥手段の分類

説明

1 遮断・隠蔽

防鳥網やわら被覆

2 威嚇

かかし、爆音機、テープ、糸など

3 耕種的防除

耕種時期の調整などによる被害防止

4 駆除

散弾銃による駆除

5 代替餌

忌避剤を混ぜた偽物の餌

6 忌避剤

各種の薬剤

 

 このうち、ここでは、本来のかかしの意味に含まれる、2の威嚇に分類されるいろいろな道具について、さらにその効果などを調べてみました。 


 防鳥手段その1の「防鳥ネット」。これはネットの編み目の大きささえ間違えなければ確実に有効です。しかし、手間とコストはかかります。10アールあたり、10万〜20万円ほどだそうです。普通の農家ではまったく採算は取れません。
 上左は、県立岐阜農林高校の農場。(岐阜市又丸 撮影日 05/09/04)
 上右は、岐阜県農業技術センターの試験水田。(岐阜市又丸 撮影日 05/09/24)
 
 こんな写真面白くも何ともありません。


 どれが効果があるの?                                          | 目次へ |

 では、2の威嚇に含まれる各手段についてはどうでしょうか?
 専門家によると次のようになっています。

この表は、(独立行政法人)農業技術研究機構中央農業総合研究センターの耕地環境部鳥獣害研究室の資料を参考にしました。センターのトップはこちらです。研究室のページはこちらです。


「威嚇」に属する各手段の効果分類

効果

効果に関する説明

ア 爆音機・煙火類

×

騒音への苦情が出る上、鳥がすぐに慣れる

イ 複合型爆音機

騒音機と同時に物体を移動させるため効果大

ウ 回転防鳥機 

比較的早く鳥が慣れ効果が無くなる

エ 狭義のかかし

×

人に似ている方がよいが動かさないと効果なし

オ 作動形かかし

自動的に動作するかかし 動くものは効果大

カ 目玉風船

×

すぐに慣れられ数日しか効果がない

キ 天敵模型

×

すぐに慣れられ数日しか効果がない

ク 防鳥テープ・糸・テグス

被害が少ないときならないよりは増し程度

【効果】 ◎完全に防げる ○被害はほぼ必ず減る △被害は減ることもある ×効果がないか一時的な効果 

 
 専門家によると、普通のかかしなど、まったく評価を受けていません。(-.-)
 この一覧を見ると、素人でも概ねの傾向は分かります。鳥を脅かして近づけないようにするためには、音や見た目だけではまったく駄目で、動いていないといけないようです。

 以下、写真を見ながら、復習です。


 これは、クの防鳥テープですね。3アールぐらいの広めの田んぼに、まるで、装飾することに意義があるかのように凝った設定がしてありました。田んぼの保有者の美的感覚も表現されています。
 これは、鳥がきらきら光るものを嫌う習性を利用したものです。風がうまく吹いて、しかも太陽光がうまくあったっている時は、脅しになるでしょうが、この日のように、曇天でこうやって垂れ下がっているだけでは、多分効果なしですね。

(岐阜市南鏡島 撮影日 05/09/04)


 上左は、鷹の羽をぶら下げたもの(岐阜市小西郷 撮影日 05/09/04)
 上右は、カラスの模型をぶら下げたもの(本巣市石原 撮影日 05/09/04)
 どちらも、効果なしですね。


 ご存じ、目玉風船です。
 これは、一時、建造物のハトの被害防止としてももてはやされました。しかし、現在では「目玉の効果はない」ことが分かりました。
 真実と、誤解、錯覚が生じたのは、次のような事情でした。藤岡さんと中村さんの書物から引用します。赤字と改行後のスペースは、筆者が細工しました。

「このブームのきっかけは、弘前大学の城田さんの研究を取り上げたNHKテレビの”科学”番組でした。昆虫の中には、チョウやガの麹や幼虫の体に目玉模様がついているものが少なからずあります。ジャノメチョウやアゲハの幼虫などです。カイコの体にも目玉があります。なぜ、こんな特殊な模様が発達してきたのでしょうか?多くの人たちは、これは哺乳類やヘビなどの目をまねしたもので、天敵である鳥を驚かすためであると考えてきました。城田さんもそういう観点から、目玉模様の研究を行っていたのでした。

 鳥はヘビや獣の存在を警戒しますから、その目を見るとすばやく飛び去るのは確かにありそうなことです。実際、鳥が目玉模様を驚くことを示した実験もあります。もしそうなら、この性質は鳥の遺伝子に組み込まれていて、鳥は生まれながらに、この性質を持っているのではないだろうか。城田さんはそう考えたのです。

 その考えをさらに発展させて、目玉模様が鳥に恐怖を引き起こすのなら、その刺激をもっと強めていったら、鳥はもっと驚くのではないか?城田さんは、いくつかの実験を積み重ねていき、とうとうアドバルーンに目玉をつけるところまでいきました。自然界には存在しない、超大型の目玉模様を作ったのです。これを部屋の中で飼っていたムクドリに見せたところ、ムクドリは驚いて、カゴから逃げ出そうと暴れました。次に、ムクドリが集団でねぐらをとっている林の上空に、この風船を上げてみました。林の中で休んでいたムクドリの群れは、目の前にゆらゆらと上がってきた巨大な風船を見ると、いっせいに飛び立ちました。これらの模様がテレビを通して日本中に放映されたのです。

 反響はすさまじいものがありました。しばらくの間に、いろいろな種類の風船が、いろいろなメーカーから発売され出しました。形も色も大きさも種々雑多でしたが、いずれも目玉が画かれていました。風船ばかりではありません。綱に吊るすプレート状の防鳥器具などにも、必ずといっていいほど目玉模様が画かれました。

 さて、目玉風船は烏を追い払うのに役立ったのでしょうか?設置した直後は、多少、効果があったかもしれません。しかし、その効果も一週間以上持続させるのは難しかったようです。私たちは城田さんと共同で、農業研究センターの大網室の中で、キジバトを材料に使って目玉風船の効果を調べてみました。この実験を行う前に私が確かめたかったことは、
鳥が目玉風船に驚くとしたら、それは目玉のせいなのか、それとも単に風船のせいなのかということでした。このため、網室内の地面をいくつかの区画に分け、ここに同じ数のダイズを配置しました。そして、目玉風船を吊るしたところ、目玉のない風船を吊るしたところ、風船を吊るさなかったところを作ったのです。こうして、キジバトにダイズを食べさせました。初めキジバトは、風船のない区画のダイズを好んで食べていましたが、この区画のダイズが減っていくと、風船のある区画のダイズも食べ始めました。食べる速度は、目玉がある風船の区画と目玉のない風船の区画で差がないように見えました。データーを厳密に処理して検討した結果、キジバトは初めの一週問は目玉のある風船を多少避ける傾向が認められましたが、それ以降は目玉のある、なしで効果に差は認められませんでした。

 
つまり、目玉風船の追い払い効果は、風船によるものだったのです。風船を吊るすと、風によって複雑に揺れ動きます。こういった動きに鳥は警戒するのがふつうです。畑には、農家の人たちが工夫したさまざまな鳥を追い払う資材が立っています。その中で、布やビニールを棒の先に吊るした旗や吹き流しの類は、風による動きを初めから考えたものといえるでしょう。目玉風船も基本的には、これらと同じだと私は考えています。風の動きを利用するのなら、風船より旗や吹き流しの方が優れていますし、第一、安価です。

 それでは、目玉風船はどうしてあんなに普及したのでしょうか。何といってもテレビで放映された映像のためでしょう。そして、「目玉模様は獣やヘビの目に似ているから鳥が驚く」という説明が、誰もが納得できるわかりやすいものだったからでしょう。放映されたのが″科学″番組だったことも、その納得を確かなものにしたと思われます。」

藤岡正博・中村和雄著前掲書、P141〜143


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