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現代「かかし」考1

現代のかかしについて考えます。本当に効果があるものでしょうか?

 
 現代かかし群像 05/10/02
 はじめに かかし発見                         | 目次へ |  

 2005年になって、それまで通勤手段として当たり前に、普通に、使っていた自動車をやめて、雨や出張の日以外は、自転車を使って通勤するようになりました。

 というと、「健康的ですね」といったイメージですが、実は、お気楽な自転車通勤ではありません。
 というのは、わが家から勤務先までは、自動車では25分、距離にしてなんと13kmもあり、自転車では、朝は40分、帰りはたっぷり45分以上はかかるのです。長距離自転車通勤です。(朝の方が通勤時間が短いのは、こぎ手が基本的に元気なせいと、地理的に勤務地の方が自宅より低地にあるためです。帰りは上りです。(-.-))

 その苦労のおかげで、嬉しいことに、まわりのいろいろな変化や違い、小さな事象に気が付き、目が向くようになりました。温度、風、太陽、星、月、そして、いろいろな物音、香りやにおい、沿線の風景。
 これらは、ラジオや音楽を聴きながらの自動車通勤では、気にとめたり感じたりはできないものです。

 その、「見つけた物」のひとつが、秋の田んぼの風物詩、
かかしです。
 「山田の中の 1本足の
かかし」と歌っても、今の子どもたちは誰も知りません。しかし、現代ではあまり話題に上ることが少ない、このかかしに興味をもち、ちょっとこだわってみました。 


 左、通勤途上で見かけたかかし。(岐阜市又丸 撮影日 05/09/24)
 ニヒルマン 上は、奥のかかしのアップ。なかなかニヒル。 


 自転車通勤の途上でかかしを目にしたのをきっかけとなり、それ以後、あちこち出かけたりした時は、注意して田園を眺めることに心がけました。
 もちろん、ほとんどの田んぼには、かかしなどありませんが、あるところには、意外とたくさんのかかしが「いる」ことが分かりました。
 以下は、あちこちで発見したかかしの群像です。


 
 一つ一つは特に印象深いというわけではありませんが、腕の角度、曲がり具合が微妙です。 
 6体並ぶとアピール度はなかなかのものです。
 
 わが息子たちは、「
ゾンビかかし」と名付けました。映画のあのゾンビです。
(本巣市見延 撮影日05/09/17)



ブラックボーイ
 少年っぽいかかしです。顔は黒のビニールで、くすんだ感じがアートっぽくありません?
(本巣市長屋 撮影日 05/09/04)


 
 最初は、誰かが水田内にたたずんでいるのかと思いました。帽子の加減が独特の陰鬱な雰囲気を醸し出しています。
陰鬱な女性
(本巣市長屋 05/09/04)
 


 
 現代のかかしは、田園地帯にのみ出現するわけではありません。
 上と左の写真は、勤務先岐阜県庁にほど近いところで、住宅やアパート・マンションの間に田んぼが点々と残っているという地域ですが、ここにも、ちゃんとかかしがいました。
マンションの狭間かかし

(岐阜市南鏡島 撮影日 05/09/17)


 
 田んぼの畦でわいわいやっているような、「
陽気な6体」。顔の描き方が、作者の芸術傾向を示しています。
 ところで、上の
ゾンビかかしもそうですが、現代のかかしの特色は、ないところにはまったくありませんが、あるところには、集団でいることです。

 つまり、かかしの効用を信じる方は、一つなんて寂しいことはいわずに、集団でお作りになるのです。
 したがって、「山田の中の1本足のかかし」という風景は少なく、多くはみんなで力を合わせて、という「
集団防衛体制」をしいています。
(関市下山田 撮影日 05/09/10)


 かかしを作る思い                                        | 目次へ |

 では、集団でかかしを作っておられる方は、どんな思いを込めておられるのでしょう。
 とある休日、実際に農作業をしている方に聞いてみようと、出かけました。
 運良く、家から自動車でほんの5分、本巣市石原の水田に5体のかかしがあり、その日に収穫ということで、Aさんが作業中でした。早速聞いてみました。


 3反の広い田んぼの中心線にかかしが5体。(本巣市石原 撮影日 05/09/04 以下同じ)


「見事なかかしですね。この辺では珍しいですね。」

「そうじゃなー、手間がかかるんで、みんなつくらん。」

「毎年作るんですか」

「毎年作るがね。」

「顔もいろいろですね。」

「同じ顔じゃ、おもしろないから。」

油性ペン書きの顔ですが、Aさんのアート心がこもっています。

「まるで、家族中で田んぼを守っているようですね。」

「まぁ、そんなかんじかな。」

「あの、真ん中の緑のふくのかかしは、さしずめ奥さんですか?」

「えへ、そんなとこかね。」

「ちょっと撮影していいですか。」

「もっと早くきてくれりゃー、もうちっときれいじゃったに。今日刈り取じゃから。」

 右の写真が奥さんを模したかかし。
 (もうちょっと美人に作って作ってあげればね。(^.^)、でも、偶然かどうか、ほほえんだかかしになっています。)

 古くからかかしの写真を撮影し、その道では、
かかし博士の異名をもつオーソリティーの方がいらっしゃいます。片岡千治さんという、元農林省の職員の方です。
 この方は、長くとり続けたかかしの写真をまとめて、1976年に写真集『かかし』(財団法人農林統計協会発行)を発行されました。
 この中に、
女性のかかしについて興味深い記述があります。
 私のこのページには、この前後に、女性を模したかかしがたくさん登場しますが、実は、これは、昭和30年代より以前は見られなかったものだそうです。

 大事な田んぼの害鳥を追っ払うのは、当然ながら田の主である農家の男の重要な仕事であり、女性がほほえんで追っ払うなんてことはあり得なかったというわけです。
本には次のように書かれています。(赤太字は私が装飾しました。)
「 昭和三十年代の後半に入ると、高度経済成長は農村に大きな影響を与え、労働力は都合へ流れ、一気に兼業農家が増えてきました。
″カーチャン″農業のはじまりにつれて、エプロン姿のもの、買物カゴを持ったものなど、かかしの表情もどことなくやわらかく、材料にも細やかな気持ちがこめられた「女性かかし」が出現しました。これは日本かかし史上はじめてのことで″かかしの革命″といえましよう。このことからみても、かかしが田畑を守るものの身代りであることを伝えているものであります。」(前掲書P188)


「ところで、どうして苦労してこんなにたくさんのかかしを作るんですか?」

「どうしてって、おまはん、スズメを追っ払うには、かかしが一番一番。」

「かかしが一番ですか。」

「そうそう。本当は、時々田んぼの中で場所を動かすともっと効果があるがね。」

「そうですか・・・。」

「一応、この田んぼもヒモ引っ張っているけど、ヒモではあまり効果はないがな。」

 

 Aさんの言うヒモというのは、右の写真の黄色の細いヒモのことです。これが、約50cm間隔で埋められている写真の棒に結ばれていて、スズメの飛来を防止します。
 つまり、スズメが飛んでくる田んぼに、稲穂と同じ黄色いヒモを張り巡らします。すると、スズメが羽ばたきづらくなり、「あの田んぼは危険だ」と思うようになり、飛んでこなくなるという寸法です。


 田んぼをよく観察すると、かかしやヒモ以外にも、いろいろな、「害鳥駆除装置」があるようです。これは、ちょっと確認しなければなりません。
 
かかしは無用なのでしょうか、それとも、Aさんの言うように、一番効き目があるものなのでしょうか?


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