西濃鉄道石灰石専用列車と
大垣赤坂金生山01
通称「矢橋ホキ」って知っていますか?貨物列車の1編成から産業と故郷を考えます。
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 この貨物列車が主人公です  08/12/21 23/12/01大幅修正
 このシリーズの解説

 15年前に力を入れてまとめた作品の写真や資料の更新を行って,リニューアルして,新しいシリーズの開始です。
 すでに完了した地下鉄シリーズは,「目から鱗」セクションの「各地の鉄道あれこれ」シリーズの中の「地下鉄,地上に出る その1」でした。 
 今回は,同じ鉄道でも,掲載セクションが違います。この特集は,「岐阜・美濃・飛騨の話」セクションの中に,単独でテーマを設定したものです。同じ鉄道でも,主に岐阜県内を走る列車を主人公としているからです。
 その主人公はというと,下の写真に写っている
貨物列車です。
 
 テーマに「
西濃鉄道石灰石専用列車大垣赤坂金生山」として,その内容をすべて種明かししてしまっていますから,岐阜・大垣に住んでいる方は,何について書こうとしているかはお分かりと思います。
 鉄道ファンと地歴公民科教員の両方の得意技を駆使して,どちらか片方の分野の方では描けない,
石灰石専用列車金生山の物語を書こうと思っています。
 これは東京でほんの数回取材しただけの作品とは違います。何しろ地元を対象とした作品ですから,取材にかけた時間が桁違いです。すでに,この第1ページをはじめる時点で,延べ取材日数はこの6ヶ月間に40日以上となりました,取材場所は山の上から海のそばまで25カ所を越えました。撮影したデジカメ写真は,およ10000枚以上になります。
 オリジナル作品は2008年末から2009年にかけてのもので,それに2023年の新作・改定を加えたものです。
 ※ なおこの作品には,共同執筆者・撮影協力者として旧友のT氏に尽力をいただき,私が病気で動けない部分の撮影等に力を振るっていただいた。その部分については,例「T氏撮影」などと明記します。 

 能書きはこれぐらいにして,では,出発です。 


 出会い

 このシリーズを考えたきっかけは,「岐阜・美濃・飛騨」のセクションの「岐阜県の東海道線あれこれ」シリーズの18「岐阜駅の変遷5 岐阜駅周辺高架事業その3 駅本体・線路」の取材で岐阜駅に張り付いていた時, ふと偶然面白そうな貨物列車を目撃したことに始まります。
 その貨物列車が,下の写真です。


 写真01-01 石灰石輸送専用列車 岐阜駅入線          (東海道線岐阜駅 撮影日 08/04/26)

 1番線に入って岐阜駅を通過する貨物列車。
 岐阜駅はホーム3本,それぞれ両側6面6線の構造で,通過列車専用の線路はありません。したがって,上り通過貨物列車は一番北の一番線を,下り通過貨物列車は一番南の6番線を通過していきます。


 午前9時44分頃,岐阜駅1番線を電気機関車EF65に引かれた茶色の無蓋貨物列車が轟音をひびかせて通り過ぎていきました。(なお,この電気機関車EF65は現在は引退して通常使用はされておらず,時の流れを感じます。)


 写真01-02  石灰石輸送専用列車 岐阜駅から名古屋方面へ (東海道線岐阜駅 撮影日 08/04/26)

 貨物列車は,1番線を走り抜けて,名古屋方面へ向かいます。切り替えポイントがいくつもある大きな駅で,線路によって描かれる描かれる「線路模様」も鉄道ファンにはたまらないものです。  


 この貨物列車が私の目を引いた理由は,牽引している貨物列車そのものと,運んでいるなにやら白い物の特異さでした。
 最近JRの貨物列車といえば,ほとんどがコンテナ貨物列車です。これはあまり面白くありません。
 その昔,私が幼かった頃,父や祖父に連れてもらって行った岐阜駅近くの踏切では,普通電車や特急電車を見るより,貨物列車が通り過ぎるのを見るのがとても楽しみでした。その理由はいくつかあります。
 一つ目は,重いたくさん貨車を引く,電気機関車が魅力的でした。大きなモーター音をひびかせながら,タフで少しおどろおどろしい電気機関車の姿は,なかなか荘厳でした。
 二つ目は,有蓋車,無蓋車,タンク車,材木や家畜を積んだ特殊な車両などなど,貨物列車の編成の多彩さにありました。見ていて飽きない物でした。
 三つ目は,客車と違って,その多彩さ故に貨物の車両はそれぞれの長さが違っていましたから,線路のつなぎ目を越える時の音が,微妙に違ったリズムになって,面白いものでした。
 そして四つ目は,その編制の長さです。貨物列車好きの子どもは電気機関車がひいていく貨物車両の数を,必ず「一つ,二つ」と数えたものでした。あのころ東海道線を走っていた貨物専用のEH10機関車に引かれた長編成の貨物列車は,貨車の数が50を超えていたと記憶しています。ひょっとしたら,鉄道好きの男の子は,貨車の数を数えて,数字の数え方を身に付けたのかもしれません。
 
 話を元に戻します。
 最近ではコンテナ貨物列車ばかり見慣れている私には,この異様な形の,そして,なにやらたくましい感じの貨物列車は,とても新鮮に感じられました。
 この日から,この貨物列車の追っかけが始まったのです。  


 補足 JRの貨物について

 この際,ついでですから,JR貨物の現状について確認しておきます。
 
JR貨物の保有貨車を詳しく調べると次のようになっています。 



 なるほど,JR貨物の保有車両の75%以上がコンテナ車です。これでは,有蓋車や無蓋車にお目見かかることは少ないはずです。

 岐阜駅に一日いると,上下合計100本余りの貨物列車の  通過を見ることができます。(本当に丸1日駅にいたわけではありませんよ。(^.^))
 しかしそのうちの90本余りはコンテナ貨物列車です。コンテナ以外の貨物列車は,上下10本弱しかありません。そのうちの一つが,ここで話題にしている貨物列車です。

【加筆・修正】 写真01−03及び04の日本石油輸送株式会社について09/02/11加筆修正

 写真01−03 コンテナ貨車コキに化学薬品タンクを乗せたタイプ  (東海道線稲沢駅 撮影日 08/12/06)

 これはよく見ますが,貨車そのものはコンテナ貨車コキですので,面白みは今イチです。「JOT」は日本石油輸送株式会社のコンテナであることを示しています。ジシクロペンタジエン専用と書いてあります。

 写真01−04  ガソリン専用貨車            (東海道線稲沢駅 撮影日 08/12/06)

 EF64機関車2連に牽引されたガソリン専用タンク車です。この車両もJR貨物の所有ではなく,日本石油輸送株式会社の所有ということになります。
 
日本石油輸送株式会社は主に石油タンク車を用いて,国内各石油会社や石油化学会社から委託を受けた石油製品を輸送しています。全国にタンク車1202両・化成品等コンテナ16,950両(2020年段階,同社資料)を所有し,JR線などを使って輸送しています。
 写真01-03写真01-04の車両は,その所属貨車ということになります。
 写真01-04のガソリン専用貨車は,稲沢を経由して,四日市−南松本間を運行しています。岐阜駅では見られません。
 この
日本石油輸送株式会社の輸送網は,室蘭・仙台・京浜京葉地区・四日市地区と長野県以東の内陸油槽所を結んでいますので,岐阜市を含めた日本の西半分の地域の方にはなじみのない貨車ということになります。


 このままこの話を進めると,他の方のサイトにあるような,「貨物ファン」のページになってしまいます。
 寄り道はこのくらいにして,本題に戻ります。
 


 主人公紹介

 この貨物列車の正体は何でしょうか?まず脇役の機関車です。 


 写真01-05  先頭の電気機関車はEF65です。       (東海道線長良川江崎道踏切 撮影日 08/06/29)

01-05-02 2023年現在では牽引電気機関車は,EF510・EF210に換わりました。(同前 撮影日 23/11/08) 

 私が初めて矢橋ホキを見たときは,牽引している電気機関車は,1965(昭和40)年から活躍しているベテランの電気機関車,EF65でした。
 この機関車は,1979年までの14年間に308台も製造(国鉄としては最多)され,太平洋側の平坦線の直流機関区に配備されて,東海道線・山陽本線などのブルートレインの牽引を始めとして,長い間大活躍をしてきました。
 2008年現在でも,120両が在籍して,各地で頑張っています。ただし,寄る年波と時代の趨勢により,その働き口も限られてきました。現在では,定期列車を牽引する姿は僅かに見られるだけで,貨物の牽引にのみ活躍しています。 
   【参考文献】 
  『鉄道クラブvol3 EF64徹底攻略』株式会社コスミック出版 2017年 

train編集部編 『国鉄新性能電気の軌跡 直流電気機関車EF65』(イカロス出版 2008年)

  『わかる!貨物列車 2023−2024 図鑑ガイド』 Gakken Mook 2023年


 写真01−06 EF651115号機に牽引される寝台急行銀河    (旧新垂井駅跡 撮影日 07/07/16)

EF65電気機関車1115号機に牽引される,東京発大阪行きの寝台急行銀河。2008年3月のダイヤ改正で,この寝台急行も姿を消し,EF65機関車が定期列車を牽引することはなくなりました。  


 では,いよいよ主役です。
 引っ張られている貨車は,どういう貨車で,何を運んでいるのでしょうか。 


 写真01−07 貨車はホキです。これは旧国鉄時代からの古いタイプです(東海道線穂積駅 撮影日 08/12/19)

 茶色に塗装された貨車の側面には,何を積んでいるか,どこの貨車なのかの情報がきちんと書かれています。


 側面の文字を読み取ると,この貨車についての情報が得られます。
 この貨車は,「
矢橋工業株式会社」の所有貨車で,貨車の形式の名称は「ホキ」,積み荷は「石灰石専用」とのことです。
 これだけ見ただけで,岐阜や大垣に住んでいるちょっと物知りの人なら,この貨車の積み荷や出発地はわかりますね。
 そうです。
 
矢橋工業といえば,大垣の北部にある金生山という山から採掘された石灰石を加工販売している会社です。この車両は,その矢橋工業が所有し,JR貨物に登録してある車両で,矢橋工業の荷物を専用に運ぶ貨車です。側面に描かれている,「○の中に小さな○三つ」は,矢橋工業の紋章です。
 そしてその荷物はもちろん,
石灰石です。写真の貨車の上部に見えている白い物体がその石灰石です。   


 矢橋ホキ

 実はこの貨車は,その道の専門家や貨物ファンには有名な貨物列車で,「矢橋ホキ」と通称されています。その名称でインターネットで検索をかけると,ずいぶんたくさんのサイトがヒットします。

 「
矢橋」は上述のように所有会社の名前です。
 「
ホキ」というカタカナの言葉は,「」と「」の二つの意味からなります。
 「
」はホッパー車の略です。ホッパー車というのは,鉱石や石炭などを運搬する目的で作られた貨車に付けられた名前です。この貨車は石灰石などを積む時は上からコンベアーなどを使って落とし込みながら積載し,降ろす時は,実は側面の下の部分が扉になっていて,そこを外側に開いて中の石灰石等を落としながら降ろす仕組みになっている特殊な貨車のことです。「hopper」という英語は,じょうご状に粉などを流し込む容器に名付けられたことばです。
 また,二つ目の記号の「キ」は,国鉄時代以来の
積載重量を示す記号です。
 
記号なし(積載量13トン以下),(14〜16トン),(17〜19トン),(20〜24トン),(25トン以上)の5分類となっています。
 したがって,「
ホキ」の「」は,積載する石灰石の量が,最大級の25トン以上を意味します。実際には下の写真のように,なっています。 


 写真01−08 側面扉右端アップ(撮影日 08/12/19)

 写真01−09 側面扉左端アップ(撮影日 08/12/19)

 この形式のホキの諸元です。 形式ホキ9500  乙女坂駅常備 荷重 35t 自重15t 


 この矢橋工業所有のホキ9500番台の貨車は,歴史を調べると,二つのルーツをもっていることがわかりました。
 ひとつは,
ホキ2500番台で,もともと国鉄時代に石灰石運搬線用貨車として1967(昭和42)年から製造されたのに始まります。このタイプは合計192両製造されました。
 もうひとつは,
ホキ9500番台で,1970(昭和45)年から成田空港建設のための砕石輸送用に始めから私有車(新東京国際空港公団の所有)として製造されました。形や構造はホキ2500と同じで,合計193両製造されました。
 ホキ2500番台は,国鉄の車両から民間会社の車両へと移管され,9500番台に名前が変えられました。また,ホキ9500番台は空港工事完了後,石灰石専用列車として民間企業に譲渡されました。
 矢橋工業は,これらのうち,主に元ホキ2500番台を青梅線を使って石灰石を輸送していた奥多摩工業から譲渡を受け,
9500番台の番号を付けて整備しました。
 専門家によると,2009年段階で,矢橋工業にあるホキ車両は45台で,そのうち40両が使用されているそうです。5両は予備です。
  ※清水武著『RM LIBRARY99 西濃鉄道』(ネコ・パブリシング 2007年)P43などより

 この貨車の積載量は,35トンです。通常の10トン積みダンプカー3台と半分もあります。すごい積載量です。 


  また,この車両は,「乙女坂駅常備」となっています。
 この駅はどこにあるのでしょうか?

写真01−10 ホキ19500番台は,1990年代製造の車両。2008年段階では新型であった。上(東海道線長良川堤防踏切 撮影日 23/11/08)     
写真01−11 現代では写真下の,ホキ2000番台が整備され,その数は2023年段階では54輛になっている。下(同上)
 


 写真01−12 グリーンマックス社の模型                    (撮影日 08/12/20)

 9ミリゲージの列車模型にも,「ホキ2500/9500」というのがありました。 


 このページはこれぐらいにして,次は,この貨物列車が,どの駅からどの駅へ,どれぐらいの頻度で運転されているのか解明します。


 写真01−13   岐阜駅へ向かう矢橋ホキ       (東海道線岐阜駅西カーブ   撮影日 08/07/03)

 高架上のカーブ線路を通って,岐阜駅に向かう雨の日の石灰石専用列車。線路横のショッピングセンターの3階駐車場から撮影。


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