一つ前へ 「教育について」のメニューへ 次へ

 033 昼間夜間3部制と通信制併設校の卒業式 −自信、誇り、分別−

 今日は、私の勤務する昼間・夜間3部制の定時制と通信制を併設する高校の卒業式でした。

 
定時制課程164名、通信制課程136名、合計ちょうど300名の生徒諸君が卒業していきました。本校はそれまでの夜間定時制と通信制の学校が、2000年に改編されて生まれた学校です。これまでも毎年200数十名の卒業者数を出してきましたが、今回の300名というのは改編開校以来最高の数字となりました。
 
 本校ができた頃には昼間・夜間3部制の定時制の学校というのは、全国でもそれほどの数ではありませんでした。
 しかし、現在では、どこの県にも最低一つはあると言う状況になっています。
 一般の方には、午前中からやっている昼間定時制とうのは、「全日制とどう違うの?」と言うことになります。

 併設する通信制も含めて、本校の生徒の特色を列挙すれば、次のようになります。


 昔の定時制と違って、正社員として働きながら学生徒はほとんどいない。就業している場合でも、ほとんどは、アルバイトである。

 通信制においても、年齢の高い方はいるものの(今年の卒業生の最高齢は64歳)、半数以上は10代の生徒である。

 定時制は6割以上、通信制は約半分が、中学校時代に不登校または不登校傾向にあった生徒である。人間関係を作ることにストレスを感じる生徒が多い。

 家庭が経済的に苦しい生徒が少なからずいる。

 精神的な疾患や発達障害やその他の疾病など克服すべきハードルをもっている生徒が少なからずいる。


 こうした生徒諸君がたくさん入学して来るというのは、本県の教育としては、必ずしも喜ばしいことではないかもしれません。
 しかし、入学してきた生徒が、途中でへこたれず、頑張って卒業したと言うのは、大きな意味があります。


 卒業式では、次の言葉を贈りました。

 卒業の門出にあたり、みなさんにはなむけの言葉を贈ります。
 皆さんが入学した時のことを思い出してください。
 皆さんはいろいろな事情や様々な困難を抱えつつも、高校の勉強はやりたい、高校は卒業したい、という熱い想いを持ってこの学校の門をたたいたのではないでしょうか。
 同時に、多くの方は、自分とは何だろう、自分はどう生きるべきなのだろうと言うことを自問自答し、
自分のアイデンティティを探す場、自分探しの場としてこの学校を選び、少々の希望とそしてむしろたくさんの不安を胸に、この学校に入学したのではないでしょうか。
 
 それから3年、4年、いや中には通信制の方で11年かかった方もいます。その間、皆さんは自分のペースで学習し、卒業というゴールにたどり着きました。

 その間に皆さんは二つのことがわかったのではないでしょうか。
 一つは強い意志の大切さです。
この学校のモットーは、「マイペース・マイプラン」、つまり自分の意志で学習の形態を選択し、自分で進めていくことにあります。これは魅力的なシステムでもありますが、逆に言えば、自分のことは自分でするという強い意志と責任感がなければ、確実に失敗をしてしまうと言う、いわば両刃の剣の性格を持つシステムです。

 しかし、みなさんは、決して自分を見失わず、強い意志でもって見事この困難に打ち勝ちました。願いを持ち続けて努力をすること、それが成功につながること、このことを決して忘れないでください。そして、それができた自分自身に、誇りと自信を持って生きていってください。

 自分の
アイデンティティを見つけること、自分探しの旅はどうだったでしょうか。
個性的であることは魅力的と言われます。しかし、何が個性でどんな個性が魅力的なのか。これはそう簡単には答えが出せることではないと思います。しかし、少なくとも皆さんは、自分の存在を確かなものにするためには、自分自身に大事にするものが必要であること、自分を表現する必要があること、そして上手なコミュニケーションこそが、その実現にとって大事であることがわかったのではないでしょうか。

 と同時に、
どこで自分を主張し、どこで我慢するか、何が個性で何が我が儘なのかという大切な区別について、つまり、自己主張・個性・我が儘・我慢の分別についても、日々の生活の中である程度は理解したのではないでしょうか。

 卒業は、終わりであると同時に、また始まりでもあります。どの年齢の方にとっても、一つのことを学び終えたと言うことは、成長した自分がまた次へのスタートを迎えると言うことになります。

 フロンティア、すなわち
未開拓のエリアは、決して消滅することはありません。一つのフロンティアを克服すれば、また次のフロンティアが目の前に現れてくるのが、世の中の常です。そのプレッシャーに負けず、自分の無限の可能性や力を信じて、ニュー・フロンティアに挑戦していってください。また、そうしたことの繰り返しの中で、より自分らしい自分を見つけることもできていくのではないかと思います。

 春めいてきたとはいえ、外の風はまだ凛として冷たく、それはまるで皆さんを迎える社会の空気のような気がします。
しかし、それにひるんではいけません。
皆さんが得た自信と誇りを持ち、また分別をわきまえて、いつでも挑戦する気持ちで、その冷たさに敢然と向かっていってください。

 最後に、皆さんの今後のご活躍とその人生のご多幸を祈念します。


 本校に入学してくる生徒の中には、これまでの段階で、自分に自信を失っている生徒自分のあり方に非常に大きな不安を抱いている生徒自分のあるべき姿を見つけられないでいる生徒などが多くいます。

 そういう生徒にどういう教育していくべきなのかについて、 この1年間で、概ね理解することができました。

 まずは、カウンセリング・マインドをもって、不安定な心のソフトランディングを促すような体制を基本とする。

 カウンセリングやその他の指導の中で、自分のアイデンティティについて、自分探しについて、十分な時間をかける。これは、今日的に言えば、キャリア教育である。

 学力はあまり高くない生徒が多く、多くの場合、その学習活動、認知活動のレベルは高くない。学習をさせる過程で、学習内容ばかりではなく、自分の認知活動のチェックや身に付けるべき方法を教えていく。

 自己表現の方法と、コミュニケーションの方法を具体的に教えていく。(本校では、学校設定科目「演劇表現」によって、演劇による自己表現に取り組み、成果を挙げている。)

 自分と対話ができ、自分の過去を受け止めることができ、さらに自分の未来を考えられるようになったら、自己実現のための自己管理、換言すれば、自立のための自律、もっと簡単に言えば、自分のために本能や欲望を抑えて我慢することを教えていく。


 言うは易し、行うは難しです。やらなければならないことは一杯です。


一つ前へ 「教育について」のメニューへ 次へ