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 022 「学力」をめぐって4 認知心理学                             

 恥ずかしながら、まず実情をお話しします。
 私は、教員採用試験をちゃんと受かって教員になったのですが、大学の教育学部の出身ではなく、文学部史学科国史学専攻の出身です。
 そのため、教員免許の取得のために、必要な単位として教科教育法と教育心理学というのを教育学部の授業で選択しましたが、正直言って、教育の専門的知識について、ちゃんと勉強したというにはほど遠い存在です。

 したがって、日本史や世界史や、教える知識はちゃんと持っていても、それをどのように教えたら教育的に効果があるのか等については、全く知らずに教員となりました。
 教員となって、研修などでそれを学んだかといえば、実は、それも答えは No です。新任研修でも、それ以後の悉皆研修でも、そんなことについて習ったことも研究したこともありません。
 
 ではどうやって授業してきたのか。
 簡単にいえば、見よう見まねと自分の感、別の言い方をすれば、何の理論もなく「笑顔と体力」の勝負でした。

 今ここで、「学力」のシリーズの話の中で、「認知心理学」を取り上げるのは、そういう反省をこめてのものです。
 願わくは、他の先生方には、自信を持って、「自分はちゃんと勉強している。そんなこと今頃とやかく言っているのは、あなただけ。」と言っていただきたいのですが、実情は、多くの高校の先生方が、私と同じレベルではないかと思っています。

 今、教育改革が進められています。
 文部科学省は、ゆとりの中で「生きる力」をつけると言っていますが、現場の教員として、私たちはどのような手法でそれを実現するというのでしょうか。
 手柄を立てようといたずらに、適当な改良を行って、生徒を犠牲にしてしまうことはないのでしょうか。また、上から何を言われようが、30年変わらない「我が道を行く」路線を墨守して、せっかくの向上のチャンスをつぶしていってしまうことはないのでしょうか。

 その重要な核心をなす回答が、認知心理学の成果に基づく教育、学習です。
  ※認知心理学については、次の本を参考にしました。

  1. J・T・ブルーア著松田文子・森敏昭訳『授業が変わる−認知心理学と教育実践が手を結ぶとき』(北王路書房 1997年)

  2. 市川伸一編著『学習を支える認知カウンセリング−心理学と教育の新たな接点』(ブレーン出版 1993年)

  3. 市川伸一著『学ぶ意欲の心理学』(PHP研究所 PHP新書 2001年)

  4. 市川伸一著『岩波高校生セミナーA 心理学から学習をみなおす』(岩波書店 1998年)

  5. 市川伸一著『勉強法が変わる本』(岩波書店 岩波ジュニア新書 2000年)

 認知心理学は、1960年代になって、それまでの行動心理学(人間がどんな外的刺激に対してどんな行動を取るかを分析する伝統的心理学)とは違う分野の心理学として、アメリカで本格的な研究が始まり、1980年代になって、その成果を教育の現場に取り入れることの提唱が始まった新しい心理学の分野です。

 心理学といえば、学校現場では、不登校問題などを扱う臨床心理学がなじみが深いですが認知心理学は、人間の高次の認識過程(記憶すること・理解することなど)を研究対象とします。したがって、記憶の仕組み・理解の仕組みがうまく進むような学習の方法とはどういうものか、また、教師がうまく教えるにはどうすべきか、という教育活動の核心の部分に関係するものです。
 したがって、認知心理学は、現場の教師のみならず、生徒が読んでも、非常に興味深く、大いに参考になるものなのです。


 こういうことでは常にアメリカの後塵を拝する日本では、認知心理学はようやく1990年代になって注目を集め始めました。前掲書1の訳者である松田・森両広島大学教授が、「監訳者あとがき」で次ぎのように述べています。

  • 「本書との出会いは、1996年度の大学院の教育心理学演習での教科書としての使用であった。その論理の明快さと理論の実践の結合の筋道の明確さには、目を見張るものがあり、何度も「目から鱗」の感動を院生とともに味わった。アメリカの教育問題の解決のための授業の革新、ということに焦点化された本書ではあるが、「生きる力を育てる」(なんと情緒的で曖昧な!!)ということを声高に言われている今の日本の教育界にあっても、学ぶところ多大である。」(前掲書 P288)

 上記の引用部分には、私がここで、「認知心理学」を取り上げた理由が凝縮されています。

 ここで、認知心理学とは・・・・、といきたいところですが、内容の構成上、この項目で説明するのは無理と判断しました。
 このサイトの、「地歴公民科よく分かる授業」のページで詳しく解説していますのでご覧ください。


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