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 017 民間人校長の登用 その3 共感        

 本県の教育改革は、これから3年目に入ります。

 どんな改革でもそうでしょうが、改革というものは、まず、@制度的な大きな改革が行われ、Aシステムが整えられ、そして、その次ぎに、Bそれを運用する人間の意識改革が進められるつつ、C中味が新しく変えられていく、という具合に進んで、改革が本格的に具体化していくというのが常でしょう。
 これは、教育改革に限らず、政治だろうと経済だろうと、みな同じパターンだと思います。

 民間人校長の登用は、それ自体、Aのシステムの変化ではありますが、目指すところは、それ以上に、Bの教職員の意識改革であるかと思われます。

 「人間を、目標に向かってどううまく働かせるか。」
 それまでの教育界では、それが今ひとつであったからという反省からの、ニュータイプのリーダーとしての民間人校長の登用だと思います。

 そして、導入されるべき手法は、底の浅い数値管理のようなものでは意味がないことは、その2で説明しました。
 では、民間企業では、何が大切にされているのでしょうか?

 1998年に、文部省(当時)の研修講座のひとつとして、つくば市にある国立教育会館学校教育研修所で、1ヶ月間の研修を受けることができました。
 その時の研修のひとつに、生命保険会社で長く勤務されて、その時点では、スミセイリースの相談役であった金平敬之助氏の講演がありました。
 講演内容は、組織を管理するものが、組織がうまく動くためにどのように働きやすい職場を作るかというものでした。たくさん聞いた講演の中で、氏の話は、とりわけ印象に残るものでした。

 彼は、生命保険会社の勧誘員の女性をいかにうまく動かして業績を上げるかということについて、具体的に次のように話を進めました。
「私が14年間住友生命の支社長として心がけてきたのは「人事権」に頼らず「温泉」に頼らずいかに人を動かすかである。生命保険の女性勧誘員は「出世」という餌をちらつかせても何も反応しない。「温泉」につれていくといえば動くが、同じ手は何度も使えない。つまり極端な「アメ」と「むち」のどちらにも依存しないで、組織の中で人の動かす方法は何かということである。」
 
 彼は、組織の中で、自分がどのような存在であったら、存在感のある人物となりうるかについて、次の3点を上げました。「どんな私だったら人は私とともに働くことを望むだろうか。」 

  1. 明るく若々しい人。爽やかな人。前向きな人。すてきな笑顔。

  2. 誠意のある人。約束を守る人。

  3. 共感する能力を持つ人。

 1について、彼はこう付言しました。「最高の微笑みに最高の微笑みが・・・・。自分が微笑んでいない限り,相手も微笑まない。生徒の良い顔が見たければ自分が良い顔であることが必要である。」

 3については、もっと具体的に次の挿話を話してくれました。

  • 生命保険の外交員に夕方5時過ぎにお客から突然の電話が入る。
    「5時半に会ってくれ」
    30代の女性外交員にとってはお客との契約も重要だが,彼女には実は5時半に保育園に子供を迎えに行くことの方がもっと大事。
    保育園に説明の電話して,お客のもとへと向かう彼女。
    その様子を見聞きしていた上司が,次の朝真っ先に彼女に聞くべきことは何か。
    それは、契約の成立とか、仕事の内容とかではない。そんなことは、きっと彼女がうまくやってくれたに違いない。
    「 お早う。
    昨日,子どもさんを保育所へ迎えに行くのは、うまくいった?さびしい思いはさせなかった?
    これこそ共感する力のある人間のセリフである。「1日の自分の個人史」を意識してくれる上司ほど、頼れる存在はない。

 組織は、その中にいる人によって動いていくものです。
 目標設定と評価、人事の管理など、いろいろ素晴らしいシステムがあったとしても、やはり、最後は、人が人を動かすものです。変な秘密主義や、荒唐無稽、噴飯ものの数値管理よりも、それぞれにポストにある人が、それぞれの心を磨くことの方がいかに大事かを、金平氏の金言は教えてくれます。

 最後に、私の40歳を過ぎてから見いだした、経験則をひとつ。
 自分ことも、もっと上のポストの方のことも含めて、あるポストについた人は、その瞬間からそのポストについての条件をすべて満たすわけではありません。いや、むしろ、ほとんどの場合、多くの点において、条件を満たしていないという方が当たり前かと思います。
 ポストについてから、人はそれにふさわしく作られていきます。
 それを可能とするのは、本人の能力と努力と、そして、それと同じくらい重要なのは、下にいるものの、「自分の上役は自分たちで作る」(もちろんそれにつれて自分も成長するということは前提です)という気概です。

 外部から来た新しい校長が、どうやって素晴らしい校長先生に成長されていくか、私どももいろいろ勉強していきたいと思っています。


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