その代わりといえば何ですが、地歴公民科の教師らしく、なぜ、スイッチバックが必要なのかを、下の鳥瞰図を使って、説明します。
阿蘇の西側の外輪山は、立野の手前で、わずかに切れています。この地域を「立野火口瀬」と呼んでいます。
この狭い部分を、黒川と白川の二つの河川、豊肥本線と南阿蘇鉄道の二つの鉄道、そして、国道325号線が通っています。
豊肥本線と南阿蘇鉄道とでは、もちろん、豊肥本線の方が早く建設されています。
この谷に、どうして、スイッチバックが必要だったか、考察してみましょう。
当然ながら、そのまま真っ直ぐ鉄道を敷設すると、坂が急になってしまうから、スイッチバックにしたことは当たり前です。そこがこの谷の場合はどのようになっているかです。
はじめに、鉄道の場合、どのくらいの勾配まで耐えることができるのか、他の地域のデータから確認します。
現在、日本の鉄道で最も急な勾配は、大井川鉄道の井川線の90パーミルです。パーミルというのは、1000分率で、1000mの間にどれだけ標高差があるかを示した数値です。
井川線には、1000m行くと、90m上るところがあるわけです。現に存在しているのならそれぐらいの坂は登れるのかというと、それは違います。
井川線は、勾配を登るため、アプト式を採用しています。機関車の下部にあるギアと、線路のギザギザを咬み合わせて登る仕組みです。
このアプト式は、以前は、信越線の碓氷峠にも採用されていました。馬力のある電気機関車が登場してからは、アプト式は廃止になって、前から機関車で引っ張るのに加えて、後ろからも機関車で押すという方法で、峠を越えていました。(この路線は長野新幹線開業後は廃線)
この碓氷峠の勾配が、最大65パーミルでした。
電車が支障なく登れる坂として、現在の日本では、おおむね35パーミルまでを限界として路線の設定がなされています。
ところが、立野火口瀬は、そんな緩い勾配の線路は、普通なら敷設できませんでした。
下の地図をご覧ください。
ピンクの豊肥本線の場合、立野火口瀬の入口の、外輪山の北側部分(黒川の谷の上)と、立野駅のある場所の標高差は、約130mあります。
この間の距離はというと、約2kmしかありません。
つまり、普通に、線路を敷くと、130÷2000=65、つまり65パーミルの急勾配となります。普通ならアプト式を採用でもしない限り無理な勾配です。 |