このクイズは、1999年3月にアメリカのアイオワ州の州都デモインにある公立のリンカン高校の生徒81名に対して行った、「日本をどれぐらい知っているか」を聞くアンケートの結果に基づくものです。デモインは小学区制を取っているため、日本の公立高校とちがって、入試の点数による高校間学力格差はありません。そこに居住している人々がどのような経済的な地位にあるかによって学校のレベルの差はありますが、リンカン高校の場合、住民層は中の上といったところでしょうか。つまり、学習能力の高い知識のある子からそうでない生徒まで、全体として「ごく普通の高校生」に尋ねたと考えて間違いはありません。
※私がどうしてこのような調査ができるのかは次を参照。「アメリカとの草の根の交流」
81名中、日本の都市をひとつも知っていなかった(東京さえも知らない)生徒は、22人もいました。
生徒があげた都市は、次の通りです。
東京56人 広島26人 長崎25人 沖縄5人 長野3人 山梨2人 川崎2人 神戸2人 京都1人
何と東京の次は、広島・長崎です。大阪・名古屋・横浜などをあげた生徒は皆無です。長野は前年に冬季オリンピックがあったため、山梨は、アイオワ州の姉妹提携をしているためと考えられます。
広島と長崎が多いのは何故でしょう。
アメリカの高校の歴史の教科書をいくつか調べました。
Boorstin and Kelley「A History of The United
States」(1992年Prentice Hall社)
Danzer,Jorge Klor de Alva, Woloch and Wilson「The
Amerians」(1998年McDougal Little社)
Kriegger, Neill and Jantzen「World History」(1994年D.C.Heath
and Company社)
1と2はアメリカ史の教科書、3は世界史の教科書です。
1と2には、、本文中にただ1カ所、日本の都市が描かれた地図が登場します。第二次世界大戦のアジア・太平洋戦線の様子を描いたもので、日本の都市は東京。広島、長崎が示されています。
1には、次のように記述されています。
The atomic bomb, President Truman knew, might
kill many thousands of innocent Japanese.
But life for life, the odds were that it
would cost less.
On August 6, 1945, three weeks
after that
first blinding blast on the New Mexico
desert,
a sigle American B-29 dropped an
atomic bomb
on Hiroshima. About 75,000 people
were killed
outright. Tens of thousands more
perished
later from wounds or radiation. The
Japanese
still held on. A few days later another
plane
dropped an atomic bomb on Nagasaki.
Then
the Japanese finally caved in. They
announced
their surrender on August 14, 1945.
トルーマン大統領が承知していたように原子爆弾は何千もの日本の一般市民を殺戮するかもしれなかった。しかし、長い目で見れば、原爆投下の方が戦争の犠牲者は少ないだろうと見込まれた。
ニューメキシコの砂漠での極秘の点火実験から3週間後の1945年8月6日、アメリカの爆撃機B29一機が広島に原爆を投下した。約7万5千人即死し、その他に何万もの人がその時の傷や放射線障害がもとで犠牲となった。日本政府はなおも戦争を継続した。数日後別の爆撃機が長崎に原爆を投下した。この結果、日本はついに屈服した。彼らは1945年8月14日に降伏を宣言した。(日本語訳は引用者によります)
2にはもう少し詳しく記述されていますが、両者とも共通していることがあります。原爆投下が戦争を終わらせたことと、ソ連の参戦が日本の降伏に与えた影響については一言も書かれていないことです。
3は世界史の教科書ですから、日本の地図は合計三カ所に登場し、都市名も奈良・平安・鎌倉・江戸・横浜・大阪・広島・長崎と多数登場します。しかし、記述が詳しいのはやはり第二次世界大戦のところで、広島の被爆直後の惨状を伝える誰かの絵も掲載されています。しかし、記述の内容やソ連の記述がないことについては、1・2とまったく同じです。
つまり、アメリカの高校生が広島・長崎をよく知っているのは、トルーマン大統領が命令した一般市民大量殺戮兵器が両市で威力を発揮したことと、それが「戦争を早く終わらせるために是非必要であった」ということをアメリカ国民に教えることが、アメリカの「常識」となっているからでしょう。
自分の政府がしたことの事実とその正当性を国民に教えていくということでは、見事にその意図は貫かれています。 |