国際政治の諸相2
<解説編>
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301 アメリカ合衆国の全人口に占めるアフリカ系の割合は何%でしょうか。       | 問題編へ |    

 このクイズは、このままの質問では面白くありません。答える方も、焦点が絞れずに解答ができません。
 そこで、人種のうちのアフリカ系アメリカ人に絞って質問します。
 アフリカ系アメリカ人の割合は、アメリカ合衆国の、
US CENSUS BUREAU の2010年の統計によれば、
    □2.6%です。
この□の中にはどれぐらいの数字が入るでしょうか。
 黒板にすれば、次のようになります。 


 ※例によって、黒板をクリックしてください。答が現れます。


 このクイズは、いろいろな学校の授業で試みましたが、なかなか正解が出づらい質問となっています。高校生諸君は非常に高い数値を答えます。アメリカ合衆国におけるアフリカ系の人々の割合をとても多いと考えているのです。クラス全体の平均では、何と40〜50%ぐらいになってしまいます。ひどい場合だと、60とか70%という回答がでてきます。
 これは想像するに、彼らが見ているテレビのスポーツなどで登場する圧倒的多数の黒人の印象が強烈に残ってしまっているということだと思われます。中学や高校で、先生方がいくら黒人差別の話やマイノリティーの話をしても、先入観は訂正できないと言うところでしょうか。
 
 相手が高校生とかでなくて、結構常識がありそうな方々を相手に質問しても、同様の結果になります。
 数年前、京都大学の現役の大学生の方からメールをいただきました。ある授業で、大学教授が同じ質問を発し、学生が答えたそうです。その模様です。
「出た答えは「30%」「40%」はては「50%」まで、今思えばひどいものばかりでした。唯一「15%」と答えた人は、いわゆる帰国子女の人でした…。」
 また、岐阜県の高校の初任者の教員研修(いろいろな教科の先生が混じっている)の場でやっても、アフリカ系人口が半分ぐらいかもっと多いと誤解している人が多く見られます。  
 アメリカで差別といえば、まず、アフリカ系黒人に対する差別が思い浮かびます。世界史の学習においても、南北戦争以来アメリカの重要な政治課題の一つととらえられています。マイノリティの実態がイメージできなければ、アメリカ社会の正確な理解はできません。そのアフリカ系の人々は、2010年においては構成比率で、僅か12.6%です

 分数ができない大学生も深刻ですが、この問題については、社会科・地歴科・公民科の先生方が頑張らなければなりません。
 このままでは、歴史や地理やさらには英語の先生が、「差別」だ「マイノリティー」だといくら力んでも、よほどしっかり教えないと、教えたことにならないという見本のようなものになってしまいます。

 これをお読みになった先生方、試しにどの教科でも結構ですから、このクイズをやってみていただけませんか。よければ、メールをくだされば、その結果をまたこのページに掲載します。


 ちょっと本筋から離れました。
 冷静になって、アメリカの人口構成全体の解説をします。次の表をご覧ください。US CENSUS BUREAU の2010年の統計です。




 この表から考えなければならないことは、2つあります。
 
1 依然として白人(72.4%)が圧倒的な割合を占めている。
2 ヒスパニック系(16.3%)は、人種の割合におけるアフリカ系より多くなり、増加率も高い。

 少々古いデータですが、1995年のアメリカ合衆国の総人口は2億6317万人。日本とは違って、1990年代になってからも、人口増加率は1%を越えています。(日本は2007年以降減少)メキシコなどスペイン系の移民が増えているのが原因ですが、それでも2050年になっても、非ラテン系白人の比率は60%以上と推定されています。21世紀もアメリカは白人がマジョリティを形成する国ということになります。

 また、ヒスパニック系の割合がアフリカ系人口を上回ったのは、2001年7月が最初です。それ以降もヒスパニック人口の増加率は、黒人人口の増加率より高く、その差は、開いています。

 アメリカは、日本や他のヨーロッパ先進国と違い、人口は今後も増加し、年齢別人口構成も、働き盛りの30代、20代が多くなっています。アメリカ合衆国は決して高齢化社会ではありません。
 うらやましいと言うべきか、「いやはや」とあきらめるムードになるか、複雑な心境です。 


302 アメリカの高校生に知られている日本都市はの東京以外どこでしょう。  | 問題編へ |    

 このクイズは、1999年3月にアメリカのアイオワ州の州都デモインにある公立のリンカン高校の生徒81名に対して行った、「日本をどれぐらい知っているか」を聞くアンケートの結果に基づくものです。デモインは小学区制を取っているため、日本の公立高校とちがって、入試の点数による高校間学力格差はありません。そこに居住している人々がどのような経済的な地位にあるかによって学校のレベルの差はありますが、リンカン高校の場合、住民層は中の上といったところでしょうか。つまり、学習能力の高い知識のある子からそうでない生徒まで、全体として「ごく普通の高校生」に尋ねたと考えて間違いはありません。
 ※私がどうしてこのような調査ができるのかは次を参照。「アメリカとの草の根の交流」

 
 81名中、日本の都市をひとつも知っていなかった(東京さえも知らない)生徒は、22人もいました。
生徒があげた都市は、次の通りです。
 東京56人 広島26人 長崎25人 沖縄5人 長野3人 山梨2人 川崎2人 神戸2人 京都1人 
 
 何と東京の次は、
広島・長崎です。大阪・名古屋・横浜などをあげた生徒は皆無です。長野は前年に冬季オリンピックがあったため、山梨は、アイオワ州の姉妹提携をしているためと考えられます。
 
 広島と長崎が多いのは何故でしょう。
 アメリカの高校の歴史の教科書をいくつか調べました。

  1. Boorstin and Kelley「A History of The United States」(1992年Prentice Hall社)

  2. Danzer,Jorge Klor de Alva, Woloch and Wilson「The Amerians」(1998年McDougal Little社)

  3. Kriegger, Neill and Jantzen「World History」(1994年D.C.Heath and Company社)

 1と2はアメリカ史の教科書、3は世界史の教科書です。
 1と2には、、本文中にただ1カ所、日本の都市が描かれた地図が登場します。第二次世界大戦のアジア・太平洋戦線の様子を描いたもので、日本の都市は東京。広島、長崎が示されています。
 
 1には、次のように記述されています。

  • The atomic bomb, President Truman knew, might kill many thousands of innocent Japanese. But life for life, the odds were that it would cost less.
     On August 6, 1945, three weeks after that first blinding blast on the New Mexico desert, a sigle American B-29 dropped an atomic bomb on Hiroshima. About 75,000 people were killed outright. Tens of thousands more perished later from wounds or radiation. The Japanese still held on. A few days later another plane dropped an atomic bomb on Nagasaki. Then the Japanese finally caved in. They announced their surrender on August 14, 1945.

  • トルーマン大統領が承知していたように原子爆弾は何千もの日本の一般市民を殺戮するかもしれなかった。しかし、長い目で見れば、原爆投下の方が戦争の犠牲者は少ないだろうと見込まれた。
     ニューメキシコの砂漠での極秘の点火実験から3週間後の1945年8月6日、アメリカの爆撃機B29一機が広島に原爆を投下した。約7万5千人即死し、その他に何万もの人がその時の傷や放射線障害がもとで犠牲となった。日本政府はなおも戦争を継続した。数日後別の爆撃機が長崎に原爆を投下した。この結果、日本はついに屈服した。彼らは1945年8月14日に降伏を宣言した。
    (日本語訳は引用者によります)

 2にはもう少し詳しく記述されていますが、両者とも共通していることがあります。原爆投下が戦争を終わらせたことと、ソ連の参戦が日本の降伏に与えた影響については一言も書かれていないことです。
 3は世界史の教科書ですから、日本の地図は合計三カ所に登場し、都市名も奈良・平安・鎌倉・江戸・横浜・大阪・広島・長崎と多数登場します。しかし、記述が詳しいのはやはり第二次世界大戦のところで、広島の被爆直後の惨状を伝える誰かの絵も掲載されています。しかし、記述の内容やソ連の記述がないことについては、1・2とまったく同じです。

 つまり、アメリカの高校生が広島・長崎をよく知っているのは、トルーマン大統領が命令した一般市民大量殺戮兵器が両市で威力を発揮したことと、それが「戦争を早く終わらせるために是非必要であった」ということをアメリカ国民に教えることが、アメリカの「常識」となっているからでしょう。
 自分の政府がしたことの事実とその正当性を国民に教えていくということでは、見事にその意図は貫かれています。 


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