国際経済の諸相3
<解説編>
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704 国際ブランドのサンダルの製造国はどこでしょうか?             問題編へ     

 あらためて、パッケージと中味の写真を掲載します。
 問題の写真と違って、国旗の部分は隠してありませんので、すぐにどこの国のものかわかると思います。


 正解、ブラジルで製造された国際ブランドのサンダルです。

 「国際ブランドのサンダル?そんなもの知らんぞ。」とおっしゃられるかもしれませんが、これは、まだあまり知名度の高くない商品です。サンダル、正式にはビーチサンダルは、ブラジルのアルパルガダス社の製品、Havaianas(ハワイアナスと呼びます)です。
 次の項目立てで説明します。

 1何故授業でブラジルの話をするのか?

 2このサンダルの位置づけは?

 3サンダルの入手について


 1何故授業でブラジルの話をするのか?


 ブラジルは、これまでの授業でも、日本史における日本人の移民の話、公民や地理では、アマゾンの自然の話、日本への鉄鉱石の輸出の話、日系人の労働者の日本での就労の話、等々で登場する機会がありました。 

 G7とBRICsの2004年のGDP見込み。
『朝日新聞』(2005年2月6日)より
※単位は10億ドル

順位

国名 GDP

アメリカ 11,750
日本 4,621

ドイツ 2,672

イギリス 2,128

フランス 1,986

イタリア 1,649

中国 1,601

カナダ 970

12

インド 654

14

ロシア 571

16

ブラジル

558


 2005年2月にロンドンで開催された、主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(通称G7)には、すでに主要国首脳会議(G8)のメンバーとなっているロシアの他に、中国・インド・ブラジルが招かれました。(ロシアは欠席)
 中国は前回も招かれていましたが、インド・ブラジルは初めてです。国際経済を動かすには、BRICsも引き込まなければうまくいかない状況となってきたわけです。
(なおこの会議には、南アフリカも招かれました。)

しかし、これからは、新しい勢力として、それまでとは異なる登場の仕方をする場合が多くなると思われます。
 それは、国際経済におけるBRICsの一員としてです。
 BRICsというのは、英語のBrick(煉瓦)を模して作られた造語で、
B(Brazil)、R(Russia)、I(India)、C(China)の4カ国を示す言葉です。

 この言葉は、経済用語としては、まだ使われ始めたばかりです。
 2003年10月1日に、アメリカの大手証券会社、
ゴールドマン・サックス(Golodman Sachs)社が、投資家向けに発表したレポート「Dreaming With BRICs:The Path to 2050」(「BRICsと夢見る2050年への道」)の中で、初めて使いました。
 したがって、このBRICsという用語は、2004年時点では教科書にはまだ使用されていませんが、やがて授業でも話題に上る言葉となるでしょう。


 ゴールドマン・サックス社のレポートは、なかなか衝撃的なものでした。
 BRICs諸国は現在は、まだ発展途上ないしは、発展しつつも混乱を引きずっている国という印象が強いですが、レポートによると、今後、現在のペースで発展を続けると、とんでもない大きな経済勢力になります。

 つまり、
現在BRICs4カ国のGDP(国内総生産)の合計は右の表のとおりで、合計してもアメリカ1国の4分の1です。
 しかし、2039年までには、現在の1位から6位の国々アメリカ・日本・ドイツ・イギリス・フランス・イタリアのGDPの合計を上回ってしまいます。

 さらに、
2050年には、GDPの順位が、1位中国、2位アメリカ、3位インド、4位日本、5位ブラジル、6位ロシア、7位イギリスとなり、中国がアメリカを抜いて、1位に躍り出ると予測されています。

 これらの国々の成長要因は次のとおりです。
 

 

Brazil

Russia

India

China

国土が広い

851万平方km

1707万平方km

329万平方km

960万平方km

人口が多い

1億7238万人

1億4440万人

10億1754万人

 12億8497万人

鉱産資源が豊富

鉄鉱石、ボーキサイト、錫など

石油、天然ガス、石炭、鉄鉱石、銅など

鉄鉱石、石油など

石炭、石油、天然ガス、鉄鉱石など

 ※人口は、『2003/04 日本国勢図会』P15〜P21世界の国々より

 さて、その中でブラジルを取り上げます。
 つまり、他のインド・ロシア・中国に比べると、サッカーファン以外には、日本には今ひとつなじみのない国ブラジルをいかに教材にするかです。

 まず、基本的指標です。
 ブラジルは、国土面積では、中国よりやや小さい程度です。これも意外です。(もちろん日本とは桁違いで、日本の37万平方kmの22.5倍あります。
 次に
人口です。これも、日本よりも4500万人以上多く、この差は、今後ますます大きくなります。あと数年で人口が減少する日本と違って、ブラジルは今後も人口は増加します。

 以下は、第一生命経済研究所門倉貴史さんの「2005年のBRICs経済見通し(ブラジル・ロシア編)」を参考にしました。

 低迷していたブラジル経済は、2003年後半から好転し始め、04年第3四半期(7月〜9月)の実質GDP成長率は、対前年比6.1%増加となりました。この成長率は、1996年以来の高い数字です。この結果、
2004年のGDPは4.5%程の成長となると見込まれています。

 また、2005年に関しては、中国経済の減速による輸出減少が避けられないものの、全体を通しては、隣国アルゼンチンの好景気による輸出の増加など、輸出増と内需の拡大ともに期待ができ、
年率4.0%程度の成長は維持できると考えられています。 

 

 2このサンダルの位置づけは?

 さて、ここで、何故サンダルかということです。
 成長が期待できるブラジル経済ですが、現段階では、世界に通用するブラジルの工業製品というのが、あまりありません。
 発展途上国ですから、安価な賃金を利用して、OEM(相手先ブランド商品製造)や特にブランド名を必要としていない軽工業製品は多く作られていますが、たとえば、かつての日本の高度経済成長を支えた、Toyotaとか、Sonyとか、Panasonicとかの様に、世界に通用する有名ブランド、というのはまだあまりないのが現状です。

 その中で、「
ブラジル初の世界ブランド」と呼ばれているのが、このハワイアナス・サンダルです。
  ※『朝日新聞』(2005年1月3日)の記事「『ゴム草履』世界進出」の評価。
    以下の記述は、この記事を参考にしています。 


 このハアイアナスを製造しているのは、サンパウロにあるアルパルガダス社です。
 同社は靴も作るメーカーですが、サンダルは、日本のゴム草履をまねて、1962年から製造していました。とはいっても、どこにでもあるサンダルではなく、材質には独自に開発した発泡ゴムを使っています。ゴム臭さがなく、丈夫で肌触りがいいという優れものです。品質には定評がありましたが、何せサンダルですから、特にデザインとかを考えずに安価で売り出していました。このため、サンダルは「貧民街の履き物」という位置づけでした。
 しかし、このままの大量生産・安価路線を続けていけば、より労働単価の安い中国製品に取って代わられるのは明らかでした。
 
 その状況で、2000年末に新しく同社の輸出部長に就任したアンジェラ・ヒラタ(日系3世)さんは、デザインを工夫した「高級なサンダル」を路線へと舵を切り、ハワイアナス・ブランドの確立を目指しました。

 パリの高級デパート・プランタンでの販売、2003年ハリウッドのアカデミー賞授賞式での俳優への配布(
女優サンドラ・ブロックは黒いドレスに黒いハワイアナスで登場した)などの作戦が功を奏して、2004年末現在、ハワイアナスは今や世界79カ国に輸出されるブランドとなりました。
 2004年の輸出額は1500万ドル(日本円にして16億円ほど)になっています。


 ブラジル国内でももちろん高い評価を得ています。
 「安さでは中国に負ける。最先端技術では先進国に劣る。そんな中進国のブラジルが、国際市場で勝ち抜く手本を示した。」
 ※上記『朝日新聞』掲載 リオデジャネイロ連邦大学のデメロ教授(マーケティング学)の評価


 つまり、このハワイアナスは、BRICs・ブラジルを教材とする場合の、発展の象徴とできる現物教材です。

 

【追加記述】2007/02/04記述
 2006年1月に面白い本が出版されました。
 早坂隆著『世界の日本人ジョーク集』(中公新書クラレ)です。
  
 この本には、日本人を含む各国人をステレオタイプに批判するブラック・ジョークが満載されており、なかには抱腹絶倒のものもあります。

 ブラジルに関するジョークがひとつだけ記載されていますので、追記します。

 内容は、アメリカの「産業の空洞化」を皮肉ったものです。

「●失業中のトムの一日
 アメリカ人トムは現在、失業中である。
 朝7時には時計(日本製)のアラームが鳴る。コーヒーメーカー(台湾製)がゴボゴボいっている間に、彼は顔を洗いタオル(中国製)で拭く。電気カミソリ(香港製)できれいに髭も剃る。
 朝食をフライパン(中国製)で作ったあと、電卓(日本製)で今日はいくら使えるかを計算する。
 腕時計(台湾製)をラジオ(韓国製)の時報で合わせ、クルマ(ドイツ製)に乗り込み、仕事を探しにいく。
 しかし、今日もいい仕事は見つからず、失意とともに帰宅する。彼は〔   〕(ブラジル)に履き替え、ワイン(フランス製)をグラスに注ぎ、豆料理(メキシコ製)をつまみながら、テレビ(インドネシア製)をつけて考える。
「どうしてアメリカにはこうも仕事がないのだろうか・・・・・」


  〔  〕の中は、もちろん、サンダルです。


早坂隆著『世界の日本人ジョーク集』(中公新書クラレ)は、クイズ現代社会・日本の文化でも紹介しています。
こちらです。→


 3サンダルの入手について

 サンダルは、普通のお店で売っているかもしれませんが、探し回る時間がとれませんので、例によって、インターネットで捜して購入しました。
 ちなみに、2005年1月30日現在、大手の検索システムで「ハワイアナス」を検索すると、まだ、90件ほどしかヒットしません。
 ただし、「yahoo.com」で「Havaianas」で検索すると、全世界では、10万7000件もヒットします。 日本よりも、世界規模で認知されていることがわかります。
  ※ひとつだけ、Havaianas Asiaのサイト(英文)を紹介します。こちらです。→http://www.havaianasasia.com
 
 私が購入した今回の製品は、ブラジル国旗が付いたそもののずばり製品名「ブラジル」です。
 購入先は、株式会社イーサプライです。
  ※同社のon line shoppingのポータルサイトは、
    こちらです。→http://www.snowexpress.ne.jp/shop_intro/index.html
    ハワイアナスのショッピングサイトは、
    こちらです。→http://www.snowexpress.ne.jp/shop_intro/detail/havaianas.html



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