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旅先で見たふしぎな光景01
 旅先で見たふしぎな光景について公民地歴科の学習とつなげて紹介します。

 シリーズの説明   2012/06/25記述

 新しいシリーズの最初ですので、シリーズをつくるに当たっての説明をします。
 たびに出かけると、自分たちが見ている日常とはちょっと異なる、その土地ならではのふしぎな光景に出くわします。このサイトでは、基本的には、旅行に出かけて見聞きしたことは、→「旅行記・海外情報」で紹介しています。
 このページでは、旅行記に表現できなかった、トッピックス的なもの、事情があって旅行記に仕立てられないもの(多くは出張のついでの光景)などの中から面白そうなものを紹介します。
 TVでは「なるほど珍百景」という、とても面白い番組が続いていますが、このサイトでは、あくまで「公民地歴科教師」が授業の参考になるようにという視点から書きますので、たんなる「面白い光景」とは異なりますので、ちょっぴりご期待下さい。


 月の□□が見える町 佐賀県太良町

 最初の項目は、佐賀県太良町の話題です。この町へは、2010(平成22)年6月、ちょうど2年前に出かけました。佐賀市である教育組織の研究が開かれ、そこへ出張した時に、余暇の時間に計画的に出かけたものです。いつもの早朝探検です。朝5時前に起きて雨の中を出かけました。
 
 JR長崎本線の多良駅(太良町ですが駅名は多良駅)に降り立った時、ふしぎな観光キャッチコピーを眼にしました。それがこのページの話題です。


 01-01  これはJR長崎本線多良駅の前の観光案内の看板に書かれていた文字。(撮影日 10/06/18)

 月の何が見えるというのでしょうか?


 佐賀県太良町はどこあるか

 答えを示す前に、予備知識がない方のために、佐賀県太良町の場所を確認します。どこに立地しているかが、重要なヒントになります。 


 上の地図は、Google から正式にAPIキーを取得して挿入した、佐賀県地方の地図です。


 佐賀県太良町は、佐賀市から長崎本線で42.7km、有明海沿いの町です。 


 01-02・03 早朝の長崎本線佐賀駅。この日の佐賀の日の出は、5時09分(撮影日 10/06/18)

 長崎本線は、鹿児島本線鳥栖駅(佐賀県)から分かれて、長崎に向かいます。
 佐賀・肥前山口(佐世保線との分岐駅)・鹿島・諫早を経て長崎に至ります。
 写真左は佐賀駅05:40発の長崎行き普通一番電車です。JR九州の車両は特急をはじめユニークな作りのものばかりです。普通電車の内装もなかなか凝っています。 


 01-04 乗車券は820円(撮影日 10/06/18)

 01-05 佐賀駅の隣は鍋島駅(撮影日 10/06/18)

 江戸時代、佐賀藩の殿様は鍋島家でした。ちゃんと駅名にもなっているのですね。 

 01-06 06:31に到着です(撮影日 10/06/18)

 01-07 駅正面です(撮影日 10/06/18)


 01-08 元気な西田駅長(撮影日 10/06/18)

 01-09 跨線橋から(撮影日 10/06/18)

駅長

「もうちょっと後に来とったら、幸せの鐘が見られましたのに。」(九州弁にしては変ですね。正確な口調は忘れました。) 

 右の写真のホーム中央に、2010(平成20)年7月3日、「幸せの鐘」が設置され、除幕式が行われました。町の宣伝と観光客へのアピールが目的で、多良駅が「良いことが多い駅」というネーミングであることからそれに因んで付けられました。ホームに鐘がある駅は、JRでは全国4カ所目とのことです。(2010年7月4日、「読売新聞」)
 ※JR宮崎県肥薩線真幸(まさき)駅「幸せの鐘」、長野県飯山線飯山駅「七福の鐘」、
   北海道函館本線小樽駅「むかい鐘」

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 01-10 多良駅の一つ佐賀よりの駅、肥前飯田駅を通過する長崎発博多行き特急かもめ (撮影日 10/06/18)

 太良町で何が起こるのか

 有明海沿いの太良町で何が起こるのか?
 有明海といえば、ムツゴローも有名ですが、ここで話題にしたいのは、生き物ではありません。
 この有明海の特徴である、干満の大きな差です。


 01-11 太良港の潮が満ちている時の様子           (撮影日 1974年のある日)

上の写真は、国土交通省の国土情報ウェブマッピングシステムのカラー空中写真閲覧から引用しました。こちらです。→国土交通省ウェブマッピングシステム http://w3land.mlit.go.jp/WebGIS/)

 かなり古い、1974年の空撮写真ですが、基本的な地形は変わっていません。陸地中央に多良駅があり、その右手、海に面して太良港があります。干潮時ではないため港の中は、海水が満ちています。


 私がわざわざ出かけた、この2010年6月18日は、朝7時頃が干潮の時間帯でした。この時間帯を確認してあえて向かいました。その結果、太良港の周囲の干潮時の様子を観察することができました。次のようでした。


 01-12 太良港沖の干潮時の有明海 天気が悪くて恐縮です     (撮影日 10/06/18)

 地図(→「標高がわかるWeb地図(試験公開)http://saigai.gsi.go.jp/2012demwork/checkheight/index.html)」で確認すると太良港の突堤の端から800m程沖合まで潮が引きます。
 この日の「気象庁 潮汐・海面水位のデータ 潮位表 大浦」()によると、1回目の満潮時刻は夜中の1時51分、その時の潮位は正確には467cm、1回目の干潮は、7時14分、その時の潮位は137cmでした。その差は、330cmです。翌日の6月19日が上弦の月でしたので、満月や新月の時に比べれば、潮位の変化としては、大きくはありませんでした。それでも、3m以上です。
 ※気象庁の潮汐のデータはこちらのサイトで確認できます。気象庁気象統計情報潮汐海面水位のデータ

   http://www.data.kishou.go.jp/kaiyou/db/tide/suisan/suisan.php?stn=OU 


 01-13・14 (撮影日 10/06/18) 引き潮の港入り口と浜(小さいかにが無数にいます)

 潮が引いた渚には小さいかにが無数にいます。海水につかって戯れたいところですが、残念ながら小雨模様の天気に加えて、出張中の服装故、スーツに革靴姿でしたからあきらめました。地元に人に不審がられてもいけません。


 01-15 有明海の対岸にある福岡県の大牟田市三池港           (撮影日 1974年のある日)

上の写真は、国土交通省の国土情報ウェブマッピングシステムのカラー空中写真閲覧から引用た2枚の写真を中央でつないでつくりました。
 元写真はこちらです。→国土交通省ウェブマッピングシステム http://w3land.mlit.go.jp/WebGIS/)

 太良町から見て有明海の対岸にある三池港は、古くから石炭積み出し港として重要であり、有明海の干満の影響を受けずに大型船が入港できるように、三井鉱山によってパナマ運河のような閘門式の港が建設されました。完成は、1908年のことです。


 三池港のような閘門式の港をもっているわけではない、ごく普通の漁港の太良港は、干潮時には次のようになります。


 01-16・17 (撮影日 10/06/18) 引き潮の太良港の入り口です


 01-18・19(撮影日 10/06/18)

 引き潮の太良港中央部です。わかりやすいですね。船はお行儀よく並んで、海底に着底しています。特別な装置のない普通の港では、無駄な抵抗をしてもしょうがないということですね。干潮時はあきらめて船はお休みです。
 右下の写真の高い岸壁を見ていただければ、満潮時の水位との差が想像できます。


 で、月の何が見えるのでしょうか

 もともとの太良町のキャッチコピーにもどります。
 有明海の満潮・干潮の差が激しいことは確認できました。それで、月の何が見えるのでしょうか。
 正解です。


 ※例によって、黒板をクリックしてください。答が現れます。


 引力が見えるはずはないと、そう杓子定規にお怒りになっては、元も子もありません。太良町の方には見えるのです。(^_^)
 
 潮の満ち引きは、太陽と月の引力、地球の遠心力という天文的な要因によって起こり、これを
起潮力といいます。中でも月の引力は一番大きな要因となっていますから、潮の干満が大きいということは、月の引力を実感できると言うことになります。これが、このキャッチコピーの意味となります。
 しかし、日本の大潮時の潮差(大潮差)は、
日本海沿岸で0.15~0.25m太平洋沿岸で1.0~1.5m瀬戸内海沿岸で2.0m~3.0mとなっていますが、有明海沿岸では2.5mから4.5mと大変大きな差となっています。
 もちろん、有明海にだけ月の引力が大きく作用するというわけではありません。潮差は
起潮力以外に、海底の地形や海域の形状によって増幅されます。
 有明海の場合は、場所的には近い長崎などとは異なって異常に潮差が大きくなっています。この理由は、
有明海湾内海水の固有振動周期が半日周期の外洋潮汐にうまく同調するために生じると考えられています。
 つまり、他ではあまり実感できない月の引力が、増幅されてとても大きな潮差として実感できる(見える)というわけです。
 そういう風に解釈して、楽しみましょう。
 
 ちなみに、世界各地ではもっとすごい潮差が観測されており、アメリカ大陸東岸の
カナダのファンディ湾(アメリカとカナダの国境のやや北)の12.9mイギリスのリバプール8.3m韓国のインチョン(仁川)7.9mなどが有名とのことです。
 ※中原紘之・村田武一郎・近藤健雄監修NPO大阪湾研究センター海域環境研究委員会編
   『おもしろサイエンス 海の科学』(日刊工業新聞 2008年)P20-21 

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 01-04 鳥取県境港(撮影日 10/12/12)

 01-05 島根県温泉津(撮影日 10/08/01)

 日本海岸の港のいずれも干潮時の写真です。有明海とは対照的に日本海岸は潮差が小さいため、岸壁の構造などは干満の差をあまり意識せずにつくられています。


 私のように内陸県の県民は、潮の満ち引きどころか、海そのものが非日常の世界です。潮の満ち引きにもいろいろな地域差があることを実感できた旅行となりました。朝4時台に起きてよかったです。早起きは三文の徳です。


 【佐賀県太良町・有明海・潮汐関係 参考文献一覧】
  このページ1の記述には、主に次の書物・論文を参考にしました。

『読売新聞』平成22年7月4日

中原紘之・村田武一郎・近藤健雄監修NPO大阪湾研究センター海域環境研究委員会編『おもしろサイエンス 海の科学』(日刊工業新聞 2008年)


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