人間や動物の糞の化石を糞石、英語でコプロライトといいます。
糞石から、その動物の食性を調べる学問を糞石学といいます。糞石学の歴史は古く、1875年にアメリカのウエーマンという学者が、フロリダの貝塚から発見した糞石を研究したという記録が残っています。
また、年代の古い人間の糞石は、イランのザクロス山脈のアシアブというところから、約一万年前の人間の糞石が発見されています。
写真は、恐竜の糞石です。(大きさは、写真の横幅が約6p)
数年前に、名古屋栄の東急ハンズアネックスで購入しました。インテリアとしての販売品ですから、何万年前のなんという恐竜の糞石で、発見地がどこかというような学術的なことは、不明です。
本当はそこまで厳密に行きたいところですが、一般の教員が誰でも手に入れることができるのは、このへんが限界です。
縄文時代の鳥浜貝塚の話をするところで、この石を生徒に回覧します。みんな触れるのをいやがったり、臭いを嗅いでみたり、教室は大騒ぎです。
※縄文時代の鳥浜貝塚については、クイズ日本史のページへ
しかし、相当昔のものですから、かちかちで、糞石と言われなければただの石にしか見えません。もちろん、においもありません。
恐竜の糞石は、現在では、東急ハンズ名古屋店7Fクラフトコーナーで、注文によって手に入れることができます。外国からの輸入品になりますし、形状・重さ・色などは、その時任せで、価格も8,000〜15,000円くらいとのことです。
※東急ハンズ名古屋店 052-566-0109(代表)
【2009年7月26日 追記】
恐竜の糞石の入手については、別のとkろが見つかりました。
「化石販売の化石セブン One fossile One earth」http://www.kaseki7.com/です。
ただし、いつも商品が出ているとは限りません。現在は、「三畳紀のプチ人気恐竜コエロフィシスの2億年前のウンチ化石/中生代三畳紀(2億5100万 -- 1億9500万年前)」が商品となっています。3,900円(送料無料)です。
【2006年8月6日 追記】
糞石について、面白い記述を見つけましたので、追記します。奈良文化財研究所の松井章先生の著書からの引用です。( 行間設定と、赤字太字設定は引用者がおこないました。)
「 藤原京のトイレの話を続ける前に、私のトイレ考古学への思い入れを述べておこう。
1977年夏から一年半のアメリカ、ネプラスカ大学留学時代、一番の親友となったのが、国立公園局中西部考古学センターのマーク・スタイガー君であった。彼はコロラド大学の大学院で修士課程を終え、しばらくこの研究所で働いて学費を貯めて、博士課程へと進むつもりだと言っていた。彼の専門がコロラドからアリゾナ、ユタ、ニュー・メキシコ州に分布する7世紀から12、3世紀に栄えた、アナサジ文化の人びとの残した糞石の分析だった。アナサジ文化の人びとは、日干し煉瓦(アドビ)や板状に割れる岩石を建材に使った、通常2、3階建ての共同住宅に住んだことで有名である。この地方は砂漠地帯なので、日本の乾燥地遺跡とは異なり、年間を通じて雨水が染み込んでこないため、有機遺物がよく保存され、集団住宅の片隅のトイレ跡には多くの糞便が乾燥したまま堆積していたのである。
そもそも糞石の研究は、中生代、第三紀の恐竜の化石床から出土する巨大な糞の化石の分析から始まった。考古学では1960年に、カナダのモントリオールにあるマックギル大学のカレンとキヤメロンという寄生虫学者と考古学者との共同研究によって、分析法が確立した。その研究法のエッセンスは、乾燥遺跡から出土した糞石を三リン酸ナトリウムの0.5%溶液に一晩浸しておくと軟化し、さらに臭いまでが蘇るということと、その溶液が茶色に変色するとイヌのもので、透明のままだとヒトのものだということだった。
マークはアナサジ文化の遺跡から出土した糞石を一生懸命に軟化させ、内容物を50倍から300倍の顛微鏡で観察して花粉、胞子、寄生虫卵を検鏡し、10倍から30倍の実体顕微鏡で砕けたマメ、トウモロコシ、カボチャなどが含まれていることを私に見せてくれた。私も留学する前、宮城県の大木囲貝塚の発掘で、貝層の中から糞石を発掘した経験を積んでいたので、日本に帰ってから彼の研究を応用しなければならないと考えた。その際、糞石の中に花粉が大量に含まれていることを知り、東北大学の理学部の助手だった日比野静二郎さんや、菊地多賀夫さんに手紙を書いて日本での糞石研究における花粉分析の可能性について相談した。
帰国してからも、糞石への思いは持ち続けていたが、まだ大学院生の身分では、糞石を砕いて分析するという破壊分析のための糞石サンプルの入手もままならず、文学部の施設では、マークが行っていた実験設備は望む術もなく、どうしてよいかわからないまま、数カ月が過ぎていった。
國學院大学の小林達雄さんのお宅で、糞石研究に情熱を燃やす国際基督教大学の千浦美智子さんを紹介されたのはそのころだった。私は彼女と意気投合し、彼女の糞石の研究のお手伝いをしようと思った。話を伺ってみると、彼女も私と同様に、日本考古学に飽きたらず、日本の大学を卒業後トロント大学で修士号を取得し、日本に帰国してからは糞石をテーマに研究活動を続けていたのだ。その後彼女の研究室を訪問し、日本考古学への不満やこれからの糞石研究の見通しを時の過ぎていくのも忘れて語り、さらには彼女のもとで研究をしないかと誘われ、大いに心が動いたのだった。しかし、ほどなくして彼女はガンに倒れ、闘病の甲斐なく34歳の若さで亡くなられてしまった。その経緯は、日野原重明氏の『死をどう生きたか』(中公新書、1983年/新装版、2002年)に詳しい。そうしたいきさつで、私の糞石研究も頓挫を余儀なくされ、そのままお蔵入りになってしまった。」
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自分の手持ちの糞石も三リン酸ナトリウムで、溶解してみたい気もします。(次のが手に入るあてがついたらかな・・・。)
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環境考古学について改めて説明します。
環境考古学とは、貝塚から発見された遺物を、本来の考古学・歴史学以外に、動物学・植物学・生化学・寄生虫学・花粉学・土壌学・生理学などのの研究者がそれぞれの専門分野の成果を総合して多面的に探究することによって、縄文時代・弥生時代の人々の暮らしを明らかにしようとする試みです。
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