二つ目はやはりリーダーのあり方です。
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リーダーは目標を示し適切な指示を発しその結果の責任をとる。その一方で職員の自由な発想と行動を尊重する。 |
いい目標があっても、リーダーがしくじると、組織は沈滞します。
リーダーですから、当たり前ですが、リーダーシップを持っていなければなりません。そういう意味では、リーダーが指示を発するというトップダウンという方式が基本となることは言うまでもありません。上司が判断するためには情報が命ですから、ほうれんそう、報告・連絡・相談も必要です。
しかし、何から何までトップダウン、何から何までほうれんそうという形では、うまくいきません。職員の自主性を尊重しないと、職員は自分で考えることをしなくなります。
上司が滅多に言ってはならないセリフがあります。
「そのことは私は聞いていない。誰がかってにやったのか。」です。
よほど間違ったことをすれば別ですが、職員が工夫して自主的にやったことを、その内容の善し悪しよりも、いわばメンツにこだわって、上記のセリフを吐いたら、もう職員は自分で動かなくなります。いな、たとえ職員の選択が間違っていても、「俺が責任とる」のセリフの方が、よほど発展性があります。
そうではなく、「勝手なことをやった」と叱りつけることが蓄積すれば、職員が指示待ち人間となって、組織は活性化するどころか、停滞します。トップダウンは恐怖政治となり、所属長はやがて裸の王様となります。
上述のようなタイプの校長がいたおかげで、ある学校で誰もが「ちょっとそれはおかしい」と思う事件が起きました。職員の一人が学校内で急に倒れ緊急に病院へ運ぶ必要が生じた時、一番よく状況が理解できる養護教諭(保健室の先生)が、救急車を呼ぶべきかどうか、まず校長に伺いを立てるということをしたのです。この時は、それにかかった時間によって容態の悪化につながるということはなかったから幸福でしたが、病状とその対応について知識があるはずもない校長に伺いを立ててどんな判断ができると言うのでしょう。そうさせてしまった上司の日頃のあり方が問題です。
上述のアサヒビールの村井勉社長が次のように言っておられます。
「村井の考えるトップダウン経営は、ワンマン経営とは違う。会社の進むべき方向を明確に定めた上で権限を大幅に委譲し、各セクションのリーダーがそれぞれにリーダーシップを発揮するというのが村井の理想とするトップダウン経営である。
『社長一人で何もかもできる時代じゃありませんからね。各クラスの社員それぞれがリーダーシップを発揮しつつ目標に挑戦する。それが企業の活性化につながると思う。そしてトップダウン型経営の基本は、上の者ほど仕事すること。社長は会社の誰よりも一番よく仕事する人間であり、部課長もそれぞれのセクションで一番仕事する人間であるべきです。』」
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石山順也著『ドキュメント快進撃への軌跡 アサヒビールの挑戦』(日本能率協会 1987年)P46−47
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また別の人の体験を紹介します。
三輪康子氏という、大手ホテルチェーンの新宿歌舞伎町支店のマネージャーをしている方が、どうやって、暴力団関係者やクレーマーとの対応に成功したかを本に書いておられます。
まずマネージャーとしての彼女の仕事への姿勢です。
「私がクレーム対応を一手に引き受けていることはすでに書いたとおりです。
部下は、上司が責任ある仕事をしているかを、ジッと見ています。
現場の部下の陰に隠れていい思いをしている上司がいたら、ただちに現場の指揮が落ちてしまいます。
まず率先して、いやな仕事を引き受ける。
最もわかりやすいリーダーシップです。
スタッフたちはきちんと見ていて、行動で返してくれます。
自己保身の上司は、団結力をそいでしまいます。
逆にスタッフのためにという利他の気持ちで働くと、スタッフたちもまた、会社全体の利益を考えてくれるのです。」
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三輪康子著『日本一のクレーマー地帯で働く日本一の支配人 怒鳴られたら、やさしさを一つでも多く返すんです!』(ダイヤモンド社 2011年)P182
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また、ちなみに、書名にもなっていますが、三輪マネージャーは、お客様との対応の秘訣を次のように書いています。
「私が、信条としてしていることはたった一つ。
怒鳴られたら、やさしさをたったひとつでも多く返すこと。」(前掲書 P7)
「クレーム対応とは、クレームに対応することではありません。まず、全力で人の気持ちを理解すること。つまり、人への対応です。(中略)根気よく、粘り強く、お客様の気持ちにより添う。それがクレーム対応の基本です。」(前掲書 P95−96)
さらにもうひとり、別の女性のお話も紹介します。
岡山高島屋の社長肥塚春美氏です。不振にあえぐ岡山高島屋の社長に、本店営業企画部長から抜擢されて就任したのが2010年2月。見事な手腕によって業績を回復させた人物です。
その秘訣の一つは仕事の進め方です。
「小嶋社長(注:高島屋本の社長)はいう。
『再建しようと意気込む人は過去の否定から入る。それでは現場の士気は上がらないんです。彼女は過去の実績を認めたうえで、改善策を示すから、人がついていく。』」
また、肥塚氏自身は次のようにコメントしています。
「一度引き受けたことは、愚痴を言わずに、前向きに取り組むこと。もう一つは、仕事に対してビジョンを持つこと。リーダーシップを発揮するには、どれだけビジョンを持っているかが問われます。例えば、「こういう売り場にしたい」などと、できるだけ具体的で、わかりやすい目標を示さなければいけない。自分ひとりの仕事なんて限界があります。だから、自分だけ目標を持っても意味がないんです。チームでやる、人を巻き込んでやるには、自分どれだけ仕事に思い入れを持っているかが決定的になるんです。」
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朝日新聞「フロント・ランナー 岡山高島屋社長肥塚見春(55)」2011年4月2日付け紙面
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組織や人を大事にするリーダーの言動からは、単なるワンマン経営とは違って、何かしら大きな思いや情熱と責任感が感じられます。 |