2008-05
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108 2008年09月28 日(日) 鼠径ヘルニア入院・手術体験記その3 手術   

3 鼠径ヘルニア手術の解説 
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 手術時の様子を説明する前に、そもそも、鼠径ヘルニアとはどういう手術なのかを、補足説明します。これをやっておかないと、痛みとか、状況とかがご理解願えないと思うからです。  


【 鼠径(そけい)ヘルニアの解説です 】

   鼠径ヘルニアとは

■そもそもヘルニアとは、何でしょうか。
 医学的には、本来おさまるところにおさまっているべきものが、そこから飛び出ることを、ヘルニアといいます。
 背骨の間にある椎間板が腰のあたりで壊れて飛び出ると、腰部椎間板ヘルニア。腸が本来あるべき腹腔から飛び出るのもヘルニアです。
 鼠径部において腹腔から腸が飛び出すのが鼠径ヘルニアです。
 
 腹部のヘルニアに於いては、90%以上が鼠径ヘルニアで、男女比では圧倒的に男性に多い病気です。
■なぜ鼠径部にヘルニアが起こるのか?
 鼠径部には、男性では精管(せいかん、睾丸できた精子を精嚢を経て尿道へ運ぶ管)、女性では子宮を支える筋肉などが筋膜を貫通しています。そもそもその部分の筋肉には穴が空いているのです。
 この穴は、若い頃は筋膜がしっかりしているため、中の腸がはみ出て来ると言うことはありません。しかし、年をとって、筋肉がゆるんでくると、穴も大きくなって腸が出てしまうということです。
 下の説明図01をご覧ください。鼠径ヘルニアの状態の概念図です。(あくまで非専門家が描いたイメージ図です。)
 鼠径ヘルニアは加齢による致し方ない病気と言うことになります。もちろん、筋肉のゆるみに個人差がありますから、全員がかかる病気というわけではありません。立ち仕事が多い人、重い荷物を持つ仕事をしている人に多いと言われています。(私の場合は、二つとも該当しません。ペン以外はほとんど持たないデスクワークが仕事ですが、鼠径ヘルニアになってしまいました。(--;))

■なぜ男性の方が多く鼠径ヘルニアになるか 
 これは簡単な理由です。鼠径部の穴は、精管が通る男性の方が圧倒的に大きな穴だからです。



   鼠径ヘルニアの手術方法

■手術はどんな風にするのでしょうか 
 鼠径ヘルニアの手術は、基本的には、鼠径部を切って、出ている腹膜以下を元に戻し、ヘルニアが出た場所(ヘルニア門)から二度と出ないように処置を行うものです。
 現在では、2つの方法がとられています。


 「1従来の方法」は、縫合によってヘルニア門を閉じ、ヘルニアの再発を防ぐものです。この方法は、処置部分に大きな負担がかかり、再発率も高いものでした。
 このため、体内に残しても害のないポリプロピレン製のメッシュの膜を使う方法が開発されました。

 私が受けた手術は、そのうちの、A「メッシュ・プラグ法」の方です。上の説明図02をご覧ください。
 鼠径部を切開し、はみ出た腹膜等を元に戻して「整理整頓」し、よじれた腹膜の一部の切開等の処置をした後、筋膜の下に傘状のメッシュの膜を入れ、さらに筋膜の外に平板なメッシュの膜を補強し、二つの膜で再発を防ぐものです。
メッシュの膜については、次のサイトに写真が掲載されています。
田調布中央病院の広報誌「2006年9月号」です。http://www.tmg.or.jp/denencyofu/nl/0609/nl.htm


 最新のB「クーゲル法」は、同じくポリプロピレン製のクーゲルパッチ(形状記憶リング付)を筋膜の内側、腹膜の上に1枚置いて、再発を防ぐものです。  


4 手術開始 
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 12:25、もしもの場合に備えて家から呼んだ妻が到着すると同時に、手術室行きのストレッチャーに移乗しました。いよいよです。
 
12:30、手術室到着。14年前に受けた、全身麻酔の腰部椎間板ヘルニア除去手術以来の、人生2度目の手術室です。

U医師

「はいMさん、手術をはじめます。みなさんよろしくお願いします。(助手の医師と看護師が3人のチームでした。)」

「お願いします。」

U医師

「手術そのものの時間は40分ぐらいです。その前後併せて、2時間ぐらいになります。だから、14時半ぐらいには、病室に戻れると思います。
 まず、腰椎から麻酔を行います。局所麻酔です。準備ができたら、体の右側を下にして横向きになり、エビのように体を曲げて、自分のおへその方を見てください。」

 他の方の体験記によると、この麻酔の時が痛かったという記述もありました。そりゃ、注射針を刺すのですから痛いのは当たり前ですが、私の場合はそれ以外の特別な苦痛は感じませんでした。はじめたの方は背骨のそばに注射を打たれるという恐怖感があるのかもしれません。私は、腰部椎間板ヘルニアの治療や手術で、背骨付近への注射は慣れたものですから、あまりストレスを感じなかったのかもしれません。
 注射後すぐに、右足が麻痺していきます。

U医師

「これさわってるの、分かります?」

「わかりません。」

U医師

「OKです。もう一度仰向きにします。少々準備してから、手術をはじめます。」

看護師

「もし痛かったら、我慢せずにおっしゃってくださいね。」

 医師と看護師が、いろいろおしゃべりしながら、開腹前の準備が続けられます。

U医師

「ほう、今日の悌毛はきれいだね。担当は誰かな?」

看護師

「O看護師です。」

U医師

「うん、丁寧にできている。」

 さすがわが担当。患者との会話をしながらも、仕事はきっちりです。それにしても、悌毛一つでも、看護師さんによって、いろいろあるのですね。

 ところで、手術室にはBGMが流れています。亡くなった、河島英五の曲です。

看護師

「このBGMは先生の好きな曲ですか?」

U医師

「はい、大好きです。患者さんの希望ではなく、私の希望です。はい。」

 そうですね。患者の気分より、執刀する医師の気分いい方が、手術はうまくいくと思います。いよいよメスが入ろうという時の曲は、河島英五の「天秤ばかり」でした。
 「天秤ばかりは、重たい方に傾くにきまっているじゃないかい。どちらか一方が重たいくせに、どちらへも傾かないなんておかしいよ。」
 熱唱を背景に手術が進みます。


 私の背中の写真です。
 バンソコウの中央の部分が麻酔の注射が刺された部分です。右を下にして寝ている状態を復元しています。背骨左側(寝ていると上側)から麻酔薬が右側(下側)に降りるように注入されたわけです。

 局所麻酔とはどんな感覚なのか?
 実は、まったく感覚が麻痺するわけではないことが分かりました。仰向けの状態になった時、私は、自分の右足の太ももを挙げて膝を折って足を上げている状態を取っているような感覚を感じていました。もちろん、本当は右足は真っ直ぐに伸ばされていましたが、本人はそう感じていたのです。この誤った感覚は、手術後もずっと続き、なかりうっとうしいものがありました。

 局所麻酔で意識はありますが、自分が手術をされている様子が見えるわけではありません。優しい看護師さんが、「灯りがまぶしいでしょうからアイマスクを付けます」と言って、アイマスクをされました。真っ暗な状態で手術です。


 12:50頃、電気メスが入ったようです。
 しばらくすると、時々腹部に痛みを感じるようになりました。だんだん強くなっていきます。「さっき、痛くなったら、訴えろって言われたな。でももう少し様子見るかな。」
 などと思っている内に、だんだん痛みが強くなってきました。
 腹腔内をお臍側(上)から、股側(下)からひっぱっられている痛みです。跳び上がるほど痛いわけではありませんが、顔をしかめる回数が多くなってきました。

「すみません。痛いです。」

U医師

「痛いですか。ちょっと我慢してくださいね。」

 ちょっと我慢しましたが、どんどん痛くなっていきます。   

「すみません。相当痛いです。」

U医師

「痛いですか。(看護師に向かって)どんな様子ですか?」

看護師

「(患者は)苦痛表情です。」

U医師

「じゃ、麻酔科の○○先生を呼んで。」

 
 すぐに麻酔科の医師がやって来ました。医師の判断で、吸入マスクが口にあてがわれ、すぐに麻酔薬を嗅がされました。もちろん、これからあとのことは覚えていません。

看護師

「Mさ〜ん、終わりましたよ。」

 浅い麻酔のせいか、すぐに目が覚めました。
 
14:30頃、手術終了。

 この時の痛みについて、あとでU医師に聞きました。

「局部麻酔をかけたのに、なぜ痛かったのですか。」

U医師

「お腹の中の腹膜等に来ている神経は、普通の皮膚の神経系とは違います。出っ張ってよじれている腹膜修復して、切除する時には、局所麻酔をしていても、時々痛い場合があります。」


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