2004-09
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078 2004年10月16日(土) 刑務所に行ってきました               

 岐阜市則松にある岐阜刑務所に行ってきました。

 10月16日(土)は、岐阜刑務所の刑務所矯正展だったのです。
 矯正展というのは、「矯正」という文字からだけはちょっと連想はしづらいですが、受刑者が作業中に作った品物を、一般の方に展示即売するイベントのことです。

 比較的言い素材を使って、しっかりと作られており、値段も割安で、特に家具などは人気があります。
 ほかにも、地元農協や企業の出展など、色々店が出ます。また、今回は中高生などのアマチュアダンスチームの発表会などもあったりして、地域と刑務所とのちょっとしたイベントです。
 
 もちろん、受刑者がゲストで登場・・・、しないしない、そんなわけはありません。
 刑務所としては、日頃地元にあたえている「マイナスイメージ」を少しでも払拭しようと、「地元との交流」をも意図したイベントです。

 秋が各地の矯正展のシーズンで、10月には16ヵ所で、11月には3日の網走と東京府中を皮切りに全国23カ所で開催されます。 


ご存じ刑務所の塀。

 正門は、矯正展の手作り飾りゲート

 これは、家具の展示即売場所。
 家具のほかに、木製の置物、定番の「サケを捕るヒグマ」なんてのもあります。

 各以外の色々な即売場。右の、三重刑務所のブースでは、バーベキューコンロなどの金属製品も売っていました。 

 いつものとおり、関係者に質問してみました。
 きっといつもは怖い顔して受刑者に接している刑務官の皆さんも、今日は市民に笑顔で対応です。

「結構安くて、良さそうな品物ですが、人気はありますか?」

「はい、まずますの人気です。」

「難点は何ですか?」

「刑務所で指導して作るものですから、デザインとかはお世辞にも考えられていません。ずっと昔からの伝統工芸です。」

「売上金は、受刑者の小遣いになるとかはは・・・・、ありませんよね?」

「断じてありません。売上金は、国庫の収入になります。」


 さて、これだけの、矯正展の話だけなら、わざわざこの「未来航路」に掲載するだけのことはありません。
 今日の体験は、これがメインではなく、先着100名様の”限定サービス”、「
刑務所内見学ツアー」の体験記です。


 岐阜刑務所は、以前は、岐阜市の中心部、長良地区にありました。左上の写真は、1975年当時の航空写真ですが、赤線内が刑務所です。当時の県営陸上競技場のすぐ北側にありました。現在の岐阜市立長良中学校があるところです。
 航空写真を見れば、受刑者が暮らす房舎が、六角形になっていることがわかります。古い時代の刑務所は、監視カメラとか電子装置もなく、看守の眼が頼りでしたから、自ずとそういう形になりました。
 右上は、現在の岐阜刑務所が建築されている当時の、1987年の写真です。
 今も基本的には房舎等の配置には大きな変化はありません。
 新しい刑務所には、もはや六角形の建物はありません。

 ※この2枚の写真は、国土交通省ウェブマッピングシステムより複写・転載しました。


 岐阜刑務所は、この矯正展に合わせて、一般市民の刑務所見学を開催しました。午前、午後、各50名ずつの限定人数による、所内の見学です。
 
 午後の部は1時半から入場整理券の配布となっていましたが、私が12時45分に行ったときは、もう行列ができはじめていて、すぐに定員オーバーとなりました。なかなかの人気ツアーです。
 当然、住所氏名をきちんと書いて申し込みをします。

「みなさん、刑務所見学に参加いただきありがとうございます。
これから、刑務所内を案内しますが、色々守っていただきたい注意がありますからお願いします。

  1. 酒気を帯びての入場はできません。

  2. 火気は厳禁です。ライター、マッチは鞄等に収納してください。

  3. 写真撮影、携帯電話の使用はできません。

  4. 犬や猫は連れて行っは入れません。

  5. 持ち物は全部お渡しするビニール袋に入れてください。ペンやメモも禁止です。

 2グループに分かれて入っていただきます。途中でそれぞれ説明をします。」


 さてさて、なかなか厳しい制限です。
 せっかく説明してもらっても、写真はもとよりメモもとれないと言うことは、ひたすら記憶しなければなりません。
 
 電動式の大きな鉄のゲートが開いて、いよいよ入場です。
 刑務官が何人かでカウンターをかちかちさせて、人員点呼です。


 左の写真はの黄色い扉が受刑者が居住す地域に入るメインゲート。扉は重い鉄製。
 後ろの塔が中央の監視塔。
 右の写真は、南東角の監視塔。見学のあとで周囲を回って撮影したが、塔の中には人影は見えなかった。
 

「塀の内側に、外側から見えないように、線が3本張ってありますが、あれは電流ですか?」

「残念ですが、セキュリティに関することは、お話しできません。」

「外壁の4隅にある監視塔も必ずしもいつも人影が見えるわけではありませんが、隠れているのですか?」

「いえ、いつもいるわけではありません。今は、監視カメラとか、いろいろありますから。」


 刑務所ですから、セキュリティには当然気を遣って頂かなければなりません。
 ただし、この刑務所は、外部らの機密保持という点からは、そもそもおおらかな立地をしています。
 上の航空写真でもわかりますが、周囲には小高いところがいっぱいあって、塀の中が丸見えです。
 

 上の左の写真は、南東の道から、右の写真は東の野球のグランドから撮影したものです。望遠鏡なら受刑者の顔も見ることができそうです。
 少なくとも、ゴルゴ13なら、簡単に狙撃できそうなロケーションです。

「もし、周囲の山で挙動不審な人物を目視したらどうするのですか。」

「まあ、それは、一応警備隊を出動させるとかすることになっています。」

「そもそも、この刑務所は立地がよくないですね。」

「まあそうですが、国がここに作ることに決めたわけですから・・・。」

 そうですね。
 確かに、いまさらしょうがないことです。 


 中に入りました。
 もちろん、受刑者の姿を見ることはできません。
 はるか向こうの所々にも、刑務官が監視のために立っていて、私たちが、変な行動をとれば、直ちに対応できる状況です。

「この刑務所では、約190人余りの刑務官が860名の受刑者の面倒を見ています。
 食堂です。一日、405円が食費として当てられています。このショーウィンドウの中の食事は、昨日までの3日間の実際の献立です。」

 なかなか、見栄えのある献立で、中学校の給食と比べても何ら遜色はありません。
 そばにいた子どもとお母さんの会話です。

「ごはんには、麦が混じっているのよ。」

「お母さん、ケーキもあるよ。うちよりおいしいもの食べてない?」

 お母さんには気の毒な発言ですが、本当にケーキもあり、少なくとも、私の食生活よりは豊かに思えました。(平日はいつも残業で、夕食は、外食やらコンビニ食ばかりです。(-.-))

「受刑者は、6時起床です。
 8時から昼食時間を挟んで、16時40分まで、作業です。
 風呂は夏は週3回、冬は2回。
 一度に60人が入れるこの浴場を使います。入浴時間は、15分です。

 これがまた、できたばかりのピカピカの風呂で、真ん中に湯船があり、周囲にシャワーとカランが並ぶ、普通のホテルの大浴場と同じです。
 ただ、監視の刑務官のためのスペースだけが違います。

 トイレは、風呂に限らず、どのトイレでも、扉の上半分はガラスになっていて、中が丸見えです。
 

「今日は土曜日ですから、受刑者は、生活房にいます。普通の日は、この作業棟に「出勤」してきて、毎日8時間労働します。
 労働に対しては、作業賞与金というのが支給されます。これは賃金ではありませんが、作業に対する褒美で、これを貯金して、出所後の当座の生活の費用とします。
 岐阜刑務所では、1ヶ月に受刑者平均5274円の賞与金が支給されています。中には、1万9000円も支給される受刑者もいます。」

「受刑者によってそれほど差が出るのは何故ですか?」

「作業するにあたって、受刑者はその経験と技術によって10等級にランクされます。同じ8時間働いても、そのランクによって賞与金が異なります。つまり、長く服役して、技術を身に付けている受刑者は、1時間当たりの賞与金が高額なのです。」

 作業棟はいくつもありますが、そのうち、カレンダーなどの印刷作業場、洋裁作業場を見学しました。正確には、職業訓練棟○○作業場です。
 
 どの作業場も、1人の刑務官が30人から50人の受刑者の作業を監視します。
 作業上の壁には、前年の実績に応じて、生産目標金額が掲示してあります。
 たとえば、第1職業訓練棟第1作業上は、洋裁工場ですが、9月の目標は23万円、実績は30万3千円で、無事目標達成でした。

「企業と違って、製品を売るのではなく、基本的には外部からの注文に応じて生産するものですから、いわゆるノルマというものではありません。注文がなければ、作業量は減らさざるを得ません。目標は、一応目安として、昨年度実績を考慮して掲示してあります。」


 見学時間は、正味30分ほど。終わってから質疑応答の時間が5分ほどありましたが、得られる情報は限られていました。
 もっと、色々聞きたいことがいっぱいある、面白い見学ツアーでした。
 
 最後に、岐阜刑務所に関する面白い記事を紹介します。タイトルは、「13度目逮捕『刑務所は岐阜がいい』 通算懲役52年の男『待遇良いから』」です。
 平成16(2004)年10月9日版産経新聞に掲載されたものです。(一部略)

 現金などを盗んだとして、北海道警小樽署は窃盗容疑で札幌市の無職男(73)を逮捕した。逮捕は13度目。これまで受けた懲役判決は計約52年5カ月に達する。昨年12月、出所していた。男は「遊ぶ金が欲しかった。(刑の確定後には)待遇の良い岐阜刑務所に入りたい。畳の上で死にたいので、盗みはもうこれで最後」と供述しているという。
 (略)
 男は19歳のとき、初めて窃盗容疑で逮捕されて以来、刑務所を出ては戻る生活だった。「刑務所の運動会で800メートル競走の選手になったこともある。若者にはまだ負けられない」とも話しているという。

 岐阜刑務所は、”ベテラン”にも愛される刑務所のようです。

最後に、関係サイトを紹介します。
刑務所の作業製品については、「刑務所作業製品とは?」を見てください。こちらです。

刑務所内の規律・ルール等については、「統一獄中者組合」のサイトをご覧ください。
「えっ、その組合って何」という疑問も含めて、まあ一度ご覧ください。こちらです。


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