現代の諸課題 環境2
<解説編>
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1101 この山と谷地の写真の中に現在は何が?                    | 問題編へ |

 右は、岐阜市北部の地図です。
 岐阜市は、伊勢湾から続く濃尾平野の最北部に位置し、市の北端は、山と谷地の入り交じった地域となります。
 問題の航空写真は、地図内の、赤枠の地域を撮したものです。地名は椿洞といいます。

 
  ※昭和50年撮影の「国土画像情報カラー空中写真」(国土交通省)をもとに作成しました。 

 この地区は、岐阜市民にとっては、畜産センターや市民公園のある、緑に囲まれた憩いの場所として有名です。
 写真の説明文字「市民公園」と「畜産センター」の間には、かなり広い芝生広場があって、天気がいいと、子どもたちが裸足で走り回っています。
 私も、岐阜市内の学校に勤務の時は、生徒を連れて、遠足に来たこともあります。

 ところが、2004年3月18日、市民には、寝耳に水の報道が、新聞各紙の紙面にに踊りました。
 正解、現在は、写真の黄色い○の地域に、大量の産業廃棄物が不法投棄されています。

 以下の写真は、その現場の全貌を、北側の県道から撮影したものです。(デジカメ3枚の合成写真) 

 なぜこんなことが起こってしまったのでしょうか。
 ここでは、1987年から岐阜市の産業廃棄物中間処理業者、「善商」が処理施設を開設して、産廃の処理を行っていました。

 この会社は、廃棄物の中間処理と収集運搬の許可しか受けていませんでした。つまり、この施設は、産廃を分別したり、焼却できるものを処理する施設であったのです。
 ところが、同社は、
同社の敷地や隣接する山林などに無許可で産廃を積み上げてしまったのです。

 一時積んでおくという程度のものではありません。
 
廃プラスチックや建築廃材を3〜4メートル積んだ上に、数十センチの土砂をかけ、さらにまた産廃を積み上げるという念の入った方法で、不法投棄していったのです。

 したがって、上の写真でも、下左のアップの写真でも、産廃が積まれているという状況は、露骨にはわかりません。

 下右の写真の山の頂上部分には、野積みされた産廃が見えています。
 
 県の調査によると、不法投棄されている土地の面積は、
約9.3ヘクタールになり、そのうち、保安林約3ヘクタール、普通林約5ヘクタールが県有地です。深さ(高さ)は30メートルもあります。

 そして、ここに不法投棄されて産廃の総量は、大まかに見積もって、
52万立方メートルです。これは、東京の霞ヶ関ビルの全容量と同じくらいだそうです。
 この量は、数年前、全国的に有名になった、香川県の豊島に不法投棄されていた約56万立方メートルにも匹敵する量となります。
国内最大といわれた、青森・岩手県境には約86万立方メートルという大物がありますが、そこまで行かないにしても、相当な量です。
 ※『朝日新聞』2004年3月18日朝刊


処理場の中央にある焼却施設

頂上部の産廃の野積み


 この量は、一朝一夕に貯まるものではありません。

 岐阜県や岐阜市は、この業者が、不法投棄していることをずいぶん前から知っていました。
 『共同通信』によると、初めて発覚したのは、1990年のことです。
 この時は県の指導にしたがって、1996年までに撤去しました。

 ところが、これと同じ時期に会社の業績が悪化。新しく社長に就任した現社長の代になった1997年から、また再び不法投棄を始めました。
 ※『共同通信』2004年3月23日(gooニュースより)

 このことは、少なくとも岐阜市は知っていました。
 1999年と2000年、同社の投棄現場で木くずが混じった残土から火災が発生するといい事件が起こり、岐阜市が調査に入っているからです。
 それでも、不法投棄そのものは黙認されてしまいました。
 ※『京都新聞』2004年4月7日

 現在、岐阜市による調査進んでいますが、調査結果は8月にまとまる予定です。 
 


 産廃が投棄されているエリアを写真に示すと、上の赤印のようになる。
 (『岐阜新聞』2004年4月6日の掲載写真を参考に作成)
※この写真は、昭和62年撮影の「国土画像情報カラー空中写真」(国土交通省)をもとに作成しました。
 

 左の写真は黄色の○は幼稚園、上の写真の中央の道の奥手のオレンジの屋根の建物。その奥の土色の部分が産廃投棄現場。
 左の写真の緑色の○は、岐阜市養護老人ホーム寿松苑、上の写真の右手の建物。
 左の写真の水色の線は谷川、上の写真の左の川。産廃現場の真下を通って、下流へ向かう。

 これは、国土地理院の数値データを元に、3D立体地図作製ソフト『カシミール』を使って、この産廃の谷の元の姿を復元したものです。上の現状と比較してみてください。

 数値データには、不法投棄によって生じた「産廃の山」は含まれていませんので、このような復元が可能となります。
 ※『カシミール』については、
  「IT素材・活用リスト」を参照
  
この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用した。(承認番号 平15総使、第523号)   


 産廃処理施設のすぐ前で畑仕事をしていたおばあさんにいろいろ聞いてみました。

「ここのことは、地元では、もちろん以前から問題になっていたのでしょうね。」
「そりゃーそうだね。ほんの少し前までは、あんな立派な煙突もなくて、畑仕事しとると煙もこっちへやってきたし、川の水も、どろどろの汚なこい水が流れとったがね。」
「そこの川のことですか。」
「それそれ、そこに、向こうの谷から流れてくる水の出口があるでしょー。」
「はいはい」
「あそこの幼稚園(注 小川の下流にあたる)も、せっかく田舎の自然が豊かなところに来やーたに、人気がのーなってしまっとるそうやね。かわぇーそーにねー。」 

 右が、おばあさんの語る排水口です。
 現在の水は一応透明ですが、染みついた赤茶色が、不気味な何かを物語っている気がします。
 
 岐阜市は、4月8日に「
大気に有毒な硫化水素は観測されなかった」と発表しました。
  ※『岐阜新聞』2004年4月9日朝刊
 しかし、今後どうなるかわかりませんし、また、土中深くしみこんだ水とかには、いつどのように悪い影響が出るのかはわからないでしょう。

 さて、この産廃の処分です。
 業者の責任でやらければならないことは当たり前です。
 しかし、前例を見ると、心配です。、

 香川県豊島の産廃処理に対しては、2003年6月に、「特定産業廃棄物の支障除去特別措置法(産廃特措法)」が制定されました。
 処理費用の、約6割に対して、国庫補助がつぎ込まれます。

 約56万立方メートルの産廃の処理費用の総額は、10年間でなんと、270億円と見込まれています。
  ※『四国新聞』2003年6月12日

 そんなところには、税金を使ってほしくないぞー。 

<2004年4月16日追記>
 この不法投棄問題に関しては、行政として岐阜県と岐阜市の両方が、関係しています。
 岐阜市は、産業廃棄物処理法に基づいて、処理業者を監督する立場にあります。したがって、直接の指導は岐阜市に権限があります。
 一方、岐阜県は、投棄されている場所の80%以上が県有林(不法投棄総面積9.6ha、県有林8ha、県有林のうち保安林3ha、普通林5ha)であるため、森林法違反及び森林の復元という立場から指導することになります。
 ※『岐阜新聞』2004年4月15日朝刊

<2004年4月17日追記> 
 4月15日に岐阜市が不法投棄現場を深さ23メートルにわたってボーリング調査しました。この結果、深さ3メートルの地点で、労働安全衛生法規制値の10倍にあたる、
100ppmの濃度の硫化水素が検出されました。
 ※『朝日新聞』2004年4月16日朝刊



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