日本の文化3
<解説編>
                                         
1002  早生まれ(1月から3月生まれ)は不利か?                      | 問題編へ |

 その昔、高校で特別活動部の担当をしていた時、運動会(体育大会)の団員編成をめぐっていろいろ思案したことがありました。その学校は、赤・青・黄・白の4段編成でしたが、そのメンバーは毎年編成されるクラス毎に決定されていました。
 つまり、1組と2組は赤、3組と4組は青、といった具合です。

 これはこれでいいところもあるのですが、生徒個人から見れば、自分の所属する団は、クラス編成によって毎年変わってしまう可能性が大です。
 応援団長が、
「我が赤団は、昨年最下位であった。今年は雪辱を期したい。」などといっても、昨年とはメンバーが違うわけですから、説得力も熱意もいまいちです。

 そこで、高校3年間同じ団に所属するというのはどうかと、提案がなされました。
 では、その団はどうやって編成するか?

 その時の案として、まだ教師になって数年の私が提案したのが、生まれ月による編成でした。
 つまり、1年を4っつに分けて、4月から6月生まれを赤団、7月から9月生を青団という具合に編成する方法です。これなら、次の学年になってクラスが代わっても、同じ団に所属することになります。

 ところが、この案は、先輩から、一蹴されました。
「だめだめ、そんな編成したら、体力的に有利な遅生まれ団がいつも上位で、少なくとも、1月から3月生の早生まれ生徒の団は、いつも最下位になる。これは、以前に他の学校で行われて、実証済みである。」
 つまり、小学1年生に入学する時期ならともかく、高校生になっても、早生まれの生徒達は、集団的には4月・5月生の生徒に比べれば体力的に劣っていることは歴然としているということでした。

 早生まれが遅生まれに対して持つハンディは、その子の人生にどういう影響を与えるのでしょうか?

 それからしばらくして、別の進学校で入試事務を担当することとなった私は、その時以来抱いていた別の仮説をデータ的に確認しようと試みました。
 
 仮説とは次の内容です。

  • 早生まれの子は、自分の経験でもそうだが、小学校低学年では、知力でも体力でも苦労する場合が多い。すると、学業の成績でも、ハンディを背負う場合が多いと推定できる。となれば、この県下でも有数の進学校に入学してくる生徒達を大量に統計すれば、4月生まれが多く、3月生まれは少ないに違いない。

 この仮説を実証するため、2年間、合格者を生年月日でソートしてみました。
 結果は、2回とも私の仮説があたり、合格者の生まれ月分布は、おおむね4月が多く3月が少ないという状況を示しました。

 しかし、その調査は、入試データを非公式に流用したもので、もちろん今手元に残っているわけではありませんし、正式に発表したものでもありません。仲間内で、「やっぱりそうだ」と言っていたぐらいです。
 自分で言うのも辺ですが、データのない、流言飛語と同じ程度のものでしかありません。

 ところが、新聞に、別の観点から興味深いデータが示されました。

 私と同じ考えで、スポーツ選手の生まれ月を調査したものです。
  ※以下のデータなどは、『朝日新聞』2003年4月18日の、文部科学省職員佐藤克文氏の投稿
   「4・5月の選手はなぜ多い」を参考に構成しました。
 
 佐藤氏は、1994年の科学誌「ネイチャー」に掲載された「スポーツ界における成功と生まれ月の関係」という論文を参考にデータを集められました。
 もとの論文では、オランダと英国のプロサッカー選手の生まれ月が調査され、シーズン開始前の直前の2,3カ月に生まれた選手の数が少なく、シーズン開始直後の月に生まれた選手が多かったという事実が指摘されていました。

 佐藤氏は、これを日本で実証すべく、プロ野球の1軍選手と、サッカーJ1リーグの選手の生まれ月を調査しました。すると、右表の様になったのです。
 
 正解。この表を見れば一目瞭然、早生まれの選手がプロ野球・Jリーグに少ないことは明かです。つまり、小さい頃に体力的にハンディを持った早生まれは、学齢が進むに連れてそれが解消されてはいくものの、結果的には、集団として不利となっていることがはっきりとしました。

 しかし、さらに慎重に判断しなければならない要素があります。
 それは、月別の出生数がどの月も同じかどうかの確認です。
 右下は、厚生労働省のHPにあった、平成9年と10年の1日平均出生数の月別比較です。
 これによれば、夏に生まれる子供が多い傾向が分かります。
 もともと1月〜3月は出生数も少ないとも言えそうです。
 平成9年の3月と7月とでは、1日に約400人ほど、一か月では約12000人ほどの違いがあります。
 しかし、全体の比率からいうと、もともとの出生数の減少以上に、早生まれのプロ選手の数は少ないと言えるでしょう。

 本当は、上の表に関係するすべての世代の月別出生数を確認してから、分布を調査しなければなりませんが、そこまでしなくとも、「早生まれ不利」という上記の結論は、おおむね言えるのではないでしょうか。