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国際政治の諸相4
<解説編>
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304 2002年に地雷による被害者が一番多かった国は?                      

 このクイズは、普通の常識では、まず正解とはなりません。私も教えられてびっくりしました。

 日本で、「地雷の被害者」というと、最近ではアフガニスタン、少し前ならカンボジアと言うイメージが強いでしょう。
 しかし、正解は違うのです。
 地雷問題に取り組む、非政府組織(NGO)「地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)」が9月10日夜にタイのバンコクで開いた記者会見で次のように年次報告書を発表しました。 
 

2002年度地雷による死傷者数

全体

 

11,700人

 

軍人・民間別

民間人

9,945人

(うちこども23%)

軍人

1,755人

(15%)

国別

チェチェン共和国

5,695人

(49%)

アフガニスタン

1,286人

(11%)

カンボジア

834人

( 7%)

コロンビア

530人

( 5%)

インド

523人

( 5%)

イラク

457人

( 4%)

その他

2,375人


 正解は、ロシア連邦内のチェチェン共和国です。
   ※asahi.com 2003年9月11日、gooニュース9月11日など  

このチェンチェンの地雷被害は、「未来航路」の色丹島のロシア人一家ダネリア家との交流記を偶然読まれた、「チェチェンの子どもを支援する会」の代表のNさんのご示唆により、作ることができました。感謝申し上げます。

N代表のお話によれば、日本は北方領土の返還のことがあるので、ロシアのチェチェン問題には、あまり批判的な介入はしないという「外交路線」になっているとのことです。そう考えると、よくわかることがいくつかあります。
北方領土を訪問した私は、そういう意味では、微妙な存在です。

 「チェチェンの子どもを支援する会」のサイトはこちらです。

 「色丹島のダネリア家との交流」をまだお読みになっていない方はこちらです。

 ロシアのチェチェン内戦については、交流記のこちらの部分に解説してあります。


 報告書では、「死傷者は全体として前年より減少傾向にあるが、被害調査の困難な国もあり、実際の被害はもっと大きい可能性が強い」としています。
 ※以下の記述は、次の資料やサイトを参考にしました。
   『朝日新聞』2003年9月23日朝刊6面 「地雷廃絶 前進へ決議 オタワ条約第5回会議」
   朝日新聞社編『朝日キーワード 1998』
   『防衛ホーム新聞社 自衛隊ニュース』のサイト
   『JCBL 地雷廃絶日本キャンペーン』のサイト

1 地雷廃止へ向けて
 対人地雷の廃止については、ICBLなどの非政府組織が強力なキャンペーンを繰り広げてきました。 その最大の成果が、1997年にノルウェーのオスロで開かれた政府間会合で、対人地雷全面禁止条約が採択されたことです。
 この条約は、対人地雷の使用、生産、備蓄、移転を禁止し、条約締約国が現在保有する対人地雷は条約発効後4年以内に廃棄しなければならないとしました。
 1997年12月3,4日にカナダのオタワで署名式典が行われ、世界121カ国が署名しました。この地の名前をとって、略称オタワ条約と言います。

 
2003年9月現在では、 調印国は148カ国に増加し、未調印国は46カ国となりました。
 しかし、アメリカ・ロシア・中国・インド・大韓民国・朝鮮民主主義人民共和国を始め、東南アジア・南アジア・西アジアの大半の国は未調印です。つまり、地雷生産国と使用国の「主役」たちは、安全保障などを理由に条約委締結に消極的な姿勢のままです。

 NPOを中心に世界の多くの国家を動かした最初の例として、この動きが理想に近づくことを支援します。

2 日本の取り組み
 日本は、この条約に関しては、いつもと違って、対米追従外交ではなく、独自の姿勢を貫きました。
 このことが知られるまであまり話題になっていませんでしたが、日本の陸上自衛隊も、防衛用の兵器として地雷を大量に保有していました。
 その数は、100万個です。
 つまり、敵国が上陸してきた場合は、人員数の上では十分ではない防衛力を補うために、地雷の埋設による防衛線の構築が考えられていました。
 オタワ条約への参加を強力に進めたのは、橋本内閣時代の故小渕外務大臣(後首相)です。日本は、1993年に発効したオタワ条約の規定に従って、2001年1月から3年計画で地雷の廃棄を進め、2003年2月8日に、地雷撤去を完了しました。
  ※ただし訓練用の15000個を除く。

 この日の滋賀県の航空自衛隊饗庭野分屯基地では、地雷処理終了の式典が行われました。
 式典で、小泉首相は、「関係各位の努力に敬意を表します。世界にはなお多くの地雷が残され、廃絶はいまだ途上にあります。犠牲者がなくなる日が日も早く訪れることを心から祈ります」と挨拶しました。
 佐藤防衛庁長官は、「専守防衛の日本にとって地雷は重要な防衛手段だったが、人道的な配慮から廃棄に踏み切った。こうした取り組みが地雷廃絶に貢献することを願う」と述べました。 

 日本はまた、カンボジアやアフガニスタンの地雷除去にも、多額の支援と人的な協力を行っています。日本は2002年までに、両国も含めて全体として、地雷対策に約100億円を支出しています。 

3 地雷の現状
 ICBLの報告書は、今も世界の
78カ国が2億個余りの地雷を貯蔵していると指摘しています。そのうち、1億1000万個は中国が貯蔵しています。地雷の生産国は、50カ国余りから15カ国に激減しましたが、過去1年間に、ロシア・ミャンマーなどの政府軍が正式に地雷を使用したと確認されています。
 一説によると、毎年10万個の地雷が撤去されるのに対して、新たに、200万個以上の地雷が埋められていると言うことだそうです。
 現在も、
82カ国に地雷が残存し、推定されている主な国の地雷の埋設数は、アフガニスタ ン(700万個)をはじめ、イラク北部(400万個)、ベトナム(350 万個)ボスニア・ヘルツェゴビナ(300万個)、クロアチア(300万個)、 モザンビーク(300万個)などです。チェチェンについては、不明です。

 地雷の製造技術は時代ともに進歩しており、最近では、わざわざ埋めなくても、「空中散布」までできるようになりました。地雷一個を作るコストは、僅か3ドルから10ドル。
 反対に、人的被害や、地雷を手作業で撤去するのにかかる費用(一個当たり100〜1000ドル)、さらには、被害者の医療費、道路・インフラの復旧整備などの地雷によって受けた被害を修復するのにかかる費用など、被害は莫大な金額になります。変な言い方をすれば、「地雷の効果」は計り知れない大きなものがあります。
 地雷というのは、そういう兵器なのです。

 生存する地雷の被害者は全世界に30万人以上と推定されています。ほとんどは発展途上国の人々です。
 オタワ条約第5回会議の席上で、赤十字国際委員会の代表は、「地雷被害者は一生、支援が必要」と指摘しました。子どもの時に片足を失った場合、老人まで生きるとして、一生の間に義足を平均25回も交換しなければなりません。職業訓練など自立のための支援や、精神的なケアも必要です。

 しかし、2002年の世界各国の地雷被害対策費約3億900万ドル(約371億円)のうち、被害者支援に当てられた分は約10%にとどまっています。やはり、地雷除去が支援の中心となっているのです。

 理想の実現までは、恐ろしく地道な努力が必要です。 


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