現物教材 政治4

政治004 マニフェスト                         |現物教材:目次:現代社会へ |    

  2003年12月1日、毎年恒例の「2003新語・流行語大賞」(藤本義一選考委員長)の授賞式が1日、東京・千代田区の東京會舘で行われました。年間大賞には、

  •  「毒まんじゅう」

  •  「なんでだろう〜」

  •  マニフェスト

 の3語が選ばれました。

 最初に余談ですが、この3つ以外のトップテンは、「勝ちたいんや」「コメ泥棒」「SARS」「年収300万円」「バカの壁」「ビフォー アフター」「へぇー」でした。
 さて、マニフェストです。次の点から説明します。
 

 ○マニフェストとは
 ○マニフェストの現物と入手方法
 ○マニフェストの効果
 ○選挙を授業でどう教える
 
○マニフェストとは
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 すっかり有名になったので、ここで改めて解説するほどでもありませんが、時がたつと忘れてしまいますので、ちょっとだけ解説します。
 マニフェストは、もともと欧米では常識で行われていた、選挙の際の政権公約で、政権獲得後の施策を、年次などを明示して具体的に示すものです。(日本の政治家の「前向きの姿勢で努力します」とはちょっと違います)研究社の英和辞典では、「manifesto:宣誓書、声明書」となっています。

 これを日本で提唱したのは、今年の春まで三重県知事を務めていた、北川正恭氏です。新語・流行語大賞は、それを言い始めた個人が受賞しますから、授賞式では北川氏が受賞しました。その時の様子です。
  「ボクがもらっていいものかどうか。けど代表して頂きます。これ、流行語で終わると困る」と笑いを誘いながらも、「これをきっかけに国が変わり、大きく羽ばたいてもらえれば」と期待していた。
 ※以上は、『中日新聞』2003年12月2日朝刊より

 このマニフェストは、今年の前半はそれほど流行していませんでしたが、衆議院の解散・総選挙ということになって、一躍脚光を浴びることになりました。 
 当初は、公職選挙法上の規定により配布することができないことになっていましたが、急遽同法が改正され、マニフェストを選挙事務所や演説会場で配ることができるようになりました。
 各政党も、マニフェストの「流行」を意識して、早速選挙用「マニフェスト」を作成しました。
 但し、政党によって、その対応は同じではありませんでした。
 
 自民党は公示直前、12ページの要約版を公認候補に配布し、民主党は部数的にはそれを上回る部数を配布、その中には「3分間で分かる マンガ版よくわかる民主党政策」も入っていました。
 もともと地縁よりも政策を重視してきた共産党は、マニフェストという名称は使っていませんが、党の政策をまとめた法定パンフレットを街頭演説などで積極的に配りました。
 公明党は、代表の迫力ある写真を表紙にしたマニフェストを作りましたが、岐阜県などでは県内小選挙区の候補者を持たず、党県本部などにおいたり、市議などが連立している自民党の候補の応援演説アピールすると言う形が主となりました。

 社民党も各選挙区に立候補している候補者が少なく、護憲を訴えるマニフェストの要旨を新聞折り込みの法定ビラで配布するにとどまりました。


○各党マニフェストの現物と入手方法     | このページの先頭へ |  

 各党のマニフェスト
  これらは、すべて選挙後に、各政党の県本部や当選した議員の事務所に電話して、費用は先方負担で送付してもらいました。
 有権者の「勉強したい」という要望にどの政党も誠実に対応して頂けました。
 中には、「授業で使いたいのですが」と言ったら、「何百部必要ですか」と言われて、こちらがあわてた場面もありました。
 
 また、ある議員の場合、電話で依頼してなかなか届かないものですから、もう入手できないとと思っていたら、なんと、議員の秘書さんが私の自宅へ来て、「遅くなりました」と置いて行かれました。恐縮です。 


○マニフェストの効果          | このページの先頭へ |

  2003年11月9日投票の衆議院議員選挙の結果は、次の通りです。
 民主党が177議席を獲得する一方、社民党・共産党が大幅に議席を減らし、全体として「2大政党化」が進みました。
 

 政党名等

 自民

 民主

 公明

 共産

 社民

 保守新

 無所属の会

 自由連

 無所属

 当選者数

 237

 177

 34

 

 

 

 

 

 11

  ※自民党には、選挙後無所属から3名が公認されたが、この表では含まれていない。
  ※保守新党は選挙後自民党と合流した。

  さて、この選挙で、マニフェストはどのような効果を果たしたのでしょうか。
 
 Webサイト「Election」の「オンライン世論調査」(サイトはこちら)では、次のようになりました。
  ※インターネットによる自主投票 全国17,689人


 各党のマニフェストを参考にしましたか

    10   20   30   40   50   60   70   80   90  

 大いに参考にした

20.0%

 ある程度参考にした

53.1%

 参考にしなかった

14.9%

 見ていない

11.8%

 
 上表を見れば、有権者は、マニフェストを結構参考にしたといえるでしょう。
 また、次の表によれば、政党を支持する人はとりわけマニフェストを参考にしており、マニフェストは、有権者判断の材料になったといえるでしょう。

支持政党別 各党のマニフェストを参考にしたと答えた人の割合

 支持政党

  10   20   30   40   50   60   70   80   90  

 自民党

65.4%

 民主党

83.9%

 公明党

87.3%

 共産党

76.5%


○選挙を授業でどう教える          | このページの先頭へ |

 かくして、今回の選挙は、マニフェストが重要な意義をなした最初の選挙となりました。

 しかし、これは、改めて見直せば、ずいぶんと悲しい話です。
 これまでの選挙は何だったのか、有権者は何を基準に判断していたのかと言う疑問が出てきてしまうからです。 
 まあ、ひょっとしたら、マニフェスト効果が過大に報じられているのかもしれません。

 それはそれでかまいません。
 それよりも、このマニフェストは、授業に利用できる格好の材料です。
 我々高校地歴公民科教師は、「選挙に投票に行く良識ある公民」を育てなければなりません。

 最後に、マニフェストを利用して、どのような授業展開をすべきかを提案します。

 第一に考えなければならないのは、法律上の次の規定です。

 

 教育基本法

 第8条

 良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない。

 A

  法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他の活動をしてはならない。

 

 公職選挙法

 第138条の3

 何人も、選挙に関し、公職に就くべき者(衆議院比例代表選挙選出議員又は参議院比例代表選出議員の選挙にあっては、政党その他政治団体に係る公職に就くべき者又はその数)を予想する人気投票の経過または結果を公表してはならない。


  Aは有名ですが、Bはあまり知られていません。

 2003年11月の選挙では、東京都内のNPO法人rightsが、全国の未成年者(非有権者)に模擬選挙を呼びかけました。
 ※rightsのサイトはこちら
 
 インターネットを通して、街頭で、各学校で、合計1704の投票が集まりました。

 但し、岐阜市内の高校生らのグループ「U−19模擬選挙@ギフ選挙管理委員会」が行った模擬投票に対しては、岐阜県選挙管理委員会が「人気投票の結果の公表を禁じた公選法に触れる」と指摘したため、結果の公表は見送られました。
 ※『ギフ新聞』2003年11月8日朝刊

 これらを考慮すれば、マニフェストを利用した選挙には次の形態が現実的であると思います。

<できないこと>

  •  実際の選挙の直前の選挙期間中に、実際の候補者の名前を使って模擬投票を実施しその結果を公表すること。

  •  マニフェストを使って一部特定の政党の政策のみを紹介すること。

<できること>
  •  各党のマニフェストの政策について比較し、その内容についてディベートしたり、課題追究学習をする。

  •  各党派名を伏せたマニフェスト(仮にA、B、C)により施策の評価を実施し、A、B、Cについて授業中に模擬投票を実施する。A、B、Cが現実にどの政党のものかは、生徒の判断に任せる。

  •  模擬投票の際には、各市町村の選挙管理委員会に事前連絡して、本物の投票箱を借り、それを使って臨場感あふれる投票とする。

  以上、実際におやりになっておられる方がいましたら、ご意見ください。